2018年06月23日

普通がそんなに偉いのか『万引き家族』



 第71回カンヌ映画祭にて日本人監督として今村昌平の『うなぎ』以来21年ぶりのパルム・ドール受賞作。

 東京の下町で暮らす5人家族の柴田家は血縁関係はないが、一軒家で暮らす「家族」だった。父親の治(リリー・フランキー)はいつものように息子の祥太(城桧吏)と二人で近所のスーパーから食品を万引きするのだった。その帰りに団地の廊下で寂しそうにしている女の子を見つけた二人は可哀そうに思い、家に連れて帰る。治の妻、信代(安藤サクラ)は「どうせ拾うなら金目のもの拾ってきなよ」と言ってとりあえず食事をさせた後で治と一緒に団地へ連れ帰ろうとするが、部屋の前で女の子の両親が激しく言い争う声が聞こえる。母親(片山萌美)が「あんな子、産みたくて産んだんじゃない」と漏らすのを聞いた信代は女の子を連れて帰り、「ゆり」と呼んで6人目の家族にする。二か月後、テレビでゆりが行方不明だというニュースが流れる。両親は二か月もの間、娘がいなくなったのに放置していたのだ。

 血縁のない人々が疑似家族を形成し、底辺の暮らしを強いられながらも本当の家族ですら持っていないような温かい愛情を持っている、というこの映画は日本の現代社会に対する痛烈なメッセージである。
 柴田家は貧困生活を送っているが固定の収入がある。祖母、初枝(樹木希林)は祖父の遺族年金があり、治は日雇いの工事現場で働き、信代はクリーニング店でパート、妹の亜紀(松岡茉優)はライトなJK風俗店でバイトをしている。きちんと働いてるのに貧困から脱出できないのだ。
 なぜ万引きをするのか?治と祥太は息の合ったコンビネーションで商品をさらっていく。「これぐらいしか教えることないから」という治は父として息子に何かを教えてやりたいができることは万引きしかない。それでも、息子に父親として何かを伝えてやりたい。

 やがて柴田家の5人が血縁関係もないのになぜ家族になっていったのかが明かされていく。家族の生活はある日突然終わりを告げる。ある事件のことで治と信代は逮捕され、家族はバラバラに。警察官の高良健吾と池脇千鶴がなぜ子供をさらったのか、なぜこんな生活をさせていたのかと懇々と諭し、説教するのだがこの二人の説教はまったく正しいのだが、それゆえに柴田家の面々の心に、そして観客の心にも響かない。普通に生きられないのか、と言われても普通の生活が耐えられない人たちが集まっているのに。そもそも普通ってなに?普通がそんなにえらいのか!(ああ、あの松岡茉優の普通を押し付けられて苦悩したであろう姿ときたら!)高良・池脇は「普通でいられない人々が至極真っ当な意見を突き付けられて追い詰められる」様を見せられる、ポジションとしては悪役だけど実にいい悪役。

 クライマックスには『ゴーン・ベイビー・ゴーン』みたいな展開が待っていて、物語は皮肉すぎる結末を迎える。この映画に対しても、パチンコにいったり海水浴に行く場面に「こんなものは本当の貧困ではない」と桂春蝶みたいな声が寄せられているというではないか。本作は貧困に陥り、虐待される人々を救おうとは言わずお前は違う、お前が悪いとマウンティングに血眼になり、「普通になれ!」と強要する現代社会の闇をただ静かに描いていく。人の幸せは普通かどうかだけでは決められない。




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Posted by 縛りやトーマス at 13:21│Comments(0)映画
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