2018年04月28日

花は咲くか『ミスミソウ』

花は咲くか『ミスミソウ』

 怖い絵柄だけど普段は『でろでろ』とか愉快で陽気なギャグマンガを描いている押切蓮介が初めて本気のホラーを発表したところ多くの読者にカテゴリー5のトラウマを残した傑作の実写化。初期の単行本の帯に「精神破壊(メンチサイド)ホラー」って書いているぐらいのやつだから…『でろでろ』では妖怪やオバケを力づくでぶん殴った押切蓮介が今度は読者の精神をナイフでえぐり取る!
 内容のえげつなさから定番の「実写化不可能」と謳われていたが、えげつない物語づくりには定評のある内藤瑛亮によって完全映画化。クランクインの40日前にオファーが来たそうで、邦画にありがちな話とはいえそんな状況でよくもまあ、こんな傑作を作り上げたものだと唸らされた。


 過疎化が進む東北の街にある中学校に父親の仕事の都合で転校してきた中学3年生の野咲春花(山田杏奈)は「東京からきた」という理由だけで小黒妙子(大谷凜香)をリーダーとするクラスのグループから激しいいじめを受けていた。クラスの担任・南(森田亜紀)に訴え出ても生徒数の減少で廃校が決まっているので、面倒事を起こしてほしくないと相手にされない。卒業するまで春花は不登校を決めるがいじめグループの末席にいる流美(大塚れな)が春花の自宅にやってきて、春花が学校に来なければ自分がまたいじめの対象になると喚くのだった。
 そんな春花にとって唯一の救いはクラスメイトでただ一人味方になってくれる相場晄(清水尋也)で同じく東京からやってきた晄は写真が趣味で、まだつぼみの雪割草(ミスミソウ)の写真を撮って「春になって花が咲いたら一緒に東京に行こう」と誘われる。その帰り、春花の家は不審火で全焼する。両親は死に、妹は全身火傷の重症を負う。それはいじめグループによる放火であった。
 ショックで失語症に陥りながらも春花は登校するようになり、何事もなかったようにふるまう春花をいじめグループは恐れ、内3人が春花を呼び出し、自殺を強要する。放火の真相を知った春花はその場で3人を殺し、命がけの復讐をはじめる。


 一年中のほとんどが深い雪に包まれ、カラオケもレンタルビデオもない閉鎖的な田舎町で少年少女が静かに狂っていき「いじめぐらいしかやることがない」という理由でいじめられるヒロイン像には多くの観客が同情できるだろう。(「この閉鎖的な街に君の存在は毒だ」と言われるほどのヒロインを演じた山田杏奈の美しさも完璧)だから春花が家族の復讐のためにいじめグループを丁寧にいろんな手段で片づけていく展開にはどんなに手口や殺害方法が陰惨でも拍手を送ることはできる。しかしターゲットの残りがリーダーの妙子と末端の流美だけになったところで物語は別の展開を見せる。
 そもそも流美が放火のきっかけをつくり、妙子は知りながらも現場にはいなかった。春花に復讐された仲間の死体を見つけた流美は「私たちも殺される」と妙子に助けを求めるが「自業自得じゃん」と突き放される。妙子は春花が転校したとき、最初にできた友達で、ある出来事がきっかけで彼女を憎むようになったがグループの仲間に彼女を虐めるようにいったことは一度もなく、春花をいじめる仲間たちのそばで静かに立っているだけ。むしろ春花のことが好きだった、ということがわかってくると観客は戸惑うしかない(ただ、そばに立っているだけで風格を漂わせる大谷凜香の存在感は圧倒だ)木漏れ日の差し込む教室でカーテンにくるまれながらキャッキャウフフしているシーン(内藤監督は乃木坂46の『ぐるぐるカーテン』のPVを意識したという)はそれまでの陰惨な血まみれ劇と落差が激しすぎる。
 ついにバス停で妙子と春花が和解するに至り、復讐劇はあっさりと幕を下ろす。流美がノートに妙子の落書きをするほど密かに妙子のことを想っていて、「春花に晄を取られたから、妙子は春花のことを憎んでいじめたのではないか、放火も妙子のためにやったのに」と自分の気持ちをわかってくれない妙子を帰り道で凶刃にかける流美!登場人物の誰もかれもが勝手に他人の気持ちを曲解している(春花も妙子の本当の気持ちがわかっていなかった)。

 加害者側の人間性が明らかになるともう、観客は無邪気に春花のことを応援することなどできない。生き残ったものたちが勝手な思い込みを暴走させる愛憎劇になり、そしてラストシーンに至るわけですが、たったひとりの人間が罪を背負って生きていくことになる、という結末は原作から改変されているものの、原作者の押切蓮介が「こっちにすればよかった」と惜しんだほど秀逸で、ミスミソウの花が咲くクライマックスと見事につながっている。花は咲いた!




クライマックスに大音量で流れるタテタカコの『道程』主題歌としてつくられたようにハマっているが、実際は既発表曲





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Posted by 縛りやトーマス at 11:27│Comments(2)映画漫画
この記事へのコメント
★マイブログに、リンク&引用、貼らせてもらいました。
不都合あればお知らせください(削除いたします!)
なにとぞ宜しく、お願いいたしまっす!
https://blogs.yahoo.co.jp/johnny_a_depp2001/65647234.html
Posted by johnnyA at 2019年01月18日 05:40
リンク&引用の件、ご自由にどうぞ
Posted by 縛りやトーマス縛りやトーマス at 2019年01月18日 16:04
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