2017年03月14日

前田有一がダメにする評論本

 自称映画批評家・前田有一の連載がついに一冊の本になったぞ!





 これはビデオSALONという映像制作の情報誌で連載していた(映画専門誌じゃないんですね)『それが映画を◯◯にする~「映画」に学ぶ「映画」のこと』を一冊にまとめたもので、◯◯の部分に何が入るのは長年の疑問だったんだけど、本のタイトルになったことで◯◯とは「ダメ」ということなのがわかった。「大人の事情」でそうなったらしいんだけど、このタイトルにそもそも言いたいことがあるわ。
 前田にとって「映画」は「ダメ」らしくて、その分析をしているんだけど、個々の映画を取り上げて「あれがダメ、これがダメ。だからこうした方がいい」と映画好きの高校生みたいなことを言ってるだけなんだよな。比較してとりあげる作品はどれもこれもここ数年の作品ばかり。「映画をダメにするのは何か」を論じたいなら、自身の何十年に渡る映画鑑賞歴を踏まえて語るとか、もっと俯瞰的な視点で論じられないかね?(そんなことが出来ないから、個々の映画のダメな部分をあげつらってるだけなんだろうけど)

 びっくりするほど知識もペラペラで『のぼうの城』で前田は

>いかに映像を派手にしようと演じる役者に時代劇の所作事を身に着けた者がいないから、皆チープなコスプレ侍に見えてしまう

 と言った後で

>こうした時代劇ならではの動作について日舞を学んだり独自に歌舞伎を研究して身に着けたと松平健から聞いたことがある。彼ら時代劇俳優の不断の努力を知り、尊重し、キャスティングに反映させていたならば、『のぼうの城』の戦闘シーンもよりリアルに感じられたに違いない。


 というの。比較してもちあげるのが松平健って…お前、『暴れん坊将軍』しか知らないだろ!せめて市川右太衛門とか長谷川一夫を持ち出すならともかく…その程度の知識で時代劇のなんたるかを偉そうに語るとはいい度胸だ。春日太一に説教されてしまえ。ちなみに前田は野村萬斎を「キワモノ」呼ばわりしています(笑)。
 のっけからこの調子なので以後続く映画評論(失笑)文はどれもこれも大した知識もない自称プロが知ったかぶって大恥をかいている様子が伺えます。

 この男は一体映画評論というものをなんと捉えているのか?それはまえがきとあとがきに記されている。

>私はこの本が、人々が映画に興味を取り戻すきっかけとなることを強く願っている。そうすればもしかしたら、あなたは年にもう一本だけ多く、映画を観てくれるようになるかもしれない。観る人が増えれば作り手も奮起する。そうすれば良作も増える。それは皆にとって良いことだ。良い事に関わることは、人生を楽しくする。さあ、一緒に楽しくなろう。

>――なぜ、映画はダメになるのか
本書のタイトルの裏側には、誰もが幾度となく頭の中で繰り返してきたその問いかけがある。この謎解きはやっかいな作業だ。言いたくないことも言わなくてはならないし、それによって嫌な思いをする人が必ず出てくる。だからそんなことを考えるより次の映画を観に行ったり、撮影に取り掛かったほうが、よっぽど精神的にはよろしい。
しかし、あらゆる進歩は失敗の分析と対策の先にある。映画批評家とは、それを観客側の立場から行うのが大事な仕事のひとつだと私は考えている。


 なんと、前田有一は映画評論をすることで映画が良くなるはずだ、と本気で考えている。「風が吹けば桶屋が儲かる」ぐらいの無茶な意見ではないか。そんなことで映画がよくなるのであれば、前田有一より遥かに優れた映画評論家が活躍していた時代の映画は映画創生期よりも良くなるはずではないか。前田より以前の映画評論家たちがそんなことを理由にして映画評論をしていたとは、とても思えない。
 「観客側の立場」というのもよくわからん。評論家は映画を製作した経験でもなければ観客側の立場でしか見られないのでは?前田有一は自身を「観客の立場から」と下げていながら「プロの視点では」といった意見を何度も出して、自分は映画を観るプロフェッショナルであると上から目線で主張する。だったら観客の立場でなどと思ってもいないことを口にするのはやめてプロの視点による意見ということを崩さなければいいのに。

 前田有一はこの本を出すために自分のサイトの更新を数ヶ月に渡って滞らせるほど時間を割いたそうだが、そのくせ内容はほぼ連載時のままで、レイアウトやページ数を表示する黒丸に至るまで同じ。何のために時間割いたんだよ!?
 いくつか加筆修正したところがあって、特に加筆修正されたのは『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』『スター・ウォーズ フォースの覚醒』だ(やっぱり)。以下は雑誌連載時と本の文章との比較である。


雑誌連載時:初動で興収50億円を期待された実写版前編はまもなく後編公開となる現時点においても30億すら突破したという話を聞かない

単行本:初動で興収50億円を期待された実写版前編は結局、32・5億円と伸び悩んだ。



雑誌連載時:ひどくお客さんをバカにした話ではないか。

単行本:ひどくお客さんをバカにした話ではないか。その報いというべきか、後編の興収は16・8億円と惨敗を喫した。


 実写進撃及び樋口真嗣監督を小馬鹿にしたいがために数字をより強調する嫌らしさである。さらに『スター・ウォーズ フォースの覚醒』では


雑誌連載時:関係者の間で流れていた社内的な最終目標「興収100億」をどれぐらい越えてくるかだ

単行本:関係者の間で流れていた社内的な最終目標「興収100億」こそ何とかクリアーしたが(115億)、「思ったほどでは・・・」というのがホンネだろう。

雑誌連載時:頼みの綱の初動で土がついたのは痛いが今後「覚醒」して新記録を打ち立てることは果たしてできるだろうか?(2015年12月25日)

単行本:今後予定されているエピソード8以降が「覚醒」して新記録を打ち立てることは果たしてできるだろうか?


 前田有一はスター・ウォーズオタクが大嫌いなので(『パシフィック・リム』の項でも「映画オタクは頭でっかちで女にもモテない」と言って、パシリムを好むようなオタク映画ファンを罵倒していた)、『フォースの覚醒』を徹底して貶しており、興行的絶対失敗すると思い込んで、「興収100億」切りを予想したのだが(でも外れた時のために「どれぐらい越えてくるかだ」といった予防線を張っているのがいやらしい)、結果越えてしまったので単行本ではその文章を加筆修正しつつ、「思ったほどでは・・・」というのがホンネだろう、なんて負け惜しみをしている。

 自分が大嫌いな樋口真嗣監督とスター・ウォーズに関する部分は加筆修正するほどの気合の入れようで、その情熱をもっと映画を見ることに注げばいいのに。前田有一は映画を観ることに対する情熱に欠けている。その情熱が少しでもあれば時代劇映画にマヌケな分析をしたり、映画オタクを(いくら自分がバカにされたからって)罵倒したりはしないだろう。映画をバカにする時は徹底して上から目線で大上段に構え、褒める時も「プロの俺にはわかる」とこれまた上から目線でなければものが言えない。彼は映画評論を人々が映画への興味を取り戻すためにしているのではなく、自分が素人や映画オタクに偉そうに振る舞うためだけにやっているのがよくわかる本であった。

 こんなものが映画評論だというのなら、前田が想定する「映画をダメにしている」原因は間違いなく前田有一自身である。



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Posted by 縛りやトーマス at 22:18│Comments(2)映画
この記事へのコメント
ビデオSALONってまだあったんだ・・・
今日日、ちょっとネットを当たれば前田センセより遙かに考察力に長けて、文章力も比較にならないぐらいハイレベルの映画ブログなんてざらにありますしね。
前田センセの駄文は無料のネットだからこそ存在出来るものであって、こんな本に1600円も払う酔狂が存在することが驚きですが、あと200円足して映画館に足を運んだ方がよっぽど有意義な人生を送れると思うよ。

尼のレビューで星5つ付けてる二人って前田センセと担当編集じゃないだろうね(笑
Posted by shige at 2017年03月16日 20:52
雑誌連載時のレイアウトそのままで、ページ数を囲む丸とか段落ごとの見だしとか、文章の頭についてる記号(なぜかここだけ連載時とは違うマークになっている)もそのままついていて、無能な編集者と無知な批評家のコンビによる駄本でしたね。
Posted by 縛りやトーマス縛りやトーマス at 2017年03月31日 09:29
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