2018年05月15日

韓国映画界が羨ましい『タクシー運転手 約束は海を越えて』



 この映画を観てわかったことは、最近の韓国映画のある方向性と、邦画は逆さになってもかなわないってことですね。

 1980年5月。韓国・ソウルでタクシー運転手をしているシングルファーザーのマンソプ(ソン・ガンホ)は若くして亡くなった妻の忘れ形見である11歳の一人娘を育てるために一生懸命な、ごく平凡な労働者。ソウルで連日行われる学生デモには「親の金で大学まで行かせてもらった連中がデモごっこか。サウジアラビアの油田にでも行って働け」と愚痴をこぼす。
 ある日、光州まで行ってくれれば10万ウォンを払うという外国人の客を乗せる。大金に釣られてタクシーを走らせるマンソプだが、軍の検問に引っかかって光州には入れない。しかし「光州に入らなければ金は払わない」という客は軍の兵士に向けて密かにビデオカメラを回していた。客の正体はドイツ人記者のピーター(トーマス・クレッチマン)で、光州で起きている大規模な民主化デモのことを取材しに来たのだ。マンソプとピーターは裏道を通ってなんとか光州に入り込むが、彼らが目の当たりにしたのは、民主化デモに対して暴力や銃弾で弾圧を加える軍事政権の姿だった。


 映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』は1980年5月に起きた光州での軍事クーデターに抗議する民主化デモを弾圧した光州事件を基にした作品だ。光州事件は韓国国内では長い間「共産主義者による活動」とされていたが、実際は地元の民衆が自発的に起こしたものだった。その民主化デモに対して現地で戒厳令を敷く軍隊が不当な弾圧を加えて、最終的に約140人の民間人が犠牲になった。この事件が海外に知られるようになったのはドイツ人記者のユルゲン・ヒンツペーターが命がけで光州に潜入して撮影した映像のおかげだという。ヒンツペーターが光州に向かう際にタクシーをチャーターし、その運転手の名前はキム・サボク。映画におけるピーターのモデルがヒンツペーターで、マンソプのモデルがキム・サボクだ。

 マンソプは軍部による情報統制を疑いもせずに信じているので、軍隊が何もしていない民衆に銃弾を撃ち込む様子を見せられ唖然とする。光州で現地のタクシー運転手たちに助けられながら、家に残してきた娘が心配になって命からがらソウルにひとり舞い戻る。ソウルでは光州での出来事など何もなかったように人々が暮らしている。民主化デモは「共産主義者のテロ」として報道され、民間人の死者は兵士の死とすり替えられている。食堂で注文した冷麺をすごい勢いで啜るマンソプを見て「そんなに腹が減ってるのかい?これも食べなよ」とおにぎりをサービスしてくれるのだが、マンソプは光州で出会った民主化デモの参加者が差し入れだといって渡してくれたおにぎりのことを思い出す。光州の実態を知ってしまった以上、知らないフリはもうできない。自分はただのタクシー運転手だけど、自分にできることをやろうと思った彼は娘に電話をかける。

「お父さんは大事な仕事があるんだ。大切なお客さんをソウルまで送り届けないと。それがお父さんの仕事なんだよ」

 戻れば殺されるかも知れないのにマンソプはピーターをソウルへ送り届けるためにタクシーを走らせる。無抵抗なデモの参加者に戒厳軍は銃弾を撃ち込む。倒れて呻いている怪我人を助けようとする民衆にも容赦なく撃ち込まれる銃弾!マンソプは光州のタクシー運転手の仲間たちとともにタクシーを戒厳軍の前に横付けして怪我人たちを救う。クライマックスは追っ手から逃れるカーチェイスだ。あと一歩で追いつかれそうになるところをタクシー運転手の仲間たちが駆け付ける。タクシーで!なんという胸熱の展開か。


 光州事件というのは韓国の歴史の恥部であり、政府批判の内容でありながら去年の韓国内興行成績のトップを記録した。政府批判の映画が堂々作られてそれを国民の多くが観に行っているのだ。

 最近の韓国ではこのような政府批判の映画が作られ、ヒットしている傾向があり、2016年に興行ランキング4位となった『トンネル 闇に鎖された男』は崩落したトンネルに閉じ込められた男を救助しようとする話だが、途中でトンネルの手抜き工事が明らかになるのに会社は一切責任を取らず、近所で大きなトンネル工事をやっている最中なのでそちらを進めたいからと救助計画の邪魔をする。大臣がやってくるが深刻そうな顔でマスコミ向けの「ちゃんとやってます」アピールをするだけで具体的には、何もしない。明らかにセウォル号事件を揶揄するような内容で、あの事件と朴槿恵政権批判が今の韓国映画界に影響を与えているといえる。

 このような映画がつくられヒットしているという事態は日本では絶対にありえないだろう。韓国映画界が羨ましい。





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Posted by 縛りやトーマス at 00:32│Comments(0)映画
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