2019年03月21日

福田雄一はなぜ起用されるのか

 映画専門チャンネル、ザ・ライフにて2月にベン・スティラー6本目の監督作『LIFE!』が放送されたのだが、それは新録の吹き替え版で、主役であるスティラーの声を堀内賢雄さんが演じたバージョン。これが結構な話題になった。

 なぜなら劇場公開時にはナインティナインの岡村がスティラーの声を宛てており、しかも関西弁だった。映画のレビューには「字幕は最高。吹き替えは最悪」「絶対に吹き替えでは見ないでください」といった吹き替えへの悪評が見られた。

 このようにタレント、芸能人が洋画の話題作の吹き替えをすることには結構な拒否反応があるのだ。なので最近は通好みの洋画ファンのために職業声優の人たちを起用していることをアピールする映画が増えてきた(『ブラック・パンサー』や『スパイダーマン:スパイダーバース』、『キャプテン・マーベル』など)。僕なんかは職業声優が吹き替えをするのは当たり前だと思うのだけど。先のザ・シネマの件にしても堀内さんは洋画の吹き替えに定評があり、スティラーはもちろん、ブラッド・ピットの吹き替えも散々やってきた人なのになぜにナイナイ岡村なのだろう?

 僕がフォローしているアメリカ在留の映画通、Taiyakiさんのブログによると

>配給会社・代理店はファン心理など考えずテレビのワイドショーで取り上げられることに最大の関心を寄せているだけなので、タレントの声優としての実力は度外視される。
>起用されるタレント側も多くの場合作品に対する愛、というよりは数あるうちの仕事の一つとしてこなしているだけ

http://taiyaki.hatenadiary.com/entry/2019/03/20/132644

 なるほど、テレビで取り上げられる以上、話題性がなくてはいけない。「プロ声優が吹き替えしました」では当たり前すぎて話題性がない。「プロ野球の始球式にOBが立ちました」では大した話題にもならないのと同じ。「プロ野球の始球式にトニー・ジャーが立ちました」でなくては話題にならないのだ。


 かくして洋画吹き替えには映画とは無縁のタレントたちが「話題性」を盾にして次々起用される。声の演技が上手いか、雰囲気に合っているか、などは問題ではない!テレビに、新聞に、雑誌に、取り上げられるか、だけがすべて。
 そしてこのような事態が起きるのだ。


福田雄一、「シャザム!」吹き替え監修&演出担当!杉田智和ナレーションの特別映像も
https://eiga.com/news/20190320/1/


 福田雄一といえば堤幸彦同様、たいして面白くもない映画ばかり撮っているのに、次々起用される演出家ではないか。毎回同じメンツ(ムロツヨシ、佐藤二朗)で面白くもなんともないギャグをやって、観客は誰も笑ってくれないから自分たちだけで笑うか、「な~んちゃって!」「つまんないでしょう?アーハハハ」とセルフツッコミの二択しかない冷えた笑いで日本のお茶の間と映画館の笑いの知的水準を下落させているのが福田雄一的笑いだ。

 ただつまらないだけなら許せるが、福田雄一は一部の好事家によって支えられているようなマニアックなジャンルにまで手を伸ばしてくる。例えば特撮ヒーローもののパロディ映画『女子ーズ』では「長年に渡り構想を続けていた」という企画だが、戦隊ヒーロー風のメンバーが造成地のような場所で戦う。「造成地のような場所で戦うのはヒーローもののお約束でしょ?」っていつの話だよ!もうライダーも戦隊もそんな場所で戦ってねえよ!
 このように「知った風なことをいいながら、実は何も知らずに●●だったら面白いでしょう?と身内だけで笑っている」のも福田雄一的笑いの特徴だ。『女子ーズ』の劇場では特撮ヒーローファンの怒りが女子トルネード(女子ーズの必殺技)のごとく渦巻いていたのを記憶している。
 福田雄一は「うちの嫁が大変わがままで、社会人経験がなく、協調性のない女性だったため、こんな女が戦隊を組んだら面白いことになるだろうなと思ったのが、事の発端です」とのたまっていて、まさに身内ギャグの極み!

 今回のシャザム!吹き替え演出についても「福田監督自身が大のアメコミ好きであることから実現」したと書いているが、配給のワーナー・ブラザーズからは「吹き替え版“アベンジャーズ”!?的に史上最大級に豪華なキャストをそろえることができました」とトンチキなコメントが寄せられている。そこは「吹き替え版ジャスティス・リーグ」っていえよ!DCエクステンデッドユニバースを配給してるワーナー・ブラザーズがそれでいいんですか?こんないいかげんなことだから、福田雄一が起用されるのもわかる気がした。
 もう『シャザム!』という作品自体の価値が下がる起用だ。福田雄一に洋画吹き替えの演出をさせたり、映画を撮らせるなんて前田有一に実写『鋼の錬金術師』のオフィシャルライターを任せるぐらい無茶苦茶だとしか思えない。映画をつぶす気か!

 最後に真面目に考えると福田雄一がやたらと起用されるのは仕事としてきちんとこなしてくれるからだろう。前述した堤幸彦は制作プロダクション、オフィスクレッシェンドの人間で(現在取締役)、堤に仕事があったわけではなく、オフィスクレッシェンドの仕事をやっていたから次々仕事があっただけで、福田雄一も制作会社レスパスフィルムの作品を三つ(『薔薇色のブー子』『コドモ探偵』『HK変態仮面』)も監督してる。仕事として引き受けて、仕事の範囲内でやってるだけ!きっと予算内に収め、スケジュールも守っているのだろう。映画ではなく、仕事をこなしているだけ!だから映画ファンの心に残るような作品なんて出てくるはずもない。



  


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2019年03月20日

分断をなくそうとする映画により分断を煽る人たち『グリーンブック』



『ROMA/ローマ』『ボヘミアン・ラプソディ』『女王陛下のお気に入り』と候補作が並んだ第91回アカデミー賞作品賞は『グリーンブック』が受賞した。ジャマイカ系黒人のジャズピアニスト、ドクター・シャーリーとイタリア系用心棒のトニー・ヴァレロンガの長年に渡る友情物語だ。

 1962年のアメリカ、ニューヨークのナイトクラブ、コパカバーナ(デヴィ夫人がいたことでおなじみの同名クラブは赤坂)の“口も腕も立つ”用心棒、トニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)は店が改装工事のため休業になる間、ジャズ・ピアニストのドクター・シャーリーがアメリカ中西部を周るディープ・サウスツアーの運転手兼用心棒の仕事を任される。

「一つ聞くが、君は黒人に差別はないかね?」
「そんなまさか。ハハハ」

 といいながらトニーは黒人大嫌い野郎で、家の水道を修理するために来た黒人の修理屋に奥さんが水をあげたら、そのコップをゴミ箱に捨ててしまうような人だった。「黒人の運転手なんかできっか!」と仕事を断ろうとするも、休業中の収入がなくなってしまうので、金のために仕事を引き受けることに。トニーは黒人が利用できる店や宿泊所の場所を紹介したガイド“グリーンブック”を渡され旅に出る。


 シャーリーはカーネギー・ホールの二階に住んでいる(!)ような上流階級の黒人で、家には執事がおり、車に乗る時はひざ掛けを載せる。片やトニーはがさつにもほどがあるイタリア系で、ゴミを平気で車の外に放り出す。
 ケンタッキーについたトニーは「あっ!フライドチキンの店だ!」と寄り道してパーティバーレルを抱えて運転中にわしづかみで食い散らかす。「あんたも食えよ!」と後部座席のシャーリーに押し付けると「ナイフとフォークは?」「ねえよ!こんなもん手づかみで食えよ!」なんとシャーリーはフライドチキンを食べたことがなかった。「黒人なのにフライドチキン食わねえの?ソウル・フードだろ!」「偏見をどうもありがとう」

 がさつな下町育ちの白人トニーと上流暮らしの黒人シャーリーはいがみ合いながら珍道中を続ける。最初は気取った黒人だとシャーリーを見ていたトニーだが、ツアーの最中に黒人差別を目の当たりにする。自分だって黒人を蔑視していたのだが、露骨な差別に対してトニーの怒りがさく裂する。高級ピアノのスタインウェイを必ず用意する、という契約なのにツアー先ではボロボロなうえにゴミ塗れの安物ピアノが置かれていて、「黒人なんか弾けりゃなんでもいいんだろ」というスタッフを引きずり回して鉄拳制裁。仕立て屋でスーツを試着しようとすると「黒人のお客様は買い取ってもらわないと」トニーは憤慨するがシャーリーはそんな目に遭っても不満そうにはするが、トニーのように怒り狂わず、身を引く。なんとツアー先の会場でも屋内のトイレを使うことが許されず、庭にある簡易トイレを使わされる。トニーにはシャーリーがなぜ切れないのか理解できない。やがてシャーリーがディープ・サウスツアーを計画した本当の理由を知ったトニーは…


 差別の実態を知った被差別側の人間が差別されている側を救おうとする、典型的な白人の救世主モノとして本作は蔑視されている面がある。『グリーンブック』の監督、ピーター・ファレリーは弟のボビーと組んでジム・キャリーのMr.ダマーシリーズや『メリーに首ったけ』で知られるコメディ専門監督だけど、結合双生児の可能性について語った『ふたりにクギづけ』、催眠術で心のキレイな人が美人に見えるようになったジャック・ブラックが巨漢デブの女性に「なんて綺麗な人なんだ!」と恋をする『愛しのローズマリー』、アーミッシュ(科学を否定して自然のままに暮らす人たち)をテーマにした『キングピン/ストライクへの道』、健常者が友人の手術台のために知的障碍者のフリをして障碍者オリンピックに出場しようとする『リンガー!替え玉☆選手権』など、ステレオタイプな視点に異を唱える、差別的な視点と戦う映画を作り続けてきた人間だ。

『リンガー!~』では知的障碍者のフリをすることに苦悩する主人公だが、ライバルになる障碍者のチャンピオンは世間では「障碍というハンデを背負いながらオリンピックで活躍する立派な人物」とされながら本当は傲慢で嫌なやつなのだ。「障碍者にだって嫌なやつはいる」というごく当たり前の視点で、障碍者をやたらと聖なる存在にして持ち上げようとする輩に「それは逆差別ではないか?」と突きつけるのがぴたー・ファレリーだ。
 そんな彼に安易な白人の救世主映画だとか、ノミネートされながら受賞を逃したスパイク・リーこそオスカーに相応しいだのと文句をつけるのはおかしいのでは?分断をなくそうとする作品により分断を迫るような発言をして煽ってる人たちって…それじゃ差別はなくならないよ!そういう人たち向けのガイドブックが必要だな。

  


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2019年03月17日

美女二人と二回!まだ弾は残ってるぜ!『運び屋』



 80代でメキシコ最大の麻薬カルテル、シナロア・カルテルの運び屋をしていたというレオ・シャープの話を元にした映画。監督は生きている伝説クリント・イーストウッド。主演も同時に努めたのは『グラン・トリノ』(2008)以来。
 撮影時87歳だったイーストウッドの運び屋って!むしろあなたが運ばれる方じゃないの!?色んな意味で!


 90歳のアール・ストーン(イーストウッド)は特別な品種デイリリーを栽培する園芸家で彼のデイリリーは素晴らしく、数々の品評会で表彰される腕前。ある会場で妙齢のおば様方が歓談しているところに近づいて「お嬢さん方、来るところを間違えてるよ。美人コンテストは二階です」とお世辞をヌケヌケと言っちゃう紳士なのでどこに言っても大人気だ。
 しかし家庭のことは放り出している。品評会で受賞したこの日は娘アイリスの結婚式だが、当然式場に姿はない。入学式にも卒業式にも来ないアールのことをアイリスは父親だと思っていない。なにしろ妻メアリーとの結婚記念日すら忘れている人だから。仕事はできるが家庭を顧みない男なのだ。

 インターネット時代の到来とともにアールの園芸は廃業する。百合の種子をネットで買えるようになり、収入が激減したのだ。住むところを失ったアールは実家に戻るが、その日は孫娘ジニーの誕生日でパーティーが行われていた(当然孫の誕生日など知る由もない)。妻、娘と鉢合わせになり、アイリスと激しい口論になったアールはバツが悪そうにその場を去る。
 娘アイリス役は実の娘アリソン・イーストウッドが演じており、父親との「家庭をほっぽり出して、外面ばっかりいいくせに!あんたなんか父親じゃない」とケンカになる様子は本気にしか見えない。イーストウッドは俳優、映画監督としては神格化されているけど、私生活は無茶苦茶で二度の結婚をし、5人の女性との間に7人の子供がいる(計算が合わない)が、アリソンが3歳の時にイーストウッドは家を出て行っている。その割には何度も親子で共演しているのだが。


 パーティーの出席者だったジニーの友人というメキシコ人から「やることがないのならある仕事を引きうけてほしい」と誘われる。仕事もなく金も欲しいアールは翌日、指定された場所に向かう。そこで紹介された仕事はトラックに乗ってある場所に行き、そこで荷物を載せてある場所に運ぶ。車を置いたらそばにある店で休憩、時間が経ったら車に戻れ、キーボックスに報酬を入れておく、それだけの仕事だった。アールは言われるがままに仕事をし、大金を手にする。絶対に荷物の中身を見るな、と言われたが誘惑に負けて中身を見てしまう。それは大量のコカインだった。
 それはメキシコ最大の麻薬カルテルの品物だった。アールは報酬と危険なことをしているというスリルの誘惑に負けて運び屋の仕事を続けてしまう。その報酬でアールはジニーの誕生日を祝い、退役軍人の会を再生させる。それは仕事にかまけて家庭をないがしろにしてきたアールの罪滅ぼしだった。そんな彼を見て妻や娘は見直すようになってゆく。

 これって実在の運び屋の話だと言ってるけど、ほとんどイーストウッドのことじゃねえか!
「伝説の役者、監督扱いされてたけど家庭のことは放り出してあっちこっちで女と遊んで、子供作ってました。でも今は反省してるので許してね♡」
 と言いつつも現役ぶりを見せつけるのが休憩のため泊まったモーテルでコールガール二人としけこむところ。90歳の老人だよ!?朝チュンで二人が部屋から出てくるの、朝までかい!しかも二人と!さらに同じシーンがもう一回ある!二人と二回!!さすが元ダーティハリー、弾はまだ残っていた!!


 重い予告編とは違ってお茶目な老人の現役ぶりを見る映画だったとは。ちなみにトラックを運転する場面も自分で演じていたという。免許返納問題とかイーストウッドには関係ない。これが伝説の男だ!

  


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2019年03月10日

観客を見事に欺く展開が秀逸『THE GUILTY/ギルティ』



 緊急通報指令室の隊員、アスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)は一本の通報を受け取る。
「誘拐されたの…お願い助けて!」
 イーベン(イェシカ・ディナウエ)と名乗るその女性は誘拐犯の目を盗んで連絡してきたのだ。犯人が運転する車の中から電話している彼女の通話は途中で切れてしまう。誘拐犯の名前も居所もわからない。電話から聞こえる声と音だけを頼りにアスガーはイーベンを救い、犯人を捕らえようとする。


 これが長編映画一本目だというデンマークの新鋭、グスタフ・モーラーの『THE GUILTY/ギルティ』は緊急通報指令室の中からまったく出ずに、電話を受けているアスガー以外の人間は指令室にいる同僚、上司ぐらいしか映らない。事件に関与する人間は電話からの声しか聞こえない、状況を察するのは電話からかすかに聞こえる音だけだ。

 なかなか斬新な設定のように思えるが、実は似たアイデアを使った映画は他にもある。2013年のアメリカ映画『ザ・コール 緊急通報指令室』だ。911(緊急通報指令室)の隊員、ジョーダンは見知らぬ男に誘拐されて車のトランクに放り込まれた少女ケイシーからの通報を受け取る。ジョーダンは姿も名前もわからない誘拐犯をケイシーからの通報だけで救おうとする。ほぼ同じ設定なのだが、『ザ・コール』は愚かにも映画の序盤で誘拐犯の正体や姿を明かし、カーチェイスまでおっぱじめ、クライマックスでジョーダンは指令室の外に出て犯人と直接戦うのだ。肝心な設定をすべてダメにして終了する。アカデミー主演女優賞のハル・ベリー、助演女優賞ノミネートのアビゲイル・プレスリンまで使ったのにこの体たらく。

 そこへいくと『THE GUILTY/ギルティ』はこの設定を最後まで生かす。攫われたイーベンも、誘拐犯も、最後まで姿を見せない。視覚からの情報がなく、聴覚からの情報が頼りになるため観客は耳を澄ます。映画の中ではBGMもない。そんな観客をうまく欺く脚本が素晴らしく、意図的にミスリードさせてくれるので本当に気持ちよく騙される。タイトルの意味が判明するオチも秀逸。ハリウッドリメイクが予定されているらしいが、 『ザ・コール』の二の舞だからやめて。そんなスタッフはギルティ(有罪)だ!

  


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2019年03月06日

ふざけたものほど大真面目にやらなきゃ!『翔んで埼玉』



 伝説の漫画の実写化――とはよく言われるが、『翔んで埼玉』は本当の伝説だろう。100巻越えを達成した『パタリロ!』の魔夜峰央が1982~83年に発表、86年の短編集で発売されたっきり、よっぽどのファンでもなけりゃ覚えてないようなタイトルだったが、2015年に突然、単独の単行本として発売され、テレビの深夜番組などで取り上げられた結果、今回の実写映画化に!


 架空の日本、東京では出身地によって激しい差別が行われ、特に埼玉県民は通行手形がなければ外出することすら許されない!通行手形なき者は強制送還。そんな東京のエリート校にやってきたアメリカ帰りの転入生、麻実麗は実は埼玉県出身で都知事となって通行手形の撤廃を目論む。都知事の息子、壇ノ浦百美はそんな麗に恋心を抱き、エリート都民のステータスを捨てて麗とともに埼玉解放戦線に加わる。都知事の執事、阿久津翔は千葉解放戦線のリーダーで、麗とは違い、都知事に媚びることで千葉出身者の通行手形を撤廃してもらおうとしていた。翔が率いる千葉解放戦線と埼玉解放戦線は決戦の時を迎える。


…というあまりにバカバカしい話なので、どう実写化しても浮いてしまうような気がするのだが、実写版では原作漫画の部分を過去の都市伝説として、それを現代の埼玉人が「昔はこんなひどい差別があったんだ」と振り返るという構成にした。これは上手い。どんなに漫画チックな描写であっても現代人が「そんなバカな!」と突っ込みを入れれることで漫画チックな話が無理なく成立するわけだ。


 現代の埼玉。熊谷に住む菅原愛美(島崎遥香)は結納のため両親(ブラザートム、麻生久美子)とともに東京へ向かっていた。カーラジオからはさいたまんぞうの『なぜか埼玉』が流れていた。延々と続くあぜ道の中でようやく田舎を脱出して東京に住める、という愛美に父の好海は「埼玉だっていいとこだぞ」というが聞く耳もたない。地元ラジオ局のNACK5からはかつてひどい差別を受けていた埼玉を開放した伝説の人物、麻実麗の物語が紹介されていた。

 東京では出身地によってひどい差別が行われ、埼玉県人は通行手形がなければ通ることも許されなかった。通行手形無き者は強制送還。差別に耐える埼玉人たちは救世主の出現を待ち望んでいた。
 上流階級の生徒が通うエリート養成校の白鵬堂学院では都知事の息子にして生徒会長の壇ノ浦百美(二階堂ふみ)によるヒエラルキーが築かれていた。東京都出身の生徒たちは宝塚のような生活を送っていたが、ピラミッドの最下層に存在する埼玉出身の者たちは木と泥でできた小屋で勉強させられていた。

「あいつらはいまでも通行手形がなければ外を歩けないのよ。生まれも育ちも埼玉なんて。おぞましい。ああいやだ!埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」

 ひどい言われようだな!体調が悪くなっても埼玉県人は医務室すら使えない。
「医務室は都民専用だ!埼玉県人はそこらへんの草でも食わせておけ!そうすれば治る!」

 そんな学院に港区出身でアメリカ帰りの転入生、麻実麗(Gackt)がやってくる。アメリカ流の洗練された物腰の美青年で、8か国語に精通する麗に学院の生徒たちはうっとりするのだった。

 高校生の役を二階堂ふみにGacktが演じるのがすさまじいギャグなんだが、二人とも現実感のない異次元のような役者なので過剰にデフォルメされた役がハマっている。ただのコスプレを超えた存在感で漫画の実写化を演じる役者として適任だ。

 なぜか麗は差別されている埼玉県人の生徒に優しく手を差し伸べるのであった。そんな麗を嫌う百美は東京23区の空気をつめたグラスで「東京のどの地区かを判別する東京テイスティングで麗に勝負を挑む。最短記録を持つ百美は自信満々であったが芸能人格付けチェックの王者、Gacktにそんな勝負を挑むとは命知らずだぞ!
「かすかに漂うインドカレーの香り…これは西葛西だっ!」
 と全問的中で最速記録を達成するのであった。くやしさのあまり気を失う百美をお嬢様抱っこで連れ去る麗。麗に仄かな恋心を抱いた百美は生まれてはじめてのデートに麗を誘う。遊園地で二人は隠れ埼玉人を逮捕するSAT(埼玉アタックチーム)による埼玉県人狩りを目撃する。麗の屋敷の家政婦・おかよ(益若つばさ)と子供が捕まりそうになっているのを見て助けに入ったことで出身地を疑われた麗はSATによる踏み絵を強制される。それは埼玉県の県鳥、シラコバトが描かれた埼玉県草加市の名産品、草加せんべいであった。

「貴様が都民ならばこれが踏めるはずだ!」

 ちなみに原作では都知事の踏み絵だったが、実写化ではよりデフォルメされた!麗はそれを拒否してSATの手からおかよたちを救う。実は麗は埼玉の大地主、西園寺家の子息で通行手形の撤廃を目論む埼玉解放戦線のリーダーだった。
 正体がバレた以上、ここにはいられないと逃亡する麗に百美はついていこうとするが、所沢へ行こうといわれると「あの所沢!?」と恐れおののくのだった。所沢はメットライフドームもあるのに、ひどい扱われ方w

 そんな話がNACK5で流れている現代パートでは事件が起きる。運転マナーの悪い車のナンバーが千葉ナンバーだったことにブラザートム(マウイ島出身、埼玉熊谷育ち)が「このチバラギがぁ!」とキレたことで助手席の奥さん役、麻生久美子(千葉県出身)が「ハァ?今なんつった?チバラギって、千葉バカにしてんのか?このダサイタマが!!」と突然のブチギレ。それまでは親子のもめ事をまあまあと諫めてたのに。

「海もねえ埼玉がいばってんじゃねえ!千葉にはディズニーランド、船橋ららぽーと、商業施設がいっぱいある!成田国際空港もあるんだよ!」

 という久美子の千葉自慢に対してブラザートムの

「埼玉にはなあ、東京航空交通管制部があるんだよ!飛行機が問題なく飛べてるのは全部埼玉県のおかげなんだよ!」

 といくらなんでも無理がある埼玉自慢。「どうでもいいから早く東京へいってよ!」と島崎遥香の一言に心の底から同意する。本当に、どうでもいい千葉と埼玉の維持の張り合い。

 そのころ都知事(中尾彬)の元では壇ノ浦家の執事、阿久津翔(伊勢谷友介)が百美の連れ戻しを画策する。翔は千葉解放戦線のリーダーで、埼玉県人の誇りを取り戻すべく戦おうとする麗とは違い、都知事にすり寄ることで通行手形の撤廃を企んでいた。翔によって麗と百美は捉えられ、麗は体中の穴という穴にピーナッツ(千葉名産)を入れられる拷問を受けそうになったところを、謎の一団に助けられる。それは埼玉県人でありながら上流階級の都会人のオーラを持った伝説の埼玉県人、埼玉デューク(京本政樹)であった。

 京本政樹もまたGacktに負けず劣らずの異次元オーラを漂わせる役者なので、伝説の人間にピッタリ。この映画、あと及川光博さえ出ていれば完璧だった。

 麗の本当の父親は埼玉デュークであることが判明する。長年の負け犬根性が染みついた埼玉県人たちは「所詮俺たちは田舎者だから」と卑下する彼らにかつての埼玉人は海がないことを羨んで、穴を掘って水を引こうとしたこともある気概があった。埼玉県人の誇りを取り戻そうと彼らを鼓舞し、千葉解放戦線との決戦に挑む。
 人数では劣る千葉側は大漁旗に千葉県出身のミュージシャン、YOSHIKIの肖像が掲げて有名人対決を挑む。

「あ、あれは世界的ロックミュージシャン、XJAPANのYOSHIKI!」
「うろたえるな、埼玉にだってロックミュージシャンはいる!」

 とアルフィー高見沢俊彦の大漁旗を掲げる。

「あれは日本のライブ回数No.1を誇るアルフィー高見沢!」

 このギャグのポイントはアルフィーには秩父市出身の桜井賢もいるのにスルーしてるところだね!無視すんなよ!

 この後、桐谷美玲・真木よう子VS反町隆史・竹野内豊の俳優対決を経て追い詰められた千葉側は「小島よしお・小倉優子」を送り出してくるんだけど、「小物過ぎる!」と一喝されちゃうの、小島と小倉に失礼だろ!


 …とバカげた対決をしている頃、百美は都知事が不正で蓄えた金塊の隠し場所が群馬にあると知り、未開の土地と呼ばれている群馬に足を踏み入れていた。埼玉、千葉、茨城のディスりが激しい本作だが、もっともボロクソに扱われているのが群馬で、プテラノドンが飛び、ビッグフットの足跡がある人外秘境。群馬県をなんだと思ってるんだ!


 本当にバカバカしい物語は想像を絶するクライマックスに突入していくのだが、もう、どうしようもなくバカバカしいというしかない。こんなバカバカしい話を大真面目にやったスタッフ、役者陣は最高の仕事をしましたね。ふざけたことは真面目にやらなきゃ面白くないのだから。真面目でなけりゃGacktと伊勢谷友介の濃厚なキスシーンなんかできるわけないわな。多くの漫画実写映画が漫画ならではのふざけた部分を真面目に再現しようとせずに「漫画だから」と鼻で笑いながらやったがために大失敗していますが、今後すべての漫画実写映画は『翔んで埼玉』を基準に制作すべき。

 埼玉という絶妙な「弄っても笑いになる」立ち位置なのが『翔んで埼玉』の笑いのツボですね。これ、他の地方では絶対にない、埼玉でしか成立しない笑いで、他じゃあ本気の争いになってしまう。それを象徴するように埼玉では異例の大ヒットで、普通映画の興行収入で地方ごとのトップは大体東京都の映画館なのに、『翔んで埼玉』だけは地元MOVIXさいたまがトップを記録してるぐらいだから。さいたまは懐が深い。



  


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2019年03月03日

女王は愛されたいの『女王陛下のお気に入り』



 18世紀末のスペイン継承戦争を描いた『女王陛下のお気に入り』でイギリスのアン女王を演じたオリヴィア・コールマンは第91回アカデミー賞にて主演女優賞を受賞。前評判では今回で7度目のノミネートとなるグレン・クローズの受賞が囁かれていたが、この結果は91回アカデミー賞中で一番の驚きだった。


 アン女王は継承権のトップであったので女王の位につくが、お嬢様育ちでブランデーを好んでケーキばかり食べていたので肥え太り、痛風を患って車いす生活を送っていた。政治にも疎かった女王は豪華な宮殿を建てようとして配下たちから「今、フランスと戦争中ですのでそのような予算は…」と言われて「え…戦争ってまだ終わってなかったの?」と言い出す始末であきれ返る。

 だから戦争や国政については側近である公爵夫人サラ(レイチェル・ワイズ)が取り仕切っていた。サラの夫マールバラ公爵は軍のトップであったから、サラはスペインを手に入れるためにアン女王に戦争をけしかける。トーリー党員のハーレー(ニコラス・ホルト)は長い戦争に国民は疲れ果てているからと和平を勧めるがサラを信頼する女王は受け入れない。

 城に没落した貴族の娘アビゲイル(エマ・ストーン)がやってくる。父親がギャンブルで破産したために生活のため縁故のサラを頼って女中になったのだが、女中仲間たちからは激しいイビリを受けてしまう。
 痛風に喘ぐ女王の足に薬草からつくった薬を塗ったところ、女王の気分は優れるようなったことで、サラは個室を与えられて女官へと格上げされる。
 ある夜のこと、女王の寝室で本を読んでいたアビゲイルは舞踏会から戻ってきた女王とサラがアビゲイルに気づかず寝所で同性愛行為に及ぶのを見てしまう。

 フランスを徹底的に叩き潰さんと戦争を継続させようとするサラの専横が目立ち始め、女王はサラを「国の仕事にかまけてばかりで私に冷たい」と愚痴を漏らす。仕事が忙しいサラは女王の世話をアビゲイルに任せるようになり、アビゲイルは女王が飼っている17匹のウサギを可愛がり、女王がウサギに亡くした子供の名前をつけているのを聞くと子供の死を悼み、女王の心を労わるように寄り添う。
 やがて女王の寵愛はアビゲイルの方に向けられ、サラがアビゲイルを追放しようとした時はすでに寝室付きの女官になっており、女王は「冷たいお前と違ってあの子は口でもしてくれる」サラの進言をはねつける。サラとアビゲイルは女王の寵愛をめぐって激しく争い、女王も二人を煽るような態度を取って楽しむのだった。

「二人がわたしを求めて争うなんて素敵。もっと愛されたいの!」


 世継ぎを産めという周囲のプレッシャーに苛まれ、17度も妊娠しながら流産、死産を繰り返し産まれた子供も若くして死んでしまったアン女王は次第に心を病み、癇癪持ちで酒と甘いものに溺れ王宮の兵士に「今わたしを見たわね!?こんな醜い私を笑っているんでしょう!?」と不安定な精神の女王はただ愛されたいがために側近による骨肉の争いを煽り続ける。
 そんなことをしている間に戦争で何千もの国民が犠牲になっていくのだが、女王や王宮の貴族たちは民衆の死に目もくれず毎夜パーティーと豪華な食事を楽しんでいる。「愛されたかった」がために政治に無頓着で、気に入った人間をそばに侍らせて側近に好き放題させていたアン女王の役をコールマンは「ドナルド・トランプのように」演じたという。好き嫌いで人事を決めて、対立を煽って好き放題させる。18世紀末のイギリス王室の話でありながら現代のアメリカ政権に通じる話なのだ。

 シリアスな話のようで女王の寵愛をめぐる争いはやりすぎて笑えるように描かれている。なにしろジャンルは「コメディ映画」だから!監督のヨルゴス・ランティモスはコールマン、ワイズも出演していた『ロブスター』で出産率が低下した世界で子供を産むことを推奨するため、おひとりさまの男女を無理やりくっつけて、期限までにカップルにならなければ動物にすると脅される恐怖政治を描いていた。恐ろしいのはこっそりオナニーしてたら手をつぶされるのだ!
 当人たちにとっては笑いごとじゃないんだろうけど、やっぱり笑っちゃうよな。そういう作風の監督なの。エマ・ストーンが野望のために結婚した相手との初夜を手コキだけで済ませようとするところとか、絶対笑うよな。


  


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2019年03月03日

ヒロポンで空高く吹き飛んだ『麻薬王』

 今年のアカデミー賞ではNetflix配信映画の『ROMA/ローマ』が各部門にノミネートし、「配信限定映画なんか映画じゃない」という頭の固い連中など物ともせず3部門受賞に輝きました。
 かように最近のNetflix配信映画は野心作やビッグバジェットによる大作が続々配信され世界中の映画祭でも評価されているので、もはや映画館でかからなければ映画ではない、などと言っている時代ではないのです。
 今回ご紹介する映画は韓国で大ヒットした劇場映画ですが、日本ではNetflixで配信中の映画『麻薬王』です。
※以下ネタバレを含みます




 1970年代の韓国では覚せい剤製造ビジネスが盛んであった。かつて日本では疲労がポンと飛ぶ、という意味の「ヒロポン」という名称で生産、発売が公然と行われ、庶民の間に爆発的に広まっていた。第二次大戦時には特攻隊員の恐怖を取り除くためにキャラメルにヒロポンを入れて与えられた(当時は満州で作られていたという)。

 70年代になり、副作用などがようやく問題となり国内での製造が縮小されたため、海を渡った隣国、韓国に製造の場が求められ、韓国内でも覚せい剤の需要が高まり、大規模な生産が必要だった。
 金細工の職人、イ・ドゥサム(ソン・ガンホ)は家族思いの冴えない男。金を密輸する裏社会に頼まれて金が本物かどうかを鑑定する仕事で禄を食んでいたが、トラブルから拷問に遭い、密輸の罪で服役する羽目に。妻からも愛想をつかされてしまう。
 しかしドゥサムは密輸事業の際に日本の大阪で「釜山の水は良質なので、いいヒロポンがつくられる」と聞いたことがり、覚せい剤輸出で外貨を稼ごうとする。ドゥサムのビジネスは恐ろしいほど当たり、神戸山口組の抗争に巻き込まれたり(!)しながらも荒稼ぎを続け政財界にも名が知られるように。
 だが、かつて彼を拷問し刑務所に送り込んだ中央情報部の人間がドゥサムを脅しにくる。恨みを忘れていないドゥサムは彼に仕返し、遺体をバラバラにして海に捨てる。「麻薬を扱う人間は麻薬だけは使ってはいけない。破滅が待つだけだ」という教えに逆らってヒロポンを注射する。一線を超えたドゥサムはもう止まれない。政財界の大物の養女、ジョンア・キム(ぺ・ドゥナ)と知り合いになり、彼女の提案で「メイド・イン・コリア」と名付けたドゥサムのヒロポンは韓国、日本両国で爆発的に売れまくる。ヒロポンで莫大な利益を手にしたドゥサムはあちこちに寄付して表彰され、国を代表する名士となってゆくのだった。

 映画の舞台になる70年代の韓国は、60年代まで世界の最貧国に数えられるほどの底辺だったが、60年代後半に日韓基本条約、ベトナム戦争に派兵して得た外貨をきっかけに経済復興を遂げた。誰もが一山当てたいという空気の中で覚せい剤という金儲けのネタを手にしたドゥサムのビジネスは右肩上がりを続ける。しかし崩壊は足元に迫っていた。

 覚せい剤の撲滅を目論む検事キム・イング(チョ・ジョンソク)はドゥサムの妻やヒロポン中毒に落ちぶれた従弟を使ってドゥサムを追い込んでいく。最初は小動もしないドゥサムだったが、日韓基本条約をとりつけた朴正煕大統領の暗殺をきっかけに韓国は軍事独裁政権と民主化デモとの対立の時代に突入する。
 イケイケドンドンでビジネスを拡大させる中、親しい人間すらも切り捨ててきたドゥサムの周りには誰もいなくなり、飼い犬だけが寄り添う部屋でヒロポンに溺れ「アカが俺を殺しにくる」という妄想に取り憑かれ銃をぶっ放すドゥサムの屋敷をキム検事と兵隊たちが取り囲む。


 最近の韓国映画は政治的に際どいテーマをエンターテインメントに落とし込むのが得意で、『麻薬王』の数年後に起こった光州事件をテーマにした『タクシー運転手 約束は海を越えて』(これもソン・ガンホ主演作)のような歴史の恥部のような光州事件をすこぶる活劇として描くことに成功していた。絶好調の時代を生きながら一つの時代の終焉とともに没落するドゥサムの生きざまは悲しくもあり、魅力的でもある。説教臭くなく、笑って楽しめる娯楽映画になっているのがすごい。よくいうけど、日本じゃこういう映画は絶対作られないね。

 あと、映画のテーマソングがジグソーの『スカイ・ハイ』なのでやたらと勇ましいんだよな。でも実際は失恋の歌で、「愛を捧げたのになぜか君は僕を空高く(スカイ・ハイ)吹き飛ばした」という意味が「俺はみんなを幸せにしたかっただけだ。俺のおかげで大勢が救われた」と嘯くドゥサムのことを言っているようで切なかった。


  


Posted by 縛りやトーマス at 01:09Comments(0)映画ネットフリックス

2019年02月27日

ゾンビファンの脳みそを破壊する『トウキョウ・リビング・デッド・アイドル』



 当時、SUPER☆GiRLSのメンバーだった浅川梨奈主演のゾンビアイドル映画。「ゾンビ」と「アイドル」というローバジェット映画の定番要素二つがドッキングしたらどうなるか?華やかなカップルとなるか、それとも最悪の組み合わせになるのか!?


 3人組の地下アイドルユニット「TOKYO27区」(3人組なのに27区というこのネーミング)のセンターであるミク(浅川)は今日も満員のライブをこなしたが、メンバーのモエ(スパガの阿部夢梨)、ルナ(尾澤ルナ)のドヘタな歌と合わないダンスにブチ切れ。
「やる気あんの?わたしらもうすぐメジャーデビューで、もう地下アイドルじゃあないんだよ!」
 そんなミクの態度に少々ウンザリな二人。地下アイドルにありがちな無駄に意識高いケンカ、よくありますね。観客もちょっとイラついたところで、エレベーターから現れたゾンビ(突然)に噛まれるミク!騒然となる楽屋裏!周囲は突然のことにおびえるばかり(そりゃそうだよ…いくらなんでもゾンビの出現、突然過ぎ)で、誰もミクのことを助けない(これまでの態度が悪いせいもあるんじゃない?)。彼女を助けたのはゾンビハンターの男(また突然だなオイ!)

 腕の噛まれた後を包帯で隠したミクは人で溢れかえる真夜中の街を疾走…って、ゾンビが出てるのに普通に人が暮らしてるの?
 そう、この世界では人々が普通に生活を送っているのだ。ゾンビといえば発生した瞬間に無法地帯になったり、文明、日常が崩壊する様が描かれるのだが、この映画では通り魔が出てきたぐらいの騒ぎで済んでいる。なんて斬新な世界観なんだ。役者の後ろをよく見ると通行人が通っていたり、道路を車が走ってる。決して低予算すぎてポスト・アポカリプスな世界を描けないわけではない。

 ゾンビ化するまでのタイムリミットは72時間。噛まれた人間は警察によって専門の施設に強制収容される。のだが、捕まえた警察の偉い人がアイドル・ミクのファンなのでこっそり彼女を逃がしてあげるのだ。なお、低予算映画なので細かい設定についてはすべてセリフで説明される。
 なぜミクは逃げ出すのか?それは都市伝説として伝わっているゾンビ状態から回復する血清を探し求めるために。
 偶然見つけた「ワンダフル探偵事務所」の男、犬田満男(『ハルサーエイカー2』の田畑ジョー役やってた尚玄)に助けを求めるミク。

「わたし、どうしても夢を叶えたいの…アイドルの聖地、中野サンプラザでコンサートをやって国民的アイドルになるまで死ねないの!」

 ずいぶん小さい夢だな!中野サンプラザは確かに聖地かもしれんが、そこから国民的アイドルまでかなり遠いぞ!そこは嘘でも武道館っていおうよ!ミクは血清に関する噂が書かれたムーのまがい物じみたオカルト雑誌を見せて「ここに書いてる」そんなもん信用すんなよ。

クラーケンとネッシーの戦いは気になる

 逃亡したことで全国指名手配された彼女を助けるのは面倒だと手を引こうとする犬田だが、ミクが頭を下げてまで懇願するのに気が咎めて、この依頼を受けることに。

 翌日、高田馬場あたりにある雑誌編集部を訪ねていくと、建物があった場所は更地になっていた。なんと、数日前に謎のガス爆発を起こして編集部員は全員死んでいた。オカルト雑誌に真実を書いたから消されたのか?陰謀論が渦巻く中、タイムリミットは迫る。公園の草むらから突然現れた(ホント突然)ゾンビの頭を金属バットでカチ割り、逃亡する二人。
 一方、逃亡したミクを捉えんとゾンビハンターらも二人の足跡を追っていた。そのうちの一人、日本刀が武器の女子高生ゾンビハンター・如月が悶絶するほどカッコいい!襲い来るゾンビをバッタバッタと切り捨てるアクションは演じた星守紗凪、本人自ら挑んでます。公式プロフによると「特技・殺陣」とあり、ヘナチョコな剣の振り方じゃありません。こんな映画(失礼)で本格的な剣術アクションが見られるとは…僕は彼女のファンになるぞ!

本物の剣術ができるうえにカワイイぞ

 公園での撮影の間、ずっと小雨が降っている。別にじめじめとした世界観を描きたいとかいうわけでもなく、ただロケ日が雨で日程を変更するほどの余裕がなかったんだろうな…

 ミクたちはオカルト雑誌に記事を書いた男の家で「A」と呼ばれる感染少女がゾンビから回復する血清を作り出すことができる情報を入手、情報屋からA=アリシアと呼ばれている少女が実験のためどこかに監禁されていることを知るが、どこにいるのかわからないままタイムリミットは迫る。童顔巨乳好きゾンビ(どういうこと)に襲われるが、熱心なミクファンのオタクによって助けられ、というかオタク二人が勇ましく立ち向かうもあっさり犠牲になってる間に逃げたんだけど!アイドルはオタクを犠牲にして生き延びるんだ…彼らこそドルオタの鑑として語り継がれるべきだ。

 しかしミクらの前にゾンビハンター・如月が立ちふさがる…が、如月はゾンビを切り捨てると

「わたし、ミクちゃんの大ファンなの!」

 如月はTOKYO27区の古参(初期からのファン)だった!如月はアリシアの監禁場所を知っており、かつて感染した時に血清によって回復していたのだった。ミクのためにゾンビを人体実験に使っている組織を裏切ることにした如月、ミク、そして元刑事という過去も判明した(またまたまた突然!)犬田の3人は地下実験施設へ向かう。


 あらゆる意味で従来のゾンビ映画の埒外へ飛び出しており、予想以上の面白さがある。低予算ながら本格的な剣術、パルクールなどの大胆なアクションがあり、なによりゾンビが現れてるのに特に文明が崩壊していないとか、何もかも斬新すぎる。ゾンビ映画という枠に囚われがちなゾンビファンの脳みそを気持ちよく破壊する一本です。




  


Posted by 縛りやトーマス at 23:59Comments(0)映画アイドル映画レンタル映画館

2019年02月27日

猫がいればそれでいいんだ『猫とじいちゃん』



 世の中には「猫に癒されたい」という人がいっぱいいるので、日本では猫を主役にした映画が結構あります。猫にはセラピスト効果があるだの、「アケメネス朝ペルシアのカンビュセス二世は神聖とされる猫をエジプト人の立てこもる城の中へ投げ込んで、神聖なる猫を傷つけられないと恐れおののいたエジプト人は城を捨て逃げ出した」だのなんだのと猫がいかに素晴らしいかというもっともらしいエピソードを語りだすが(その前に猫投げるなよ)、その実、猫で搾取しようとたくらんでる猫エクスプロイテーションではないのか?

 この『猫とじいちゃん』もそんなたぐいの猫エクスプロイテーションなんですが、そんじょそこらの猫エクスプロイテーションと一味違うのは猫写真の巨匠、岩合光昭の初監督作品という看板がついてるところ。
 僕も岩合光昭の猫番組はテレビとかで観たことある。まるで猫の目線になったような写真とか、ありとあらゆる角度から押し寄せる猫写真には大層興奮させてもらった。猫の方も演技をつけられたかのような動きをする。「猫に演技をつけたような映像が撮れるのなら、人間の演技もつけられるのではないか?」ということか?そんな無茶な…

 とはいえ無理なことは無理だと思ってるのか、制作側も無駄な演技指導の時間を避けるために、初めから演技がそれなりにできる人たちを配置してるのがなんとも。出演陣が立川志の輔、柴咲コウ、柄本佑、小林薫、銀粉蝶、田中裕子ときたもんだ。この人たちはともかく、若手の役者もいるけど、その子たちは難しそうな顔して会話してるだけ、いてもいなくても構わないような役なのが露骨です。

 老人ばかりが暮らす離れ小島に暮らす元教師の大吉(志の輔)は2年前に妻(田中裕子)に先立たれ、妻が可愛がっていた猫のタマとのんきな二人暮らしをしている。都会からやってきた美智子(柴咲コウ)が開いたおしゃれなカフェで仲のいい友人たちとおしゃべりする毎日だったが、ある日タマがいなくなってしまい…

 って、イッセー緒形が出ていた『先生と迷い猫』(2015)と似たような話だなあ…あれもイッセー緒形が元教師で、妻に先立たれて猫と暮らしてて、島が舞台なの。話も似てて、色々なことがあって疲れた人たちが猫によって癒されて、人と人との仲を紡いでいくんだけど、なにしろ猫は気まぐれなので人の思ってるようにはならなくて、、ただ寝転んでるだけだったり。だから猫はいいんだ、という人の気持ちはわからなくもない。

 役者たちはみんな複雑な演技を求められていないので、ただの役目としてそこにいるだけ。何か問題を抱えて田舎に逃げてきた柴咲コウは一体何があったのかまったくわからない。医者の柄本佑も「魚の目が怖い」とかおびえているのもなんでそうなのかわからない。

 まあ、人間のことなんてどうでもいいんですよね。猫がいればそれでいいんだから。

  


Posted by 縛りやトーマス at 06:27Comments(0)映画

2019年02月26日

翔んでスタート!埼玉県の動員がスゴイ

 魔夜峰央の埼玉ディスり漫画の実写映画『翔んで埼玉』が異例の大ヒットを飛ばしているぞ。




『翔んで埼玉』1位スタート!埼玉県で驚異的な数字記録
https://www.cinematoday.jp/news/N0107071

>土日2日間(2月23日~2月24日)の全国映画動員ランキングが興行通信社より発表され、GACKTと二階堂ふみがダブル主演を務めた映画『翔んで埼玉』が1位を獲得した。初日22日からの3日間で興行収入は3億3,094万9,400円、観客動員は24万7,968人に達している。

>都道府県別興収シェアで埼玉県は、東京をおさえて全国1位に。同県内における興収で、2000年以降に公開された東映配給の実写映画でこれまでの記録を保持していた2005年公開の『男たちの大和/YAMATO』(最終興収:50.9億円)の公開3日間対比414.35%という驚異的な数字をたたき出した。


 確かに面白い映画なのだが、この漫画丸出しのデフォルメされた世界観がどれだけ受けるのか?この面白さが観客に伝わるのか?という不安があったのだけど、蓋を開ければ3億越えのスタートだ。この数字は2019年公開の実写映画で国内No.4の成績。


〇マスカレード・ホテル 動員61万人 興収約8億円
〇七つの会議 動員35万1000人 興収4億3400万円
〇十二人の死にたい子供たち 動員26万3398人 興収3億3921万8900円
〇翔んで埼玉 動員24万7968人 興収3億3094万9400円
〇雪の華 動員23万0012人 興収2億8475万2200円
〇フォルトゥナの瞳 動員19万人 興収2億5000万円
※いずれも公開三日間の成績


 6作品のうち『マスカレード~』『七つの~』『フォルトゥナ~』は東宝映画、『雪の華』『十二人の~』はワーナー配給。『翔んで埼玉』だけが東映映画。東映でヒットする実写は仮面ライダーとスーパー戦隊シリーズだけ(あと吉永小百合映画)、といわれている中でのこの大ヒットは例年にない勢い。特に舞台となった埼玉県で動員を稼いでおり、普通興収で各劇場のトップは当然ながら東京都なのだけど、この映画だけは全国トップがMOVIXさいたま!なんでひらがな?漢字が読めないのかな?(はなわの『埼玉県のうた』より)
 東映の公開作品でも2005年の『男たちの大和/YAMATO』以来14年ぶりのヒットという、東映さん、どれだけ当ててないんですか!!

 これから話題作が集中する三月の興行大戦をどれだけ乗り切るのかも楽しみです。あと、映画で埼玉以上にディスられてる栃木県(劇中でプテラノドンが飛んでたり、ビッグフットの足跡がある人外秘境として描かれている)の動員はどれぐらいなのか、気になります。


  


Posted by 縛りやトーマス at 10:36Comments(0)映画映画興収関連