2016年07月24日

俺は泣かずにいられない『好きにならずにいられない』

俺は泣かずにいられない『好きにならずにいられない』

 「氷の国から届けられた、切なくも感動的な愛の物語」と銘打ったアイスランド映画。アイスランドといえば『完全なるチェックメイト』などの映画でお馴染み、チェスのチャンピオン、ボビー・フィッシャーが晩年を過ごした土地である。フィッシャーは晩年に事実婚をしたが子供はいなかった。『完全なる~』ではアイスランドのレイキャビクで会見したフィッシャーが「チェスこそがこの世の真理にたどり着く唯一の方法だ」と叫んでいた。独り身の偏屈を受け入れてくれる土地柄だといえよう。本作もいい歳して独り身の男についての映画である。

 43歳、彼女ナシ(当然人生イコール)、200キロの大柄、趣味はヘビメタ専門ラジオ番組へのリクエスト、ジオラマでエル・アラメインの戦い(第2次大戦でロンメル将軍が敗北を喫し、負けっぱなしだった連合軍が逆転するきっかけとなった歴史的重要な戦いである)を再現するという…まあ、もてる趣味ではないわな。そういうモテとは縁遠い生活を送っているフーシ(グンナル・ヨンソン)は空港の荷物係として働いているが同僚たちからバカにされるわ、同じアパートに引っ越してきた父娘の父親からは汚いものでも見るような目つきをされ、娘のヘラ(フランチスカ・ウナ・ダグスドッティル)からはなぜか好意を持たれるのだが「おじさんはどうして大人なのに結婚してないの」とあんまりなことを言われる始末。言うなよそういうこと(泣)

「いろいろあるんだよ…」

 と寂しい反論をするフーシ。そんな彼を見かねたフーシの母親(大方の予想通り、母親と一緒に暮らしてます)とその彼氏(フーシの父親はすでに亡くなっている。この彼氏と母親の情事を目撃しちゃったフーシはゲンナリ)からダンス教室のチケットを渡される。要するにダンス教室でもいって彼女見つけてこいってこと。
 渋々出かけるフーシだが、気圧されて教室には入らず車の中でヘビメタラジオを聞いて過ごすが、ダンス教室から出てきた女性が「吹雪が酷いから車で送って」と声をかけられる。
 シェヴン(リムル・クリスチャンスドッティル)と名乗る女性を家まで送ったフーシは次回のダンス教室に誘われてしまい、思わずOK。チケットをあげたものの、どうせ一度で嫌になるだろうと思っていた母親(ひどすぎ)はダンス教室にいそいそと出かける息子を見てびっくり。ダンス教室の帰りに「良かったら食事にいかないか?」フーシは行きつけのパッタイ料理の店にシェヴンを誘う。車の中でいつものヘビメタラジオにシェヴンの好きなカントリー音楽をリクエスト。
ツーカーの関係になってるラジオDJからは「どうしたんだ?頭がおかしくなっちまったのか?」とこれまた酷いことを言われるのだが

「今…仲の良い友達といるんだ…女の子なんだけど…彼女の好きな曲なんだ」
「そうか、わかった。他ならぬあんたの頼みだ。いつもはやらないが、彼女のために素敵なナンバーをかけてやるぜ」

 なんという感動的なシーン!タイトルは『好きにならずにいられない』だが、俺は泣かずにいられない!

 シェヴンの家でお茶を誘われたフーシは生涯初めての恋だと信じずにいられない。唯一の友人(フーシと違って家庭持ち)モルドゥル(シガージョン・キャルタンソン)は「男ってのはやるときはやるもんだ」と発破をかける。
 お茶に誘われた時、彼女がハワイに旅行に行きたいと聞いたので、一緒にいくために予定を立てる。空港で働いているのに一度も飛行機に乗ったことがない(!)。フーシだが、最高の旅行計画を立ててtシェヴンが働いている花屋に向かうが彼女の姿はない。花屋の主人はシェヴンはもう働いていないという。偶然、街でシェヴンを見かけたフーシは彼女を呼び止めるが以前とはうってかわって冷たい態度を取られ、「あなたを勘違いさせたみたい」と帰られてしまう。

 何がなんだかわからない!それからのフーシは散々で空港の同僚に誘われたパーティでコールガールをあてがわれる(同僚らはあくまで善意でそうしたんだけど、童貞をこじらせたフーシには悪魔の誘いと思わずにいられない)が、「僕は嫌だ」と大暴れ。翌日、ヘラから「ドライブに連れてって」とせがまれたので連れて行ってやると警察に幼女誘拐犯と間違われちゃう!警察の取り調べで

「あの子は昼間は父親がいなくて寂しそうにしているので…時々遊んでやってるんです」
「中年のお前がどうやって子供と遊ぶんだ?」
「人形(兵士のフィギュア)で…一緒に遊ぶんです(エル・アラメインの戦いのジオラマで)」
「人形…?お前の持ってる人形か?」

 あんまりな釈明をするのだった。よく勾留されなかったもんだ。逮捕勾留は免れたものの、ついに近所の人たちから気持ち悪い中年男と蔑まされるフーシ。お前ら、中年童貞に冷たすぎ!何もしてないのに!!
 このままでは単なる寂しい中年童貞だったはずが、犯罪者予備軍扱いされてしまう!フーシは意を決してシェヴンの家に。そこで発見したのは荒れ放題の家の部屋に閉じこもるシェヴン。彼女は鬱病だったのだ。

 病気のために不安定な日常を送るしかない彼女のためにフーシは生まれて初めて「人のために何かをしたい」と思い行動する。あまりに純粋すぎるその行動に周囲の誤解は溶け始める。
 かつて『40歳の童貞男』(05)から巻き起こった童貞映画ブーム、それらの多くは童貞をこじらせた中年男性を「病的にシャイで女性と付き合う機会がなかっただけなのだ」と分析し、本当は誰よりも心優しい人々なのだと論じていた。『好きにならずにいられない』のフーシも同様で、誰よりも人のために何かをしてあげようとするフーシの姿はあまりにも美しい。だがこれはハリウッド映画ではないので安易なハッピーエンドを許さない。待っているのはリアルでやるせない結末なのだ。寒い国の人間はシビアだな。フーシの人生、俺は泣かずにいられない。






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Posted by 縛りやトーマス at 16:36│Comments(0)映画オタク
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