2018年03月19日

偶然の重なり『15時17分、パリ行き』



 最近は年一のペースで、実話の映画を中心に手掛けてるクリント・イーストウッド監督の最新作はやっぱり実際にあったタリス銃乱射事件の映画化で、今回はなんと実際の事件現場に居合わせた人間を主演にするという荒業に出た。
 自分が関わった事件の映画で自分が主役を演じる、というのは第二次大戦で最多勲章受賞兵士だったオーディ・マーフィの自伝の映画化『地獄の戦線』(54)でマーフィ本人が自らを演じた、というケースがある。マーフィはその後、低予算西部劇映画のスターになるものの不遇の時代が続き、ある映画の出演に再起をかけたが航空機事故で亡くなる。その映画は『ダーティハリー』だったというのだからイーストウッドとはまったく縁のない話ではないのである。


 さて、実際のタリス銃乱射事件とは、アムステルダム発パリ行きの高速鉄道列車内でイスラム系のテロリストがAK-47、その他短銃、武器などを所持して554人からなる乗客の殺害を図ろうとしていたが、トイレの中で装填音を聞いた乗客(マーク・ムーガリアン・本人)がトイレから出てきた男を取り押さえようとし、首筋を撃たれ重傷を負う。
 高速列車に乗り合わせていたアメリカ軍兵士二人(アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン)と大学生(アンソニー・サドラー)、フランス在住のイギリス人(クリス・ノーマン・本人)が犯人を取り押さえるのに成功し、テロは未遂に終わった、というものだ。
 事件そのものはあっという間に解決しているので、そこにクライマックスを持ってくることはできない。ならばどうするか?イーストウッドはそのずっと前、ストーンとスカラトス、サドラーの3人は幼馴染で、彼らが出会った子供時代に焦点を当てた。
 ストーンとスカラトスは授業にまったくついていけず、ADHD扱いされてしまう。同じように問題児扱いされているサドラーと出会う。彼らは学校についていけないことで仲良くなり、その関係は引っ越しして、違う学校にいったりしても延々と続いていく。ストーンは学校を卒業してスムージー屋でバイトを始める。店にやってきた軍人から「パラレスキュー部隊を目指している」と言われ、ストーンもパラレスキュー部隊入りを誓う。
 生まれて初めて何かをやる気になった(バスケットの選手を目指したことはあるが、ダイエットできなくてやめた)ストーンはがむしゃらに勉強、訓練をこなして軍の学校を卒業。しかし憧れのパラレスキュー部隊入りの資格が取れなかった。奥行き認知で不適格だとハネられて…その後もストーンはサバイバル部隊の資格を取ろうとするがこれも不合格。やることなすことすべてが空回り、落ちこぼれ呼ばわりされる。


 子供の頃からはじまり、軍学校での日々を見ても、ストーンが後々ヒーローになるようにはまったく見えない。この間の物語にも普通の映画なら、彼がヒーローになるような予兆を匂わせてものだが、これは事実の映画化なので、そんな予兆は一切ない。偶然現場に居合わせた3人が偶然にも犯人を取り押さえる様子を描くだけ。すべては偶然なのだ!犯人のAK-47が不調を起こして弾が出ない、といった奇跡的な出来事まで偶然として描かれる。それを神学校に通っていて敬虔なクリスチャンだったストーンに訪れた偶然ではない奇跡と呼ぶこともできるだろうが、すべては偶然の重なりなのだろうと思う。しかし、偶然の中にはどんなに学校の授業についていけず、落ちこぼれ呼ばわりされようとも「人を救いたい」と信じてきたストーンの意思の力があったともいえる。ストーンが犯人にナイフで首筋、指が落ちるほど切りつけられても、最後に取り押さえた手段は唯一、学校の教官に勝った技なのだから!
 そしてADHDとされた人間も一心に何かに打ち込んだら名を成さしめることができるという、『コンサルタント』でも描かれた人間賛歌なんだ。




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Posted by 縛りやトーマス at 22:49│Comments(0)映画
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