2019年08月05日

喪失と再生『凪待ち』



 この映画が公開されていた同時期には公開直後から話題になった『新聞記者』があり、かなり小規模の公開ながらスマッシュヒットを記録した。だが内容が時の政府に批判的なものだったせいか、大手メディアではまったく宣伝されないという異常事態(それでもヒットしたんだから大したものである)。改めていうと、その『新聞記者』と同時期公開で、こちらの作品もまったく大手メディアが宣伝しなかったのだ。主演が元SMAPならぬ現ニューマップ(新しい地図)の香取慎吾だから?

 香取演じる中年男の郁男はギャンブル狂いで、職場の若者と揉めた同僚(同じく競輪狂いの)をかばったせいで仕事を辞める羽目に。内縁の関係である亜弓(西田尚美)のツテで彼女の故郷、宮城県石巻で人生をやり直すことに。

 彼女の娘、美波(恒松祐里)とは仲も良く、石巻には競輪場もないためこれで一からやり直せると誓う郁男だが、彼女の父親で老いて病を患いながらも漁に出る勝美(吉澤健)になじめないことだけが気がかり。この家で勝美の世話を甲斐甲斐しくしている製氷会社の社員、小野寺(リリー・フランキー)に紹介してもらった印刷会社に勤め、東京で「放射能」と呼ばれ引きこもり気味だった美波も夜学で幼馴染の翔太(佐久本宝)と再会、数年ぶりにできた友達との毎日が楽しそうだ。みんながやり直せると思った頃、郁男は同僚に連れられていった競輪のノミ屋にハマってしまう。

 美波は翔太と夜遊びするようになり、それを叱った亜弓と喧嘩して家に帰ってこない。亜弓が郁男とともに行方を捜すが「過保護すぎだ」という郁男に「あんたは本当の子供じゃないから心配しないだけ」と口走ってしまい、口論の挙句「それなら一人で探せ」と亜弓を車から降ろしてしまう。
 郁男は無事美波を見つけ出すのだが、亜弓は何者かに殺害されてしまう。郁男も美波も自分を責め、家には重い空気が漂うのだった。

 それ以来、郁男にはよくないことばかりが起きるように。警察には犯人ではないかと疑われ、同僚が会社の事務所からくすねた金を自分が取ったのではと決めつけられ、暴れて工場の機械を壊してしまい、解雇されてしまう。
 逃げるようにハマったノミ屋で借金を重ね、酔った勢いで夏祭りの客に殴りかかる。絵に描いたように転落し続ける郁男を通りすがりの小野寺が救う。

「あんたダメだよ。こんなことしてたら・・・本当にダメになっちまうよ!」

 どんなに立ち直ろうとしても周囲は郁男をボンクラでどうしようもない奴だとしか見てくれない。自暴自棄になって自分を責め続ける郁男にも最後の最後まで手を差し伸べようとする人が現れ続ける。なのに、それでも郁男はその人たちを裏切って、さらに転落し続ける。

 周囲がどんなに「あんたは悪くないよ」といっても自分自身を許すことができない男の再生を描いた『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2017)を彷彿とさせる物語で、監督はボンクラ、ダメな人間の「喪失と再生」を描かせたら当代随一の白石和彌。芸能界という特殊な世界で喪失し、再生しようとしている香取慎吾と、震災で失われた町を再生しようとしている石巻を舞台に「喪失と再生」の映画を撮ろうという覚悟に魅せられた。
 ボンクラにはそれでも救いの手を伸ばす人が必要なんだと。そしてノミ屋を信用してはいけない

  


Posted by 縛りやトーマス at 21:40Comments(0)映画