2018年12月25日

タイトルとは裏腹に、映画館には誰も来ない!『来る』



 中島哲也監督が『渇き。』以来5年ぶりの大作。何しろメインの役者が小松菜奈、松たか子の中島組に加え妻夫木聡、黒木華そして岡田准一という、いずれも演技が出来て客の呼べる俳優たちを並べて万全の布陣で挑んだ文字通りの大作、果たしてどうなったのか?

 会社員の田原秀樹(妻夫木聡)は結婚予定の婚約者、香奈(黒木華)を法事のついでに両親、親戚一同に紹介しようと田舎の実家に連れてくる。田舎特有の人間関係に居心地の悪さを覚え、不安がる香奈に大丈夫だと秀樹は優しく香奈を気遣うのだった。
 東京に帰り、無事結婚式を執り行い、家族のために高級マンションも買い、生まれてきた娘、知紗の成長を見守るブログを開設した秀樹は理想のイクメンパパとして大人気に。順風満帆な日々を送るが会社の同僚は血を流して入院した挙句に死に、自宅のガラスが割れるといった怪現象に家族が見舞われる。学生時代の友人で民俗学教授の津田(青木崇高)に相談した秀樹は胡散臭げなオカルトライターの野崎(岡田准一)を紹介され、野崎は知り合いのキャバ嬢、比嘉真琴(小松菜奈)と秀樹を引き合わせる。霊媒師の一族の生まれである真琴は怪現象の原因は秀樹が妻と子供を本当は愛していないせいだ、と言って秀樹を激怒させる。野崎と真琴は秀樹の家にやってきて、怪現象を目の当たりにし、「私の手には負えない」という真琴は自分の姉で、日本最強の霊媒師・比嘉琴子(松たか子)に頼れという。忙しすぎて現場には行けない、と琴子の電話越しのアドバイスで怪現象の正体である“あれ”に秀樹は挑む。

 第22回日本ホラー小説大賞である『ぼぎわんが、来る』の実写化である本作はホラーのくせにちっとも怖くなく、意味不明で支離滅裂な展開の上に広げた大風呂敷をまったく畳めずに終わってしまう…という、控え目にいって面白くもなんともないバカ映画だ。
 一生懸命に観客を怖がらせようとする描写の数々はどれもこれもなんでそうなるのか意味がわからない。恐怖場面のすべてにまともな説明がなされないのだから、怖がることもできない。TV出演もしている有名なタレント霊媒師の柴田理恵が出てきて、実は一角の実力者であるという柴田理恵が中華料理屋でいきなり腕がちぎれてしまう!普通は怖い場面なんだけど、そんな店で人の腕がちぎれたら大問題になるよ!でも映画の中では何の問題にもならないのだ。どういうことなの?疑問ばかりが頭に浮かんで怖がれないよ。

 日本最強の霊媒師だという松たか子も、この人がなんで最強なのか、まともに説明されないし、また、この人のアドバイスがこれっぽっちも役に立たないのでとても日本最強には見えない。最強すぎるので日本の警察関係を従えていたり、クライマックスに“あれ”に対処するため、マンション周辺を立ち入り禁止にして、でかい祭壇をつくって、松の依頼で日本中から100人以上の霊媒師が集まってくるというほどの力があるようにも、また見えない。永久保貴一の漫画『カルラ舞う!』シリーズでは主人公の扇姉妹やその婆ちゃんが内閣調査室の依頼で怪事件に挑んで、政府の人間と結びつきがあるという説明に説得力があるようにされているけど、そういうのがこの映画には一切ない。なぜか映画では“あれ”と呼ばれてロクに説明もされない怪現象も原作ではブギーマンのことを宣教師が伝えるときになまって「ぼぎわん」になったという最低限の説明があるのに、どうして説明を省いたのやら。

 代わりにイクメンパパを気取りながら本当は外面がいいだけで、誰からも疎ましがられて軽く扱われている妻夫木聡やら、ネグレクトの母親に育てられた黒木華が「自分は母親のようにはなるまい」と思いながらシングルマザーになった後は子育てと仕事に疲れ果てて、娘にイライラを募らせるところとか、人間の悪意だけは強調されるのだった。それにしても妻夫木聡の薄っぺらい人間ぶりは最高でしたね。ホントはこの映画みたいな人間じゃないの?と思ってしまうぐらいの演技だった。黒木華もシングルマザーは辛いよ~といいながら高級マンションにずっと住んでるし。それ売って文化住宅にでも引っ越した方がいいよ!

 人間の悪意や心の闇をあえてエンターテイメントとして描いちゃうのが中島哲也のスタイルだけど、ホラーは恐怖の部分をきちんと描かなきゃ!何の意味もなく窓ガラスを引っかいたり、電話で呼び出したりしたって、怖くならないんですよ。「お化けや怪物よりも、人間の悪意の方が本当に恐ろしいのだ!」みたいなとってつけた安っぽい結論じゃなくてね。
 客の呼べる役者を揃えて、大セットまで組んで、怖くもなんともないものをつくって、どういうつもりだ。うまく作れば面白くなるシーンはたくさんあったのに。高橋洋ならもっと低予算で遥かに怖いものつくっただろうし、白石晃士だったらバカバカしくも真面目で恐ろしい映画になったと思うよ。中島哲也という人選がすべての間違い。
 しかしキャバ嬢の小松菜奈なんか最高だね。邦画界は彼女の使い方を勘違いしていて漫画の映画化で純愛ヒロインやらせたりしてるけど、本作や『渇き。』のイカレてる役や、『ヒーローマニア―生活―』の現実感に乏しい人の役の方があってるんだから。こういう役者の雰囲気だけは間違いなく、そんなところにだけ中島哲也の才能が発揮されていた。それ以外は全部ダメで、映画館も閑古鳥が鳴いてるんだから。『来る』ってタイトルなのに映画館には誰も来ないんだけど。






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Posted by 縛りやトーマス at 19:38│Comments(0)映画
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