2019年02月25日

「本当に凄い日本」が観られる映画『サムライマラソン』



 1855年の幕末、黒船到来に揺れる日本。安中藩(現在の群馬県)の藩主、板倉勝明は藩士たちを鍛えるために七里あまりの距離を徒歩競争させる安中遠足を実施。これが日本初のマラソン大会であるとされている。
 これを『超高速!参勤交代』の土橋章宏が『幕末まらそん侍』として小説に。それを実写化した『サムライマラソン』だ。『超高速~』は参勤交代を期限までに成功させないと藩が取りつぶしになる、というシリアスな一面を笑いに変えた傑作だったので、今回も笑いありのコメディかな?と思ったらてとつもないハードな作品だった…


 幕末。江戸幕府は来航したペリー提督らによって開国を迫られる。安中藩主の板倉勝明(長谷川博己)は「アメリカは口では和平を唱えていても、日本の侵略が目的だ」と疑い、やがて起きるであろうアメリカとの戦いのために藩士を鍛える必要があるとし、心体を鍛えるという名目で七里あまりの中山道を往復する「安政遠足」の開催を決定。その距離約60キロ!さらに勝明は「優勝者にはどんな望みもかなえよう」とし、藩士たちは色めき立つ。
 重臣の息子、辻村平九郎(森山未來)は板倉の娘、雪姫(小松菜奈)の婿となって藩を治める野望にとりつかれる。その雪姫は江戸に出て絵の勉強をしたいという夢があったが、勝明に反対されている上に傲慢な平九郎との結婚を拒むため屋敷を抜け出し、男装して遠足にひそかに参加する。藩で一番足が速いとされる足軽の上杉広之進(染谷将太)は両替商の留吉に「1着を譲れば10両をやる」と八百長を持ちかけられる。あばら家で暮らす妻子を見て名誉と金のどちらを取るかで悩むのだった。藩から解雇されたばかりの侍、栗田又兵衛(竹中直人)は隠居する前に一花咲かせようと亡くなった友人の息子と二人で遠足に参加する。

 様々な思いを持つものたちが遠足に参加する中、勘定方の侍、唐沢甚内(佐藤健)は平凡な家庭人であった。しかしその正体は代々幕府から遣わされた隠密。安中藩の動きを怪しく感じた甚内は幕府に密書を送る。受け取った家老の五百鬼(豊川悦治)は安政遠足を謀反ととらえ、刺客を安中藩へ送る。遠足の復路で疲れ果てた藩士たちを討って安中藩をつぶすために。
 甚内は安政遠足に謀反の疑いがないことに気づくが、時すでに遅し。遠足の道中で勘定方の上司、植木(青木崇高)と出会い、彼もまた幕府の隠密であることを知る。植木は幕府の命令に従って藩をつぶそうとするが、長い隠密生活の中で、妻(門脇麦)をめとり、子供を授かり、仲間たちもできた。かけがえのない者たちを藩で見つけた甚内は「これはただの遠足でございます。謀反ではありません」と植木を説得するが聞き入れられず、やむなく植木を斬ってしまう。藩を救うために戦うことを決意した甚内は雪姫、平九郎、広之進ら藩士たちとともに刺客と対峙する。


 日本の幕末を舞台にし、出演者も日本人の映画だけど、なぜか制作側には多くの海外勢が勢ぞろい。プロデュースはイギリス人のジェレミー・トーマス。日英合作映画をニュージーランドで撮影(出資の都合で)した『戦場のメリークリスマス』や中国の清朝・最後の皇帝を描いた『ラスト・エンペラー』を手掛け、異文化の人々をミックスさせることに躊躇しない男は日本の侍の映画をオカルトホラーの『キャンディマン』や文芸作品『アンナ・カレーニナ』まで幅広い作風のイギリス人監督バーナード・ローズに任せ、音楽をミニマル・ミュージックの巨匠、フィリップ・グラスに担当させた。

 日本の映画なのにスタッフの多くはハリウッドで仕事をしている人たちなのだ。黒船の襲来で揺れる幕末の日本を描写したかのような制作によってこの映画は化学反応が産まれることになった。『るろうに剣心』シリーズで迫力ある殺陣を見せた佐藤健のアクションや面構えは「ハリウッドで仕事をしている」ような風格がある。これまでは「顔の綺麗な兄ちゃん」ぐらいのイメージしかなかった佐藤健が30代になって実にいい役者になってきたではないか。舞台でたぐいまれな身体能力を発揮している森山未來も只者ではない迫力がある。
 日本の時代劇なら血の一滴も流れないところ、この映画では首が飛び、斬られた首の口がぱくぱくと動き、死体の上をカマキリが這いずる。役者たちはぬかるんだ山道で泥に塗れ、息を切らして駆けずり回る。


 外国を恐れて閉じこもった国が変革していく話をその外国人スタッフによって制作され、日本では出せないような魅力を引っ張り出せた、というこの事実。
 昨今のテレビ番組では「日本凄い」と凄くもないことを声高に主張することが多いが、本当に凄いのは外国と仕事して、お互いのいい部分を引き出すことなんじゃないでしょうか。本当に凄い日本はこの映画の中にある。



  


Posted by 縛りやトーマス at 06:34Comments(0)映画