2020年03月18日

ラジー賞を制したのはやはり猫人間

 サイテー映画を決めるゴールデンラズベリー賞がようやく決定。2019年の栄冠は予想通り『キャッツ』に決まりました。


「キャッツ」ラジー賞で作品賞など最多6部門に、名誉挽回賞はエディ・マーフィ
https://natalie.mu/eiga/news/371291


 先日、新型コロナウィルスの影響で授賞式が中止になり、ネット上での発表となってしまった今回。毎年のように「本人は授賞式に現れるのか?」がなくなったことだけは残念です。ヒラリー・ダフ、洒落で来てほしかった。

 2014年の第35回から創設された「名誉挽回賞」はラジーでいつもバカにされている常連の役者や監督が今回は傑作だったから、名誉挽回しましたね!と遠回しにほめたたえる部門には『ルディ・レイ・ムーア』のエディ・マーフィが受賞。同じネットフリックス系映画のアダム・サンドラー(『アンカット・ダイヤモンド』)を抑えての受賞です。この二本はアカデミー有力候補と言われながらノミネートすらなかったので、ラジーで評価されたとは意外。ネットフリックスはラジーにも影響を及ぼしているんですねえ。

  


Posted by 縛りやトーマス at 22:15Comments(0)ネットフリックス

2020年01月14日

第92回アカデミー賞ノミネート作品(決戦は2月9日)



 2020年2月9日(現地時間)に発表される第92回アカデミー賞の全ノミネートが発表された。


作品賞:
『フォードvsフェラーリ』
『アイリッシュマン』
『ジョジョ・ラビット』
『ジョーカー』
『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』
『マリッジ・ストーリー』
『1917 命をかけた伝令』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
『パラサイト 半地下の家族』

監督賞:
サム・メンデス(『1917 命をかけた伝令』)
マーティン・スコセッシ(『アイリッシュマン』)
トッド・フィリップス(『ジョーカー』)
クエンティン・タランティーノ(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』)
ポン・ジュノ(『パラサイト 半地下の家族』)

主演男優賞:
アントニオ・バンデラス『Pain & Glory(原題)』
レオナルド・ディカプリオ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
アダム・ドライバー『マリッジ・ストーリー』
ホアキン・フェニックス『ジョーカー』
ジョナサン・プライス『2人のローマ教皇』

主演女優賞:
シンシア・エリヴォ(『ハリエット』)
スカーレット・ヨハンソン(『マリッジ・ストーリー』)
シアーシャ・ローナン(『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』)
シャーリーズ・セロン(『スキャンダル』)
レニー・ゼルウィガー(『ジュディ 虹の彼方に』)

助演男優賞:
トム・ハンクス『A Beautiful Day in the Neighborhood(原題)』
アル・パチーノ『アイリッシュマン』
ジョー・ペシ『アイリッシュマン』
ブラッド・ピット『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
アンソニー・ホプキンス『2人のローマ教皇』

助演女優賞:
キャシー・ベイツ(『リチャード・ジュエル』)
ローラ・ダーン(『マリッジ・ストーリー』)
スカーレット・ヨハンソン(『ジョジョ・ラビット』)
フローレンス・ピュー(『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』)
マーゴット・ロビー(『スキャンダル』)

脚本賞:
『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(ライアン・ジョンソン)
『マリッジ・ストーリー』(ノア・バームバック)
『1917 命をかけた伝令』(サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(クエンティン・タランティーノ)
『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ、ハン・ジンウォン)

脚色賞:
『アイリッシュマン』
『ジョジョ・ラビット』
『ジョーカー』
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
『2人のローマ教皇』

撮影賞:
ロジャー・ディーキンス『1917 命をかけた伝令』
ロドリゴ・プリエト『アイリッシュマン』
ロバート・リチャードソン『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
ローレンス・シャー『ジョーカー』
ジャリン・ブラシュケ『The Lighthouse(原題)』

編集賞:
『フォードvsフェラーリ』
『アイリッシュマン』
『ジョジョ・ラビット』
『ジョーカー』
『パラサイト 半地下の家族』

美術賞:
デニス・ガスナー『1917 命をかけた伝令』
ボブ・ショウ『アイリッシュマン』
バーバラ・リン『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
イ・ハジュン『パラサイト 半地下の家族』
ラ・ヴィンセント『ジョジョ・ラビット』

衣装デザイン賞:
マーク・ブリッジス『ジョーカー』
ジャクリーヌ・デュラン『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
アリアンヌ・フィリップス『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
メイズ・C・ルベオ『ジョジョ・ラビット』
サンディ・パウエル&クリストファー・ピーターソン『アイリッシュマン』

メイクアップ&ヘアスタイリング賞:
『ジョーカー』
『スキャンダル』
『ジュディ 虹の彼方に』
『マレフィセント2』
『1917 命をかけた伝令』

視覚効果賞:
『アベンジャーズ エンドゲーム』
『アイリッシュマン』
『ライオン・キング』
『1917 命をかけた伝令』
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

録音賞:
『1917 命をかけた伝令』
『フォードvsフェラーリ』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
『ジョーカー』
『アド・アストラ』

作曲賞:
ヒドゥル・グドナドッティル『ジョーカー』
アレクサンドル・デスプラ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
ランディ・ニューマン『マリッジ・ストーリー』
トーマス・ニューマン『1917 命をかけた伝令』
ジョン・ウィリアムズ『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

主題歌賞:
“I Can’t Let You Throw Yourself Away”(トイ・ストーリー4)
“I’m Gonna Love Me Again”(ロケットマン)
“I’m Standing With You”(Breakthrough)
“Into the Unknown”(アナと雪の女王2)
“Stand Up”(ハリエット)

長編アニメーション賞:
『トイ・ストーリー4』
『ミッシング・リンク』
『失くした体』
『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』
『クロース』

短編アニメーション賞:
『Dcera (Daughter)(原題)』
『Hair Love(原題)』
『Kitbull(原題)』
『Memorable(原題)』
『Sister(原題)』

国際長編映画賞:(「外国語映画賞」が改称)
『レ・ミゼラブル』(フランス)
『Honeyland(原題)』(北マケドニア)
『Corpus Christi(原題)』(ポーランド)
『パラサイト 半地下の家族』(韓国)
『Pain and Glory(原題)』(スペイン)

長編ドキュメンタリー賞:
『アメリカン・ファクトリー』
『The Cave(原題)』
『ブラジル -消えゆく民主主義-』
『娘は戦場で生まれた』
『Honeyland(原題)』

短編ドキュメンタリー賞:
『In the Absence(原題)』
『Learning to Skateboard in a Warzone (If You’re a Girl)(原題)』
『眠りに生きる子供たち』
『St. Louis Superman(原題)』
『Walk Run Cha-Cha(原題)』

短編実写映画賞:
『Brotherhood(原題)』
『Nefta Football Club(原題)』
『The Neighbors’ Window(原題)』
『Saria(原題)』
『A Sister(原題)』


 作品賞では大本命が『アイリッシュマン』、対抗馬が『ワンハリ』、大穴で韓国映画から初のノミネートとなった『パラサイト 半地下の家族』というのが僕の予想です。ネットフリックス配信映画の『アイリッシュマン』に反発する声が『ワンハリ』『パラサイト』に集まるかどうかでアカデミー会員の票がどう動くかが見もの。

 監督賞もスコセッシとタランティーノの対決でスコセッシの映画人生の総決算が勝つか、タランティーノが初の監督賞(脚本賞の受賞経験アリ)に輝くか目が離せない。『ジョーカー』のトッド・フィリップス監督は下馬評では落選の声があったけどノミネートまで持ってきたので意外な結果があるかも?

 主演男優賞はホアキン・フェニックスか、『マリッジ・ストーリー』のアダム・ドライバーが有力。僕の一押しはアダム・ドライバーです。『マリッジ~』の悲しくもマヌケな旦那役(ナイフを使った冗談遊びで腕を切ってしまって貧血で倒れるシーンは最高です)は傑作で、ちゃんと演技できる人なんだなって思った。カイロ・レン役はなんだったんだ?

 主演女優はセロンとゼルヴィガーが有力らしいですが、二本ともまだ見てないからわからない。助演男優は『アイリッシュマン』のジョー・ペシとアル・パチーノの対決にブラピとアンソニー・ホプキンスがどう絡むか、激アツ部門。助演女優賞は『リチャード・ジュエル』で息子の無実を信じる母親役を好演したキャシー・ベイツか、『マリッジ・ストーリー』でやり手の弁護士を演じたローラ・ダーンの対決。
 他の部門では長編ドキュメンタリーは『ブラジル 消えゆく民主主義』が本命。作曲賞はジョン・ウィリアムスが功労賞的に獲得するかな。国際長編映画は文句なしに『パラサイト 半地下の家族』で決まり。


 今年も司会のいない第92回アカデミー賞、ネットフリックス系作品が一部の頑固者の意見を蹴散らして受賞するか、タランティーノとポン・ジュノが栄冠なるか?決戦は2月9日(現地時間)!!

  


Posted by 縛りやトーマス at 00:11Comments(0)ネットフリックス

2020年01月06日

話盛りすぎですよ!『コンフェッション・キラー 疑惑の自供』



 米国史上最多の360人以上を殺しテキサス州で死刑判決を受けた連続殺人鬼、ヘンリー・リー・ルーカス。彼の犯した殺人はあまりに膨大で本人も思い出せないぐらいなので、犯行時の状況を思い出せた時には「ルーカス特別捜査班」のメンバーを呼び出して自供をはじめる。ヘンリーの自供によって未解決だった事件のいくつかが解決し、誤認逮捕されていた容疑者は釈放されていった。獄中の死刑囚に警察が捜査のために話を聞きに行くという、あの『羊たちの沈黙』に登場するドクターレクターのモデルになった人物だ。

 そのヘンリー・ルーカスのドキュメンタリー、『コンフェッション・キラー 疑惑の自供』がネットフリックスで配信されているので観た。
 僕がヘンリーを知ったのは『羊たちの沈黙』を観た時と、世界中の連続殺人鬼を取り扱った平山夢明の『異常快楽殺人』を読んだ時だ。この本では『厳戒棟の特別捜査官』という中でヘンリーが取り扱われている。



 幼いころから淫売の母親に虐待されて育ったヘンリーは精神と身体の両方に傷を負い、23歳のころに結婚を誓った女性と母親が口論の末に家を出て行ってしまい、さらに母親から罵られたことをきっかけにその場で母親を殺害、40年の刑を食らうが、ベトナム戦争の影響による国家の財政圧迫を理由に10年で仮釈放となる。釈放直後にバス停で女性を殺害、金品を奪って逃亡。その後はあちこちを転々とし、フロリダでオーティス・ツールという「同性愛者の美青年」と仲良くなり、週末は二人で出かけていった先々で暴行、強盗、殺人を繰り返す。オーティスから「死の腕」という組織を紹介してもらったヘンリーは入会テストに合格し、組織からの依頼で誘拐、殺人を引き受けるようになる。組織から証拠を残さない技術を叩き込まれ、全米中を遠征して殺人行脚をオーティスとともに続けたがまったく捕まらなかったという。彼を疑った保安官に嘘発見器にかけられたが、「死の腕」の教育によってそれもパスしてしまう。ただ一度ドジを踏んだことで逮捕されてしまったヘンリーは獄中で「神の声」を聞いたことでクリスチャンに目覚め、連続殺人の告白をはじめた・・・

 という風に紹介されていた。ネット上の記事なんかでもヘンリー・ルーカスが紹介されるときはこんな感じだった。ところがネットフリックスのドキュメンタリーを見てみると、まったく違う。なんとこのヘンリーの自供はすべて誘導尋問によるもので、彼は連続殺人鬼ではないというのだ。


 テキサスでオーティスのいとこの少女、ベッキーとヘンリーは恋仲になる。だがつまらない諍いからベッキーを殺害、証拠隠滅のためにベッキーの祖母も殺害し遺体を捨てる。この一件を保安官にかぎつけられついにヘンリーはお縄になる。最初はしらを切っていたヘンリーだが、やがて保安官にベッキーと祖母の殺害を告白する。
 裁判所で事件の判決が下されようとした時、ヘンリーは突然

「残り100人の女性の殺人は?」

 と言い出し法廷は騒然となる。

 100人以上の連続殺人事件の容疑者となったヘンリーを捜査するため、全米の警察に犯人が捕まっていない女性の殺人事件について調査するよう通達が飛び、膨大な件数を処理するための「特別捜査班」が設けられ、テキサスのバウトウェル保安官がリーダーとなってヘンリーを尋問することに。バウトウェルはテキサス警備隊の伝説的な英雄で、あのテキサスタワー銃乱射事件の時に飛行機で現場上空を飛んで、機体に銃撃を受けながら犯人の位置を無線で知らせた男だ。バウトウェルは公安局長ジム・アダムスと交渉して専属の捜査班を組むよう、交渉しそれが認められる。アダムスは捜査班の窓口にテキサス警備隊のボブ・プリンスを指名した。

 特別捜査班の尽力によって全米中の未解決事件をヘンリーは自供していった。そんな中、ジャーナリストのエインズワースがヘンリーを取材をしたいと申し出る。エインズワースは殺人事件の容疑者を取材するジャーナリストで、30人以上の女性を殺したテッド・バンディとも直接面談したことがある。バンディを超える100人以上を殺した希代の殺人鬼!興味を惹かれないわけがない。

 バウトウェルはエインズワースの取材を歓迎した。ヘンリーに会いたいという人間はたくさんいたが、バウトウェルは「俺が会わせてやるよ」とまるでマネージメントしているタレントを会わせるような感覚でヘンリーを紹介する。なんと日本からもクルーがやってきているのだ。クルーは日本からおみやげを持ってきて渡すとヘンリーは大喜び。日本のクルーはさんづけでヘンリーを呼んで話を聞く。海外のスターに会っているみたいに。随分のんきだなあ。目の前の男は連続殺人鬼だぞ!
 と思うのだが、残されている記録映像では会談の様子はゆるゆる。なにしろヘンリーは手錠も腰縄もかけられていない。タバコだって吸い放題。

 日本のクルーを交えた会話の中で、ヘンリーは「日本にも行ったことがあるんだ」という。どうやって?と聞くと「車を運転してね」と笑う。え?車で?アメリカから日本へ車で行けるわけがない。この男、なんか変だぞ。
 その後部屋でエインズワースと二人きりになったヘンリーは「ここだけの話だけど、殺しは、全部作り話なんだ」と言い出す。


 ヘンリーの自供はバウトウェルらの誘導尋問によって行われたものだった。バウトウェルは全米の未解決事件の中から都合のいいものを選んで「〇月〇日、ここにいたよな?ここで女性が殺されているんだ」とヘンリーに告げて遺体のあった場所を地図や写真でそれとなく指し示して「ヘンリーが自白した」「犯人しか知らない情報を知っていた」といい、未解決事件の犯人をヘンリーにしていたのだった。

 これがなんで発覚したのかというと、バウトウェルの特別捜査班は未解決事件の犯行日をリストアップし、何月何日に犯行、そのあと移動して何日には犯行・・・という風にパズルを埋めるみたいにヘンリーの殺人行脚をつけていったのだが、それが明らかに不可能な日程なのだ。例えば10月2日にワシントンで犯行、そこから3200キロ移動して10月4日ヒューストンで誘拐未遂事件を起こす。960キロ先のアーカンソーで殺人、1530キロ移動して10月16日ニューメキシコでまた殺人、10月27日1600キロ先のネバダで殺人、2600キロ移動して10月29日ルイジアナで殺人、3400キロ移動したケベックで殺人、これが10月31日。11月2日に3200キロ移動した先のミズーリでまたまたまた殺人・・・
 一か月の間に1万7700キロを移動しての殺人行脚。時速80キロで車を飛ばして休息もなし、という条件でなければ達成できない。「巡航ミサイルでもなけりゃできない」と言われる。こんなことはありえない。するとバウトウェルは「彼は運転や車上生活が好きだったのです」・・・って何の説明にもなっていない!

 エインズワースらこの一件に疑問を持つ人はヘンリーを「話を盛るタイプ」として、自暴自棄になっていたヘンリーはバウトウェルら保安官たちを喜ばせたかったのだろうという。一件解決するごとにシェークをもらえるという条件でヘンリーは犯行を認める書類にサインし続ける。

「これは冤罪だ。とんでもないことになっている」

 特別捜査班の悪行を暴こうとする人が現れるのだが、公安局長のアダムスはそういった「余計な事をするやつら」を元FBI副長官だった権力を利用して陥れていく。盗聴、尾行、不法侵入、懇意にしているマスメディアを使って批判させる。それでも黙らなきゃ犯罪をでっちあげろ!ヘンリーを救おうとしたある検事は詐欺、賄賂の罪で手錠をかけられ人生を台無しにされてしまう。

 バウトウェルらは未解決事件を処理した英雄として扱われたかったのとテキサスでは保安官は偉大なヒーローでなくてはならない、という周囲からのプレッシャーがそうさせたのだろうとエインズワースらは分析する。
 しかしやってもいない犯罪をやったことにされたヘンリー、そして事件の犠牲者遺族はたまったものじゃない。ヘンリーの誘導された自供のせいで真犯人の多くは逃げおおせており、遺族らは「バウトウェルに騙された」と肩を落とす。

 とまあ、平山先生の『異常快楽殺人』と全然違うことになっていたのだった。当時、平山先生が入手できた資料にはここまで書かれてなかったんだろうなあ。彼もまたバウトウェルの被害者なのかもしれない。
 嘘つきとまではいわないけど、しかしいくらなんでもこりゃひどすぎでしょ!と思うのがヘンリーの相棒オーティスを『異常快楽殺人』の中では「同性愛者の美青年」としているところ。番組ではオーティスの映像もあるんだけど


右がヘンリー。左がオーティス。

 ・・・美青年て、どこがや、ど・こ・が!(いくらだいぶ年を経た後とはいえ!)

 平山先生、ヘンリーばりに話盛りすぎですよ!話盛りすぎて観てもいないビデオのレビューをでっちあげてた平山先生らしいけど!

  


2019年10月02日

20年封印されたメイキング ジム・キャリー大暴れ『ジム&アンディ』



 ネットフリックスで配信されているオリジナルドキュメンタリー『ジム&アンディ』(2017)を観た。

 これは1999年公開(日本は2000年)の実在したコメディアン、アンディ・カウフマンの自伝映画『マン・オン・ザ・ムーン』のメイキングだが、諸事情につき当時撮影された素材の多くがお蔵入りにされており、20年経ってようやく解禁されたというもの。

 アンディ自身はエンターテイナー、パフォーマーを自称してテレビの舞台に立っていたが、ネタの多くは舌っ足らずの声で「たんきゅう・べりまっち」といったりするだけで、他にはプレスリーのレコードに合わせて口パクしたり、『華麗なるギャツビー』を一冊丸ごと朗読したり、狂ったようにボンゴを叩く(だけ)・・・まるで面白くなかった。今ではファンの多くが「アンディ・カウフマンは面白くない。それが面白いんだ」とわけのわからない理由で支持されているのだが。しかしテレビ番組に出演して人気が出たアンディはトーク番組などに引っ張りだこに。あまりに忙しくて全部に出演できないので「俺の知り合いに面白いやつがいる。トニー・クリフトンっていうんだ」と友人を紹介した。
 トニーは酔っぱらって現れ、コールガールを脇に抱え「アンディなんか面白くもなんともない!あいつは最低だ!」とわめき散らした。酔っ払いの毒舌男としてトニーはアンディ以上に暴れまわる。そのトニーは、どう見てもヅラを被ってサングラスをかけたアンディにしか見えなかった。司会者も「あなたアンディさんですよね?」というとセットの横からアンディが登場!生放送中にトニーとアンディはつかみ合いのケンカを繰り広げる。トニーはアンディのブレーンであるボブ・ズムダが演じた。

「何これ?わけがわからない」

 アンディはあらゆる常識を破壊して暴れまわった。82年にはメンフィスで女性差別発言をしプロレスに挑戦、リングに女性をあげて勝ちまくった。「世界無性別級王者」を名乗り、誰の挑戦も受けると宣言。当時メンフィスで新団体CWAを立ち上げていたエース、ジェリー・ローラーを相手に戦って首の骨を折る重傷を負った。
 アンディは癌で早死にするが、それすら「どうせネタに決まってるよ」と信じてもらえなかった。実の家族まで彼の死を信じなかったぐらい。


 そんな誰にも笑ってもらえないアンディの生涯を描いた作品『マン・オン・ザ・ムーン』でアンディの役をコメディアンのジム・キャリーが演じた。当時のジム・キャリーは『エース・ベンチュラ』『マスク』などでヒットを飛ばしていたが、「下品な顔芸役者」としか認知されず、業界では嫌われていた。この作品にかけていたキャリーはアンディの芸を完コピしたビデオを送ってオーディションに勝ち残った。
 演奏家としての夢をあきらめて家族のために就職したキャリーの父親はその職で失業する羽目になり、一家はどん底の貧困に追い込まれる。キャリーは木を相手に独り言をいったりして「人を殺したくなるほど」絶望的な気分を忘れようとした

「アンディも同じようなことをしていた。笑ってほしいんだけど誰も笑ってくれない。僕はアンディなんだよ」

 撮影で完全に役になり切っていたキャリーはスタッフに「ジムさん」と呼ばれても「ジムって誰だ?僕はアンディだ!」と大声をあげた。トニー役で撮影をしている時もなり切って実際のトニーのようにアンディの悪口を言いまくり、時にはキャリーの悪口すら言った。紙袋を被ってスタジオに現れ「僕はバットマンだ!」と叫び、ユニバーサルの撮影所にスピルバーグのアンブリン社のオフィスがあるのを見つけると「会いに行こうぜ!」と乗り込んだ。

「大衆相手のクソ映画ばっかり撮ってないで、『ジョーズ』のころを思い出せよ!って言ってやるよ」

 幸いスピルバーグはいなかったので事なきを得たが、許可も取らずにカメラを回していたのでアンブリンの人間がカメラは止めてくださいと叫ぶのが映っている。監督のミロシュ・フォアマンはクランクイン2週間後に「君は何をやりたいんだ?わけがわからないよ」と泣きを入れた。『カッコーの巣の上で』『アマデウス』で二度アカデミー賞に輝いた巨匠が!
 フォアマンが匙を投げた現場でキャリーはアンディに、トニーになって暴れまわった。スタジオの外でもだ。『プレイボーイ』の編集者ヒュー・ヘフナーの『プレイボーイ・マンション』のパーティに招待されたときはアンディの代わりにトニーを行かせたが、ヘフナーはキャリーの変装だと思って歓待した。ところがその後本物のジム・キャリーが登場したので大騒ぎ。この時のトニーはボブ・ズムダ(今も健在)が昔のようにトニーを演じていたのだが、不審者としてトニー=ボブはたたき出されてしまう。悪ふざけもここに極まれり。
 ジェリー・ローラー本人がやってきてメンフィスのプロレスリングを再現する場面では当時のようにアンディになり切ったキャリーがローラーを罵倒しまくり、つれの彼女に水をぶっかける!スープレックスでアンディを投げる場面ではもちろん持ち上げた瞬間に撮影を止めて、スタントがその後を演じるわけだがキャリーはそれが不満で本当に俺を投げろと要求。拒否するローラーを「保険会社が怖いのか?」「根性なし!」と罵りだす。ついにブチ切れたローラーはキャリーをリング外で「制裁」する。かつてのメンフィスのように首を負傷して撮影がストップした様子は「ジム・キャリー、撮影中に負傷」と伝えられ、翌日テレビのカメラマンがスタジオの周囲を取り囲む事態に。「和解」を兼ねたテレビ番組でキャリーとローラーがトークした時もキャリーはローラーを煽りまくり、怒ったローラーがキャリーをビンタしてしまう。もちろん二人は打ち合わせの上で撮影しているのだけど、何も知らない周囲は唖然、茫然とするばかり。

 共演しているダニー・デヴィートやポール・ジアマッティもポカーンとしてるだけ。ただひとりアンディの彼女役で登場するコートニー・ラブだけはニコニコしてたけど(変人に付き合うのが慣れてるのかしら)。
 何が本当で何が嘘なのかわからなくなってしまうアンディの虚実をキャリーは完全に再現した。周囲も完全に巻き込まれてしまい、アンディの父親役を演じたジェリー・ベーカーがトレーラーハウスの中でキャリーを「息子のように」叱り飛ばす(何があったんだ)とアンディの実際の妹が「いつもアンディはあんな風に父に叱られていたわ」とキャリーのガチっぷりに本物の涙を流す。一体なんなの!!

 メイキング用に撮影された映像をユニバーサル側が宣伝にならないから回収すると言ってきたんだ!とキャリーは怒り心頭でボブに告げる。そりゃあこれ見たらキャリーは完全にキ〇〇イとしか思えないもんな。この映像が20年近く封印されてたのもわかるわ。ユニバーサル側の態度に憤慨するボブにキャリーは

「うっそだよ~ん!ダマされた?」

 一杯食わされたボブが大笑い。ジム・キャリー、何がやりたいんだよ!

  


Posted by 縛りやトーマス at 23:41Comments(0)ネットフリックス

2019年04月03日

前作制作者の意に沿わない続編。『けものフレンズ2』は『ブレアウィッチ2』だった!



 2019年冬アニメ最大の話題作として放送された『けものフレンズ2』は大ヒットした前作最大の立役者とされるたつき監督の降板騒動以降、いまだ制作委員会やKADOKAWAへの批判が続いている中での続編制作とあって制作決定の時点で批判が加速するのであった。
 しかし『2』のメインスタッフのうち、監督は『アイカツ!』シリーズを大成功に導いた木村隆一、シリーズ構成、脚本は『ゾンビランドサガ』に関わっていたますもとたくやだと発表されるとひょっとして期待できるかも…というムードが高まり、「まあまあ落ち着いて。作品を見るまでは批判はやめておこう」といった冷静な人たちが現れたのだが、一部の「絶対許さないマン」たちが奇声を上げる中、初回放送日を迎えた。

 前作からの登場人物であるサーバルに加えて、新フレンズのカラカルが登場し、前作主人公のかばんちゃんに代わる新しいヒトキャラ、キュルルが登場。彼女はかばんちゃん同様正体不明で記憶のないキャラクターであり、彼女が持つスケッチブックに書かれた「記録」を元にジャパリパークのどこかにあるキュルルの「おうち」を探す旅にサーバル・カラカルが同行するというストーリー。
 この部分は前作までのプロットを踏襲しており、特に問題もないが、微妙に感じるのがキュルルのスケッチブックと絵である。前作では動物が擬人化したフレンズとヒトの間には明確な文化、生態の違いがあり、前作ではヒトが「道具を使って何かをする」という行為がフレンズにとって理外であり、ジャパリパークの地図をホルダーから取ったりするだけでサーバルが不思議がるといった描写があった。かばんちゃんにはフレンズのような力や行動力がなく、それを「何もできない」とフレンズから残念ながられたりしていたが、力を補う器用さと知恵でフレンズたちの問題や騒動を解決していく(ヒトの知恵がなければフレンズの抱える問題は解決しない)、という展開があった。
 ところが『2』ではキュルルが「紙に絵を描く」というフレンズにとって理外である行為をサーバルたちが普通に受け入れており、それに対するフォローが劇中では示されない。キュルルがクレヨンで器用に絵を描いていくのを見ても、それを不思議がる様子すらない。ならばフレンズたちの知能や経験が前作よりもプラスされたという説明が必要なんだけど、『2』では一切そんな様子がない。

 ならば『2』とは前作とは世界観が共通されているだけのパラレルワールドなのかというと、前作にも登場した場所やフレンズが出てきたり、ある建物が水没していたりなど、前作からの時間の流れを感じさせている。「前作からの続き」であることが示されているのに、整合性が取れていない。
 しかも第6話では前作の主人公、かばんちゃんが再登場。サンドスターやセルリアンに関する研究をしているという設定で前作からの成長がうかがえる。サーバルに関するなんらかの記憶があるが、サーバルにはないといった前作からの視聴者がモヤモヤする展開があるのに、やはりこのことについて追及されることはなく、シリーズの中の1エピソードとして処理されるのであった。

 前作が受けた要素のひとつに「散りばめられた伏線が最後にすべて回収されていく」という展開の面白さがあったのですが、『2』では何も伏線が貼られず、謎だけを提示されてそれを疑問に思っても「まあいいや」と気にも留めず主人公たちは次に進んでいく。この伏線をどれだけ回収しなかったかについては最終回放送直後にTwitterに貼られ、放送後に更新されたある画像をご覧ください。




 およそこれだけの謎が提示されながらひとつも回収されずに放置されたのです…『2』は放送直後は様子見の視聴者から生暖かい視線で観られていたものの、回を経るごとにバッシングする意見が目に付くようになり、アンチと化した人々の執拗な口撃に木村隆一監督が反発、その意見に一貫性がないことからさらなる炎上を呼ぶという悪循環に陥りました。

『けものフレンズ2』関係者の言ってることはバラバラで情報共有されてない(けものフレンズちゃんねる記事まとめ)

https://togetter.com/li/1328517

 木村監督はよくこの内容で自信満々に語ったり、アンチを相手に煽るような意見を書き込んだものだな…と思う。いっそネット上ではだんまりを通して雑誌・メディア媒体でのみ前向きなコメントだけ出しておけばこんなに揉めなかったのでは?
 一部の「最終回ではある程度疑問が解消されるはず」といった期待を裏切るように最終回でも投げっぱなしのまま終わってしまい、4月2日のニコニコ動画最終回上映会ではアンケートで「良くなかった 95.3」というアンケート史上最低だった『遊戯王 ARC-V』の94.2を越える記録を叩き出すのであった。

 この大人気だった前作の続編として期待されながら続編はどうしようもなくダメになる、といった現象を僕は見たことがある。『ブレアウィッチ2』だ。99年に公開され、世界中に反響を巻き起こした『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の続編として公開されたが、前作の制作者であったエドゥアルド・サンチェスとダニエル・マイリックは関わっておらず、「意に沿わない続編だった」「続編の制作にはもう少し落ちついてからがいいと思ってたが、スタジオが「鉄は熱いうちに打て」とゴーサインを出したんだ」とコメントしており、前作と関係があるような、ないような…別物の作品になっており、評価はボロクソ、ラジー賞の「最低リメイク・続編映画」を受賞。あっという間にブレア・ウィッチ人気は終息、正当な続編が誕生するまで16年もかかることになるのだった。

『けものフレンズ2』はそういう意味で『ブレアウィッチ2』に似ている。前作のヒットをなかったことにするほどのダメな続編というと『グレムリン2』『ベスト・キッド2』『スピード2』『スターシップ・トゥルーパーズ2』とかあるけど、「前作の制作者に意に沿わない続編」な上に評価もボロクソ、というと『ブレアウィッチ2』しか思い浮かばない。

 前作をたつき監督は3年もかけてつくったので、たった2年で続編が作られるわけもなく、監督降板については様々な理由が語られるものの、降板の理由として強調されるのは短期間にシリーズを量産したいKADOKAWAが前作をつくったヤオヨロズでは量産ができないと判断されたのかも。でもそれなら単に『2』では別の会社でやりますといえばいいだけで、実際2期や続編で制作会社の変わるアニメなんて珍しくないしね。『みなみけ』とか『生徒会の一存』とか…
 なのに降板理由として「関係各所への情報共有や連絡がないままでの作品利用」というのが公式の見解として挙げられ、まるでたつき監督、ヤオヨロズ側に非があるような書き方されちゃったのは関係者同士で感情的なもつれがあったんじゃないのかな?大人の対応では済まないような。ヤマカンが「監督の域に達してない」と言われた『らき☆すた』降板騒動と同じで。


 本当に「もう少しどうにかならなかったのか?」と言いたくなるほど辛い出来だったが、そんなにボロクソいうほどの悪い出来というより「ありがちなダメ続編」ぐらいですけど。僕はまた一話から『2』を見直しているので、どうしようもなくダメなところについては後日改めて語る。



  


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2019年03月03日

ヒロポンで空高く吹き飛んだ『麻薬王』

 今年のアカデミー賞ではNetflix配信映画の『ROMA/ローマ』が各部門にノミネートし、「配信限定映画なんか映画じゃない」という頭の固い連中など物ともせず3部門受賞に輝きました。
 かように最近のNetflix配信映画は野心作やビッグバジェットによる大作が続々配信され世界中の映画祭でも評価されているので、もはや映画館でかからなければ映画ではない、などと言っている時代ではないのです。
 今回ご紹介する映画は韓国で大ヒットした劇場映画ですが、日本ではNetflixで配信中の映画『麻薬王』です。
※以下ネタバレを含みます




 1970年代の韓国では覚せい剤製造ビジネスが盛んであった。かつて日本では疲労がポンと飛ぶ、という意味の「ヒロポン」という名称で生産、発売が公然と行われ、庶民の間に爆発的に広まっていた。第二次大戦時には特攻隊員の恐怖を取り除くためにキャラメルにヒロポンを入れて与えられた(当時は満州で作られていたという)。

 70年代になり、副作用などがようやく問題となり国内での製造が縮小されたため、海を渡った隣国、韓国に製造の場が求められ、韓国内でも覚せい剤の需要が高まり、大規模な生産が必要だった。
 金細工の職人、イ・ドゥサム(ソン・ガンホ)は家族思いの冴えない男。金を密輸する裏社会に頼まれて金が本物かどうかを鑑定する仕事で禄を食んでいたが、トラブルから拷問に遭い、密輸の罪で服役する羽目に。妻からも愛想をつかされてしまう。
 しかしドゥサムは密輸事業の際に日本の大阪で「釜山の水は良質なので、いいヒロポンがつくられる」と聞いたことがり、覚せい剤輸出で外貨を稼ごうとする。ドゥサムのビジネスは恐ろしいほど当たり、神戸山口組の抗争に巻き込まれたり(!)しながらも荒稼ぎを続け政財界にも名が知られるように。
 だが、かつて彼を拷問し刑務所に送り込んだ中央情報部の人間がドゥサムを脅しにくる。恨みを忘れていないドゥサムは彼に仕返し、遺体をバラバラにして海に捨てる。「麻薬を扱う人間は麻薬だけは使ってはいけない。破滅が待つだけだ」という教えに逆らってヒロポンを注射する。一線を超えたドゥサムはもう止まれない。政財界の大物の養女、ジョンア・キム(ぺ・ドゥナ)と知り合いになり、彼女の提案で「メイド・イン・コリア」と名付けたドゥサムのヒロポンは韓国、日本両国で爆発的に売れまくる。ヒロポンで莫大な利益を手にしたドゥサムはあちこちに寄付して表彰され、国を代表する名士となってゆくのだった。

 映画の舞台になる70年代の韓国は、60年代まで世界の最貧国に数えられるほどの底辺だったが、60年代後半に日韓基本条約、ベトナム戦争に派兵して得た外貨をきっかけに経済復興を遂げた。誰もが一山当てたいという空気の中で覚せい剤という金儲けのネタを手にしたドゥサムのビジネスは右肩上がりを続ける。しかし崩壊は足元に迫っていた。

 覚せい剤の撲滅を目論む検事キム・イング(チョ・ジョンソク)はドゥサムの妻やヒロポン中毒に落ちぶれた従弟を使ってドゥサムを追い込んでいく。最初は小動もしないドゥサムだったが、日韓基本条約をとりつけた朴正煕大統領の暗殺をきっかけに韓国は軍事独裁政権と民主化デモとの対立の時代に突入する。
 イケイケドンドンでビジネスを拡大させる中、親しい人間すらも切り捨ててきたドゥサムの周りには誰もいなくなり、飼い犬だけが寄り添う部屋でヒロポンに溺れ「アカが俺を殺しにくる」という妄想に取り憑かれ銃をぶっ放すドゥサムの屋敷をキム検事と兵隊たちが取り囲む。


 最近の韓国映画は政治的に際どいテーマをエンターテインメントに落とし込むのが得意で、『麻薬王』の数年後に起こった光州事件をテーマにした『タクシー運転手 約束は海を越えて』(これもソン・ガンホ主演作)のような歴史の恥部のような光州事件をすこぶる活劇として描くことに成功していた。絶好調の時代を生きながら一つの時代の終焉とともに没落するドゥサムの生きざまは悲しくもあり、魅力的でもある。説教臭くなく、笑って楽しめる娯楽映画になっているのがすごい。よくいうけど、日本じゃこういう映画は絶対作られないね。

 あと、映画のテーマソングがジグソーの『スカイ・ハイ』なのでやたらと勇ましいんだよな。でも実際は失恋の歌で、「愛を捧げたのになぜか君は僕を空高く(スカイ・ハイ)吹き飛ばした」という意味が「俺はみんなを幸せにしたかっただけだ。俺のおかげで大勢が救われた」と嘯くドゥサムのことを言っているようで切なかった。


  


Posted by 縛りやトーマス at 01:09Comments(0)ネットフリックス

2019年02月15日

ウドーフェスを超えた『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』

 2006年に行われたウドー・ミュージック・フェスティバルは今も多くの人の胸に刻まれている。悪い意味で。
 富士スピードウェイと泉大津フェニックスの二か所で開催され、「ウッドストックの興奮がよみがえる」「大人の夏フェス」と、とにかくすごい自信だけは伝わってきた。
 ふたを開ければ人はガラガラで、メインステージに大物が登場しても客はせいぜい数百、小さいステージで5人という有様で、学園祭の学生バンドでも、もう少し客呼べるよ!大阪会場の泉大津ではステージ内を犬を散歩させてる人がうろついてたりしていた。富士でもエリア前方でレジャーシートが敷かれていたり、持ち込み禁止の缶ビールを開けまくり(クーラーボックス持参で)、寝たりしていたという。
 スタッフもまるでやる気がなくて、会場の端っこで椅子に座って寝ている画像は拡散された。物販の奥で偉い人がやけ酒をあおっていた、などという噂も信じられるレベルの悲惨さ。「泉大津の集客は初日2千、二日目3千の計5千」(公式発表1万5千)という結果に終わり、ウドーの夢は砕け散った。以後ウドーミュージックフェスティバルは「大失敗した音楽フェス」の代名詞として伝説となった。しかし世の中は広い。ウドーを超える失敗を記録したフェスもある。




 ネットフリックスで配信中の『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』は2017年にバハマの島で2週間にわたって行われる予定だったファイヤ・フェスティバルのドキュメントだ。
 起業家のビリー・マクファーランドはラッパーのジャ・ルールをあるイベントに呼ぼうとしたが、コネがない。そこでジャとコネがあるという人物に話をすると「500ドルがいる」と言われ払った。別の人が「さらに1000ドル必要」と言われそれも払う。すると「ジャ・ルールが嫌がってる」…そんなやり取りを経てビリーはようやくジャと会うことができた。アーティストと出演交渉するだけで金も時間もかかる。なんて面倒なんだ!そこでビリーとジャは画期的なサービス「FYRE」を共同で立ち上げる。アーティストに出演交渉する際は「FYRE」で検索して予約をして金を払う。それだけでアーティストが出演してくれる!仲介人を通さないので余計なお金も無駄な時間もかからない。画期的なサービスだ。
 それをウェブ・サミットで発表したときはそれほどの話題にもならなかった。FYREのスタッフは宣伝するためにコンサートを開いては?とアイデアを出し、ビリーが「音楽フェスにしよう」と言い出す。そしてファイヤ・フェスティバルの企画がスタートする。

 バハマの島をひとつビリーは買い取り、ここで1万人規模の音楽フェスを開こうとする。そのためには何をすればいいか?まず宣伝だ!

 彼らはネットで宣伝するためのPV撮影を始める。スーパーモデルたちを10人以上も集めて会場となるパブロ・エスコバル・アイランド(ビリーが麻薬王エスコバルが所有してた島なんだ、とデタラメをいった)でモデルたちとビリー、ジャたちがパーティーを開いて酒を飲んでジェットスキーをしたりする動画がつくられた。焚火をし、モデルたちが豚と戯れる。なんで豚が必要なんだ?スタッフらにジャは「俺が豚が必要だといったら、必要なんだ!」コンセプトもターゲットもよくわからないパーティーの映像が延々と撮影され、モデルたちはなんで呼ばれてるのかわかっていない。撮影は進む。PVは完成。ビリーとジャはモデルたちに「ハッシュタグをつけて拡散しろ。とにかくバズるんだ!」
 映像はたちまち話題になりPV数はうなぎのぼり、広告代理店もFYREに投資しはじめ、著名人たちを数百人かき集めて同じ時間帯に一斉に投稿する一大キャンペーンも大成功。ファイヤ・フェスに誰もが注目した。このイベントの成功は約束されたも同然!

 しかし問題はここからだった。PVをつくって宣伝もした。ファイヤ・フェスはそれ以外何も決まってなかった。

 まず島には1万人も入れない。泊まる場所もない。豪華なヴィラに泊まれ、ヨットで専用シェフによる食事も楽しめる。とにかく豪華で、夢のようなフェスというのが売り文句だったが島には客のためのトイレもネット環境もない。テントを立ててそこに泊まるアイデアを出すが、ためしに一日泊まったスタッフは「うるさいし安全じゃないし蚊もたくさんいるし…」指摘されてもビリーは意に介さず「クルーズ船を借りてきて、そこに泊まればいい」絶句するスタッフに笑顔で「本気だよ!」と笑うビリー。一部のまともな人間たちは「このフェス、何かがおかしい!」と思い始めていた。

 現実的に島に入れる客は1000人までだと問題点を指摘したスタッフは翌日クビに。この時点でフェス開催まで45日。あと一か月半しかないのに、ようやく舞台設定のスタッフを雇っている有様。スタッフの多くはフェスもやったことのない素人ばかりだった。
 開催予定の島を完全に購入していないことがわかり、島の持ち主はエスコバルの名前をつけられて「イメージが悪くなる」と彼らを追い出す。近くに別の島を買うが規模は縮小。さらにその島で行われるレガッタの大会の開催時期と重なってホテルはほとんど抑えられている。フェス参加者が泊まる場所、トイレ、食事、ネット環境、ステージ…何もかも一からやり直し。
 毎日、毎時、毎分なにか問題が起き、資金は湯水のように消えていく。資金調達のためにチケットを購入した参加者に「特典を利用したいならさらに追加の料金を振り込んでくれ」高額のチケットを売った後なのに!
 客も何かがおかしいと思い始め、フェスの公式サイトに説明を求める書き込みが溢れたがビリーは都合の悪い意見は削除しろと担当に命令。
 出演予定だったメジャーレイザーのメンバーのひとりはたまたまバハマに休暇で来ていて、現場を観に行って「これ大丈夫?」と不安がるがビリーは自信満々に「大丈夫」というのだった。

 開催まで10日を切り、現場作業員とスタッフらは現実的にフェスの開催は無理だとわかったので、ビリーに警告し続ける。「中止しかない」資金繰りに行き詰まり、フェスを開催しなければ破産に追い込まれることになるビリーは開催を決行する。

 ほぼ素人のスタッフらは次々起こる問題を可能な限り解決する。「止められなくて、あの怪物を生み出してしまったんだ」。フェスのために用意した大量のエビアンを税関に抑えられ「17万5千ドルを現金で払え」と言われたとき、彼らはそれをどう解決したか?スタッフはいう。

「ビリーは…“チームのために犠牲を”と。“毎日してるのにまた?”」
「彼は“我らのゲイリーダーとして自分を売ってもらえないか?”“男のアソコを舐めてくれ”“水のために”と」
「“税関長とヤッたら水のコンテナが返ってくる”」


 正気を疑うビリーの発言だが、このスタッフは覚悟を決めて税関長に会いに行ったというのだ。フェスのために!実際は冗談だったみたいで水は返してもらえたのだが、なんなんだ?これは!


 開催前日の夜に雷雨がやってきて、ここまで悪いことが重なるものかと。完成していない避難用テントが雨水にさらされ、マットレスは水浸し。スタッフらはただ茫然と夜空を眺めつぶやく。「もう逃げられない…」

 開催日。島にやってきた参加者は夢の楽園に来たはずが地獄絵図のような光景に直面するのだった…

 これが初めから客をカモにしようとか、詐欺目的だったらわかるんだけど、ビリーは本気でものすごいフェスをやろうとしてたんだよね。情熱以外のすべてが足りなかっただけで、ってそれ一番問題だよ!

  


Posted by 縛りやトーマス at 05:24Comments(0)音楽ネットフリックス

2019年02月06日

年金はちゃんと払え『ポーラー 狙われた暗殺者』



 デンマークの至宝、マッツ・ミケルセン主演の『ポーラー 狙われた暗殺者』を観た。ネットフリックスで配信中だ。

 プール付きの豪邸で引退生活を楽しむ男マイケル(『ジャッカス』のジョニー・ノックスヴィル!)がセクシーボディのギャルといちゃいちゃしていると、いきなり数人の男に殺される。
 ミケルセン演じるダンカン・ヴィズラは組織“ダモクレス”の殺し屋で引退を2週間後に控えている。ブラック・カイザーの異名を持つ凄腕だが、組織には「50歳になったら引退」という定年退職制度があるため、それに従って退職金と年金を受け取って余生を過ごそうと考えている。
 組織を父親から受け継いだブルート(マット・ルーカス)は組織の負債を埋めるため、引退する殺し屋たちの退職金と年金を払うのを惜しみ、「受け取り手が死んだ場合、金は組織のものとなる」という契約書の条項を利用して新たに雇った若手の殺し屋をつかって処分する(マイケルが殺されたのもそのため)。

 組織の連絡係、連絡は簡潔に「speak!(述べよ)」の一言のみ(このシーンがクソカッコいい)の女、ヴィヴィアン(キャサリン・ウィニック)を使ってダンカンはおびき出されるが、罠に気付き先手を打って皆殺しに。ブラック・カイザーの凄腕を知るヴィヴィアンはダンカンに手を出すぐらいなら、年金を払った方がマシよと忠告するが「年金を払いたくない!」とブー垂れるブルートは若手に命令してあの手この手でダンカンを葬ろうとする。

 今の日本じゃないんだから、そんなに年金払いたくないの?これは「年金をきちんと払わないとひどいことになる」という内容なので、日本の年金問題にも一石を投じる映画です(嘘)。

 中盤ぐらいまではミケルセンの引退を控えた殺し屋の悲哀が醸し出されていて、ミケルセンの渋い魅力が楽しめるのでそれを目的にして観る人は充分満足できるのですが、次第にトンデモ展開になっていって…マニピュレーターで動かす「軍隊」で追っ手を皆殺しにするあたりはもう何がなんだか。

 とにかく…年金はちゃんと払え!


  


Posted by 縛りやトーマス at 23:10Comments(0)ネットフリックス

2018年09月28日

中国版カイジ『動物世界』

 福本伸行の漫画『賭博黙示録カイジ』の中国版実写映画『動物世界』がネットフリックスで配信されているので見た。




 中国では6月末から劇場公開され、公開二日で約17億円、公開2週間で約50億円超えという大ヒットを飛ばしているのに、日本ではネットフリックス配信のみに。予告編ではピエロが化け物と戦ったりしているので別の意味で期待をあおられたのだが、有名スターが出ていないと劇場に足を運びたがらない日本の観客相手には厳しかったか。



 カイジ・ジョン(この名前、無理があるような)はゲームセンターでピエロのアルバイトをしているさえない男で、そのバイトも遅刻するわやる気ゼロのボンクラ。演じたリー・イーフォンは山田孝之っぽいイケメンで日本でも人気出そう。
 カイジは病気で意識不明の植物人間状態になっている母親の治療費さえまともに払えず、半分恋人の看護師チン(チョウ・ドンユィ)に世話をまかせっきり。彼女にプロポーズすらできないカイジは自分のダメさを嘆くばかり。チンは若い男の入院患者から浣腸をせがまれるという変態行為を迫られ(どんな病院だよ)、イライラが募ったカイジは(自分の妄想の中で)ピエロに変身!この男、精神的に追い詰められたりするとピエロに変身して怪物をやっつけるところを妄想する癖があった(どういうこと?)。カイジはブチ切れて変態患者を殴るが、それを見た他の入院患者が発作を起こしてしまう。彼氏ぶってカッコイイところを見せたところで彼女の迷惑になるだけだった…彼女が同僚の男と付き合っている話まで聞いてしまい、いよいよカイジはどん詰まり。
 カイジは街で黒服の男・遠藤に連れられ、謎の男・アンダーソンと会う。このアンダーソンが原作漫画における利根川なんだが演じるのはなんとマイケル・ダグラス!『アントマン&ワスプ』のラストで消えてしまった後どこに行ったのかと思いきや、中国で謎のフィクサーになっていたとは驚きです。
 アンダーソンはカイジが友人のジュン・リーから借金を背負わされたことを伝える。それは身を粉にして働いても30年かけなければ返せない額。アンダーソンはアラカコマカボノ島(???)を出港する客船ディスティニー号で行われるゲームに参加し、勝ち残れば借金を返済できるという。カイジは否応なく船に乗せられることに…

 ここからは原作第一章の『希望の船』編をほぼ忠実になぞった展開に。しかし船に乗り込む前に突然カーチェイスが始まったりと、気が抜けない。ピエロになる理由やアンダーソンとカイジの長年に渡る因縁めいたものを提示されシリーズ化を予言するような結末など、改変部分が全部つまらなく藤原竜也のビールを飲む演技がずっと一緒ぐらいしか見どころのない日本の実写版と違って自由な発想に彩られて楽しめる。ダグラス演じるアンダーソンは利根川みたいな名言をいってくれないのが惜しい。日本で失敗した実写映画は今後中国に任せればいいと思うの。


  


Posted by 縛りやトーマス at 19:31Comments(0)漫画ネットフリックス

2018年08月14日

奪還せよ『エクスティンクション 地球奪還』

 ネットフリックスで配信されているSF映画『エクスティンクション 地球奪還』を観た。



 主演はマイケル・ペーニャ。『エンド・オブ・ウォッチ』で主役ジェイク・ギレンホールの相棒役を演じ、『アントマン』でアントマン=スコットの親友役、『オデッセイ』で主役マット・デイモンの親友役…って親友役ばっかりだな!なんか、親友役が似合う顔なんだな。

 そんなマイケル・ペーニャ演じる主人公ピーターは悪夢にうなされる。何者かに襲撃され、同僚も友人も家族も殺される。そのせいで家族と不和が生じ仕事も上手くいかない。上司デヴィット(マイク・コルター)の勧めで医者にかかろうとするが病院で自分と同じ悪夢にうなされている男に出会う。これは妄想か?現実なのか?
 画してどこからかやってきた宇宙船(!)と武装したエイリアン(!)によって攻撃が始まる。ピーターは職場の工場が安全だという夢を見ていたのでそれを信じマンションから家族を連れて脱出する。途中でエイリアンを返り討ちにし彼らの武器を奪う。しかしエイリアンは気絶していただけで武器である銃を追跡してピーターたちに追いつく。そしてピーターはエイリアンたちの正体と目的を知る。


 最初はよくあるベタな侵略SFかと思い、2018年とは思えない古びた描写が続く上にピーターのうつ病に悩まされるようなダメ社員ぶりが胃に痛いのだが、中盤からはあっと驚く仕掛けが施され『エクスティンクション 地球奪還』のタイトルの意味がわかるようになると映画の内容自体が一変する。
 主人公の周囲でしか展開しないような話だが最後には世界規模にまで拡大するのだった。こういうの見るとやはり映画はアイデアだと思う。現在の社会問題にも相通じるテーマがあって唸らせてくれた。

  


Posted by 縛りやトーマス at 11:32Comments(0)ネットフリックス