2015年08月02日

サングラスかけろ!ロディ・パイパーと『ゼイリブ』

 狂乱のスコッチことプロレスラーのロディ・パイパー死去。


WWEなどで活躍のロディ・パイパーが逝去、業界から悲しみの声
http://irorio.jp/gt1999/20150801/249415/

 パイパーといえばやっぱり『ゼイリブ』なので一時期の日曜洋画劇場でイヤンなるまでリピートされていたこの映画について語りたい。


ポスター

横スクロールアクションゲームのパッケージみたいなデザインのBD版


 パイパー演じる主人公のネイダは労働者の仕事を失ってロサンゼルスへ。飯場で知り合ったフランク(キース・デヴィッド)に4丁目のドヤを教えてもらって住み着く。大きな公園にたくさんの人(まあ、ホームレスだけど)が住んでるんだよ。どう見ても西成三角公園の光景です。

 公園に置かれたテレビを見ているネイダ。突然画像が乱れ画面に写った男は「我々は奴らに奴隷にされている!目覚めなくてはいけない!」とアジリだす。画面が元に戻ると傍にいた男ギルバート(ピーター・ジェイソン)はそわそわしながらその場を立ち去り、年中賛美歌が聞こえる自由教会の建物に消えていく。翌日ネイダは教会にこっそり立ちいると賛美歌はテープに録音されたものを流しているだけだということを知り、細工された壁の中に段ボール箱が隠されているのを発見する。教会を出たネイダはフランクに自由教会の秘密をしゃべろうとするが「余計なことは知りたくない」とそっけない。

 数日後、警官隊がやってきて自由教会とドヤが武装した警官隊に襲撃される。何もかも破壊されてしまった後でネイダは教会に忍び込んで段ボール箱のひとつを回収する。汚い街の通りで箱を開けると、中からは大量のサングラスが。金目のものだと思ったネイダはがっかり。そのサングラスをかけてみると街中の看板に「服従しろ」「考えるな」「眠っていろ」「消費しろ」というメッセージが見えた!しかしサングラスを外すと電化製品の広告だったり、カリブへの旅行を促す宣伝だったりする。女性向けには「結婚して子供を産め!」と機械扱いするメッセージまで!
 さらに待ち行く人の何人かは骸骨のような顔をしている!このサングラスは人間に化けて地球で暮らしているエイリアンの正体を見抜き、彼らが街中の広告にサブリミナルメッセージを込めて人間たちを支配しているという事実を証明するものだった!

 82年に公開された映画『ブレードランナー』では街中を広告という広告が埋め尽くし、24時間人々をCM漬けにしている様が描かれていたが、80年代に蔓延した物質主義やほとんど洗脳と化した宣伝社会を批判する意味で監督のジョン・カーペンターは本作を作ったという。そして一部のエリートと中産階級に乗っ取られたマスメディアにサブリミナルメッセージが投下され続け彼らに低所得者層は支配されている!もちろんパイパー演じるネイダは低所得者層、労働者階級の代表なのだ。ネイダ役にプロレスラーのパイパーが選ばれたのも昔のアメリカではプロレスは低所得者層が見るものとされてたからだ。

 真実を知ったネイダはエイリアンのおばちゃんに「てめえの顔はチーズをぶちまけたみたいだぜ!」と暴言吐きまくり。警官に化けたエイリアンがネイダを取り抑えに現れる。「エイリアンに容赦はしないぜ!」と警官を叩きのめし銃を奪ったネイダ、銀行に乗り込んでエイリアンを射殺!これじゃ強盗だよ!
 底辺労働者の生活に鬱屈のたまったネイダが嬉しそうに権力の犬や中産階級の人間(エイリアンだけど)を殺しまくる場面はかなり危険(スカッとするけど!)。
 警官たちに追い詰められるネイダはビルの駐車場で出会った女、ホリー(エイリアンみたいな顔したメグ・フォースター)の車に乗り込む。

 「俺は脱出したい。車を出せ」
 「だめよ、7時半に空手の稽古があるの!付き合えないわ」
 「今日は休め」


 というやりとり(嘘)の後ホリーに真実を伝えサングラスをかけさせようとするが、「それは自分で見たことにはならないわ」「私は嫌なの。強制されるのは」と断られる。フランクといいホリーといい、頑固である。だが、一方で彼らは正しくもあっていくら「この世界は支配されている!」とは言っても自分で気づこうとしないのなら「支配されている」という思想を強制されているだけではないのか?このサングラスだって真実を写している、とは誰も証明できないのだ…
 なるほど、と納得したネイダはとりあえずサングラスを強制的にかけさせることを諦める。ホリーがテレビ局に勤めていると聞いたネイダ、受信機を確かめようとしたところをワインの瓶で後頭部を強打され、さらに背中を押され家のガラスを突き破って真下へ転落!パイパーだから助かった、Anotherなら死んでた。

 なんとか生き残ったネイダ、飯場でフランクを説得しようとするが「俺には家族がいる!余計なことに巻き込むな!」と相手にされず。サングラスをホリーの家に置いてきたので街の通りに隠した段ボール箱を漁ろうと戻るが、箱はゴミ回収車の中に!慌てて回収車に乗り込んでなんとかサングラスを取り戻すとそこにはフランクが…ネイダの飯場の給料を渡しに来たのだ。フランク、エエやつやの~そんなフランクにネイダはサングラスをかけろ、と迫る。
 ここから映画史上に残る(言い過ぎ)アクションシーンが展開する。サングラスをかけて真実を知ろ、と迫るネイダ。「やなこった!余計なことは知りたくねえ!」と拒否するフランク。ホリーには強制しなかったネイダだが、それがとんでもない結果を招いたせいか、もう容赦はしないぜ!力づくでもかけさせてやる!
 「かけろ」「いやかけない」と男二人が激しい殴り合い。バックドロップ、ボディスラム、サイドスープレックスとプロレス技を駆使した二人の戦いは6分以上にも及ぶのだが、カーペンターのまったりした演出のせいで15分ぐらいに感じられる。この場面はカーペンターが尊敬するハワード・ホークスの西部劇『赤い河』でジョン・ウェインとモンゴメリー・クリフトが喧嘩するシーンのオマージュなんだけど、パイパーがプロレスラーなので「やつはタフだ」ということの証明なんでしょう。
 殴り合いの末、強制的にフランクにサングラスをかけさせることに成功。骸骨エイリアンの存在を知って驚愕するフランク。なんだこれは!
 「俺は前から知っていた。奴らがいることを」
 フランクはネイダとともにエイリアンとの戦いを決意する。そんな二人の前に行方不明だったギルバートが現れ、自由教会のアジトに案内される。そこでサングラスをパワーアップさせた最新型のコンタクトを渡される。これならサングラスをかけなくてもエイリアンが見抜ける!何しろサングラスは目立つからね…
 ネイダはなぜかアジトにいるホリーと再会。彼女もどうやら真実を知ったようだ。自由教会のメンバーらが今すぐ反撃するか、チャンスを待つかで議論を戦わせる中、突然アジトが爆発。武装警官隊がやってくる!メンバーがエイリアンから回収した謎の時計でワープし難を逃れたネイダとフランク。ワープって…そんないきなり…(銀行でネイダに襲われたエイリアンが突然姿を消す、というシーンはあったけど!)
 ワープした先はエイリアンたちが使っている秘密の地下通路だった。通路を進んでいく二人は高そうなスーツやドレスで着飾った人々のパーティー会場にたどり着く。会場ではエイリアンの司会者が「みなさんは我々と連合したことで収入が36%も増え、エリートの仲間入りを果たしました」と。するとそこに現れたのは公園でテレビを見ていたホームレスの男だった(演じるのは『ザ・フォッグ』『ニューヨーク1997』『スターマン』などカーペンター映画の常連ジョージ“バック”フラワー。あと『イルザ ナチ女収容所 悪魔の生体実験』にも出てる)彼も会場の人間と同じように高級そうなスーツに身を包んでいる!彼らはエイリアンに魂を売り渡す代わりに低所得者層から脱して中産階級、果ては一握りのエリートと化した裏切り者だったのだ!

 この映画の上手い所はエイリアンが暴力で人間を支配しているのではなく、人間たちと平和的に共存しているような印象を与えるところにある。エイリアンに支配されているからといって大多数の人間は不都合を感じることもない。むしろ美味いメシを食っていい服を来て、外車も乗り回せる。エイリアンの支配に逆らえ、目覚めよ!とアジっている自由教会のメンバーはどう見ても資本主義社会の落ちこぼれだ。彼らがエイリアンの支配によって何か不都合を感じても、自分らには関係ないもんね!公園のホームレスたちが居場所を失ってもほとんどの人間は痛みを感じないだろう。
 現代だってアメリカによる新自由主義によって貧富の差は拡大し、一握りのエリートによるマスメディア支配、洗脳じみた宣伝による広告はあらゆるところで行われている(YouTubeの動画に強制的に挿入されるCMとか)。その裏で自殺者が増える一方だったり中産階級から転落する低所得者層は増え続けている。そしてほとんどの人がその事実を知らされても特に気にしないのさ。フランクのように「余計なことは知りたくない!」と言って。『ゼイリブ』は現代でも通用する色褪せない映画だ。


 『ゼイリブ』とプロレスで低所得者層のヒーローであり続けたロディ・パイパーの死に何も感じないのか!お前はエイリアンか!サングラスをかけろ!

  


Posted by 縛りやトーマス at 01:26Comments(0)映画