2019年09月23日

危うくランキングから見えなくなるところだった『見えない目撃者』



 2011年に公開され、韓国の二大映画賞である大鐘(テジョン)賞を獲得した『ブラインド』はある女性が乗ったタクシーがひき逃げ事件を起こし、警察に通報するも女性が盲目であったことからまるで信用してもらえず、そのひき逃げを偶然目撃した男子高校生の証言の方が信用されてしまう。しかし元警察官の女性が優れた洞察力を発揮し、世間を騒がせている女性失踪事件とひき逃げを結び付ける。目撃者の高校生が何者かに襲われたことから警察も本格的な捜査を始めるのだが、犯人の手は盲目の女性に伸びていた、というサイコサスペンスだ。

 2015年に中国で同じ監督によるセルフリメイク『見えない目撃者』が作られ、本作は日本での二度目のリメイク。セルフリメイクでは話はほぼ同じだが、日本版は細部がかなり変更されている。

 日本版では被害者女性は未成年の家 出少女たちで、彼女たちは家庭に居場所がなく、家 出しても親に捜索願いさえ出してもらえない。彼女たちの間には不幸な境遇に追いやられている自分たちを救ってくれる救世主「救様」と呼ばれる存在が都市伝説として広まっている。捜索願いも出されていないから警察も把握していない被害者たちは世間から「見えない」存在にされている
 家 出少女をさらった誘拐犯の車を偶然見た男子高校生、国崎春馬(高杉真宙)は将来の夢や目標が何もなく、ただぶらぶらと毎日を生きているだけで親や教師からも見捨てられている。彼が誘拐犯の車に轢かれそうになった現場に偶然居合わせた元警察官の視覚障碍者、浜中なつめ(吉岡里帆)はかつて自分が起こした交通事故で視力と同乗していた弟を失ったことで、心を閉ざし引きこもり気味の日々を送っていた。二人もまた世間からは「見えない」存在だ。「見えない」存在とされている犠牲者たちを「見えない」立場に置かれているものたちが救い出そうとする、日本版にはタイトルに二重三重の意味がかけられている(オリジナルや中国版リメイクでは被害者が狙われる理由が大きく異なる)。

 被害者が狙われる理由に日本版の独自性が出ていて、韓国映画の日本版リメイクにありがちなオリジナルに遠く及ばない余計なアレンジをしてしまって失敗するケースが多いが、本作が日本版独自のアレンジが上手く機能している。

 主演の吉岡里帆は初主演作の『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』が圏外スタートするぐらい壮絶に失敗して、興行ランキングから「見えない」状態にされていました。この二作目まで「見えない」状態にされたら今後の女優業に影響を及ぼすところ。大丈夫か吉岡!その吉岡本人の追いつめられている感が演技にも反映されていて、ただならぬ雰囲気を出すことに成功したいい演技です。



  


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2019年09月20日

恐怖と笑いの緩急『アス』



 長編デビュー作『ゲット・アウト』でいきなりアカデミー脚本賞をゲットしたコメディアン、ジョーダン・ピール監督の最新作。
 ジョーダン・ピールを始めてみたのは、制作・脚本を手掛け、日本ではビデオスルーだったコメディ『キアヌ』だ。レル(ジョーダン)は最愛の恋人からフラれたショックで自殺を考えるが、家の前にいた野良猫を拾い、猫に癒されることで立ち直る。猫にキアヌと名付けたレルはキアヌを使って映画のワンシーンをミニチュアで再現、撮影して大喜びするのだ。




 ある日、従兄のクラレンス(ジョーダンの相方、キーガン=マイケル・キー)と出かけ帰宅するとレルの家は荒らされキアヌは消えていた。地元ギャング団が部屋を荒らしていたと聞き、二人はギャング団のアジトへ。ボスのチェダーがキアヌをかわいがっており、仕事をする代わりに猫を返すという。チェダーはレルたちを正体不明の殺し屋コンビ、アレンタウン・ブラザーズと勘違いしていたのだ。

 どう見たって凄腕の殺し屋には見えない二人がキアヌのためにアウトローぶって、チンピラ相手に一発かます場面は爆笑必至。クライマックスはキアヌが主演した『ジョン・ウィック』ばりの大ドンパチになるのも最高。シリアスな中にふっと笑いを放り込んでくるセンスが抜群で、長編デビュー作の『ゲット・アウト』でもドシリアスな場面に突然ギャグが入り込むのでおかしくてたまらなかった。そして『アス』もそのセンスが遺憾なく発揮された。


 1986年、カリフォルニア州サンタクルーズ。少女アデレードは子供のころ、お化け屋敷のミラーハウスで辺り一面鏡の部屋に迷い込み、その中で鏡に映った自分ではなく、自分そっくりの少女を目の前にして気を失ってしまう。それがトラウマのなり失語症に陥るのだが、長年のリハビリを経て、失語症を克服、結婚もして二人の子を持つ母親となる。
 ある年の夏に家族は別荘のある避暑地サンタクルーズへ訪れる。そこは、アデレードにとって子供のころの忌まわしい記憶が残る遊園地のある場所だった。夜、夫にかつてこの地で経験した出来事について話すと突然停電が起きる。外を見ると赤いツナギのような服を着た4人の男女が暗闇に立っている。その4人の顔は自分たちと瓜二つの者、“アス”(私たち)だった。4人は家に侵入し、奇抜な行動を取る。アデレードと同じ顔をしたレッド(ルピタ・ニョンゴ。二役)は「私たちは、アメリカ人だ」としわがれた声で語り掛ける。


 避暑地の別荘で奇妙な来訪者によって平穏が破壊される、という展開はミヒャエル・ハネケ監督の『ファニーゲーム』を彷彿とさせる。裕福そうな家族が休暇を過ごす別荘に白い手袋を嵌めた紳士然とした若者二人が現れ、「卵を貸してください」と頼む。彼らに卵を渡したために家族は不条理としかいいようがない目に遭ってしまう。


 この『アス』も同じで、アデレードの家族はアスに不条理極まりない仕打ちを受ける。アスの目的は同じ姿かたちをしたアデレードの生活を乗っ取ることだ。アデレードの家庭は別荘をもってそこに遊びにいくぐらいの生活をする富裕層なのに、同じ姿かたちのアスたちは恵まれた生活をしているようには見えない。アスは特権に与れなかった者たちの象徴だ。アデレードらのような特権階級の人間たちの生活はアスのような人々を搾取して成り立っている。
 搾取され続けた人間が「我々から奪ったものを返せ」と襲ってきたとき、搾取し続けてきたことを蔑ろにして、特権階級であることを無自覚に受け入れてきた人間はどうするだろうか?戦うのだ。バットを持ち、ゴルフクラブを振るって同じ姿かたちをしたアスと戦って殺すのだ。


 本作の冒頭、テレビに『ハンズ・アクロス・アメリカ』なるイベントのCMが流れる。これは1986年にアメリカで実際にあったチャリティーイベントだ。お金を払うと行くべき場所が伝えられて、そこにいる人と手をつないでくれ、そしてアメリカを東海岸から西海岸までつなごう!という無理のあるイベントで、この前年度にウィー・アー・ザ・ワールドでアフリカの貧困を救おうとして大成功を収めた、同じところが今度はアメリカの貧困を救おうと企画されたのが『ハンズ・アクロス・アメリカ』だった。が、こちらは大失敗する。遠い外国の、テレビでしか見ないような貧困は救おうとするが、自分の国で普段目にするホームレスらの貧困は救おうとしなかったのだ。彼らの搾取の上に特権階級の生活は成り立っているのに!

 同じ姿かたちをした、搾取される人々の存在を忘れてはならない、というテーマに搾取され続けている僕などは深くうなづくしかない。ホラー映画にただならぬメッセージを込めたジョーダン・ピール恐るべし。


 ・・・といった深いメッセージに戦慄するも良し、突然の笑いに手をたたいて笑い転げるも良しなのだ。
 劇中、暗闇に黒人が現れたら怖いよね~どこにいるかわからないし!という真夜中のサンコン探しレベルのネタや、玄関に合鍵を隠しておいたら、それを見つけられてしまうというところで旦那が「お前は白人か!」(そんなところに黒人は鍵を隠さない)と奥さんを叱る、黒人をネタにしたベタなギャグの数々がすごくシリアスな場面でいきなり放り込まれてくる、この恐怖と笑いの緩急さ、日本人の私たちも爆笑です。


  


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2019年09月16日

右にも左にも配慮した毒にも薬にもならないコメディ『記憶にございません!』



 三谷幸喜の最新作は記憶を無くしてしまった総理大臣が、それ以前の自分が傲慢でどうしようもない最低の政治家だったことを知り、反省して立派な政治家になろうとする、毒にも薬にもならないコメディだ。


 中井貴一演じる総理大臣・黒田は国民の支持率が2.3%しかない、文字通り最低の総理大臣だ。安倍晋三でも30%は支持されているというのに・・・
 あまりに最低すぎて演説中に石を投げられ、その石が頭にぶつかったせいで病院へ緊急入院。意識を取り戻した黒田は自分が総理大臣だったという記憶をきれいさっぱりなくしていた。閣僚の顔も名前も思い出せないのだから、仕事にならんと辞任を考える黒田を側近らが「今辞められたら国会が混乱する」と押しとどめ、側近の3人だけが真実を知っているという状態で、記憶を無くした総理を担ぎ出す。

 この黒田という総理、本当にどうしようもない最低の人間で、態度は傲慢だし、女癖は悪いし、自分の高校時代の友人の土建屋に便宜を図って税金を横流しし、必要でもない第二国会議事堂を建てようとしたりする。国会で不正を追及する野党議員の吉田羊は実は愛人で、「国会であんなに厳しく俺を追及しやがって・・・今度は俺がベッドで追及してやる!」とプレイのために国会を利用するクズっぷり。野党の立場では何もできないので、中井の与党と合併を持ち掛ける吉田羊が「合併!がっぺーい!」と連呼するところは『釣りバカ日誌』を彷彿とさせるバカらしいにもほどがあるシーン。
 こんな人間じゃあ国民に好かれるわけがない!と自分の最低人間さを思い知らされた中井は記憶を無くしたのを機に生まれ変わろうとする。「記憶にございません!」の一点張りだった自らの不正疑惑を認め、マスコミに対して全面謝罪。自分の友人に図っていた便宜も取り消し、仲が冷え切っていた家族とも和解しようとする。しかし彼の足元には爆弾が埋められていた。元新聞記者の佐藤浩市が総理夫人(石田ゆり子)のスキャンダルを握っていたのだ。夫人は側近のディーン・フジオカと愛人関係だった・・・


 生まれ変わろうとする総理がかつての恩師を呼んで「政治のことを一から勉強しなおそう!」と三権分立から始めるという、どれだけレベルが低いんだ!
 日本の政治が混迷している今、「国民に支持されない嫌われ総理が記憶を無くしたことで生まれ変わろうとする」という内容からどれだけ安倍政権を揶揄するお話かと思いきや、なんの風刺にもなっていないのだ。
 こういう映画をやるという聞いた時、随分リスキーな企画だなと思ったのだ。たとえどんな形でも現政権をネタにすれば右からも左からもなんらかのイチャモンをつけられるだろうし、それに三谷が耐えられるのか?と。

 ところが出来上がった映画を見たところ、まずこれは日本の国の話ではないのだ。「日本」という単語が出てこないし、官邸には国旗すら掲げられていない。変なライオンの置物や旗が立ってるの。
 つまり日本のようだが日本ではないどこかの国の話なのだ。なるほど、これなら右からも左からも文句を言われない!架空の国の話なんだから。どちらからもイチャモンつけられないよう徹底した配慮がなされており、腰砕けですわ!情けない!舞台人なら平田オリザみたいに「安倍さんは海外ではレイシストと言われている」ぐらいのこと言えばいいのに。

 風刺にもなっておらず、コメディとしてもまるで笑えない。一体何がしたくてこの映画を作ったの?
 ただ右からも左からも文句つけられないようにした配慮のおかげか、それなりにヒットしているそうだ(興行3日で約4億)。それ自体が日本の政治に対する有権者のダメさ加減を現しているようで、映画の出来同様大いに失望した。せめてラストは中井の後任に若人あきらが選ばれて、「記憶にないよぉ~」ぐらいのオチをつけておけと。

 誰か石を投げてくれ!この映画に期待した記憶をなくしたい。この映画を見た記憶はございません!

  


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2019年09月12日

佐藤二朗のギャグで笑ったら負け『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』




 将来を期待されたエリートたちが集まる名門・秀知院学園。その頂点に君臨するのは庶民の出でありながら学力のみでトップに立っている生徒会長・白銀御行(平野紫耀)と財閥四宮グループの令嬢である副会長・四宮かぐや(橋本環奈)。
 学園内でも「理想のカップル」と持ち上げられ、本人たちもまんざらではないが、白銀はエリート層に対するコンプレックスからか、かぐやは生まれついてのお嬢様故か、変にプライドが高くて素直になれない性格なので、実際は両想いでありながら「相手の方から告白してくるなら、考えなくもない」とひねくれてしまい、「告白した方が負け」と思うようになってしまった!画して白銀とかぐやはあの手この手で相手に告白させようとする、天才たちの恋愛頭脳戦がはじまった。そう、恋愛は好きになった方が負けなのである!!

 という素直になれないツンデレ同士の果てしない戦いを描いたラブコメ漫画の実写化である。この手のデフォルメのキツイ漫画の実写化はいかに役者がデフォルメ演技に染まり切れるかにかかっているが、その意味ではこの実写化、ほぼ完璧

 漫画内でキャラに「白銀を演じるなら平野紫耀」と書いたらホントにそうなったキンプリ平野紫耀は周囲から美化されすぎているが、ホントは間の抜けたポンコツキャラという2枚目半を好演。しかし原作にあった「私服がダサい」エピソードはどうしても本人がカッコよすぎたせいか、不採用になったのは仕方あるまい。

中学生の箪笥の奥から出てきたような私服を着る白銀

 決め台詞の「お可愛いこと・・・」を虫ケラでも見るような目つきで再現する橋本環奈のゾクゾクするような美少女っぷり、かぐや様にしか見えないわ!

 だがこの二人を上回るのが本作のメインヒロインであり、「見た目100点、頭の中身3点」の藤原書記を演じた浅川梨奈。アニメ版で藤原役だった小原好美の声に似せてくるというテクニックで藤原書記を完全に再現していた。『咲-Saki-』でも廣田あいかが演じた片岡優希をアニメ版の声優だった釘宮理恵に寄せてくることで完全に再現していたが、それと同じことをしてくるとは・・・

 こうした役者陣の過剰にデフォルメされた演技によって漫画的なラブコメ表現が嫌味に見えないことに成功しているのだけど、そんな若手のアイドル役者の努力と才能をたったひとりで叩き潰しているのが佐藤二朗だ。

 佐藤二朗は中盤以降に登場するかぐやの「恋の病」を診療する医者役なのだが、佐藤二朗が出てくる場面はダボが出るほどつまらない。
 特に二つの場面がつまらない。スひとつはトレスを無くすためにソーラン節を踊る、という場面。『情熱大陸』風にテレビカメラが病院に入っている設定で、病院のロビーでソーラン節を踊ってる時にカメラの前を松葉づえをついた患者が横切ると

「邪魔だ!邪魔だよ!」

 とその患者を押しのける!その後も踊り続けるのだが、後ろで見ている受付の女性がこらえきれずに笑いだすと

「ちょっと!何笑ってるの!撮ってるから笑わないで・・・ブハッ!だから、笑っちゃダメって・・ぶわっはっは!」

 と自分のやってることがおかしくなったのか、自分も笑いだす。これ、NGシーンじゃないの?自分のやってることで笑うなよ・・・それ、見てるこっちは全然笑えないから!
 もうひとつはラストで平野紫耀の前に突然現れて、「あなたは誰ですか?」とたずねると、

「私か?私はこの作品ナレーションを担当してる者だよ!」

 とメタ発言。唖然とする平野を置き去りにして変な歌を歌いながら去ってゆく。クスリとも笑えない。

 佐藤二朗のギャグはいつもこれで、わかる人にだけわかればいいという、内輪受け。佐藤二朗のギャグがわかるほど人間ができていない僕には彼が出てくる中盤以降は観るのが辛くなるほどの拷問時間だった。劇場には佐藤二朗のギャグでクスクス笑う人がいたので、世の中はよっぽど鍛えられた賢者たちが存在しているのだろう。だが僕は笑うことができない。
 映画とは、佐藤二朗のギャグで笑った方が負けなのである!!

  


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2019年09月08日

映画の中の夢こそ現実『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』




 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・・・といえば4時間近くあって途中で休憩時間のあるレオーネの遺作か、リー・リンチェイが実在の格闘家を演じたシリーズが思い出されるところだが、これはタランティーノ監督の9作目で、1969年のハリウッドを描いた作品だ。過去にタランティーノ映画で主演を務めたレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが初の競演を果たしている。

 ディカプリオ演じるリック・ダルトンは西部劇TVドラマのスターだったが、映画への進出に失敗し今は若手スターを輝かせる悪役ゲストで食いつないでいる落ち目の俳優。プロデューサー(アル・パチーノ)からは「イタリアの西部劇にでも出たら?仕事はいっぱいあるよ」と言われてしまう。クリント・イーストウッドなどはTVの西部劇からイタリアのマカロニ・ウェスタン(当時はスパゲッティ・ウェスタンと言われてた)に出て活躍し、ハリウッドに復帰して大スターになった稀有なケースだが、イタリアで仕事をすることは「落ち目」以外の何物でもなかった。

「俺、イタリアで仕事しろって言われたよ~もう落ち目だよぉ~」

 とディカプリオは運転手として雇っているスタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)にめそめそ泣きつく。ブラピはディカプリオ専属のスタントマンで長年の相棒だ。今は彼も仕事がなく、普段はトレーラーハウスに住んでいるほぼ無職だが、ボスであるディカプリオとは友情で結ばれ彼のためならなんでもする男だ。風で倒れたアンテナの修理だってやっちゃうぞ!意味もなくシャツを脱いでムッキムキの肉体(50代とは思えない)を晒すブラピ(観客サービス)。

 男らしいブラピに比べてめそめそして情けないのがディカプリオ。必死に取ってきたコロンビア版スパイダーマンのピーター役、ニコラス・ハモンドが監督の西部劇の悪役仕事も、前日に酒を飲み過ぎてセリフが入っていないまま二日酔いで現場入り。

「なんで俺、飲んじまったんだ!あれほど控えろっていったのに!どうして8杯も飲んだ!そこは4杯にしておけよ!」(いや4杯もダメだよ!)

 休憩中に子役の女の子に説教されたり、暇つぶしに読んだ本の主人公が怪我のせいでまともに動けなくなって、みじめな人生を送っているという内容に「まるで今の俺みたいだぁ~俺はダメだよぉ~」とズルズル鼻を啜って泣いちゃう。情緒不安定にもほどがあるよディカプリオ・・・

 そんな男は不安定なディカプリオの隣の家に引っ越してきた人がいた。若手映画女優のシャロン・テートと若手映画監督のロマン・ポランスキーだ。『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クインでおなじみのマーゴット・ロビーが演じるテートは『哀愁の花びら』(のちにカルト的人気を誇ることになる『ワイルド・パーティ』の前作、だったが『哀愁~』の原作者に拒否されてパロディ化することになった)『サイレンサー第4弾/破壊部隊』で人気上昇した若手女優。それまでは陰キャの女王みたいな役や、トーニャ・ハーディングとか、どぎつい役ばかりしていたロビーも、本作はキラキラ笑顔が眩しい天使のようなテート役を好演。
 しかしテートの人生の顛末を知っている人にはわかる。ハリウッドを震撼させたシャロン・テート殺害事件まであと2日ということを。

 ブラピはテート殺害事件の実行犯グループであるチャールズ・マンソンファミリーのアジトにそうと知らず入り込む。それまではロサンゼルスの陽光が眩しいラブ&ピースな画面が突如『悪魔のいけにえ』みたいなタッチになるのでびっくりだ。その後の惨劇を予兆させておいて、映画は衝撃のクライマックスに突き進む。

 最近のタランティーノは本当の歴史とは違う顛末を用意する歴史修正映画とでも呼べばいいのか・・・にハマっていて、ユダヤ人がヒットラー他ナチスの人間を火炎放射器で焼き尽くす『イングロリアス・バスターズ』や。黒人奴隷が白人の奴隷商人らに復讐する『ジャンゴ 繋がれざる者』などを作ってきた。
 それは映画に取りつかれた人生で、実際の歴史とは違う、「俺にとっては映画の中の夢こそが現実なんだ!」という映画の現実を愛したタランティーノのメッセージ、愛なのだ。


  


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2019年08月31日

連続上映1000日突破!

 片淵須直監督のアニメーション映画『この世界の片隅に』がこの8月8日に連続上映日数1000日を達成。そして今もなお上映が続いているのだ。

大高宏雄の新「日本映画界」最前線
異例の1000日連続上映 映画「この世界の片隅に」が持つ力

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/261058

映画「この世界の片隅に」 広がる共感上映1000日超
片渕須直監督 戦争下の日常に焦点 記憶の風化に危機感

https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=15670029015251


 茨城県の土浦セントラルシネマズでは17年2月から現在に至るまで連続で上映が続いており、「聖地」と化しているという。元々クラウドファンディングによって制作された映画だけに草の根運動によってその人気が支えられているわけだ。
 大高宏雄氏の記事では「このような長期間上映は国内では初めてではないか」とのことですが、国内の連続上映記録は『祈り~サムシンググレートとの対話』の1192日が連続上映の記録だ。『この世界の片隅に』がこれに続く1000日越えとなり、このままいけば年内に記録更新が予想される。

 ところで、『祈り~』って何?という人もいるだろう。僕も知らない。ネットで検索してみると、筑波大名誉教授の村上和雄氏が提唱するサムシング・グレートなる「生命の存在に対してダーウィンの進化論を補完する存在」と「祈り」を含めた心の働きが遺伝子に影響を与えることを表現している・・・ことについての映画だそうです。この村上和雄名誉教授は天理教の信者で、サムシンググレートは天理教の親神様のことなんですね。要するにトンデモ映画なんです。
 この1192日という記録がT教の熱心な信者に支えられたことは言うまでもありません。『この世界の~』も熱狂的な支持者によって支えられているのだから、同じといえば同じですね。

 さあ『この世界の~』支持者のみなさん、トンデモ映画の記録を越えるべく頑張りましょう。ちなみにアニメ映画ではガルパン劇場版の371日を大きく引き離してトップです。




  


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2019年08月30日

書くことはやめられない『ガーンジー島の読書会の秘密』



 イギリス海峡フランス側に位置するチャネル諸島はイギリスのリゾート地だが連合王国に属さない、イギリス王室保護領となっている。もとはヴァイキングが収めていたノルマンディー公国の領地であった。13世紀初頭にイングランド王がフランスとの戦争に敗れノルマンディー公国を失ったが、チャネル諸島はイングランド王に忠誠を誓ったためイングランド王領のまま、現在に至っている。そんなチャネル諸島で2番目に大きい島、ガーンジー島を舞台にした『ガーンジー島の読書会の秘密』を観た。


 第二次大戦終結直後のロンドンで、駆け出しの作家ジュリエット・アシュトン(『ベイビー・ドライバー』で主人公ベイビーに無償の愛を捧げるヒロイン役で人気爆発したリリー・ジェームズが演じている)はある一通の手紙を受け取る。それはドーシー・アダムズ(ミキール・ハースマン)というガーンジー島の住民で、ジュリエットが戦争中に生活費のために古本屋に売った本をドーシーが偶然手にし、そこにジュリエットの名前と住所が書いていたので手紙を送ったのだ。戦争中はナチスに支配されていた島だったが、終戦したので島の本屋を復活させたく、ロンドンの書店の住所を教えてほしい、というもので、戦争中は“読書とポテトピールパイの会”に所属し、会は夜間の外出を禁止し、家畜すら島民から取り上げる厳しい統治をしていたナチスから豚肉を隠すために生まれた、というくだりに興味を持ったジュリエットは「会のことを教えてほしい」と返事を出す。

 ドーシーの返事には会は自分の他に若い女性のエリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)、その知人で初老の女性アメリア(ペネロープ・ウィルトン)、自家製のジンをみんなに振る舞うアイソラ(キャサリン・パーキンソン)、郵便局長の老人エベン・ラムジー(トム・コートネイ)を合わせた5人。最初はアメリアが密かに隠していた豚をみんなで食べよう、というだけであったが、その帰りにナチス兵に外出したことを咎められ、咄嗟にエリザベスは「読書の会です」といってごまかした。体裁を整えるために5人は営業していない古本屋からかき集めてきた本をみんなで読むようになり、終戦後の今もそれは続いている。厳しいナチス統治の中でただ一つの娯楽であり、「会は僕らの避難所だった」というドーシーの手紙に興味を募らせたジュリエットはこれを新聞の記事にしようとガーンジー島に赴く。船に乗り込む寸前に恋人のマーク(グレン・パウエル)から予期せぬプロポーズを受け、恋も仕事も上向きの彼女は島へ向かうが、読書会のメンバーからは「会のことを新聞記事にしたい」というとメンバーからは「記事にされるのはお断り」と言われ、距離を置かれてしまう。この場にいないエリザベスのことを聞いても「今は島にいない」と言われるだけ。

 ジュリエットは会のメンバーからエリザベスの為人を聞き出す。エリザベスは誰にも分け隔てなく優しく、他人に尽くす聖女のような人だとドーシーから教えられるが、宿の女主人シャルロットからは「あんな悪女はいない」「会の連中に嘘を吹き込まれているだけで、あの女はとんでもないアバズレさ」とまるで逆のことを聞かされる。エリザベスの秘密に迫ろうと滞在期間を延ばすジュリエットは、エリザベスが島にいない理由、その真相にたどり着くのだが・・・


 英国アカデミー賞に輝いた『フォー・ウェディング』、デップ&パチーノの『フェイク』などで知られる巨匠、マイク・ニューウェル監督による本作はナチスの支配に揺れる島の住民が戦争に翻弄され、引き裂かれる悲劇のメロドラマだ。その悲劇に島民のみならず、ロンドンで戦争の災厄に見舞われたジュリエットも巻き込まれていく。
 ハーレクインロマンスも真っ青の展開だが、ニューウェルの演出や、リリー・ジェームズ他、『ダウントン・アビー』の出演者による優雅で洗練された物語にはメロドラマには縁のない40代オッサンの僕でも思わず前のめりで夢中になってしまった。そして悩みに悩んだ挙句、物語を書くことを決意したジュリエットが怒涛の勢いでタイプライターを叩きまくるシーンには、胸にこみ上げるものがあった。一日数百アクセスぐらいしかないこのブログを10年続けている僕もどうしても書きたいこと、残したいことがあってキーボードをたたいているわけです。エリザベスと僕では書いている内容は大分違いますけど・・・書くことはやめられない!

  


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2019年08月28日

POMPOSAN THE MOVIE

 杉谷庄吾【人間プラモ】先生の漫画『映画大好きポンポさん』がアニメ化決定、TVではなくて、映画で!!

Production GoodBook
@info_GoodBook
アニメ化の話を当社がアニメ会社とは知らずに スタッフの座組みを完了させて このメンツで作るから 原作許可下さい!来られ
ん〜って悩んだのですが まぁ こっちがお金出さなくて作ってくれるならいいか!というようなノリで軽くOKしたら マジになりました!



発売したばかりのスピンオフの帯にも記載

 この『映画大好きポンポさん』は映画の都ニャリウッドで大物プロデューサーだったお爺さんのすべてを受け継いだ天才プロデューサー(専門はB級モンスター映画)、ポンポさんの下で働く、学校では居場所がなく、映画の世界に逃げ込んでいた映画おたくのジーンくんがポンポさんに才能を見出されたことで映画製作の現場に足を踏み入れることになる、クリエイターの夢と狂気を描いた感動映画制作漫画である。

 最近流行りの映画漫画の多くがすでに作られた映画について語ることがメインテーマなのと比べ、こちらはまだ作られてもいない映画を作る話だ。
 本作の中でつくられる映画についてのあらすじを読むだけでどれもこれも面白い。この作品が出来上がったらさぞかし傑作になるだろうと。そして単行本の中で2ページだけカラーになる場面の美しさは筆舌に尽くしがたい。映画について感動と興奮を呼び覚ますことになるこの漫画がアニメ映画化というのは久しぶりにワクワクする話だ。

 これ、実写にしても通用する内容なので、ぜひハリウッドで本格的に映像化されてほしいとも思う。

 ところで、上映時間はもちろん90分なんですよね!?

  


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2019年08月27日

踊る佐野史郎!『騎士竜戦隊リュウソウジャー THE MOVIE タイムスリップ!恐竜パニック!!』




 毎年夏の恒例、スーパー戦隊と仮面ライダーの合体映画。

 公開してから大分経った時期に観に行ったのだが、夏休み中だったこともあって親子連れがまだちらほらといた(というか親子連れで観に行く映画なんだけどな・・・)。近くの座席にいた小学校一年ぐらいの男児と母親の二人連れのうち母親はリュウソウジャーが始まった途端、寝息を立てていた(笑)。息子の方は楽しんでいたのかと思いきや、終わった後の会話を聞くと、「つまんなかったね!」そりゃないよ!リュウソウジャーはまだ面白い方だったぞ!!

 リュウソウジャー一行は龍井うい(金城茉奈)がやっている動画サイト用の撮影に付き合わされて福井県の県立恐竜博物館にやってきた。福井県立恐竜博物館といえば恐竜モチーフ戦隊の先輩、獣電戦隊キョウリュウジャーのダンスを撮影した場所じゃないですか(キョウリュウジャーの劇場版ロケにも使われた)。戦隊マニアはニヤリとする展開。

 展示されていた6500年前の隕石が割れ、中から二匹の騎士竜が現れ、博物館の外にいた女性の首飾りと合体。彼女は6500万年からタイムスリップしてきたリュウソウ族のユノ(北原里英)で、彼女が生み出したマイナソーの力でリュウソウジャーたちを連れて6500万年前にタイムスリップしてしまう。ういとリュウソウゴールド・カナロ(兵頭功海)は「展示物を壊した」と女性職員(シンケンジャーに出ていた森田涼花!)に連れていかれてしまう。

 6500万年前の世界で自分たちが見たこともない恐竜たちが生きている姿を見たリュウソウジャーたちは驚きを隠せない。この世界ではユノの父親である科学者のヴァルマがリュウソウ族を導くリーダーであったが、迫りくる巨大隕石による破壊後の世界を生き延びるために極端な弱肉強食を推し進め、生き残ったものだけを隕石から守るシェルターに入れようとしていた。ヴァルマを演じるのは特撮作品に造詣が深い佐野史郎。出番こそ多くはないが、印象深い悪役を熱演。

 リュウソウジャーたちとユノはヴァルマを説得するが聞き入れられず、ヴァルマが自らつくったガイソーグの鎧の前に敗北する。本編ではいまだ謎の存在だったキャラクター、ガイソーグの秘密が少しだけ明かされており、今後の展開にどう影響するのか期待です。

 マイナソーの力で再び現代に戻ったリュウソウジャー。現代で暴れまわる巨大マイナソーをキシリュウオーファイブナイツで倒すと、その影響でまたまた6500万年前にタイムスリップ!(本作では6500万年前と現代をやたらと行ったり来たりする上にタイムスリップの条件もさほど示されないので、その辺は結構いいかげん)

 巨大隕石は地球に近づいており、しかも現代の資料で見た隕石よりも遥かに大きい。このままでは恐竜だけではなく、地球自体が消滅してしまう!
 ユノはヴァルマしか入ることのできない神殿に眠るキシリュウオーのプロトタイプ、キシリュウジンを使えば隕石を破壊できるかも知れないと告げ、全員で神殿に乗り込むことに。しかし作戦はヴァルマに見破れており、激しい戦闘が開始される。リュウソウレッド・コウ(一ノ瀬颯)がヴァルマをひきつけ、他の4人はキシリュウジンのいる神殿へ。

 ここでひとつの問題が。リュウソウジャーたちがタイムスリップできたのはユノが生んだマイナソーの力のせいで、マイナソーが滅んだ今、タイムスリップができない!隕石を破壊して地球を救っても現代に帰ることはできないが、覚悟を決めた4人は隕石に立ち向かう。
 一方、コウはガイソーグの前に追い詰められるが弱肉強食の考えを改めないヴァルマに怒り心頭。本編でも見せたことのない強い怒りの表情でパワーアップ。ガイソーグを破りヴァルマを会心させる。

 この本編でも見せたことのない・・・っていうのがポイントで、夏の合体映画の撮影ってライダーは終盤に向けてラストスパートをかけるタイミングなのに比べ、スーパー戦隊って本編の撮影開始直後ぐらいに撮影してんですよ。役者陣はキャラクターが何にも固まってない状態で撮らされているので、大変ですよ。毎年。ちなみにカナロ役の兵頭くんはこの映画が初撮影だったとか・・・おかげでリュウソウゴールドは一瞬も出てきませんでしたよ・・・
 その状態でコウが本編でもあまり見ることのない怒りの表情を見せているのは物語上の都合もあるのでしょうが、以降はこういうキャラクターになっていくということなのかも。
 

 それ以外では時空のゆがみが起きたら現代に戻れるとか、かなり適当な部分があるので見ている僕がパニックになりかけましたが、現代に戻ったコウたちが自分たちの活躍を記した石板が残されているのを見つけて、自分たちのソウルが6500万年前のリュウソウ族に伝わり、時を越えて現代に受け継がれた・・・という事実(フィクションだよ!)には胸がじいんとしますね。ちなみにユノやヴァルマの時代には騎士竜がヴァルマのディノミーゴ、コブラーゴしかいないのだけど、この経緯を経て騎士竜の必要性が高まったのだな・・・とか、リュウソウ族が内紛の結果、陸と海に棲み処が別れていくのも、この時ヴァルマが起こしたサバイバルが尾を引いた結果なんだな・・・と想像でき、32分しかない割にはきちんと本編と整合性を持たせているというのが大したもの。

 ゲストの北原里英、佐野史郎ともども生き生きとした演技を見せてくれ、特に佐野史郎が嬉しそうにケボーンダンスを踊るエンドロールは控え目にいって最高です。


  


Posted by 縛りやトーマス at 02:32Comments(0)映画特撮・ヒーロー

2019年08月25日

このキャバクラ・・・高そうだな『月のキャットウーマン』



 月ってうさぎいないんだね~とはアニメ『女子高生の無駄づかい』の主題歌ですが、2019年にもなって月にうさぎがいると思っている人はいませんが、代わりに・・・キャットウーマンはいるかもしれない!というのがこの映画『月のキャット・ウーマン』(1953)です。
 プロデューサーはあのZ級SF映画『ロボット・モンスター』、B級怪獣映画『昆虫怪獣の逆襲』でおなじみ、アル・ジンバリスト。その時点でお察しです。

 人類初の月探査ロケットが発射。乗り込むのは5人の宇宙飛行士。隊長のレアード(ソニー・タフツ)はマニュアル通りの堅物で、まるでリーダーシップがなく、月に到着後も周囲に行動方針を決められてしまい、「リーダーは私だ!」と騒ぐのが仕事というダメ隊長。副長のキップ(ヴィクター・ジョリー)はレアードとは長年のコンビで、航海士のヘレン(マリー・ウィンザー)はレアードとは恋人だが、それを科学的関係と言ってるのがおかしい。だがキップも密かにヘレンに熱い視線を送っており、どうでもいいことですが、この三角関係がのちに波乱を起こすことに。残りは通信士のダグ(ウィリアム・フィリップス)と整備員のウォルト(ダグラス・フォウリー)だが、この二人はさらにどうでもいいので割愛。

 月を目指す流線形ロケットの宇宙船月ロケット4はどっかの小会議室程度の広さしかないセットで、事務机と事務椅子、キャンプ地にあるようなリクライニングに腰ベルトをして寝るという、ひっくり返っても宇宙船には見えないつくりで、低予算にも程がある。
 地球との通信中にスーパーで売ってる打ち上げ花火みたいな音を立てて飛んでくる隕石と衝突。そのショックで原子炉(!)が暴走。副長キップが対放射能スーツ(レインコートにヘルメット)を着込んで船室真下の原子炉(そんなところにつくるなよ)に突入。扉を開けた瞬間、白煙がもうもうと上がって船室を満たします。ああ・・・死んじゃうよ・・・それじゃあ・・・船員は・・・みんな放射能に汚染されて死んじゃうよ・・・



 原子炉の暴走を家庭用消火器(!)を使って無事止める。どういうことだよ・・・命がけで帰ってきたキップはヘレン相手にここぞとばかりにアピール。ヘレンもまんざらではない様子で、ヘレンの風見鶏っぷりが三角関係を加速させる。


 月に到着し、着陸地点を探そうとするレアードにヘレンは裏側への着陸を要求。裏側には完璧な着陸地点があるという。

「なぜかはわからないけど確信があるのよ」
(それ確信って言わないよ!)

 誰も来たことがない月の着陸地点に詳しいヘレンに疑問を持つも、恋人のいうことにゃ逆らえないと、レアードはスケベ心を隠しもせずにヘレンに言われるがまま月の裏側へ。隕石がぶつかった個所を先に修理しようとするレアードに「いや、先に探検よ!」と彼女の特権を乱用して我を押し通すヘレン。恋人のいうことにゃ(以下略)

 書割の月の風景に感動しながら、奥行きのないセットを左に進む。月の世界は左右しかありません

 ヘレンが指さす先に古代文明の遺跡都市、そこへ続く洞窟を見つける一行。たどり着くと「文明がある以上酸素もあるはず」となにが「はず」なのかまるでわからないことを言ってヘレンがマッチの火をつける。

「ほら!燃えたわ!酸素があるのよ」
「本当だ。よし暑苦しい宇宙服は脱いじゃおう」

 とほいほい作業着になる5人。そんな不用心な連中を宇宙の巨大蜘蛛が襲う!ちなみに吊り糸が丸見えです。ピストルで蜘蛛をサクッと片付けるも謎の黒い影が一行を襲う!それは月の裏側に住む月星人、キャットウーマンだった・・・ちなみに南夕子はいませんでした。

 キャットウーマンのひとりはヘレンの右手のひらに丸い印をつけると去ってゆく。危険なので装備を整えてからまた来ようというレアードに「いくじなしね!このまま先へ進むわよ!」と強引に進んでしまうヘレン。恋人のいうことにゃ(以下略)

 洞窟の奥には宮殿のような場所があり、キャットウーマンらの襲撃を受けるが多勢に無勢か、反撃した地球人らがキャットウーマンのひとりを捕らえるが、なんと目の前で消えてしまった!テレポーテーション!?超能力をも操る宇宙人キャットウーマン!

 やがてキャットウーマンらはヘレンの案内で姿を現し、迷惑のお返しにと宮殿内の部屋でキャットウーマンらの歓待を受けることになる一行。
 ダグとウォルトにはそれぞれキャットウーマンがひとりついて「おいしい食べ物とお酒をどうぞ」とマンツーマンのサービス!これ、キャバクラやんけ。月のキャバクラ、「キャット♡ウーマン」か・・・高そうだな・・・高度何十万マイルだもんな・・・男がいない月の世界では「男なんて何十万年ぶりよ!」と地球人の男たちはモッテモテ。ダグにウォルトも鼻の下を伸ばしまくり、レアードもデレデレして売り上げトップの嬢、じゃなかったキャットウーマンらのリーダー、アルファ(キャロル・ブリュースター)に宇宙船の操縦法を教えそうになります。

 そう、キャットウーマンらの目的は滅びが迫っている月の世界を捨て、地球に行き、占領してしまうことだったのです!しかし移動手段を持たないキャットウーマンたちはたまたま地球からやってきたロケットを見て、ヘレンの精神を操ってロケットの操縦法を聞き出そうとします。都市の外には酸素がないためレアードたちの宇宙服を横取りする計画も同時に立てるのでした。

 まったく、とんでもないキャバクラです。うっかりしてるとみぐるみ剥がされるところだった!月のキャバクラはぼったくりだったのです!
 其の野望を阻止するのはひとりキャバクラの女たちを冷めた目で見ていたキップ。ひょっとして、過去にそういった店で嫌な思い出があるのでしょうか。

「女にうつつを抜かしてる場合か!しっかりしろ!地球に帰らなきゃいけないんだぞ!」

 こんなお店で道徳めいたことを抜かしたところで、周囲から浮くのはそいつです。「ひとりだけ相手がいないからって負け惜しみ言わなくても・・・」とヘレンに痛いところを突かれたキップは「教育的指導だ!」とヘレンを折檻。たまたまヘレンの手に記された丸い印の力を抑え込んだことで洗脳が解け、キャットウーマンらの恐ろしい野望を知ることに。

 その時にはダグとウォルトは骨抜きにされてしまい、レアードも再び操られたヘレンにロケットの操縦法をペラペラしゃべった後。なすすべなしか!?

 しかしここで意外な展開に。ダグについていた嬢、じゃなかったキャットウーマンのラムダ(スーザン・モロー)は純粋にダグのことを思うあまり、地球侵略計画を彼に打ち明けるのです。このぼったくりキャバクラにもまだ純粋な嬢がいたんだ!

 方やウォルトの方は「もうあんたには用はないよ!」とナイフでやられてしまったのだけど。風俗店で相手に気を許し過ぎてはいけません。
 再度洗脳されているヘレンはレアードに色目を使い、キップの前で二人の関係を見せびらかすという行為に!キップが強引に右手の印を抑えて洗脳を解くと

「言え!愛しているのはどっちなんだ!」
「それは・・・あなたよ!」

 目の前で熱烈なキスを見せられたレアードは逆上して殴り合いに。月の裏側で痴話喧嘩してる場合じゃない!
 ダグたちに盗んだ宇宙服を返したラムダはアルファらに平和的に地球へ移住しようと言い出しますが、新人嬢のいうことになど耳を貸す必要もないとトップ嬢のアルファはロケットの強奪に向かうが、

「私の念だってすごいのよ!」

 と超能力対決を挑む!・・・が、時間がないからとアルファは容赦なくシャンパンでラムダを撲殺。その後、画面からフェイドアウトしたキャットウーマンらはレアードらによって射殺(銃撃の音が響いて「よしやったぞ」でおしまい!)され、彼らは無事月ロケット4で地球への帰路についたのであった・・・宇宙船内ではレアードがお互い独り身になったもの同士だからな、と

「地球にもっといい女がいるさ・・・」

 ダグを慰めるのだった・・・染みるわぁ~


 当初はクライマックスにそれはそれはすごいアクションシーンが想定されていたそうですが、予算の都合で実現しなかったそうです・・・予算があったところで、そのクライマックスまでの出来がアレなもんで・・・予算が尽きてよかったのかもしれない。

 このスットコドッコイなSF描写にはセンス・オブ・ワンダーの欠片もなく、今に至るまで最低SF映画としてその名を刻んできました。この5年後にはリメイク作の『月へのミサイル』が作られており、一体なぜリメイクした!最低にいくら最低をかけても最高にはならないんですよ!

 もうひとつこの映画には「なぜ」なポイントがあって、音楽がエルマー・バーンスタインなんですよ!『十戒』『荒野の七人』『大脱走』の巨匠バーンスタインが若い時に手掛けた仕事なんです。そう聞くとこの映画も急に高尚な感じがしてきますね・・・ってねえよ!一切高尚にはならねえよ!この後『ロボット・モンスター』の音楽もやってるし、さらに『フライングハイ』『サボテン・ブラザーズ』もやってるしね。


  


Posted by 縛りやトーマス at 15:30Comments(0)映画旧シネマパラダイス