2017年11月18日

むしろ共感度100%だろ?『彼女がその名を知らない鳥たち』



“共感度0%、不快度100%”という惹句からも『彼女がその名を知らない鳥たち』が今の邦画のトレンドにまっこうから立ち向かう姿勢であることがうかがえる。

 十和子(蒼井優)はロクに働きにも出ず、家でブラブラとしている。大事にしている腕時計が壊れたと店にクレームの電話を入れる。珍しいタイプの時計なので同じぐらいの価値のものを交換で、という相手にこの時計がどれだけ大事なのかということをねちねちと話し続ける。レンタルDVDの再生が途中で止まれば店まで行って同じ作品のDVDを無料で出そうとする店員に「わざわざここまでやってきた自分の時間を返してほしい」と心底ダルそうにする十和子は完全にクレーマーだ。
 働きに出ないので稼ぎは15歳年上の内縁の夫、陣治(阿部サダヲ)に頼っている。その陣治は異常な心配性で一日に何度も十和子の携帯に連絡を入れ、「事故におうてへんかと思って」「お前のことが心配なんや」を繰り返す。仕事が終われば着替えもせずに着の身着のままで食事をし、脱いだ靴下を放り出し足の指の間につまったカスを取りながらメシを食らう、がさつで不潔な陣治を十和子が「虫唾が走る」と罵倒する。そんな態度を取られながらも陣治は平身低頭で「かんにんな。すまんな」というだけ。その度に十和子にはかつての恋人・黒崎(竹野内豊)との日々が美しくよみがえる。

 この冒頭だけで十二分に“共感度0%、不快度100%”な光景が繰り広げられ、さらに不快な光景は続く。

 クレームを入れた時計店から売り場主任の水島(松坂桃李)が謝罪にやってくる。水島から黒崎に似た面影を感じた十和子は既婚者だという水島と関係してしまう。ピロートークでタクラマカン砂漠にいった思い出を語り、
「ウイグル語でタッキリ・マカン、一面の砂漠で絶対零度の孤独っていうのかな…」
 などとしゃらくさい事をしゃべる水島は演じる松坂桃李があまりにイケメンなこともあって不快指数がさらに上がる!なにがタッキリ・マカンだ(笑)

 水島と関係するようになって帰宅が遅くなる十和子のことが心配でたまらない陣治は十和子の姉・美鈴(赤澤ムック)に相談。美鈴は「あんた、また黒崎って男と会ってるんじゃないの?」と責める。水島とのことは言えない十和子は口を濁す。陣治は(なぜか)十和子をかばうように「それだけは絶対にないです!」と強く否定
 数日後、十和子は酒田(赤堀雅秋)という刑事から黒崎が5年前から失踪していることを告げられる。失踪していることを始めて知った十和子は陣治がなぜ強く否定したのか、ひょっとすると黒崎の失踪に陣治が関わっているのではないかと疑いはじめる…

 この物語、ろくでもない人間しか出てこない。十和子は自分勝手で自堕落だし、水島で既婚者のくせに「妻とは冷め切っている」といって十和子と関係し続けるが実は職場の同僚とも不倫していて、十和子に話した同じセリフで口説いている!しかもその内容は全部他所からの受け売り。元カレの黒崎も単なるジゴロで、十和子をひどい目に遭わせた挙句「なんでわからないんだ!こんなに愛してるのに!」と殴る蹴るの暴力を振るう。どいつもこいつも最低のエゴイストばかり。だが、そんな最低だらけの人間たちの中でたったひとり陣治だけが深く十和子のことを大切に思い、愛していたことがわかるのだ。あんなにがさつで不潔で、嫉妬にまみれて十和子の後を付け回して水島に嫌がらせまでして「心配なんや!お前のこと愛してるんや!」と叫ばずにいられない陣治はストーカー一歩手前。「見た目の美しい人間たちによる中身も美しい人間の恋愛物語」ばかりが持て囃される邦画にあって汚らしく共感のしようがない人間ばかりが出てくる本作は異質。
 しかしどの役者もまったく共感できない役柄を演じながら、みな生き生きとし役者として忘れられない役を掴んだといえる。二枚目役者の竹野内豊や、イケメンすぎてチャラチャラした役ばかりの松坂桃李など、ろくでもない役なのに生き生きとしている。

 本作の主人公は蒼井優演じる「異性に縋らずにいられない女」、十和子であり彼女の物語なのだが、がさつで不潔、到底異性にもてそうもないが誰よりも深く十和子のことを愛していた陣治が主人公の物語としてみることもできる。劇中、十和子に初めて出会った陣治が一目ぼれし、不器用ながらも精一杯の愛情表現をし続ける場面に胸が熱くなる。原作小説を「喪男小説の新たな収穫」と喝破したのは豊崎由美でさすがだと思う。
 確かに不快度は100%かも知れないが、共感度0%だって?僕は喪男陣治の不器用な生き方に共感せずにいられない。





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Posted by 縛りやトーマス at 08:41│Comments(0)映画
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