2017年09月28日

女性賛歌は勇気の賛歌『エル ELLE』



 ポール・ヴァーホーベン監督の最新作であり、主人公ミシェルを演じるイザベル・ユペールが象徴的に配されたポスター、そして「衝撃的な内容過ぎてアメリカでは誰も演じたがる女優がいなかったのでフランスで撮影することになった(だからフランス人女優のイザベル・ユペールが起用された)、という経緯を聞けば『氷の微笑』のようなエロティック・サスペンスを想像するが、冒頭自宅に押し入った覆面男にレイプされる主人公を見て『ブラックブック』のようなリベンジものかと思い直すも、どちらの想像も違っていた!

 ミシェルはバスルームで体を洗い流すと、寿司の出前を注文する(?)。一人息子のヴァンサン(ジョナ・ブロケ)が家にやってくるからだ。ヴァンサンはいい年して無職で、ハンバーガー屋のバイトが決まったことを誇らしげに報告してくるボンクラ。ヴァンサンが帰ったあと、ミシェルは厳重に戸締りをして寝る…って警察に連絡しないの?

 翌日会社に出社するミシェル。彼女はゲーム会社の社長で、会社で作ってるのはPS4で発売する女の人が怪物や触手に侵されるエロゲー。海外はPS4でエロゲー出せるのか…会社のプレゼンで若い男のスタッフがエロゲーをプレビューしてみせると
「全然エロくねえんだよ!お前これで勃つのかよ!」
 とボロクソ。男の社員は「いや、操作性は抜群なんですけど」とそんなところにこだわってどうするw そして会社には侵されるゲームのキャラにミシェル社長の顔写真をコラージュした映像が全パソコンに送付されてしまう!レイプ犯は会社内の人間なのか?

 こういったやりとりを経てミシェルはレイプ犯の正体を突き止めようとする…というのが大まかな筋なのだが、映画は観客の予想とはまったく違う方向に突き進む。共同経営者のアンナ(アンヌ・コンシニ)と彼の夫…だが実はミシェルと肉体関係を持っているロベールらとランチをしていると「私、昨日レイプされちゃったのよね」と堂々と話してしまう。ランチ時にする話じゃないんだけど。アンナは「警察に連絡しないの?」とごく当たり前のことを勧めるんだけど、「なんで?」といった様子のミシェル。
 別の日にひとりでランチを取っているとミシェルは見知らぬ客からスープをぶちまけられる。「あんた、一生許さないからね!」と罵倒つきで。実はミシェルの父親は近所の子供を大量に殺害した容疑で今も投獄されていて、彼が逮捕された時にテレビ局のカメラが10歳だったミシェルの姿を映していたのでフランス中が彼女を「殺人鬼の娘」として知っているのだ。ミシェルはこの年になるまで嫌がらせを受け続けていて、警察に相談しても「お前殺人鬼の娘だろ」とまったくとりあってもらえず、だからレイプされても警察に相談しないのだ。

 彼女は劇中レイプ犯の正体を突き止めるのだが、およそ自分をレイプした犯人がわかった人間がとるであろう行動をとらない。この行動をめぐって多くの観客が「理解できない!」とモラルを逆なでされてイラついているんだけど、人のモラルを逆なでし続けてきたポール・ヴァーホーベンの演出は今回突き抜けすぎている。

「女性がレイプされたからって、なぜメソメソ泣かなくてはいけないんだ!」

 とばかりにミシェルはいつも毅然として、泣き言も言わずに、世間からの非難や嘲笑を撥ねつけて生きている。女性の性被害をテーマにした映画のほとんどが「かわいそうな被害者」として描かれていることに反発するようにヴァーホーベンは主人公のミシェルをバカな男どもに立ち向かうスーパーヒーローとして成立させた。ヴァーホーベンの映画って大抵男はバカで女はカッコイイから、ン十年、一本筋の通った男である。
 ミシェルを演じたイザベル・ユペールも64歳とは思えないカッコよさで劇中ありとあらゆる男たちから言い寄られるも男にまったく依存していないのだった。


60代にしては美しすぎるイザベル・ユペール

 この大活躍ぶりで初めてアカデミーの主演女優賞にノミネートしたのも頷ける。かつて『ショーガール』というゴールデンラズベリー賞から「1990年代最低作品賞」として認定された映画があって登場人物全員が性悪で誰のことも好きになれないというすさまじい映画でこれもヴァーホーベンが監督なんだけど、昔ピンサロで指名した女の子がこの映画が大好きで、「ヒロインの生き方に憧れる」と言ってたよ。きっと風俗にやってくるような男はバカばっかりだったんだろうなあ(俺含)。彼女の人生はヴァーホーベン映画のようだったのかも知れない。





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Posted by 縛りやトーマス at 04:38│Comments(0)映画
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