2018年08月04日

2010年代のエド・ウッドだ!『ブリグズビー・ベア』



 パッと見、とても冴えない25歳の青年ジェームズ(カイル・ムーニー)は両親のテッド(マーク・ハミル)とエイプリル(ジェーン・アダムス)に外出を禁じられ、地下に閉じ込められて暮らしている。外には有毒ガスが溢れていて危険だからと…
 ジェームズの楽しみは部屋のポストに届けられる、クマの着ぐるみが主人公の教育番組(『アレフ』みたいなの)、『ブリグズビー・ベア』ただひとつ。毎日のように同じ番組を見ているジェームズはそれに取り憑かれる。ある夜、ジェームズは警察が両親を連れて行くのを見る。ジェームズも同様に連れ去られ、警察署の一室で担当刑事のヴォーゲル(グレッグ・キニア)から、テッドとエイプリルは本当の両親ではなく、ジェームズは赤ん坊の頃に二人によって連れ去られたのだと教えられる。

 …というまるで『ルーム』みたいな話なのだが、こちらはより奇妙な展開になっていく。ジェームズは本当の両親と妹のオーブリー(ライアン・シンプキンズ)と暮らし始めるのだが、いくら本当の家族とはいっても25年も会っていない人間と普通に暮らせってそりゃあ無理だ!それに両親も妹も明らかにジェームズに気を遣ってよそよそしい態度だし。その上ジェームズにはブリグズビー・ベアのことしか頭にない。警察からブリグズビー・ベアはテッドたちがつくっていたのだと聞かされて「あの人たちが作ってたんだ!サイコーだ!」と大喜び。スポーツや映画を見せて他のものに興味を持たせようとする両親だがジェームズが興味を持つのはクマの着ぐるみだけ。

「ブリグズビー・ベアは僕のすべて、人生なんだ!」

とまるで「クラナドは人生」みたいなことをいうジェームズ。しかし新作はもう見られない…それなら、自分で作ってしまえばいい!
 ジェームズはオーブリーに連れられて行ったパーティーで出会ったスペンサー(ジョージ・レンデボーグ・Jr)がブリグズビー・ベアに興味を持ってくれたことをきっかけにブリグズビー・ベアの続きを作り始めるのだ。
 ジェームズたちがつくる映像は完全に素人仕事で予算もなければ技術もない。切り抜きの背景に安っぽい小道具、ヘナチョコなアクションの数々は失笑そのものだが、ブリグズビー・ベアにすべてをかけるジェームズたちには次々と理解者が現れる。特にヴォ―ゲル刑事はジェームズの純粋な創作意欲に打たれて警察の押収品からブリグズビー・ベアの小道具をこっそり渡してあげたり、かつて『テンペスト』のプロスペロー役で舞台に立ったという過去をうっかり話してしまい、ジェームズにもう一度やろうと誘われる。いざやり始めると昔取った杵柄が蘇り、ワンテイクに異を唱えて「もう一度やらせてくれ。今度はもっといい演技ができそうなんだ」と本気になり始める!
 そんな彼らに強く反発するのは父親のグレッグ(マット・ウォルシュ)だ。ジェームズが作ろうとしているのは彼から息子を奪った誘拐犯がつくったわけのわからない映像だ。グレッグはジェームズには治療が必要だと精神病院で放り込んでしまう。だがジェームズらが撮影している様子をオーブリーから見せられ、ジェームズにはクマの着ぐるみが必要なんだと理解を示す。

 奇妙な設定で始まった映画は、「何があっても映画を作りたいやつら」への愛がほとばしっている。ジェームズは自分の行動に揺るがない自信を持っていて、たったひとつでも大切なものを持っていて、そのためにすべてを賭けることができる人間のなんとまぶしいことよ!
 ジェームズは25年引きこもり生活の割にやたらとポジティブでどう見ても不釣り合いなパーティ会場でブリグズビー・ベアの愛をぶちまけてプチ人気者になってしかも、童貞喪失しそうになる!(未遂に終わるが)そこで童貞卒業したら創作意欲は失われるに決まっているので、未遂に終わった彼はますますブリグズビー・ベアにのめりこむ。
 この超ポジティブで嫌味がなく、テンポよく話が進んでいくところも本作の良さだ。

 クライマックスで目一杯の愛情を注いだ作品がボロクソに批判されたらどうしよう、とジェームズはトイレで嘔吐するのだが、スペンサーは「俺たちは最後まで作り上げたんだ。だから他人からの評価なんてどうでもいいのさ」というのだ!なんという男泣きのセリフ!
 『ブリグズビー・ベア』は創作における産みの悲しみ、辛さを見事に表現している。クリエイティブな仕事をした人はあのラストシーンに必ず泣く。技術や金じゃない!愛なんだよ!と叫ぶ『ブリグズビー・ベア』は間違いなく2010年代のエド・ウッドだ!



  


Posted by 縛りやトーマス at 12:34Comments(0)映画