2017年07月14日

あーやの人魚姫観に行こうぜ!『人魚姫』




 『西遊記~はじまりのはじまり~』に引き続き、チャウ・シンチーが製作・監督・脚本に徹した最新作。

 ♪ア~ア~ア~アーアアー

 と『ドラゴン怒りの鉄拳』のテーマで始まる本作はタイトル通り人魚姫を題材にした物語だが、『ドラゴン怒りの鉄拳』と通じる部分もある。冒頭、どうしようもなくしょうもないギャグ(褒め言葉よ)で観客の心をガッチリ掴んだ(?)上で本編スタート。青年実業家のリウ・シュエン(ダン・チャオ)はリゾート開発のために必要な一帯の美しい海辺を大金を投じて買い占める。そして海には邪魔な魚を追い払うためのソナーを設置。このソナーが追い払う、とかいうレベルではなく魚を粉微塵に破壊するレベルの超音波兵器で、金魚がバラバラにされる凶悪ギャグが炸裂です。
 リウを強欲な新参者とバカにしている財閥のグループが集まるパーティで露骨にバカにされるものの、一番の金持ちであるリー氏(ツイ・ハーク)に認められ、資金援助を取り付けた上にリー氏の娘、ルオラン(キティ・チャン)をパートナーにしてアフターパーティでも美女に囲まれご満悦。(チビでハゲのジャン社長が金持ちらしくジェットパックで登場。なぜかこの場面で流れるBGMがゲッターロボのOP)しかし傲慢なルオランや金のために群がる美女たちにはうんざりのリウ。そこに突然汚らしい格好の女、シャンシャン(リン・ユン)が闖入。ボディガードが彼女をブレーンバスターでぶん投げる容赦ないバイオレンス!ズタボロの彼女はリウに電話番号を渡して去ってゆく。

 実はシャンシャンの正体は海辺に生息する人魚族で、リーダーのタコ兄(ショウ・ルオ)に命じられ、ソナーのために仲間を傷つけられ、難破船の中でしか生きられなくなった一族の復讐のためにリウをハニートラップに仕掛けて殺してやろうと近づいたのだった。登場シーンはいくらなんでもひどすぎるけど、普段の外見はさすが人魚姫と言わんばかりの美女なシャンシャン。シンチーって美女相手にわざと汚い格好させたり、ボロボロにさせるの好きだねホント。

 シャンシャンはリウに接近し、小さな遊園地に誘い出して好物の屋台チキンを一緒に食べようと誘うが、「この俺がこんなものを食べると思ってるのか?」と憤慨するも結局手づかみで貪り食ってしまう。リウはかつて貧乏だった頃に父親が道端に落ちていたチキンの食べかすを拾って食べさせてくれた過去を涙ながらに語る。強欲な金持ちだと思っていたリウの意外な過去を知ったシャンシャンはリウを殺すことができなくなってしまう。

 ここから物語はラブロマンス方面へ舵を切り、ソナーが人魚族の生態系を破壊したことを知ったリウはリゾート開発を止めさせようとルオランとの提携を打ち切ろうとするが、長年人魚の存在を追い続けてきたルオランは特殊部隊を送り込んで生け捕りにしようとする。
 貧乏だった頃の復讐にと金だけを追い求めてきたリウはシャンシャンに出会って人間の心を取り戻し、すべての財産(最後には命まで)を投げ打ってシャンシャンら人魚族を救おうとするクライマックスシーンはあまりにベタだけど泣いてしまうやないか。部隊が人魚たちを捕まえろ!っていうんだけど、水中に銃弾をバカスカ撃ち込んで(水中じゃ威力は相殺されると思うんだけど)捕獲、ってあれ、ほぼ惨殺してるよな…そんな凶悪さの直後に人魚族のボスである長老のババアが登場!このババアが部隊を巨大なヒレであっさり蹴散らしてゆく。シンチー映画お馴染みのババアが強い!(ポスターにもなってる七色のヒレは実はババアのもの)
 おとぎ話のフリしてシンチーらしさがまったく失われていないので安心した。

 見終わった後で、シャンシャン役の吹き替えがあの!平野綾さんだったことを知りもう一度見直す。冒頭のズタボロにされてる時の声と一転、美女になる声の切り替えは素晴らしく、チキン屋のデュエットなど、さすがミュージカル女優の片鱗を見せつけていた。あーやかわいいよあーや。

  


Posted by 縛りやトーマス at 14:41Comments(0)平野綾レンタル映画館

2017年07月12日

パワーレンジャー・クラブ

 7月15日から公開される『パワーレンジャー』はみんな知ってる東映のスーパー戦隊シリーズの『恐竜戦隊ジュウレンジャー』のローカライズ『マイティ・モーフィン・パワーレンジャー』のリメイク映画である。当然、「日本初のヒーロー物が逆輸入」という、スーパー戦隊を始め特撮ヒーロー番組大好きな人々が興味を惹くように宣伝されている。
 しかし各媒体にはジュウレンジャーや特撮番組には別段思い入れもない人たちもいるわけで、そんな人達が「ハリウッド映画だから」という理由で仕事のために見たくもない映画を見せられ(それが仕事なんだけど)、トンチキな文章を書いてしまったケースが多々。その代表的なのが映画.comのコレ。


パワーレンジャー 特集:「ああ、戦隊モノか……」と思ったヤツ、ちょっと来い!声を大にして言わせてもらう──“実は”とんでもなく面白い!!「パシリム」「アベンジャーズ」好きなら絶対見ろ!”
http://eiga.com/official/power-rangers/

 声を大にして言わせてもらうと、とんでもなくつまんねえぞこの特集記事!「ド直球な少年ジャンプの世界」とか「パシリム、アベンジャーズ、トランスフォーマー好きならマチガイナイ」って、完全に間違ってるよ!
 記事担当者はそもそもアベンジャーズやトランスフォーマーすら興味がなくて、自身の映画情報とパワーレンジャーが合致するキーワードが「少年ジャンプ」やアベンジャーズ、トランスフォーマーしかなかったのだろう。映画.com編集部に一人ぐらいいないの?特撮大好きな編集員が。他のWEB、紙媒体でも似たようなもんで元ネタに対する最低限の情報や理解、思い入れがあった上で書いている人がほとんどいない!中にはモノブライトの出口博之さんとかオジンオズボーンの篠宮暁さんとかいるんだけど…

 しかし、今回言いたいことはそれではない。『パワーレンジャー』にはもう一つ重要なキーワードがある。それは「青春映画」だ。
 パワーレンジャーとなる5人の若者はそれぞれ、フットボール選手(レッド)、チアリーダー(ピンク)、自閉症の天才少年(ブルー)、トランスジェンダーの少女(イエロー)、不登校のアウトロー(ブラック)というキャラクター分けがされている。彼らは本来なら所属するカテゴリーが違うので絶対に出会うことはないはずだが、あることから土曜の補習授業に出る羽目になる…ってそれ、『ブレックファスト・クラブ』だよ!

 『ブレックファスト・クラブ』は85年に公開されたジョン・ヒューズ監督(代表作『ホーム・アローン』)のカルト青春映画で、スポーツ野郎、お嬢様、ガリ勉、不思議ちゃんにチンピラ…というスクールカーストのせいで普通に生活していたら学校では絶対に出会わない5人がある事情から土曜の補習授業を受けさせられ「自分は何者か」という作文を書かされる。
 『パワーレンジャー』のキャラクター、展開は『ブレックファスト・クラブ』を完全になぞっている。監督のディーン・イズラライト自身もインタビューで認めてしまっているぐらい。


『パワーレンジャー』ディーン・イズラライト監督インタビュー ジョン・ヒューズから『ロサンゼルス決戦』まで!映画を構築した要素とは
https://spice.eplus.jp/articles/134730

――高校のスクールカーストに属する主人公たちから、ジョン・ヒューズ監督の『ブレックファスト・クラブ』を連想しました。同作を意識して製作されたんでしょうか?

そうです。『ブレックファスト・クラブ』を2017年版として作るなら、それも、スーパーヒーロー映画のレンズを通して作ったらどうなるか、ということを考えて製作しました。そうすると、すごくユニークなスーパーヒーローものが出来るんじゃないか、と思ったので。ぼくは、ジョン・ヒューズ監督の映画が大好きなんです。彼はティーンエイジャーの経験をテーマにした作品をたくさん作っていますが、どれも非常に娯楽的でありつつ、ダークでエッジが立っていて、バランスが凄くいいと思うんです。

――主人公たちのキャラクターは『ブレックファスト・クラブ』より現代的で、複雑ですね。特に、イエローレンジャー/トリニーが自身のセクシャリティに悩む姿が、非常に自然に描かれていたのが印象的です。スーパーヒーロー映画では初めてだと思いますが、なぜこのような設定に?

脚本のジョン・ゲイティンズ(『リアル・スティール』など)と話したのは、2017年の観客に訴えかけられる問題を描いて、『ブレックファスト・クラブ』の現代版にするにはどうしたらいいか、ということです。そうすると、今の若者の“悩み”を提示しないといけない。『ブレックファスト・クラブ』の主人公たちがアイデンティティに悩んでいたように、今日的なアイデンティティの問題のひとつとして、セクシャリティを取り上げたわけです。



 このようにイズラライト監督はどちらというと「スーパーヒーロー映画」よりは「青春映画」を撮りたかったようで(前作の『プロジェクト・アルマナック』も青春映画だし)、『ブレックファスト・クラブ』も『パワーレンジャー』の5人も始めはぶつかり合い、言い争うが、少しずつ自分の悩み事を打ち明けていくことで友情という絆で結ばれた5人は巨大な敵に立ち向かう。『ブレックファスト・クラブ』ではスクールカーストに、『パワーレンジャー』では街を滅ぼそうとするリタ・レパルサというヴィランに。

 一見、共通点のない二本の映画を上手く融合させており、イズラライト監督の目の付け所には唸らされる。普通にアクション映画を目指そうとしたらこんな作り方にはならないだろう。
 少年ジャンプがどうだの、アベンジャーズやトランスフォーマーがどうだのって言われても、監督が目指している方向とは全然違うよ!
 「ファンが見たいのはアクションであって、青春映画なんかじゃないよ!」という意見もあるだろうが、かつてスーパー戦隊シリーズが東映内部で「空気のような」存在だった時にトレンディドラマの要素を取り入れてシリーズに新たな風を吹き込んで成功した『鳥人戦隊ジェットマン』といったケースもある(ジュウレンジャーはその翌年だ)。イズラライトの『パワーレンジャー』は2017年のジェットマンと言えなくもないのだ。





  


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2017年07月07日

フリースタイルアイドル映画『リリカルスクールの未知との遭遇』



 アイドルヒップホップユニット、lyrical schoolが本人役で主演するハーセルフ映画。変に演技なんてさせようと思わずに本人役をやらせるという思い切りのいい設定。

 売れないアイドルグループを自虐的に演じるlyrical school。売れないというより、売れる感が一切しない。テレビ番組に出演してインタビューされてもまともに答えられない。
「新曲へのこだわりは?」と聞かれても「玉の輿に乗りたい!」「女優業にチャレンジしたい!」そういうこと聞いてんじゃねえから!ライブの場所、日程すらド忘れする彼女たち、マネージャー(バッファロー吾郎A)からは「0点だよ0点!」とドヤされ、「もっと売れ線のビジョンを持てよ!君らの意思なんかどーでもいいから!」と本人たちのやりたいことを無視して「売れ線のビジョン」を押し付けてくるマネージャーのやり方に文句はあるが、さりとて「自分たちのやりたいこと」が見いだせないlyrical school。そんな自分にイライラしてバイト先である「こだわりのレコード店」で大暴れ。すると店に置いてあるキモいぬいぐるみが喋りだした!
 ぬいぐるみは“スペース・バムバータ”と名乗り、乗ってきた宇宙船がエネルギー不足で不時着、レコード店の店長(スチャダラパー・ANI)に助けてもらって店でぬいぐるみのフリをしていたのだった。『マペット放送局』に出てくるようなパペットのバムバータ(声がマペット放送局のゴンゾ役、塩屋浩三)とlyrical schoolの絡みはSF映画と思わせない(そう、これはSF映画なのだった!)不思議な味わいがある。

 バムバータの宇宙船のエネルギーを回復させるには
「周波数45khz~136khz、音量150dbの音を一定時間BPM110で20.9℃の気温、75%の湿度の条件を揃える」
 必要があって…まあ、要するにパーティーやればいいんだよ!ということでバムバータによる地獄の特訓が開始。亜沙美ママのやってる飲み屋でママのおしゃべりを観察、窓拭き、床掃除、うどん粉踏みとヒップホップと何の関係があるんだよ!という特訓をやらされなんでこんなのやらなきゃいけないの?と辟易するリリスクメンバー、一人いい子ちゃんぶるayakaと他メンバーの間で口論が始まるがバムバータが「ラップでケンカしろ!」するとありえないほど饒舌なスキルを発揮するリリスクメンバー、そう、窓拭きも床掃除もうどん粉踏み、亜沙美ママのおしゃべり観察もすべてヒップホップの技術を磨くためだった!という『ベスト・キッド』ばりの展開に。ようやく自分たちのやりたい音楽を見つけたリリスクはマルイ屋上のパーティーを成功させるべく準備を始めるが、バムバータの力を狙う悪い宇宙人が現れバムバータとhimeをさらってしまう。

 未知との遭遇を描いたSF映画と師匠と弟子の熱い関係を描いたスポ根と未熟なアイドルの成長を描いた青春映画と様々な要素をmixさせた上で「アイドル映画は画面に写っているアイドルが可愛くなくてはならない」という鉄の掟もきちんと守られ、クライマックスのパーティーシーンのリリスクは最高に可愛くカッコよく映えている。これぞフリースタイルのアイドル映画だ。
 リリスクによって街の人々の気持ちがひとつになるという、『ロッキー』な展開もあって監督のデモ田中は日本のジョン・G・アヴィルドセンだ!


  


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2017年06月07日

パワーレンジャーに続きます『プロジェクト・アルマナック』



 MIT入学を狙う貧乏学生のデヴィット(ジョニー・ウェストン)は見事入学を決めるが、奨学金が満額出なかったために自宅を売却しなければならなくなる。なんとか奨学金を得ようとするデヴィットは亡父の地下室から設計図を見つける。電力会社に勤めていた父が残したものは、時間転移装置、タイムマシンの設計図だった…


 『プロジェクト・アルマナック』はデヴィットら5人の学生が作ったタイムマシンを最初は他愛もない目的のために使うのだが、バタフライ・エフェクトによって未来が少しずつ変えられてしまい、とんでもない事態を引き起こしてしまうという内容だ。映像は彼らが撮影したビデオというファウンド・フッテージ方式で、あらゆる意味で『クロニクル』(12)に似ている。本作は当初『ウェルカム・トゥ・イエスタディ』というタイトルで作られていたが、製作・配給したプラチナム・デューンズ(マイケル・ベイらが中心となって設立したホラー専門の映画会社)が出来の良さにタイトルを変更してそこそこの規模で公開するに至ったというもの。『クロニクル』の大ヒットが影響を及ぼしたのは間違いない。


 デヴィットと彼の同級生クイン(サム・ラーナー)、アダム(アレン・エヴァンジェリスタ)、デヴィットの妹クリス(ヴァージニア・ガードナー)はタイムマシンを作り上げるが実験はなかなか成功しない。しかし父の残したビデオカメラには10年前、7歳のデヴィットの誕生会の映像があり、そこに17歳の自分が写っていることを見たデヴィットはタイムマシンの完成を信じる。デヴィットが片思いするジェシー(ソフィア・ブラック=デリア)の自動車のバッテリーを借用して見事実験は成功。実験中に飛び込んできたジェシーを仲間に加えて彼らはタイムマシンでテストのカンニングをしたり、嫌味な同級生に仕返ししたりと他愛もない遊びに夢中になる。
 5人の約束事として実験は必ず5人でするという誓いを決める。タイムマシンを使って宝くじを当てたりして行動が次第にエスカレートするデヴィットたち。なぜか当選賞金が少額だったり、仕事を探していたはずのデヴィットの母親がすでに働いていたりと少しずつ状況が変化していることに気づかない(気付こうとしない)まま、デヴィットは夏フェスの会場にみんなを連れて行くためにタイムスリップ。
 ネットオークションですでに終了したフェスのバックステージパスを安価で入手するなどの万全の仕込みでフェスに挑むデヴィットはこれ以上ない、最高の告白のチャンスを手に入れたのに異性に告白したことがないため、ジェシーへの告白を失敗してしまう!他人事とは思えません!
 現在へ戻ってきてもジェシーとは気まずいまま。俺なにやってんだ…と悔やんでも悔やみきれないデヴィットはルールを破って一人で夏フェス会場に再度タイムスリップ。今度はバッチリ告白を決めて戻ってくる。するとタオル一枚の格好のジェシーが目の前に(展開早すぎ!)。タイムマシン最高!

 しかし、この事がきっかけでデヴィットの周囲では知り合いが事故死するといった悲劇が起こってしまう。デヴィットはそれらを修正するためにまたひとりでタイムスリップをするが、ひとつの悲劇を消すとまた別の悲劇が…と堂々巡りに。ついには最愛のジェシーすら失ってしまう!

 この後はタイムスリップものの王道のオチを迎えることに。それにしても理系少年(ナードってやつだな)たちの冴えなさときたら。デヴィットがどう見たって告白を待っているジェシーの態度に気づかないって「なにやってんだよ!」と声が出た!MITよりも女の子と付き合いたかったよ…という童貞少年の心の叫びに共感せずにはいられません。世界の破滅とか人の死を救うとかよりもそっちの方が大事だもんな…

 長編デビュー一作目とは思えない手堅い仕事をバッチリ決めたディーン・イズラライト監督はヨハネスブルグ出身の32歳という俊英で、この次が『パワーレンジャー』(17)という大出世。本作を見る限り、期待できるな。今度は女の子よりも世界の破滅を救う方を選んだイズラライト監督の明日はどっちだ。

  


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2017年05月17日

鷲は舞い降りた『イーグル・ジャンプ』



 イギリス史上初のスキージャンプオリンピック代表選手となったエディ・エドワーズの「実話に基づく物語」、『イーグル・ジャンプ』を観た。

 エディは幼少の頃から足を悪くしてギブスで固定しなければ歩くこともできない。外に気軽に出ていくことができない息子のために両親は本を買い与えた。そのうちの一冊、五輪大会での選手の活躍を記録した写真集『栄光の瞬間』を観たエディは五輪選手に憧れるようになる。
 大人になったエディ(タロン・エガートン)はノルディックスキーの選手として代表候補になるが、「素人並み」の成績でギリギリの位置にいる上に近眼というハンデを背負っているエディを嫌ってBOA(イギリスオリンピック委員会)の委員長ターゲット(ティム・マッキナリー)は彼を代表候補から外してしまう。
 「とっとと諦めて俺の仕事を手伝え」という左官工の父親にどやされるも五輪への夢を諦めきれないエディはテレビでたまたま観たスキージャンプ競技に目を奪われる。BOAに問い合わせると「イギリスにスキージャンプの選手はいない」と。なら競技を始めた瞬間に代表になれるぞ!エディは父親の車を拝借して強化合宿の行われるドイツへ旅立つ。

 この時点でエディはジャンプ台から飛んだこともないという、まさにド素人。「俺たちは6歳の頃から飛んでいるんだ」という優勝候補のノルウェーチームからはバカにされてしまう。エディは周囲の冷たい視線にもめげず練習を始める。一番小さい15メートルのジャンプ台を一発クリアしたエディは40メートルに挑むが着地すらできない。そこに現れたのはスキー場の整備係の男、ブロンソン・ピアリーだった。元アメリカの代表選手だったピアリーの指導のもと、エディは五輪出場を目指す。

 『X-MEN』シリーズのウルヴァリン役でお馴染みのヒュー・ジャックマンが演じるピアリーは実際にエディを指導したチャック・ベルホーンを元にしたキャラクターだ。ベルホーンはレイクプラシッドのスキーコーチだが、この映画では「元五輪代表選手」という設定。実力はありながら酒と女にだらしなく、コーチのシャープ(クリストファー・ウォーケン)によって代表資格を剥奪され、スキージャンプ界を追われたピアリーはエディのコーチとして再起を図ろうとする。話の筋立ては日本でもヒットしたジャマイカのボブスレーチームが五輪出場を目指す『クール・ランニング』とほぼ同じ。しかも『イーグル・ジャンプ』で描かれるのは『クール・ランニング』と同じ88年カルガリー冬季五輪なのだ。
 ピアリーが素人のエディに「スキージャンプってのは男女のベッドのように人生最高の瞬間を思い浮かべろ!」と指導するのがおかしい。また女たらしのイメージが似合う(褒め言葉)ヒュー・ジャックマンがやっているのがより似合うではないか。エディが「好きな女優はボー・デレクだ」というと「ボー・デレクとの最高の瞬間を思い浮かべろ!」ボー・デレクはモデル出身の女優で『類人猿ターザン』でゴールデンラズベリー賞を受賞した後は同賞をトータル三度も獲得した「80年代を代表する最低女優」なんだけど、モデルだけあってルックスは最高だから「最高の瞬間」を思い浮かべるにはピッタリ!

「ボー・デレク!」と叫びながらジャンプするエディはBOAの執拗な横槍をはねのけてカルガリー五輪への出場資格を得る。しかし出場選手中最低の61メートルをやっとの思いで飛んでいるのを見てピアリーは「あと4年じっくりと鍛えれば次の五輪で優勝候補になれる。今出ても笑いものになるだけだ」と出場を止めさせようとする。「優勝するために出るんじゃない。“栄光の瞬間”は今なんだ!」エディは彼と訣別する。

 70メートル級ジャンプに出場したエディは見事着地に成功し、両手を伸ばして翼のようにひらひらさせるポーズを見たマスコミは「イーグル・ジ・エディ」と呼んで持て囃す。最低の記録だというのに浮かれているエディに「お前は笑われているだけなんだぞ」と電話するピアリー。エディは笑われているだけではないことを証明するために飛んだこともない90メートル級への出場を宣言するのだった。

 エディの活躍は「勝つことではなく、参加することに意義がある」とする近代五輪の思想を象徴するもので勝利至上主義と金儲けに陥っているBOAの方針と真っ向から対立するため(「君は素人なみの記録しかない。それじゃスポンサーは納得しない」という委員長に「五輪はアマチュアの大会じゃないのか?」とエディがやり込めるシーンが象徴的)、エディは様々な嫌がらせを受け続ける。何しろエディが帰国し、国民が熱狂的に出迎えてもBOAの委員長は苦虫を噛み潰しているのだから…
 観客や世間の人々から愛されたエディは五輪を勝利至上主義と金儲けの場と捉えているような種類の人々から徹底的に嫌われ、出場資格のハードルを上げて彼を徹底的に五輪から締め出した。カルガリー冬季五輪はエディにとって最初で最後の五輪になった。

 90メートルジャンプに挑む際、エディはエレベーター内でフィンランド代表の金メダル候補“鳥人”ニッカネンから「勝ち負けなんかどうでもいい。俺たちは魂を解き放つために飛ぶ。世界中の前でベストを出せなきゃ俺たちの魂が死ぬ」カルガリーで金メダルを2つ取った男は最低の記録を出したエディとまったく同じ類の人間だったというクライマックスも感動的だ。日本ではヒットが望めないと思われたのかDVDスルーにされてしまった。『X-MEN』のヒュー・ジャックマン出演に、『キック・アス』『キングスマン』のマシュー・ヴォーン製作、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』の四人組のひとりを演じたデクスター・フレッチャー監督だぞ!?ヒットするかどうかわからないとかどうとか、参加することに意義があるんじゃないんですか!?


  


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