2017年06月20日

金塊を選べ『ゴールド 金塊の行方』



 1980年代末、父親から受け継いだ金鉱採掘会社を倒産寸前にまで追い詰められていたケニー(マシュー・マコノヒー)は最後の賭けとしてインドネシアの金脈に目をつける。地質学者のマイケル(エドガー・ラミレス)を相棒に全財産を金脈探しにつぎ込む。しかし一向に金脈は見つからず、現地で雇った人間が次々去っていき、ケニーはマラリアにかかってしまう。
 高熱にうなされるケニーは枕元のマイケルに「俺が死んだら残りの金は金脈探しにつぎ込んでくれ」と言い残す。奇跡的にケニーは回復、目覚めたケニーにマイケルは金脈を見つけたことを告げる。
 破産寸前から大逆転となったケニーとマイケルの会社は未曾有の成功を収め、ウォール街で一躍時の人となるケニー。しかしそんなケニーの会社を食い物にしようとする輩が周囲を蠢いていた。「金脈の権利を売れ」と好条件を持ちかけるもケニーは相手にしない。「俺が汗と泥にまみれて地面を掘っていた時にてめえらは何してやがった?この高そうなスーツを汚したことあるのか?俺が欲しいのは金じゃねえ!」と数十年遊んで暮らせる金を蹴っ飛ばす。その報復として彼らはインドネシア政府にはたらきかけ、スハルト大統領と軍隊はケニーの金脈を強引に奪い取る。しかし不屈の男ケニーはさらなる大逆転を画策、見事に金脈を取り返す。再び脚光を浴び、鉱山発掘業界から表彰されるケニー。それは彼の父親が望んでやまないものであった。
 そんな絶頂の瞬間からケニーは突き落とされる。インドネシアの金脈からはまったく金塊が出ていなかったというのだ…


 実際にあった詐欺事件・Bre-X事件を元に金脈探しに生涯の夢をかけた男の壮大なロマンを描く。せこい金儲けしか頭にない金融街の高級スーツ野郎どもをケニーが鼻で笑い飛ばす様は痛快。『ダラス・バイヤーズ・クラブ』でげっそり痩せていたマシュー・マコノヒーが中年太りでハゲの役に挑み、ロバート・デ・ニーロばりの変貌で観客どころか物語すら煙に巻いてしまう。
 クライマックスの展開には思わず開いた口が塞がらない。本当にあった話にしても衝撃的すぎる。これ、物語の展開が『トレインスポッティング』に似てるんだよ。主人公のナレーションから始まるし、ニュー・オーダーの『テンプテーション』が挿入歌だし、主題歌はイギー・ポップ。人生を、金塊を選べ!


  


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2017年06月14日

乗り越えるにはつらすぎる『マンチェスター・バイ・ザ・シー』



 第89回アカデミー賞の主演男優賞(ケイシー・アフレック)と脚本賞(ケネス・ロナーガン)を受賞した作品。『ラ・ラ・ランド』でも『ムーンライト』でもなく『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が主演男優と脚本を受賞してるという辺りがこの映画の真価といえる。


 ボストンで便利屋を営むリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)は腕は確かだが、寡黙で喧嘩っ早く、バーでガンをつけたのどうだので暴れるような人間なので周囲に友人が一人もいない。ある日、リーの元に兄のジョー(カイル・チャンドラー)が発作で倒れたと連絡がくる。急いで故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シー(マサチューセッツにある港町で、街の名前がタイトルになっている。撮影も実際のマンチェスター・バイ・ザ・シーで行われた)に戻ったリーだが、一足遅く兄は亡くなっていた。
 兄には16歳のパトリック(ルーカス・ヘッジス)という息子がおり、パトリックの将来をどうするか話し合いが行われる。兄の残した遺言にはリーを後見人にすると書かれていた。ジョーの弁護士は早速リーの引越手続きをしようとするが、リーは頑なにそれを拒む。リーには故郷の街にどうしても戻れない理由があった…

 この映画、ネタバレが恐ろしくこれ以上のことが何も話せない!紹介する人たちがものすごく苦労していたよ。「リーはなぜ故郷の街を離れたのか、なぜ帰ってくることが出来ないのか」がテーマなのだがそれが言えない。リーは過去にある事件を起こして、自ら命を絶とうとするほど悔やむものの、周囲の人間は彼を責めない。「君は悪くない」「あれは避けようのない事故だったんだ」と言われれば言われるほどリーは追い詰められて故郷には居られなくなってしまう。

 映画の中では過去に幸せな暮らしを送っているリーと、現代の過去を悔やみ続けているリーとが交互に映し出される。過去と現代のリーはほとんど別人のような顔をしていて、ケイシー・アフレックが主演男優賞を取るのも頷ける。今まで兄貴のベン・アフレックのおこぼれで仕事をしているぐらいしか記憶になく、「ベン・アフレックの弟」という仕事をしている人なんだと思ってたけど、こんな演技ができるんだなと呆気に取られた。
 一人の男がつらい過去を乗り越えることができるかという問にリーの「乗り越えるには、つらすぎる」という返答が見終わった後も引きずるように心の奥に残る。安易な癒やしを与えようとしなかったケネス・ロナーガンの英断よ!

  


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2017年06月11日

今が愚行

 未成年への淫行疑惑で無期限休養となった小出恵介。今までの爽やかなイメージも一瞬で吹っ飛び、「前からあんなやつだった」などという関係者(誰だよ)の意見も聞かれ、あっという間に手のひら返されちゃってまあ大変。放送予定のドラマも飛んでしまい、その影響で出演した映画も上映中止に、しかし…


小出恵介出演映画「愚行録」上映中止 代替上映作決まらず困惑の劇場も
https://news.goo.ne.jp/article/dailysports/entertainment/20170609077.html


 『愚行録』って2月に上映してた映画で、今は地方での上映が始まってるんだけど、そんなものまで上映中止扱いになるのか…相変わらずの過剰反応。
 この映画での小出恵介は出世のために他人を利用して、女もやり捨てしてなんとも思わないという最低の男を演じてましたが、やった女へのタクシー代をケチるというこすっからい本性が暴かれた今、色んな味わいがあって面白く見られる映画なんですけどねー。
 上映中止反対!被害者女性はこの映画を見ておくべきだった!

 あと小出恵介が出演して、橋本環奈ちゃんが主演した『ハルチカ』のソフトがもうすぐ出ますけど、延期だけはご勘弁。


  


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2017年06月07日

パワーレンジャーに続きます『プロジェクト・アルマナック』



 MIT入学を狙う貧乏学生のデヴィット(ジョニー・ウェストン)は見事入学を決めるが、奨学金が満額出なかったために自宅を売却しなければならなくなる。なんとか奨学金を得ようとするデヴィットは亡父の地下室から設計図を見つける。電力会社に勤めていた父が残したものは、時間転移装置、タイムマシンの設計図だった…


 『プロジェクト・アルマナック』はデヴィットら5人の学生が作ったタイムマシンを最初は他愛もない目的のために使うのだが、バタフライ・エフェクトによって未来が少しずつ変えられてしまい、とんでもない事態を引き起こしてしまうという内容だ。映像は彼らが撮影したビデオというファウンド・フッテージ方式で、あらゆる意味で『クロニクル』(12)に似ている。本作は当初『ウェルカム・トゥ・イエスタディ』というタイトルで作られていたが、製作・配給したプラチナム・デューンズ(マイケル・ベイらが中心となって設立したホラー専門の映画会社)が出来の良さにタイトルを変更してそこそこの規模で公開するに至ったというもの。『クロニクル』の大ヒットが影響を及ぼしたのは間違いない。


 デヴィットと彼の同級生クイン(サム・ラーナー)、アダム(アレン・エヴァンジェリスタ)、デヴィットの妹クリス(ヴァージニア・ガードナー)はタイムマシンを作り上げるが実験はなかなか成功しない。しかし父の残したビデオカメラには10年前、7歳のデヴィットの誕生会の映像があり、そこに17歳の自分が写っていることを見たデヴィットはタイムマシンの完成を信じる。デヴィットが片思いするジェシー(ソフィア・ブラック=デリア)の自動車のバッテリーを借用して見事実験は成功。実験中に飛び込んできたジェシーを仲間に加えて彼らはタイムマシンでテストのカンニングをしたり、嫌味な同級生に仕返ししたりと他愛もない遊びに夢中になる。
 5人の約束事として実験は必ず5人でするという誓いを決める。タイムマシンを使って宝くじを当てたりして行動が次第にエスカレートするデヴィットたち。なぜか当選賞金が少額だったり、仕事を探していたはずのデヴィットの母親がすでに働いていたりと少しずつ状況が変化していることに気づかない(気付こうとしない)まま、デヴィットは夏フェスの会場にみんなを連れて行くためにタイムスリップ。
 ネットオークションですでに終了したフェスのバックステージパスを安価で入手するなどの万全の仕込みでフェスに挑むデヴィットはこれ以上ない、最高の告白のチャンスを手に入れたのに異性に告白したことがないため、ジェシーへの告白を失敗してしまう!他人事とは思えません!
 現在へ戻ってきてもジェシーとは気まずいまま。俺なにやってんだ…と悔やんでも悔やみきれないデヴィットはルールを破って一人で夏フェス会場に再度タイムスリップ。今度はバッチリ告白を決めて戻ってくる。するとタオル一枚の格好のジェシーが目の前に(展開早すぎ!)。タイムマシン最高!

 しかし、この事がきっかけでデヴィットの周囲では知り合いが事故死するといった悲劇が起こってしまう。デヴィットはそれらを修正するためにまたひとりでタイムスリップをするが、ひとつの悲劇を消すとまた別の悲劇が…と堂々巡りに。ついには最愛のジェシーすら失ってしまう!

 この後はタイムスリップものの王道のオチを迎えることに。それにしても理系少年(ナードってやつだな)たちの冴えなさときたら。デヴィットがどう見たって告白を待っているジェシーの態度に気づかないって「なにやってんだよ!」と声が出た!MITよりも女の子と付き合いたかったよ…という童貞少年の心の叫びに共感せずにはいられません。世界の破滅とか人の死を救うとかよりもそっちの方が大事だもんな…

 長編デビュー一作目とは思えない手堅い仕事をバッチリ決めたディーン・イズラライト監督はヨハネスブルグ出身の32歳という俊英で、この次が『パワーレンジャー』(17)という大出世。本作を見る限り、期待できるな。今度は女の子よりも世界の破滅を救う方を選んだイズラライト監督の明日はどっちだ。

  


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2017年06月02日

86歳の監督による死体ギャグ『家族はつらいよ2』



 2016年に公開された『家族はつらいよ』の続編。『家族はつらいよ』は2013年にリメイクされた『東京家族』とまったく同じキャストで撮られており、最近同じ役者とばかり仕事をしている山田洋次監督、新しい人材と仕事をするのが面倒になったのかと思いきや、85歳にしてもっともタブーな笑いにチャレンジ!

 前回で熟年離婚の危機を家族の結束で脱した平田家には新たな問題が起ころうとしていた。父親の周蔵(橋爪功)の運転する車が傷だらけになっているのを見た長男夫婦、幸之助(西村雅彦)と史枝(夏川結衣)は周蔵から運転免許を返納させようとするが、頑固な周蔵が素直に言うことを聞くはずもないので、長女・成子(中嶋朋子)に頼むが、成子も説得を嫌がって次男・庄太(妻夫木聡)の彼女・憲子を周蔵が気に入っているので押し付けようとする。このなすりつけ合いを悟った周蔵は態度を頑なにした上に新車を買おうと言い出すのだった。
 相変わらず頑固な周蔵に頭を悩ませる平田家の面々。そんな家族の苦悩を知らない周蔵は行きつけの小料理屋の女将・かよ(相変わらず小料理屋の女将が似合う風吹ジュン)を誘ってドライブに行った途端ダンプカーに追突してしまう。言わんこっちゃない…
 その際、周蔵は偶然に高校時代の友人・沼田(小林稔侍)と再会する。呉服屋の跡取り息子だった沼田が今は工事現場の警備員をしているのを見て何があったのかと緊急の同窓会を開く。呉服屋は倒産、学年のマドンナだった女生徒と結婚するも破綻、子供とは合わせてももらえない…という現状を聞いた周蔵はかよの店だけでは飽き足らず、自宅にまで連れ帰って朝まで飲もうと言い出す。翌日の平田家には「運転免許を返納させるための家族会」のため全員が集まってくるのだが、庄太がベッドでつめたくなっている沼田を発見、二日酔いの周蔵には何がなんだかわからない…


 このあと突然死した沼田をネタにした凶悪なギャグが釣瓶撃ちに。取調にした警察に平田家全員に殺害容疑がかけられたり、死体を二階から下ろそうとして転がしてしまい、うな重の出前に来た兄ちゃん(徳永ゆうき)がそれを見てびっくり、家から「死体だー!」と飛び出すのを見てご近所が大騒ぎになったり、葬儀の場では遺体に三角頭巾をかけるよう渡された西村雅彦が焦って自分の頭に頭巾を巻いたり(こんなベタなギャグで笑わせられるとは…)、棺に蓋をするため釘を打とうとするけど上手くいかなくて何度も繰り返したり、故人の好きなものを中に入れようとして…ここの部分は言葉に出来ない(笑)
 ドリフ大爆笑の往年のギャグ、仏さんの好きなものを入れようといってそばやところてん、カレーをぶちまける「人とのお別れ」を彷彿とさせる「死体ギャグ」に腹が捩れる。




 85歳にしてついに死体ギャグに挑む山田洋次。ドリフ亡き今、死体や人の死をギャグにできるのは山田洋次と、『龍三と七人の子分たち』で中尾彬の死体で遊んでいた北野武ぐらいだ。山田洋次にこんなことされたら誰も勝てないじゃないですか。そういえば前前作『母と暮せば』で吉永小百合が天に召される場面は今思えば完全にギャグだった。あの時からネタを試していたのか。山田洋次恐るべし。

  


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2017年05月27日

迫る世代交代『イップ・マン 継承』



 中国の武術家イップ・マンをドニー・イェンが演じたシリーズの第3弾。イップ・マンといえばブルース・リーの師匠であったことで知られている。前作『イップ・マン 葉問』では子供すぎて入門を断られてしまうリーが凛々しく成長してイップ・マンの道場に現れる。演じるのは『少林サッカー』でブルース・リーそっくりのゴールキーパーをやっていたチャン・クォックワン。鼻の下をこする仕草など相変わらずの完璧なブルース・リーっぷり。
 イップ・マンは道場生や街の人々にも「師匠」と呼ばれ慕われているが自らの修業や道場生への指導に夢中で家族との暮らしがおろそかになっていて、妻のウィンシン(リン・ホン)の不満や体調の変化に気づかない。
 そんなある日、息子が通う小学校がアメリカ人の不動産王・フランクの地上げに遭う。演じるのはヘビー級チャンピオンのマイク・タイソン!手下のチンピラ、マー(パトリック・タム)たちを使って嫌がらせを始めるのだが、居合わせたイップ・マンとその弟子ら、そしてイップ・マンと同じ詠春拳の同門、チョン・ティンチ(マックス・チャン)によって撃退される。チョンは腕は立つが車夫をしながら、時にはマーが開く闇試合に出場して息子を学校にやる金と道場開設の資金を貯めている、すでに多くの人間に慕われているイップ・マンとは天地の違いだ。
 地上げが上手くいかないマーはチョンを買収してこちらの味方につけようとする。しかしマーがイップ・マンの息子やチョンの息子を拉致したことで手を切ることに。ウィンシンは病魔により余命わずかだとイップ・マンに告げる。残された時間を妻とともに過ごそうとするが、フランクの手下が二人を襲う。ウィンシンや息子との平穏な暮らしを守るため、イップ・マンはフランクのオフィスへ乗り込む。
 チョンは無事道場を開くのだが、周囲の支持が得られないことから他流派の師匠に一騎打ちを挑むことで名を挙げる。そして「詠春拳の正統派」をかけたイップ・マンとの直接対決が始まる。


 愛妻との切ない別れがテーマになっており、武術家でありながら穏やかな表情を浮かべるドニーが自分より身長の高いリン・ホン(10センチは違う)とダンスを踊ったりするシーンは別種の映画のようで面食らう。道場やチンピラとの争いでは無類の強さを誇るイップ・マンが奥さんには弱みを見せてしまうのも微笑ましい。
 宣伝時に「ドニーVSタイソン」と大きく扱われていた最強二大スターの対決だが、作品内ではそれほど大きな比重ではなく、ボクサーらしく3分間立っていられたらお前の勝ちだというタイソンとやりあった結果イーブンの決着となる。かつて『死亡遊戯』で韓国の合気道家チー・ハンツァイと決着を巡って大揉めしたブルース・リーと違ってタイソンに気を遣ったというところか。下手すると虎を送り込まれるかもしれないしな!

 邦題の「継承」とは予定されている続編で弟子のブルース・リーに詠春拳を継承することを示唆している(冒頭で弟子入り志願するもすげなく追い返されるも、後にあれは弟子入りを認めるという意味だと言われるが、扉を開いて「お帰りください」みたいな仕草をするので、あれをOKの意味に取るのは無理があるよ!)のだが、クライマックスの対決に敗れるチョン役のマックス・チャンに次代のカンフースターを継承するという意味も含まれている。ドニーもすでに53歳でかつてのギラギラ感も薄まり、内容的なものもあるけど、本作では前述したように終始おだやかな顔をしていているのが特徴的。

 香港アクション映画スターは高齢化が進み、日本のレンタル屋からも香港映画コーナーが少なくなりつつ(韓国映画、ドラマコーナーはフロアを占領する勢いであるのに)ある。どこの世界でも世代交代が問題になっているのな。レンタル屋の世代交代だけは行われなくてもいいですよ。


  


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2017年05月19日

暁照夫の三味線ばりのなんでこんなにうまいんやろうか演技『スプリット』



 最近は大コケ映画ばかり撮ってたが前作『ヴィジット』をヒットさせ復活の狼煙を上げたM・ナイト・シャマラン監督の新作。
 退屈そうな顔をしてる女子高生ケイシー(アニャ・テイラー=ジョイ)はクレアの誕生日会に招かれ、その帰りにクレアとその友人マルシアとともに謎の男に拉致される。何処とも知れぬ部屋で目覚めた3人。自分たちを監禁した男、ケヴィン(ジェームズ・マカヴォイ)の隙をついて逃げ出そうとクレア、マルシアは相談を始めるがケイシーだけは「様子を見た方がいい」と冷静になるよう呼びかける。ケヴィンが外出先から帰ってくると、連れの女の声が聞こえてくる。クレアたちが助けを求めると監禁部屋の扉が空き、カーデガンを来てネックレスを首に飾ったさっきの男が姿を見せた!ケヴィンの正体は24人の人格を持つ多重人格者だったのだ…

 スキンヘッドにカーデガン、女声でしゃべりかけてくるパトリシアという人格になりきったマカヴォイの雑な女装を見た瞬間思ったね。「この映画、笑わせに来てる」と…!劇中では23人+“ビースト”と呼ばれる最後の人格、合わせて24人格というビリー・ミリガン状態を演じるマカヴォイ(実際は5人しか出てこないので24人はそもそも盛り過ぎだろう)。役者というものは多重人格者とか振り幅の大きい役を演じたがるものだろうか、神経質そうな男に温厚な若者、女に9歳の少年といった役を代わる代わる器用に演じていくマカヴォイを見る度に「どや!上手いやろう」と言われてるよう。まるで暁照夫の三味線ではないか。「なんでこんなにうまいんやろうかわたし~」
 こんな感じなのでショッキングなスリラー映画のはずがどうしても笑いが起きてしまう。マカヴォイが一生懸命になんでこんなに上手いんやろか演技をするほど笑えてくる!あまりに怖すぎて笑いが起きてしまうというのではなく、意図的に笑わせようとしてるな、これ。だって地下鉄でのビースト誕生シーン、完全にギャグだよ

 笑撃的な映画ではあるが、ラストでは本当に衝撃的な展開が待っていて、ここだけは本気で驚いた。そういうことだったのね!と納得のオチ。詳しくは書けないがシャマランの過去作に関係しているとだけはいっておく。


  


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2017年05月17日

鷲は舞い降りた『イーグル・ジャンプ』



 イギリス史上初のスキージャンプオリンピック代表選手となったエディ・エドワーズの「実話に基づく物語」、『イーグル・ジャンプ』を観た。

 エディは幼少の頃から足を悪くしてギブスで固定しなければ歩くこともできない。外に気軽に出ていくことができない息子のために両親は本を買い与えた。そのうちの一冊、五輪大会での選手の活躍を記録した写真集『栄光の瞬間』を観たエディは五輪選手に憧れるようになる。
 大人になったエディ(タロン・エガートン)はノルディックスキーの選手として代表候補になるが、「素人並み」の成績でギリギリの位置にいる上に近眼というハンデを背負っているエディを嫌ってBOA(イギリスオリンピック委員会)の委員長ターゲット(ティム・マッキナリー)は彼を代表候補から外してしまう。
 「とっとと諦めて俺の仕事を手伝え」という左官工の父親にどやされるも五輪への夢を諦めきれないエディはテレビでたまたま観たスキージャンプ競技に目を奪われる。BOAに問い合わせると「イギリスにスキージャンプの選手はいない」と。なら競技を始めた瞬間に代表になれるぞ!エディは父親の車を拝借して強化合宿の行われるドイツへ旅立つ。

 この時点でエディはジャンプ台から飛んだこともないという、まさにド素人。「俺たちは6歳の頃から飛んでいるんだ」という優勝候補のノルウェーチームからはバカにされてしまう。エディは周囲の冷たい視線にもめげず練習を始める。一番小さい15メートルのジャンプ台を一発クリアしたエディは40メートルに挑むが着地すらできない。そこに現れたのはスキー場の整備係の男、ブロンソン・ピアリーだった。元アメリカの代表選手だったピアリーの指導のもと、エディは五輪出場を目指す。

 『X-MEN』シリーズのウルヴァリン役でお馴染みのヒュー・ジャックマンが演じるピアリーは実際にエディを指導したチャック・ベルホーンを元にしたキャラクターだ。ベルホーンはレイクプラシッドのスキーコーチだが、この映画では「元五輪代表選手」という設定。実力はありながら酒と女にだらしなく、コーチのシャープ(クリストファー・ウォーケン)によって代表資格を剥奪され、スキージャンプ界を追われたピアリーはエディのコーチとして再起を図ろうとする。話の筋立ては日本でもヒットしたジャマイカのボブスレーチームが五輪出場を目指す『クール・ランニング』とほぼ同じ。しかも『イーグル・ジャンプ』で描かれるのは『クール・ランニング』と同じ88年カルガリー冬季五輪なのだ。
 ピアリーが素人のエディに「スキージャンプってのは男女のベッドのように人生最高の瞬間を思い浮かべろ!」と指導するのがおかしい。また女たらしのイメージが似合う(褒め言葉)ヒュー・ジャックマンがやっているのがより似合うではないか。エディが「好きな女優はボー・デレクだ」というと「ボー・デレクとの最高の瞬間を思い浮かべろ!」ボー・デレクはモデル出身の女優で『類人猿ターザン』でゴールデンラズベリー賞を受賞した後は同賞をトータル三度も獲得した「80年代を代表する最低女優」なんだけど、モデルだけあってルックスは最高だから「最高の瞬間」を思い浮かべるにはピッタリ!

「ボー・デレク!」と叫びながらジャンプするエディはBOAの執拗な横槍をはねのけてカルガリー五輪への出場資格を得る。しかし出場選手中最低の61メートルをやっとの思いで飛んでいるのを見てピアリーは「あと4年じっくりと鍛えれば次の五輪で優勝候補になれる。今出ても笑いものになるだけだ」と出場を止めさせようとする。「優勝するために出るんじゃない。“栄光の瞬間”は今なんだ!」エディは彼と訣別する。

 70メートル級ジャンプに出場したエディは見事着地に成功し、両手を伸ばして翼のようにひらひらさせるポーズを見たマスコミは「イーグル・ジ・エディ」と呼んで持て囃す。最低の記録だというのに浮かれているエディに「お前は笑われているだけなんだぞ」と電話するピアリー。エディは笑われているだけではないことを証明するために飛んだこともない90メートル級への出場を宣言するのだった。

 エディの活躍は「勝つことではなく、参加することに意義がある」とする近代五輪の思想を象徴するもので勝利至上主義と金儲けに陥っているBOAの方針と真っ向から対立するため(「君は素人なみの記録しかない。それじゃスポンサーは納得しない」という委員長に「五輪はアマチュアの大会じゃないのか?」とエディがやり込めるシーンが象徴的)、エディは様々な嫌がらせを受け続ける。何しろエディが帰国し、国民が熱狂的に出迎えてもBOAの委員長は苦虫を噛み潰しているのだから…
 観客や世間の人々から愛されたエディは五輪を勝利至上主義と金儲けの場と捉えているような種類の人々から徹底的に嫌われ、出場資格のハードルを上げて彼を徹底的に五輪から締め出した。カルガリー冬季五輪はエディにとって最初で最後の五輪になった。

 90メートルジャンプに挑む際、エディはエレベーター内でフィンランド代表の金メダル候補“鳥人”ニッカネンから「勝ち負けなんかどうでもいい。俺たちは魂を解き放つために飛ぶ。世界中の前でベストを出せなきゃ俺たちの魂が死ぬ」カルガリーで金メダルを2つ取った男は最低の記録を出したエディとまったく同じ類の人間だったというクライマックスも感動的だ。日本ではヒットが望めないと思われたのかDVDスルーにされてしまった。『X-MEN』のヒュー・ジャックマン出演に、『キック・アス』『キングスマン』のマシュー・ヴォーン製作、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』の四人組のひとりを演じたデクスター・フレッチャー監督だぞ!?ヒットするかどうかわからないとかどうとか、参加することに意義があるんじゃないんですか!?


  


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2017年05月15日

96年のミニシアター

 20年ぶりに続編が公開されて話題の『トレインスポッティング』。20年前の96年という年はいわゆる単館系、ミニシアターブームの始まりだった。ミニシアターのムーブメント自体は88年の『ニュー・シネマ・パラダイス』に始まり、93年公開の『レザボア・ドッグス』、95年公開の『恋する惑星』というヒット作を経て「次のミニシアター系ブームは何か?」という状態であったことを考慮しても96年のミニシアター系映画のラインナップは凄まじかった

 若きレオナルド・ディカプリオが主演した『バスケットボール・ダイアリーズ』はドラッグにハマり、立ち直ろうとしてコーチにケツ犯されるディカプリオの姿に腐女子(当時はそんな言葉なかったから、ホモ好き女子とでもいうべきか)がワーキャー言ってましたな。『タイタニック』以前に目端の利く女子たちはミニシアターでレオ様に夢中になっていたのです。
 ラリー・クラーク、ハーモニー・コリンのコンビ作『KIDS/キッズ』ではニューヨークのストリートキッズたちの乱れた性の様子が(あえて)カッコよく描かれた。処女狩りが趣味のヤリチンに処女を奪われた上にエイズに感染させられた少女ジェニー(演じるは20代前半のクロエ・セヴィニー!)はヤリチンに事情を説明しようとするが、一箇所にとどまらないヤリチンはどこにいるのかわからない。映画のラストでようやく居場所を見つけるもヤッてる最中なので終わるまで待とうとしている間に寝てしまい、寝ている間にヤリチンの相棒君にパンツ下ろされてしまう。目が覚めた後で相棒君がビックリするというオチはまるで笑えなかった!その内容は当時アメリカ中で大騒動を巻き起こしたという。
 『恋する惑星』で一躍その名を知られたウォン・カーウァイの『天使の涙』『楽園の瑕』は日本で同じ96年に封切られたが『楽園の瑕』の理解不能な内容に『天使の涙』のちっとも可憐じゃなかったカレン・モクといい、作品としてはイマイチなものの、カーウァイブームの中、女性客が劇場に溢れかえっていた。

 ミニシアターには若い観客もいるが、年配の固定客も必ず居るもの。『午後の遺言状』(95)上映時にはそのような年配のお客さんが多く駆けつけたという。96年にもそういう人たちに支えられた『イル・ポスティーノ』という作品があり、長らくイタリア映画といえば『ニュー・シネマ・パラダイス』と『イル・ポスティーノ』と言われていたもの(その後『ライフ・イズ・ビューティフル』(97)にとって変わられるけれど)。もう一度見直そうと思って近所のレンタル屋にいったらどこにも『イル・ポスティーノ』が置いてなくて以前はどのレンタル屋にも置いてあったのに、あのブームは遠い昔のことになってしまった。



 一方日本でも北野武の『キッズ・リターン』や岩井俊二の『スワロウテイル』といったその後の日本映画を代表する監督の代表作が生み出されていた。そして『ロスト・チルドレン』『ケロッグ博士』(当時のキネ旬ベスト10で淀川長治先生がベスト1にただひとり選んでいた)といった珍作も。『ケロッグ博士』はコーンフレークのケロッグ社の創始者のひとりであった博士が提唱した独自の健康法を『ミッドナイト・エクスプレス』のアラン・パーカーがブラックに描いたコメディで、当時のみうらじゅんさんがシスコーンからケロッグ派に鞍替えをしたことでもお馴染みの映画。ケロッグ博士役は狂気の博士役を演じさせたら世界一のアンソニー・ホプキンス!DVDがとっくに廃盤なのが惜しまれる。


 みうらじゅんで思い出したけど、この年には水野晴郎先生の『シベリア超特急』も公開されており、同じくミステリー映画としてこの年の話題をさらった『ユージュアル・サスペクツ』に負けず劣らずのふたつのどんでん返しは目端の利く映画ファンの話題を今に至るまでさらいつづけているのだった!
 トレスポとシベ超が同じ年に公開されているってのは奇妙なリンクを感じさせる。日英で同じ鉄道映画(?)が話題になっていたのだから。どちらにも本当の鉄道は出てきませんが…



 こう考えると1996年というのはミニシアター系どころか映画ファンにとっても有意義な時代だった気がします。20年前にレントンのようなボンクラ野郎だった僕はこれらの映画をミニシアターで見ていて、20年経った今でも同じようなボンクラのための映画を追い続けているのです。

  


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2017年05月12日

効率の悪い戦い『グレートウォール』



 黒色火薬を求めてシルクロードを越えてきた英国人の傭兵、ウィリアム(マット・デイモン)とトバール(ペドロ・パスカル)たちは旅の途中、夜営地で謎の怪物に襲われ、その腕を切り落とす。馬賊の追撃を振り切り目的地の万里の長城までたどり着くが長城を警護する禁軍に捕まってしまう。折しも禁軍は60年に一度人間を襲う怪物、饕餮と戦っている最中であった。


 北方部族の襲撃に備えるために作られたとされる万里の長城が実は怪物の襲撃から国を守るためだった!というアホらしい設定の映画なんですが、長城を守る禁軍の戦いはさらにアレな具合。鶴軍という美女だけの部隊がいて、彼女たちが体につないだロープで城壁の上から真っ逆さまに落下、その勢いで怪物の両肩についている目を突いてやっつけ、下までいったところでロープを引っ張ってまた上に戻って新しい武器を手にして落下…というバンジージャンプ部隊。しかし落下の最中は無防備なんであっさり怪物にくわれてしまう。ほとんど死んでしまうので効率悪すぎでしょ!さらに後半では長城が破られて怪物が首都に向かっている、ということになって地面を歩いていっても間に合わないから空を飛んでいこう、と天灯という熱気球を使うが未完成品だったので半数以上が燃えて墜落する(笑)。こんな効率の悪い戦いを繰り広げていて、よく60年前に滅びなかったもんだ。饕餮という怪物は親玉の女王饕餮がいて、こいつを火薬でふっとばすと全滅するという決着で、適当すぎるだろ。なぜか外国人のマット・デイモンが中国を救うというデタラメにも程がある展開には苦笑するしかない。『紅夢』の頃は巨匠扱いだったチャン・イーモウもこの体たらく。
 それでも鶴軍のリン隊長を演じたジン・ティエンの美しさには惚れ惚れする。彼女は同じレジェンダリー・ピクチャーズの『キングコング:髑髏島の巨神』にも出ていたのでひょっとしたらこの作品もモンスター・バースのシリーズに含まれているのかも知れない。いっそ「モンスターバースの一環です」とでも宣伝しておけばもっとヒットしたはずなのに。鶴軍だけのスピンオフをつくるとかアイデアはあっただろうに。効率の悪さは映画の中だけにしときなさい。


  


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2017年05月11日

みんなねこだいすき『キアヌ』



 全米で大人気のスタンダップコメディアンのキーガン=マイケル・キーとジョーダン・ピールのコンビ(スタンダップコメディアンのコンビって珍しいな)による抱腹絶倒の猫コメディ映画。二人は日本じゃまったく知られていないので未公開のDVDスルーにされてしまったが腹抱えて笑える一本です。

 レル(ジョーダン・ピール)は彼女にフラレて以降、生きる気力を失ってる。従兄弟で妻帯者のクラレンス(キーガン=マイケル・キー)はそんなレルを励まそうと彼の家に向かうが、レルは家に迷い込んだ野良猫をかわいがってキアヌと名付け、映画のパロディカレンダーを作ったりするようになるまで回復していた。


何つくってんだw

 ところが、二人で映画を観に行った帰りにキアヌはこつ然と姿を消していた!半狂乱になるレルはとそれをなだめるクラレンス。二人は隣に住むマリファナの売人からキアヌは誘拐されたことを突き止め、街を仕切ってるギャングのアジトであるストリップバーに乗り込むことに。悪の世界とはまったく無縁な映画オタクのレルとクラレンスは黒人なのに「ファック」も口に出来ないような家庭人。そんな二人はなぜか裏の世界で恐れられている殺し屋コンビ、アレンタウン兄弟と間違われてしまうのだった。
 どこをどう見てもとっぽい二人は極悪な殺し屋にはどうしても見えないのだが、「殺し屋の証明」として壁を蹴って一回転するテクニックを見せたり(それができたからって殺し屋ってことにならないだろうに)、クラレンスがカーステレオでジョージ・マイケルの曲を聴いているとチンピラたちから「ナニコレ?」と言われたため、クラレンスはジョージ・マイケルの素晴らしさを熱心に説くことに。

クラレンス「ジョージはワム!ってコンビを組んでたんだが、ダチのアンドリュー・リッジリーと不仲になって彼と分かれた。以降はリッジリーの存在は消えちまったんだ」
チンピラA「消えた…殺っちまったってことか!」
クラレンス「そ、そう…なるかな…」
チンピラB「すげー!」

とバカ会話が繰り広げられる間にコメディ映画にしてはエグすぎるバイオレンスシーンが挿入されるので気が抜けない。
 この映画、いろんな悪が登場するんだけど、なぜか全員猫好き。特に理由もなく!「猫ちゃんかわいいね~おいでおいで~」とか強面の連中が猫なで声出してるの。人は猫を前にするとなぜ幼児化してしまうのか。かわいいんだからしょうがないじゃない!
 タイトルの『キアヌ』ってのはもちろんキアヌ・リーブスのことで制作サイドが一度オファーをしたがエージェントから断られるも予告編を見たキアヌが電話をかけてきて、クラレンスがマリファナでトリップしてる時に聞く猫の声として出演(笑)
 可愛い猫とバイオレンスがサンドイッチされた前代未聞(?)のコメディ、みんなねこだいすき。

  


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2017年05月10日

アイドルとファンの理想的なwin-win関係『堕ちる』



 岐阜県・桐生市で行われている『きりゅう映画祭』にて話題になった短編映画『堕ちる』は無口な織物職人の男が地下アイドルに本気で恋する様子が描かれた映画だ。その後、イベント上映のような形のみで各地を回っていたためなかなか見ることが出来ない作品として知られていたがこの度商業作品として映画館での上映が決定。俺も噂だけは聞いて期待しており、この度ようやく見ることが出来た。


 無口な織物職人の耕平(中村まこと)は仕事以外は何の趣味も興味もない男だが、行きつけの散髪屋の店長から「うちの娘がアイドルやってるんで、よかったら観に行ってくださいよ」とライブチケットを渡される。
 会場のライブハウス(これが文字通りの地下にあって笑える)に訪れた耕平はカウンターでチケットを渡すも「ドリンク代500円です」と言われ「えっ」となる。ライブハウスは飲食店として登録しているから、ドリンク代を取られるのは当たり前なんだけど、そんなこと知らない耕平の戸惑う様子に思わず「あるある」と頷いてしまう。
 そんな耕平は会場でアイドルオタクから「何曲目の時に振ってください!」といきなりサイリウムを渡されたり、「あなた、新規?」と馴れ馴れしく声をかけられたりして戸惑うばかり。ずっと前からいる古参ヲタと新規(初心者)のあるある感にニヤニヤしてしまう。そんな耕平は当然のごとく会場で地蔵(どうしていいのかわからず呆然と立ち尽くす人)と化す耕平はステージに立った散髪屋の娘であるアイドル、めめたんに心を奪われてしまう。

 それからというもの耕平は寝ても覚めてもめめたんのことが頭から離れない。会場で渡されたCD『Wonder land』(ハロプロ初期を匂わせる名曲)を一日中聴きまくり、部屋にはめめたんのポスターを貼りまくり、グッズである黄色一色のめめたんTシャツをアンダーウェア代わりにして仕事をする(!)。傍目には娘であってもおかしくない年齢の少女に夢中になる「どうかしてる」おっさんなのだが、他人事とは思えません!(この作品は他人事とは思えないかどうかで評価が変わります!)
 耕平はメジャーへの道を夢見るめめたんのために「なんとかしてあげたい」と思うようになり、そうだ、俺の織物職人の腕を奮って彼女のステージ衣装を作ろう!と決心する。職場の人間に変な目で見られながら織り上げた衣装をめめたんの生誕イベで披露する瞬間、耕平の人生は絶頂を迎える。そして後は堕ちていくのだった。
 めめたんはメジャーデビューが決まり上京することに。すると散髪屋の店長を通じてステージ衣装が送り返されてくる!追い打ちをかけるように耕平は織物工場をリストラされ、気がつけば何もないただのおっさんになった耕平は激しく慟哭する。


「め゛め゛だぁ~ん…!」


 地下アイドルの現場に集うオタクがほとんど40代以上で彼らが喫茶店に集まって「今後のめめたんをどう推していくか」を語る集い(全員めめたんシャツ)だとか彼らの異常なまでの馴れ馴れしさといった「あるある感」があまりにリアルだし、めめたんを演じている錦織めぐみはLuce Twinkle Wink☆というグループのメンバーで実際の地下アイドル!彼女の本当に何処かにいそうな地下アイドル感(本当にいるんだけど)など、各所のリアルさが妙な生々しさを産んでいてどこを切り取っても他人事とは思えないのだった。
 衝撃的なクライマックスとラストシーンだが、理想的なアイドルとファンのwin-winの関係が描かれていて鑑賞後はスカッとした爽やかさを覚えたね。「理想的なアイドルとファンのwin-winの関係」とは何か?アイドルは夢がかなって、ファンはそれを応援できるっていうのが理想的な関係でしょう。この間やっていたフジテレビの『ザ・ノンフィクション』の『その後の中年純情物語』では売れない地下アイドルの小泉りりあことりあちゃんとそのファンの中年男性、きよちゃんの二年後の顛末が描かれており、りあちゃんは未だに売れない地下アイドルとして模索の日々を送り、きよちゃんは頼まれてもいないのに薄暗い部屋で彼女のためのグッズを作っている(『パーフェクト・ブルー』じゃないんだから)という、どう考えても最悪の展開としか!前回はきよちゃんの純情ぶりに涙したが、今回は堕ちるとこまで堕ちきった感があり、これ以上見ていられない。

 『堕ちる』はたとえ堕ちるとこまで堕ちても幸せそうで夢のようなハッピーエンドであり、多くの「もう、後戻りできない」アイドルファンは涙してほしい。


  


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2017年04月30日

まさかの「リア充じゃない」恋愛モノ『ReLIFE』



 27歳の海崎新太(中川大志)は現在休職中のニート。前職をわずか三ヶ月で辞めてしまった上にそのことを聞かれるとしどろもどろになってしまうため、面接は連戦連敗。友人たちに仕事を続けていると偽って飲み会にいくのも限界。そんな新太の前に現れた男、夜明了(千葉雄大)は「一年間、高校生活をやり直しませんか?」と持ちかける。夜明は社会からドロップアウトした人間を社会復帰させる「リライフ研究所」の職員だった。

 ViViの「国宝級イケメンランキング2016」の一位になった(!)中川大志が27歳のニートに大胆に変身を遂げた(実際は18歳)『ReLIFE』は研究所が独自に開発した薬で10歳若返った中川大志がもう一度高校生活をやり直して社会復帰を目指す物語。海外小説の『リプレイ』みたいに人生やり直しネタはもともと突拍子もないアイデアなんだけど、それを突き詰めるとこうなっちゃうのな。
 新太は17歳に戻って一年間だけ高校3年生を再度体験する。リライフの被験者ということは絶対にバレてはいけない。バレると実験は即中止。「一年間の生活費免除、実験終了後の再就職先を紹介」という美味しい条件はナシになってしまう。でもクラスメイトたちに17歳の新太の記憶は残ってしまうんだけど、どうするの?と思ったら「彼らの記憶から新太さんの部分だけ消しますから」ってどうやって!?都合のいい話だな!

 新太はいっそ誰の記憶にも残らないように…と空気になって一年間をやり過ごそうとするが、初日にクラスメイトの日代千鶴(平祐奈)の席と間違えて座ってしまったり、カバンにタバコを入れたままにしていて担任(夏菜)に説教されるわトラブルまみれの新高校生活。クラスには監視及びアドバイス役として夜明がついてくるが不安だらけ。
 空気として過ごそうとしていた新太だが、他人とまったくコミュニケーションが取れない千鶴の様子を見ていて捨て置けなくなり(もともと世話焼きの性格だったのだ)「もっと自然な笑顔をつくるんだ」とアドバイス。それがきっかけで千鶴と学年トップを争うライバル、狩生(池田エライザ)や狩生への恋心にまったく気づかない大神(高杉真宙)らの相談に乗ったりしているうちに新太には「友達」ができてゆく。そして千鶴がかけがえのない存在になっていくのだが、卒業すれば千鶴の記憶から自分のことは消えてしまうのだから、告白なんて意味がないと怖気づく。でもこの思いは止められない!
 新太は千鶴に告白するのだが、帰ってきた答えは「ごめん無理」だった。こんなセリフ、『一週間フレンズ。』でも聞いたような…なぜ無理なのか?千鶴も人には言えない秘密を抱えていたのだった…ってこんなもん誰でもわかるわ!!(あえて書かないけど)

 新太がニートになった理由は辛すぎるし、千鶴のコミュニケーション障害な理由は同じコミュ障として泣かずにいられない。恋愛モノなのに、話の軸になる主役二人がちっともリア充じゃないという設定はなかなかいいところを突いている。コミュ障にだって恋愛する権利ぐらいあるだろうが!!実際のところは人生一年やり直したぐらいじゃ問題は解決しないと思うけど…少しは夢、見させてくれよぉ!俺も一年、いやせめて3年やり直させてくれれば…うちには護星天使・アラタは来ないのかよ!!

 原作が完結していないため、映画のラストはオリジナル。完成した時はスタッフ一同これ以上ない完璧なオチだと思ったはずだけど、今となってはやっちゃったって感じだよな…公開時期が悪かったね…


  


Posted by 縛りやトーマス at 21:36Comments(0)映画特撮・ヒーロー

2017年04月29日

20年後の悲惨な未来『T2 トレインスポッティング』



 20年前の1996年といえば単館公開映画全盛の年でラインナップをあげるだけでもゾクゾクする。『ユージュアル・サスペクツ』『イル・ポスティーノ』『デッドマン・ウォーキング』『天使の涙』『スワロウテイル』『キッズ・リターン』そして『シベリア超特急』(笑)その中でも『トレインスポッティング』は別格であり、特別であった。当時、職なし金なし彼女もなしのどん底人生(あれ?今とあんまり変わってないな)だった俺はスコットランド・エディンバラで職、金、希望、何もないがドラッグだけはあるというジャンキーたちが「人生を選べ、未来を選べ」と無限の選択肢があるように嘯きヘロインを決めている様子を見て、ドラッグはアネトン咳止めシロップぐらいしか決めたことないくせに、ビョーキ野郎になった気分でいた。そんな映画の20年ぶりの続編は物語も登場人物もそして観客の俺もきっちり20年過ぎていた。

 本作は映画『トレインスポッティング』の続編であり、原作者アーヴィン・ウェルシュの『トレインスポッティング ポルノ』(原作本『トレインスポッティング』の続編)をベースにしている。だがこの本は「原作の続編」ではなく「映画の続編」だ。映画『トレインスポッティング』のラスト、コカインを売って大儲けした金を持ち逃げしたレントン(ユアン・マクレガー)は気のいい友人のスパッド(ユエン・ブレムナー)にだけは分前をコインロッカーに残した。原作では単にスパッドのことを気にかけただけで金は渡さなかったのだが、映画を見てラストの改変を気に入ったウェルシュが映画のオチを公式に採用して書かれたのが『トレインスポッティング ポルノ』だ。『T2 トレインスポッティング』は原作本『~ポルノ』、映画のオチを採用した続編(ややこしい)。

 レントンはオランダ・アムステルダムで持ち逃げした金を元に事業をしていたが、会社は潰れ、妻に追い出され、健康面にも不安が残る。20年ぶりに実家に帰ってくるが母親は他界、老いた父は母親の願いでレントンの部屋をそのままにしておいていた。何も変わっていない部屋でレコードに針を落とす(イギー・ポップの『Lust for Life』!)が変わり果てた自分にぞっとして針を戻す。
 自分が裏切ったかつての友人たちも変わり果てていた。シック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)は叔母から譲り受けたパブの経営者になっていたが、新しい恋人ベロニカ(アンジェラ・ネディヤコバ)をつかって強請りに精を出す日々。スパッドは恋人のゲイル(シャーリー・ヘンダーソン)と結婚し、息子も産まれていたがサマータイムの導入が理解できず(マヌケすぎ!)遅刻つづきで仕事を首に。自暴自棄になった彼はまたドラッグ漬けになって自殺未遂を起こす。アル中の暴れん坊ベグビー(ロバート・カーライル)は殺人の罪で服役中だが、保釈が下りなかったことから脱獄。息子を誘ってコソドロを始めるが大学にいってホテルの経営を学んでいる息子は「オヤジの仕事には興味がもてない」と反発。大学だの、ホテル経営だの、ベグビーには当然理解できない。

 20年前はノーフューチャー!とばかりに好き放題に青春を謳歌し、それでもいくらでも選択肢はある、人生を選べる!といっていた連中を待っていた未来がコレ?金も仕事も女もない、あるのはドラッグとちっぽけな友情だけだった…あまりに悲惨すぎる20年後に涙するしかない。役者もみーんな年取って髪の毛は薄くなって禿げ上がり、少し走るだけで息が上がる。前作の象徴的な万引きの追っ手から逃げる疾走パートはもう再現できない!ドラッグなんて遊び程度にやって、きちんと就職のための勉強をしていたレントンの女友達、ダイアン(ケリー・マクドナルド)が弁護士になってバリバリ働いていて、しょぼくれたレントンに愛想尽かすところとかもう見ていられない。一体どうしてこうなっちまったんだ!俺たちの20年間はなんだったんだ!?
 やがてレントンは怒り狂うベグビーと再会する。20年ぶりのツケを精算しなくてはならないから。クライマックスもやはり原作とは違う結末が待っている。

 20年後に、同じ役者とスタッフで続編がつくられた意味のある内容だ。最近は80年代の映画ですらノスタルジーだといってリブートされる時代だが、大抵は単なるビジネス以上の理由がなかったりする。『T2 トレインスポッティング』は他のどの映画とも違う、20年後だからこそつくられた意味のある続編だ。俺たちは20年後の今も人生を、未来を選ぶ。どんなに悲惨でも。


これがラストにかかって一作目とつながってエンドロール

  


Posted by 縛りやトーマス at 22:36Comments(0)映画

2017年04月26日

コレジャナイ『ゴースト・イン・ザ・シェル』



 ネットに脳から直接アクセスする「電脳化」そして「義体化」と呼ばれるサイボーグ技術の発達により高度な進化を遂げた近未来。人間と機械の境目が曖昧になった時代では「果たして自分は人間なのか?機械に『お前は人間だ』という夢を見させられているだけではないのか?」という問題が起こった。人は機械と区別するために自我や意識を指す「ゴースト」という概念を用いるようになった。
 士郎正宗の原作漫画を劇場用アニメにした『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』は日本での興行成績はイマイチだったが、アメリカのビルボード週間売り上げで一位を記録したことなどでカッコイイ日本のアニメ、「ジャパニメーション」という言葉が広く知られるきっかけにもなった。

 現実と夢の境目が曖昧になるテーマに取り憑かれている押井守はさすが原作のテーマを理解していたが、今回製作されたハリウッド実写版では押井守による劇場アニメ版の「人形使い」といったキャラクターやテーマは大衆には難しすぎると判断したのか、主人公の少佐(スカーレット・ヨハンソン)が所属する公安9課は単にサイバーテロ犯罪と戦う正義の部隊のような表現をされてしまっている(実際は表に出すことができない汚れ仕事を請け負う組織)。
 少佐は過去に事故にあって両親を亡くし、全身義体化することで生き延びたという設定にされ、原作や押井のアニメではその正体は定かではない(神山健治による連続アニメ版では過去が語られる)のだが、ハリウッド版では安っぽい正体や過去が設定され、興ざめ。
 『ブレードランナー』を背伸びさせたような未来都市のビジュアルはちっとも魅力的でなく、公安9課の課長・荒巻にキャスティングされたビートたけしは全員が英語を話している中、堂々と日本語を話す。スタッフは「電脳化の発達によって違う言語でも瞬時に脳内で変換される」といった苦しい言い訳をしている。『攻殻機動隊』の下敷きになった『ブレードランナー』では人種、言語の違う人間が混在しており、シティ・スピークといった独自の言語も登場していたことに比べても進化どころか退化してるじゃないか。
 ビートたけしは日本のマンガ、アニメ作品が実写化された際「実写版というのは必ず、コミックやアニメに負けてファンから『こうじゃない』と文句を言われるのが定説」として本作を「初めて成功した実写化」と胸を張るが、この『ゴースト・イン・ザ・シェル』が明らかに定説ですよ!いつものわけのわからない日本描写もあるしね。墓石にでっかく『命』って彫ってあるのを見た時は腰が砕けた。たけし怒れよ!「ファッキンジャップぐらいわかるよバカヤロー!」って引き金を引いいてほしかった。僕らが見たかった攻殻はコレジャナイ!

  


Posted by 縛りやトーマス at 11:19Comments(0)映画漫画