2018年10月25日

史上最大のカンニング『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』



 2017年に公開されたタイ映画で、タイの国内映画ではNo.1のヒットを記録した。昨今のタイ映画はベスト10に名を連ねるのはハリウッドの大作映画ばかりで国内映画が壊滅的状態だというので、タイ映画界を救う一本と話題にも。
 タイ映画というとトニー・ジャーのムエタイ映画とか、LGBTのバレーボールチームが国体出場を目指す『アタック・ナンバーハーフ』(2000)ぐらいしかイメージのない僕ですが、この作品は先に上げた映画にも負けない世界を相手にできる傑作です。


 リンは成績優秀な少女で、名門校に進学を勧められるが父親と二人暮らしの彼女は自宅から遠いこと、お金がかかることを理由に入学をためらうが校長から奨学生の資格と食堂での食事はタダという条件をつけられ入学する。
 入学初日に性格はいいが成績がからっきしなグレースと仲良くなったリンはテストの成績が不安なグレースから勉強を教えてくれと頼まれる。テスト当日、昨日やった問題ばかりが出るので楽勝だろうと思ったがグレースは昨日やったことも覚えていないような大バカだった。リンは消しゴムにマークシートの記入場所を書いて靴に隠し、後ろの席のグレースに渡すというカンニングをする。無事テストを切り抜けたグレースは自分の彼氏だという富豪の息子、パットにリンを引き合わせる。パットは自分と友人のカンニングを手伝ってくれと依頼してくる。最初は断るリンだったが、ひとりにつき3,000バーツという報酬、そして「学校だって賄賂を受け取ってるのさ。それに有料の授業を受ければテストの問題だって教えてくれるんだ」(タイでは実際にこういうことが行われているそう)というパットに釣られてカンニングを引き受ける。

 面白いのはリンは自分のためにカンニングをするのではなく他人のためにカンニングをさせるところ。ピアノの得意なリンは鍵盤を叩く指の動きでマークシートの記入場所を伝えるテクニックで大勢の人間に解答を伝える。滑らかな指の動きで次々解答を伝えていく場面はまるでミュージカルのように演出される。カンニングも最初は上手くいくけどあるテストでは生徒たちに2種類の問題が配られる。リンの問題用紙は1だ。これでは1の生徒には解答を教えられても2の生徒には教えられない!リンは隣の生徒と問題用紙を交換して残りの時間で解答を伝える。果たしてカンニングは成功するのか?まるで『ミッション・インポッシブル』のようにハラハラドキドキのスリリングな描写がふんだんで文字通り手に汗握る展開が続く。

 この映画で描かれるのはタイの学歴偏重社会と富裕層の子弟がどこまでも特別扱いされる現状だ。パットのいうようにタイの学校では富裕層の子供が寄付という形で学校に賄賂を渡すことでテストの問題を丸々教えてもらったりするインチキがまかり通っているのだ。途中でリンのカンニングはバレて校長から叱責されるのだが
「学校の賄賂は許されて、私たちの不正は厳しく責められるのっておかしくない?どっちも不正なんじゃないの?」
 リンはカンニングのリーダーだが、主導権は彼女ではなく富裕層の子供のパットなのだ。彼らは不正を不正とも思っていないし金を出せばなんでも許されると思っている。ラストでは大学の統一試験STICの舞台でリンは前代未聞のカンニングに挑む。因果応報的な目にあうリンの気持ちなど知らないとばかりに我が世の春を謳歌するパットたちはまったく悪びれていない。パットが彼女にかける言葉は「ちゃんと報酬払うから受け取りに来いよ!」だ。貧乏な苦学生のリンがすべてを投げうっているのに金持ちどもは金と権力さえあればなんでもできるんだ!恥を恥とも思わない。
 日本でもどこぞの医大が特定の生徒たちの点数を優遇して、女子受験者の点を減らすとか常軌を逸したインチキがまかり通ってますけど、どこでも似たようなことやってるんだな。
 社会の不平等に正面からNOをつきつける映画。応援せずにいられない。主人公のリン役を演じたチュティモン・ジョンジャルーンスックジンはこの一本でスターになって今後が期待されているそうで、僕も応援したいが名前がややこしすぎて全然覚えられないのが残念だ。

本国版ポスター。左上がチュティモン・ジョンジャルーンスックジン


  


Posted by 縛りやトーマス at 00:40Comments(0)映画