2018年07月29日

大規模公開の私的作品『未来のミライ』



 マッドハウスの齋藤優一郎と細田守が共同で立ち上げたスタジオ地図の第三回作品であり、細田守監督第五作。

 4歳の男の子、くんちゃん(CV:上白石萌歌)は両親や周囲の愛情を一身に受けて育っていたが、母親が妹のミライを生むとみんなの愛情はミライが独占することに。ミライに嫉妬したくんちゃんはミライにイタズラをしたり、鉄道のおもちゃで殴ろうとしたりしたので、お母さんはくんちゃんをしかりつける。くんちゃんは怒りを爆発させて家の中庭に飛び出すと、見知らぬ異世界に飛ばされてしまう。その世界には中学生になったミライがいて、「お兄ちゃん、どうして私に意地悪するの!」とくんちゃんをしかるのだった。

『未来のミライ』は細田監督の長男が妹が生まれた途端に我儘を言い出すようになった、という自身の見て感じたエピソードを元に制作されている。くんちゃんは4歳児ならではのメンタリティで我儘放題に振舞う。両親が「くんちゃんはお兄ちゃんなんだから」と言われてもくんちゃんには自分が王様のようにふるまえる世界しか知らない。そこに飼っている犬のゆっこが人間の姿で現れる。「自分はこの国の王子だった」というゆっこはかつては自分がこの家の王子だったのに、くんちゃんが生まれると両親はくんちゃんにばかり愛情を注ぐようになった。くんちゃんがミライによって両親の愛情を奪われたのと同じことが起きていたのだ。
 くんちゃんの元に未来から人がやってきたり、または過去の世界に飛ばされたりして、くんちゃんは色んな人によって自分が生かされていること、自分は世界の王様ではないことを知って少しずつ成長していく。くんちゃんの冒険を両親はまったく知らないのであっという間に子供が大きくなり、大人になっていくのを目の当たりにしてしんみりするのだ。「子供は大人の知らないところであっという間に成長する」というのは現実の世界でもそうだし、細田監督が実際に感じたことだろう。
 と聞くと、どの家族にも相通じる不変のテーマのようだが、根底にあるのは細田守の私的な思いであり、これが災いして作品としては締まりの悪いプライベートフィルムになってしまった。

 この背景には今回単独で細田守が脚本を書いてしまったことにある。細田守は『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』では奥寺佐渡子という脚本家に任せて、『バケモノの子』では共同で脚本を書いていたが今回は細田単独だ。エンターテイメントとして完璧にストーリーを構成していた奥寺なしで、しかも細田守の私的な思いによるエピソードを並べただけの話は脈絡がなく、無意味な演出が積み重なった。
 最初のエピソードでは未来から来たミライにより「同じ時間軸では二人の人間は同時に存在できない」というタイムパラドックスが説明されるが、後半では同じ人物が同じ時間軸で存在している。その説明は一切ない。さらにくんちゃんは不満を爆発させ、家の中庭に降りると異世界(過去や未来)に移動するが、そのルールもほとんど説明されないので観客の多くはうっかり見落とすだろう。なぜこんなわかりにくいルールにしたのか。『時をかける少女』みたいにラベンダーの匂いを嗅いだらタイムリープする、みたいなわかりやすいやり方になぜしなかったのか。
 最初の「ひな人形を片付ける」というエピソードで人形のもっているしゃもじ状のものがお父さんの背中に張り付いていて、それをくんちゃん・ミライ・ゆっこが気づかれないように近づいて取るというのも、くんちゃんがサッと近づいて取ればいいだけでこれを物凄いドキドキ感あふれる演出にする必要ある?

 くんちゃんという人間の名前だかなんだかわからないのは一体なんなのか。妹が生まれたらくん兄ちゃんではないか。こんな口にするのも憚るような名前をなぜつけた。そのくんちゃんが犬の尻尾の尻穴に差し込んで歓声を上げる場面も細田監督の趣味かなんだかわからんけどさあ…相変わらずの獣好き、美少年もしくは美青年好きの細田守の性癖が炸裂してましたが、宮崎駿といい新海誠といい、日本のアニメ監督の性癖はなぜ歪んでいるのか。オタクだから?

 これを夏の時期に360館以上でかけた東宝の蛮勇には恐れ入る。『カメラを止めるな!』ぐらいの小規模でやるべきでしょう。細田守もこの規模でこんな私的な作品が許されるわけないのだから、せめてエンターテイメントに徹する勇気が必要だったのでは?





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Posted by 縛りやトーマス at 20:01│Comments(1)映画アニメオタク
この記事へのコメント
SF大会の初日の朝一に観に行きましたが予告編で想定内でしたね。

細田作品って嫌う人は古泉智浩先生や桝野浩一先生とかが嫌ってるんですね。

逆に絶賛してYou Tubeのコメント欄で炎上したのは宇多丸さんですね。

想定内とはいえ劇場の雰囲気が悪くて客足伸びないだろうと察しがついて案の定興行ラインは22~23憶と赤字ですね。

細田作品って『おおかみこどもの雨と雪』から10億の予算で30億の興収を得るってビジネスモデルが確立したからこれは赤字でしょうね。

細田守さんミスったなって思ったのは母親と子供の限定のの試写行ったらYAHOOレビューで大不評とこれはかなりのミスで手痛いんですね。

細田守って自分で自分をイクメンって勘違いして育児の経験者激怒させたという意味では痛恨のミス。

よくこの映画観て脚本をチューニングしろと言う人がいるけど細田守がやってない訳がない訳で自分なりにチューニングしたとは思うんですね。

でも細田守って最終的に言えるのは宮崎駿や庵野秀明みたいなコントロール・フリークじゃないのが露点して裸の王様になっちゃた感が強いんですね。

これ川村元気プロデューサーが脚本の段階でダメだしすればいいのにそれが出来ないんじゃ何のための川村元気だよ?って話ですね。

まぁ次回作は予算削られそうですね細田作品は。
Posted by ダーク・ディグラー at 2018年08月11日 13:34
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