2015年08月07日

猿の肉を食う『野火』

猿の肉を食う『野火』

 太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島。日に日に悪化する戦局の中、肺病を患った日本兵・田村(塚本晋也)は前線を追い出され野戦病院へ行けと命じられる。しかし野戦病院も患者でいっぱいなので田村を受け入れる余裕がない。「食うものを持ってきたら入院させてやる」と言われ5日分の食料であるイモを差し出す。「これっぽっちじゃ足りない。もっと持ってこい」と言われた田村、前線へ戻るが「なぜ戻ってきた!」と上官にこづかれ再び野戦病院へ。渡したはずのイモはすでに食われていた。前線に戻るもやはり疎んじられた田村はジャングルの奥地へ入り込む。
 島の現地人は抗日隊と化し、さらに米軍の攻撃によって日本兵はさらに奥地に追いやられる。砲撃によって肉片と化した仲間に複雑な感情(!)を抱きながら田村は迷走の果てに力尽き倒れる。
 田村は仲間の永松(森優作)に助けられ、小さな肉片を譲ってもらう。永松はかつて野戦病院で田村に貧相なイモをわけてもらったという恩があったのだ。

 「こんなところに肉があるのか?」
 「この辺じゃ猿が取れるんだ。また取れたらやるよ…」


 足を悪くし歩けない安田(リリー・フランキー)のために猿を取りに行く永松がそっと田村に囁く。「手榴弾を持ってることを悟られるな。殺されるぞ」忠告も虚しく安田は目ざとく田村の手榴弾を奪い取るのだった。
 田村は永松が猿を狩っているところを目撃する。それは猿ではなかった。日本兵が追い立てられ、永松に銃撃されているのだった。
 「最近の猿はすばしっこくなっちまった」
 田村が手榴弾を安田に取られたと知った永松は安田の居た場所に戻るがそこには誰もいない。安田は歩けない振りをしていたのだ。
 「おっさん(安田)は武器が無いから安心だった。武器があれば攻撃してくるに決まってる。俺たちを猿だと思ってな!」


 1959年に大映で市川崑監督によって映画化された『野火』を塚本晋也が再映画化した本作はカニバリズムがテーマでもあることからかまったく資金が集まらず、塚本監督は自主制作を強いられる。
 ジャングルの奥地を進む描写は半径数メートルの風景を撮すのみで、近所の公園でだらだら歩いているようにすら見える。米軍の機銃によって日本兵が引き裂かれる様は銃声がするだけで敵兵の姿もない。戦車は木々の間にチラリと車体が見えるだけという有り様。名前のある役者は使えずリリー・フランキーや中村達也が出演し、永松役の森優作はオーディションを受けて決まった新人だ。
 しかし低予算を逆手に取る制限された演出が飢えの極地に追い込まれた人間をありのままに撮すことに成功しており、砲撃で吹き飛んだ人間の死体描写は凄まじく、焼けただれ傷口に蛆が湧く死体は生々しい。もはや肉の塊にしか見えない仲間の死体を前に田村は肉を喰らいたい、という禁断の欲求に取り憑かれていく。

 市川崑版は人肉食を直接描くことを避けていたが塚本版はしっかりと猿の肉を食らう場面を描く。戦争を必死に生き延びた田村だが、もう普通の生活は送れない。
 ビッグバジェットならば壮大なスケールの作品になったはずだが、資金は集まらず制作自体が困難になるも戦後70年を迎え、戦争の語り部すらいなくなろうとする現実を踏まえ「今しかない」と強引に作ったそうだ。
 こういう作品にお金が集まらないという事実に目の前が真っ暗になる。





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Posted by 縛りやトーマス at 17:32│Comments(0)映画
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