2017年01月22日

暴力だけが俺の表現『ブロンソン』



 新作 『ネオン・デーモン』が公開され、日本にも再びニコラス・ウィンディング・レフンの鬼才・天才ぶりが紹介されるのかと思うとワクワク!なので過去作をレンタルでチェックするであろう人たちに傑作『ブロンソン』をご紹介。
(ネタバレありです)


「俺は有名になりたかった。ただ方法がわからなかった」

 薄暗い独房で体を鍛え上げる全裸の男、マイケル・ゴードン・ピーターソン(トム・ハーディ)。彼はイギリスで最も有名な囚人である。映画はマイケルを演じるトム・ハーディの独白、一人芝居で激しすぎる彼の人生が語られてゆく。
 マイケルは有名になりたかったが、どうやれば有名になれるのかわからなかった。いわゆる「有名になりたいという欲求があるだけで表現したい何かなどなかった」というやつ。そんなマイケルはめっぽう腕っ節が強かった。少年時代は誰彼構わずケンカをふっかけ、教師にも平気で逆らう。20歳で結婚するが働いている店のレジから売り上げを盗み、逮捕しにきた警察官を相手に暴れて、耳を食いちぎる!2年後には郵便局を襲撃して7年の実刑を食らう。

「俺にとって檻の中はブタ箱なんかじゃない。ホテルの一室だ」

 そう嘯くマイケルは刑務所内でも問題を起こし続ける。刑務作業を放棄して看守に殴り掛かる。新聞に“制御不能!”と書かれた彼をどの刑務所も扱いきれず、たらい回しにされる。挙句精神病院に放り込まれ薬漬けに。それでも収まらないマイケルの暴力癖。他の患者への殺害未遂を起こして「精神異常者」を放り込むブロードムア病院へ移送する。これをマイケルに看護師が告知するやりとりは顔の半分を看護師にメイクしたトム・ハーディが半身を翻して演じる(笑うところです)。そういう施設は異常殺人鬼とかが放り込まれるところなので「俺は誰も殺してない!」つまり、俺は異常じゃない、という主張なのだ。7年間で保釈されるはずだったマイケルの刑期は14年に及んでいた。

「この俺を不当に扱ったら、徹底的に不当なやり方でぶち壊してやる」

 マイケルはブロードムアで患者、囚人を扇動して暴動騒ぎを起こす。煙突を破壊し、建物に火をつける。機動隊が出動、上空を飛ぶマスコミのヘリコプターに歓喜のダブルピースを見せつける。この瞬間、彼は「イギリスで最も有名な囚人」になった。有名人になってやったぜ!
 甚大な被害を及ぼした囚人に匙を投げた政府は「彼は正常である」として(英国史上最大のブラックジョーク)釈放を決定したのだ。シャバに出た彼はムショ仲間を頼ってアンダーグラウンドの賭けボクシング選手としてデビューする。リングネームを決める際にムショ仲間から「映画スターのような」と言われたマイケルは少しだけ考えて「チャールトン・ヘストン」と答える。『猿の惑星』『地球最後の男 オメガマン』などで鋼鉄の肉体、不屈の魂でアメリカを背負って戦う男の名前!しかしムショ仲間は「愛らしいね。誰も屁とも思わん軟弱な響きだ」と言い捨て、「チャールズ・ブロンソンがいい」映画スターの格では言うまでもなくヘストンだろうが、地下格闘技のチャンピオンになる男なら、断然ブロンソンだ!

 筋骨隆々の肉体を持つチャールズ・ブロンソンは不細工な中年太りオヤジを叩きのめす。実入りも少なく、これでは稼げる男にはなれないと、ブロンソンは1対2、もしくは獰猛な犬(!)を相手にして連戦連勝。もはや人間ではやつに勝てない!
 そんな暴力罰当たり人間ブロンソンも恋をする。ムショ帰りの自分を支えてくれた女と結婚を考え、そのための結婚指輪を宝石店から強奪する。しかし彼女からは「他に結婚する相手がいる」とにべもない。結局出所後69日で再び彼は囚人に。当然舞い戻ったムショでも看守を監禁して、まったく懲りていない。要求は何かと聞かれ「何をしてくれるんだ?」と問い返す。そもそも要求がなかった!
 しかし刑務所内の美術教師ダニエルソンにアウトサイダー・アートみたいな絵の才能を認められ、周囲もブロンソンの更生を信じて疑わない。だがブロンソンはやはりブロンソンだった。ダニエルソンの「私は君のことを理解しているよ」的言動に苛つき、ダニエルソンを柱に縛り上げて監禁(やっぱり)。全身にボディペイントを施したブロンソンは突入した武装刑務官と乱闘を繰り広げる。


 今も囚人生活を送っているチャールズ・ブロンソン本人にあって役作りをしたトム・ハーディは異常暴力人間を完璧にこなして絶賛され、これがきっかけになって『ダークナイト・ライジング』のベイン役に抜擢されたという。
 クライマックス、「俺は屈しない」と宣言するブロンソン。一体何に屈しないのか?自分か?有名になりたいといいながら表現したいものなど何もなかったブロンソンにとってたったひとつ、暴力だけが誰にも負けない表現だった。

  


Posted by 縛りやトーマス at 11:35Comments(0)映画