2018年05月21日

ピザ配達人と首輪爆弾と真相『邪悪な天才 ピザ配達人爆死事件の真相』



 ネットフリックスで配信されてる『邪悪な天才 ピザ配達人爆死事件の真相』を観た。2003年にペンシルベニア州エリーで起きた実際の事件の真相に迫ろうとするドキュメントだ。
 エリー市の銀行に強盗が押し入り金が奪われる。警察はすぐに犯人を取り押さえたが犯人は「首輪に時限爆弾がつけられている!」と叫んだ。その男はピザ屋の配達人、ブライアン・ウェルズで配達に行った先で首輪をはめられ「強盗してこい」と言われたという。ウェルズはメモを持たされ、指示通りにすれば爆弾を外してやると書かれてあった。細かい字でビッシリと書き込まれたメモが9枚。
 警察は爆発物処理班を呼んだが、周囲の道路に張られた通行規制のため処理班の車は延々遠回りをする羽目になり、現場まで4ブロック先の位置で爆弾は爆発。その瞬間はテレビで生放送されていた!ウェルズが着ていた白いシャツの胸にはGUESS(推理しろ)と書かれてあった。

 この事件知ってる!映画評論家の町山さんの『キャプテン・アメリカはなぜ死んだか 超大国の悪夢と夢』という本に書いてあったからだ。

事件の詳細↓
http://www.asahi.com/motion/ap/wmp/TKY200309050152.html


 残されたメモには強盗の手順、その後首輪を外すための鍵の入手方法が書いてあった。現場近くの道路を延々と周り、数か所に置いてある謎を解かないと次のヒントにたどり着かないという、まるで謎解きゲームのようだった、と警察はいう。時限爆弾のタイマーは60分で、「とてもそんな時間ではすべての謎を解いて鍵を手に入れられない」初めからウェルズは殺される予定だった?

 ウェルズが強盗時に持たされていた杖型の銃や、首輪からはまったく証拠が見つからず、容疑者はまったく絞れなかった。その後ウェルズの同僚だったロバート・ピネッティが自宅で死んだ。死因は薬物の過剰摂取。FBIによる事情聴取の前夜に。ピネッティの死が事件にどう関係するかはわからず、捜査は難航。

 しかし事件は急展開を迎える。「ある女の家に死体がある。処分を依頼されたが断った」という通報があった。現場に駆け付けた警察は冷凍庫に放り込まれた死体を発見、女を捕らえる。女はマージョリー・ディール・アームストロングといい、冷凍庫の死体は彼女の夫、ジェームズ・ローデンだった。マージョリーは夫を殺したとして逮捕されたが「ビルがやったのよ!あいつは大ウソつきよ」と警察署にやってきたテレビカメラに叫んだ。ビルとは警察に冷凍庫の件を通報したウィリアム・ロススタインという元電気配管工だ。彼女と長年の友人だったロススタインはローデンに嫉妬して殺されたのだと。
 FBIはこの二つの事件が関連しているとして捜査を始める。マージョリーの自宅、ウェルズがピザを配達した電波塔の隠れ家はともに離れていない距離だ。そしてマージョリーは以前にも同居していた恋人を殺した容疑がある(正当防衛とされて無罪になった)。さらにウェルズの家には機械の部品が山ほどあった。マージョリーはロススタインを「俺に逆らうととんでもないことになる、とよく脅すのよ」と言っていた。

「倹約家で金属の収集癖がある」「機械に詳しく凶暴性がある」

 というFBIのプロファイリングにも一致するためロススタインはうそ発見器にかけられたが結果はシロ。「切り抜ける方法を知っているんだ」とFBIは悔しがる。
 そうこうしているうち事件から一年後にロススタインはガンで死んでしまう。一方マージョリーはローデン殺しの件で服役中にムショ仲間にピザ配達人爆死事件のことをさも自分たちがやったように語っていた。首輪爆弾を作ったのはロススタインだとも。
 2005年にマージョリーは刑務所の移動を条件に情報を渡す。マージョリーは仲の悪い父親の遺産が自分に入らないことに腹を立て、父親を殺すことを計画。釣り仲間のケネス・バーンズに殺しを依頼(ケネスはやる気がなかったと証言)、その金を工面するために銀行強盗を計画。実行犯を脅すために使う首輪爆弾をロススタインにつくらせた(ローデンは計画を邪魔しようとしたので殺した)というえらく遠回しな計画だった。

 しかしこれだって真相ではない!ムショのマージョリーはバーンズを「大バカ」と呼び、「私は正当防衛とはいえ二人の夫を殺した。なんだって父親の殺しをあんなバカに依頼するのさ!自分でやった方が安上がりだよ!」というのだ。
 バーンズとマージョリーは互いを「真犯人」といって罵り合ったが、2007年ついにマージョリーは終身刑+30年の有罪判決。マージョリーは獄中からとんでもない真相を告白する。ウェルズもピネッティも事件の「共犯」だというのだ。「あいつは共犯なんだ!だから犠牲者じゃないんだよ!」これは重い罪を逃れるためのデタラメなのか?それとも…

 ロスステインは寂しい男で、女性の愛を望んでも得られず、いろいろな道具を発明しても誰にも認められない。マージョリーはかつては総代をつとめるほどの秀才で美しかったが、心を病んで躁と鬱の間を行ったり来たりした。夫を二人も「正当防衛で」殺したはずのマージョリーが内縁の夫扱いだったロススタインだけは殺さずにいた。そしてピザ配達人爆死事件という世にも奇怪な事件を起こした。二人はまるで犯罪で結ばれたボニー&クライドのような関係に見える。
 というと『俺たちに明日はない』みたいなカルトでロマンティックなクライムサスペンスに思えるけど、実際はどうかしてる人たちの外道以下な事件だから。ドキュメントの力って恐ろしい。

  


2018年03月04日

まさにおそロシア『イカロス』

 3月4日(日本時間3月5日)に発表される第90回アカデミー賞。今回は去年ハリウッドに吹き荒れたハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ、パワハラ問題に端を発するMe too運動の余波を受けたせいか主要部門の有力候補は女性主人公の映画が並んだ。作品賞を争う二大候補は『スリー・ビルボード』、『シェイプ・オブ・ウォーター』。ただし監督賞に『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナーがなぜかノミネートしていないので、作品賞を『スリー・ビルボード』、監督賞を『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督が分け合うと予想する。

 まだ見られていない映画もあるので、全体的な予想はこの程度にしておくが、気になるのが長編ドキュメンタリー部門だ。5本のノミネートのうち二本がネットフリックスで配信されているので日本でも観ることができる。そのうち最有力候補と言われている『イカロス』を観たんだけど…これは…恐ろしい映画だよ…





 『ウィッチマウンテン/地図から消された山』に出演したりしてる映画監督のブライアン・フォーゲルはアマチュアの自転車レースに出ている男。彼はツール・ド・フランス7連覇を達成した鉄人ランス・アームストロングが現役引退後にずっとドーピングをしていたことを告白し、過去の記録、栄光をすべてはく奪されてしまったことに注目した。アームストロングはあまりに強すぎてドーピングを疑われ続けていたが、現役時代500回を超える検査すべてに陰性だったことを強調し「俺はドーピングなんかやってない!」と言い張っていた。しかし実際は…
 フォーゲルはドーピングの検査システムがおかしいのでは?と思い、なんと自らドーピングをしてアマチュアの自転車レースに出場、現代のドーピング検査がザルだということを証明しようとした。モーガン・スパーロックの『スーパーサイズ・ミー』のドーピング版だ!

 ドーピングの専門家と検査をパスする専門家を探してフォーゲルはフランスのアルプスを7日間走り続けるレース、オートルートに出場する。最初に頼んだ人間はビビって受けてくれなかったが、その代わり知人を紹介する、といってロシアのドーピング検査機関所長であるグリゴリー・ロドチェンコフと出会う。グリゴリーはドーピングのプロで、「レースに出て、検査をパスしたいんだな?任せろ」とスカイプで自信たっぷりにアドバイス。彼はいつも上半身裸で愛犬とじゃれあってる、おかしな人だ。そもそもドーピングの不正を告発する立場のグリゴリーがなぜ積極的にドーピングする人間の手伝いを喜んでするのか?不安になりながらも彼の力を借りてフォーゲルはオートルートに出場。しかしまさかの自転車の変速機が壊れてしまうというアクシデントでレースは惨敗…しかも尿検査の抜き打ちをすると言われながら実際は検査なんてなかった。なんだそりゃ!企画倒れやんけ!ガッカリだよ!


 しかしフォーゲルが真のガッカリを体験するのはそのあとだ。2014年12月にドイツのテレビがロシアの陸上選手の間でドーピングが蔓延していると告発、世界アンチドーピング機構(WADA)の調査でロシアが国家ぐるみでドーピングを行っていると報告。その中心人物は誰あろうグリゴリーだった。
 すっかり友達関係になっていたグリゴリーの正体に驚くフォーゲル。国家ぐるみのドーピングをやらせたというスポーツ相のヴィタリー・ムトコやプーチン大統領は報道を否定。しかしグリゴリーは所長の座を追われ、検査機関は閉鎖へ。
 するとグリゴリーはおびえた表情で「命の危険が迫っている」と亡命を希望。フォーゲルはなんとか彼をアメリカへ逃亡させる。数日後、ロシアの反ドーピング機関トップのニキータ・カマエフが「心臓発作」で死亡したというニュースが。彼は昔からの友人で親友だった、心臓が悪いなんて聞いたこともないというグリゴリー。「彼は本を書こうとしていた。ロシアで本を書くのは命取りだ」カマエフは国家ぐるみのドーピングを告発しようとしたのか?
 グリゴリーはカメラの前で告白する。ロシアが国家ぐるみでドーピングを推奨していたこと、北京五輪(2008)、ロンドン(2012)で獲得した多くのメダルはドーピングの結果だったこと、その中心人物として関わったこと、プーチン大統領がそれを知っていたこと…

 『イカロス』は監督が当初想定していた方向とはまったく違う路線に舵を切る。自ら挑戦した人体実験ドキュメンタリーのはずが、国家規模の陰謀を暴く壮大な話になっていくのだから。


※ここからネタバレに関することが書いてありますのでまだ見ていない人は鑑賞後に読むことをオススメします!






 冬季五輪のソチ(2014)でロシアは過去最大の33枚(うち金メダル13枚)のメダルを獲得したが、グリゴリーによるドーピング検査をパスする方法の内幕は「そんな簡単なことでいいの?」と開いた口が塞がらない。WADAはドーピング検査のために二種類のボトルを用意する。このボトルはスイスの会社がつくった特殊なボトルで、WADAのラボが所有するボトルのキャップを破壊して開ける機械でないと開けられない。グリゴリーは副スポーツ相だったユーリ・ナゴルニフの厳命で「ボトルを開ける方法を見つけろ」と言われ、元KGB職員にボトルを渡すと30分で開けてしまった!ロシアは尿検査が行われるWADAのラボの隣の建物に元KGBを待機させ、夜中にラボに忍び込んでボトルを盗むと中身を入れ替えラボに戻すという手段で汚れた尿を綺麗な尿に変えたという。
 国家ぐるみでこんなこんなことやってたのかと思うとアホらしくなってくるし、それを言われるまで見つけられないWADAもアホらしいが、勇気ある告発をしたグリゴリーはロシア政府から敵視され、グリゴリーがアメリカから密かにロシア国内にいる妹と交わした通話は盗聴されて、テレビで流された!スノーデンも真っ青の国家の陰謀に背筋が凍る思い。まさに…おそロシア!!

 WADAはグリゴリーがひそかに国から持ち出したハードディスクの資料から彼の告発は真実であり、ロシアは国家ぐるみでドーピングをしていると、開催が迫るリオ五輪(2016)にロシアを出場させないよう勧告。しかしIOC(国際オリンピック委員会)は最終的に271人の選手の出場を認めた。一体、フォーゲルとグリゴリーの勇気ある告発はなんだったのか?


 ギリシア神話のイカロスは蝋で固めた鳥の羽根をつけて太陽にも届くと舞い上がったが、焼け落ちて死んでしまった。二人の戦いはただの無謀だったの?オリンピックの理念って何!?


  


Posted by 縛りやトーマス at 00:52Comments(0)ネットフリックス

2018年02月19日

目指せ10億点『ゲーマーVSニブラー:最高得点を狙え』

 小学生の頃、近所のスーパーでやってたファミコンのゲーム大会に出たことがある。ゲームはナムコ(現バンナム)の『スカイキッド』。横スクロールのシューティングゲームで、レシプロ機を操作して宙返りで攻撃を避けることもできるゲームで爆弾で戦艦などを爆破、基地まで帰還するのが目的。アーケード版もあって何度か遊んだことがあったので他の参加者が失敗する中、僕は余裕で戦艦を破壊して決勝まで進んだが、明らかにやりこんでる高校生に優勝をさらわれてしまった。優勝賞品は当時発売されて半年ぐらいのディスクシステムだったので悔しくてしょうがなかった。準優勝の商品は『パックランド』のペンケース他ナムコグッズ。しばらくの間「スカイキッドで準優勝したやつ」ということで騒がれたことはいい思い出だ。ゲーム大会で勝つこと、というのは当時のガキの間でステータスだった。




 ネットフリックスで配信されているドキュメント映画『ゲーマーVSニブラー:最高得点を狙え』(原題『MAN VS SNAKE』)を観た。ゲーム大会で優勝した男のその後を追うドキュメントだ。
 『ニブラー』という蛇を操作して画面上のドットを食べつくすと次の面に進むゲームで、他のゲームと違ってなんと10億点まで表示できるところがポイント。100万点じゃない、10億点!
 アイオワの田舎町オタムアにあるゲームセンターでとある少年が『ニブラー』のハイスコアをたたき出しているのを見た16歳のティム・マクベイは「こんなの、僕だってできるさ」と挑戦、あっという間に前人未到の9億点をたたき出してもはや10億は目前。ゲームセンターの店長は「もう少しで記録達成だ!」と大喜びでテレビ局を呼び出し、10億点達成の瞬間は地元のテレビ局で放送。ティムの偉業は田舎町を駆け巡り、「ティム・マクベイの日」まで制定される騒ぎに。そのゲームセンターは後にゲームのハイスコアを管理・表彰するツイン・ギャラクシーだった。
 映画は40歳ですっかりデブになって地元の工場で退屈な作業の繰り返しに飽き飽きする元天才ゲーマーを映し出す。誇れるものは「かつてニブラーの世界チャンピオン」という過去だけ!PS4やXboxの時代に!

 しかもその世界チャンピオンという過去すら虚栄だったかもしれないのだ。なんと25年も経ってから、実はティムが記録達成した約一年後にその記録はあっさり塗り替えられていたことが判明する。イタリアのゲームキッズ、エンリコ・ザネッティが10億100万点のスコアを出していた!
 詳細が確認できないとツイン・ギャラクシーはエンリコのハイスコアを認めていないが、事実を知ったティムはニブラーの筐体を買って25年ぶりのハイスコア更新を目指す。さらにティムのライバルとしてドウェイン・リチャードという男が現れる。ドレッドヘアをなびかせながら自信満々に「俺がナンバーワンだ。ガタガタいうな!」という見るからに問題児な彼だが、張り合うライバルを見つけたティムはゲーム大会で激突する。そのためには特訓だとデブった肉体を絞り上げるべくBMXで街を走り回り、ロッキーのごとく階段(短いけど)を上り下り。BGMはもちろん『アイ・オブ・ザ・タイガー』(笑)

 単なるゲームのハイスコア争いというなかれ。『ニブラー』で10億点出そうと思ったら丸二日は連続プレイしないといけない。寝てる暇なんかない。トイレもメシもプレイ中にしないといけない。たっぷり自機を増やして時間切れでやられてる間にトイレとメシを済ませるのだ。あとはひたすら眠くなって集中力が切れてくる。腕も痛いし目も痛い。何時間やっても平気だった16歳の時とは違う。今はウォーターベッドで寝ないと体の疲れも取れない中年のオッサンなのだ。ついにティムはギブアップ。

 すでにゲームは卒業して、キックボクシングにハマっているというエンリコはシェイプアップされた肉体を誇らしげに見せる。40代にしてはイイ体してる。ハイスコアラーだった過去は「美しい思い出」になっている彼と比べるとティムの現在は失礼な言い方かもしれないが「落伍者」「負け犬」って感じ。ついに公式にティムを上回るスコアを出すプレイヤーが現れて文字通り二番手になってしまう。チャンピオンだった栄光の過去にすら縋れずに屈辱の二番手に甘んじるしかないのか?俺の人生どうしてこうなった?

「僕のニブラー魂に火が付いたよ」

 ライバルがいると燃える男ティムは再び立ち上がる。彼は世界チャンピオンの座を取り戻すことができるのか!?

 映画を見ていると昔のゲームのハイスコア争いは普通のスポーツよりもストイックだ。最近の格闘ゲームみたいに直接争うわけじゃない。ひたすら自分のスコアを高めていくだけで切れていく集中力を途切れさせないようにモンスターエナジーをがぶ飲みしてプレーヤーは画面を凝視する。ハイスコアは己との闘いなのだ。乗り越えるのは相手ではなく自分だ。

 16歳で記録を出した時のティムは「誰の挑戦でも受ける」「すぐに抜き返してやる」と言い放っていた。だが挑戦者に巡り合わないままの25年間、目的を見失ったティムは人生も完全にどん詰まり。しかし目的とライバルを見出した彼は青春を取り戻したように輝き始める。何度挫折しても立ち上がるのだ。勝つためじゃない、自分自身に挑むために。ほとんどロッキーのように。

 負けても恨み言を言わずに相手の記録は素直に褒めたたえるティムたちゲーマーのスポーツマンシップは他のどんなスポーツよりも清々しい。でも、テレビのニュース番組のキャスターからは「馬鹿な奴らの大会だろ?」って言われるんだけどね。ホントにマスコミの連中というのは…

  


Posted by 縛りやトーマス at 03:49Comments(0)ゲームネットフリックス