2018年12月28日

史上最低映画とはこれだ『魔の巣』

 史上最高の映画は何?というのは映画ファンにとって永遠の命題だ。でも好きなものの頂点はそんなに悩まないだろう。僕なら『タクシードライバー』、『博士の異常な愛情』か。邦画なら『恐怖奇形人間』、『ゆきゆきて、神軍』ってところかな。あ、『太陽を盗んだ男』もいいなあ…って全然決められてないやろ。

 では史上最低の映画は?

 以前『死霊の盆踊り』を見たときは退屈のあまり死にたくなった。男女が墓場に迷い込んで女のストリップを見せ続けさせられるという脈略もへったくれもない物語は史上最低にふさわしい。“史上最低の映画監督”として名の知られたエド・ウッドの作品群でもマシな方の『プラン9・フロム・アウタースペース』も確かにひどい。これは「最低映画とはなにか?」を教えてくれる教科書だ。夜の場面が切り返しで突然昼になったり、車が右から走って左に消えていくシーンが何度も使いまわされ、墓場で死体役のおじさんがただ寝てるだけなので、死体役にも演技指導、演出が必要だということを初めて知ったり、「愚か者め!バーカ!バーカ!」という常軌を逸したセリフ…最低映画に必要なものと最低映画にしないためのものはすべて入っていた。『吸盤男オクトマン』は肝心のモンスター、オクトマンの造形がしょぼすぎて腰が砕ける。タコが二足歩行で歩くようにしてあるので、着ぐるみの長い脚は半分にまで手が届かず、そこから先がしおれて垂れ下がってる(笑)。動きもスローモーなので全力で走ったら逃げられるし。バスの中で待ち伏せてるのもどうやって入ったんだ…『ロボット・モンスター』はゴリラの着ぐるみにヘルメットかぶせたやつを侵略宇宙人の手先のモンスターと言い張ってた。こいつも動きが遅い。

 とまあ、最低映画にも候補作がいっぱいあるんだけど、飛び切りの最低映画として君臨しているのが『魔の巣(MANOS: THE HANDS OF FATE)』(1966)。



 アメリカのクソSF映画やゴミ怪獣映画を専門で紹介する番組『ミステリー・サイエンス・シアター3000』で「これに比べたら『プラン9・フロム・アウタースペース』が『市民ケーン』に見える!」とまで言われた最低の中の最低、チャンピオンだ。世界中の映画が集まるデータベース、IMDbの投票で10点満点中評価1.5で何十年もの間ワースト1に君臨していた。

 監督は肥料のセールスマンやってたハロルド・P・ウォーレン。彼は制作・脚本まで手がけたのでほとんど彼の自主映画である。
 冒頭、娘のデビーを連れたマイクとマーガレットの夫婦がドライブ中道に迷って延々と田舎道を走っていくところでもうダメ(笑)退屈すぎて死にそう。夫婦が子供と歌を歌うんだけど、これ、『ダーティーハリー』でスコルピオがバスジャックしたときの「漕げ漕げ漕げよ~ボート漕げよ~ランランランラン~川下り~」の歌だ。歌わないとお前たちのママはみんな殺してやるからな!こんな歌ではじまるなんて、不穏な感じがしますね。

オープンカーでいちゃついているカップルの真横を駆け抜けていくと、「この先には何もないのに」なんていわれます。このカップルは昼間堂々と外でいちゃついているので、通りすがりの警官に「よそでやれ」と追い払われる。
 家族の車はやがて一軒の家に。とりあえずこの家に泊めてもらおうとするのですが、門番をしている足の悪い男、トーゴは「ご主人様のゆるしがなきゃ泊められない」しかしマーガレット(ダイアン・マーリー、この人がゴミ映画にふさわしくない美女で映画唯一の見どころ)を嘗め回すように見て、「でもご主人様はあんたを気に入るよ」

 家には青白い顔をした男の肖像画があり、「この人がご主人様かい?挨拶したいんだが」とたずねるとトーゴは「ご主人様はこの世を遠く離れた」「でもいつも一緒なんだ」と意味不明なことをいうので家族は不安に。やがて夜になり、連れてきた飼い犬が何者かにかみ殺され、止めていた車は動かなくなる。子供がいつの間にかいなくなる…というか、お父さんお母さんが部屋でしゃべっているときにその後ろを無言で移動して、次の瞬間に「あの子がいないわ!」今後ろを通ったやろ!デビーは別の部屋に入ったのに見つけたときはなぜか外にいて(位置関係がまるでわからない)、肖像画に描かれたデカい犬を連れていた。デビーは飼い犬がいなくなったので代わりにデカい犬の方を連れてきた、というのもよくわからん。飼い犬は小型犬なんだけど…女の子は「たくさんの人がいる場所に犬がいた」と。たくさんの人?この家にはトーゴ以外にも人がいるのか?

 怖くなった夫婦は逃げ出そうとするも車は動かない。田舎で撮影しているせいか、カメラの前を蛾や虫が飛び交うのだが、一切カットしない!外に飛び出した夫はトーゴに殴られてものすご~い時間をかけて、後ろ手にされて木に括られる。部屋に鍵をかけてまってろ、すぐにここを出発するから、と言われた奥さんはなぜか服を脱いでシュミーズ一枚で寝る用意を始める。

 そのころ、家のどこかにある薄暗い部屋では眠りについていたご主人様が目覚める。一方、オープンカーのカップルは夜なのにまだいちゃついていて、警官に「またお前らか」(笑)カップルは「俺たちよりほかのやつを取り締まれよ。砂漠にいったやつとか」とへたくそな伏線を張りにくる。
 ご主人様はマノスという邪教の神(マノスはスペイン語で手の意味)をよみがえらせようとしているようで、「時は来た!」と眠っていた妻たちも目覚めさせる。この妻たちは家族3人をどうするかで喧々諤々に。

妻A「男のいけにえは構わないわ。でも子供は…」
妻B「女だけでいいわ。他はみな死ねばいい」「全員よ。正直女もいらないわ」
妻C「子供は女よ。あの子は死なせてはだめよ。女になるのよ」
妻D「死ぬべきよ」

 ご主人様はずっとこのやりとりでポツンと座った状態で聞いてるのだけど、立ち上がって「もういい!こんな戯言はたくさんだ!」ってこっちのセリフだよ!この妻たちのやりとり、何の意味があるのかさっぱりわからない。ご主人様は「そんなことをいうならお前はもう終わりだ」と宣言するも「やれるものならやってみればいいわ」とまるで相手にされてない(笑)ご主人様は偉いのか、偉くないのかどっちなんだ。

 この後妻たちは家族をどうするかを巡って争いに。砂場で突然はじまるキャットファイト!馬乗りになってペチペチ顔をひっぱたいたり、つかみ合いをする(じゃれあってるようにしか見えない)。これじゃまるで『死霊の盆踊り』だ!このキャットファイトシーンも延々と続くのでもう限界。
 トーゴはいけにえに捧げられることに。僕はてっきり妻たちの誰かがいけにえにされると思った。トーゴみたいな汚いおっさん、マノスだっていらないと思うよ。さてトーゴはいけにえに捧げられ、片手をもぎ取られる。手の神様だからね。こんなことをしている間にマイクは拘束を解いてマーガレットとデビーを迎えにいき、とりあえず家から逃げ出すことに…するのですが、マーガレットが何もない砂場で何度も転んで(へったくそに)もう歩けないと、なのでさっきの家に戻ろうという判断はわけがわからない。そして待ち換えていたご主人様にピストルをぶっ放すという唐突すぎる展開のあと、オチになるのですが…あまりにもあんまりなオチなんで、あきれ果てた。あと、いちゃついていたカップルがまた出てきたときは爆笑しました。一晩中やってるんかい!

 このご主人様と妻たちは何がしたかったんだ。マノスって一体何??

 言い忘れてましたが、マイク役は監督のハロルド・P・ウォーレンその人です。



 漫画『シネマこんぷっれくす!』でも語られてましたが、間延びしたテンポ、ヘッタクソな編集、安っぽい音楽、役者の雑な演技といい、すべてがZ級のシロモノ…たった68分しかないのに、見終わったら脱力感で2時間ぐらいは経った気分になって疲労困憊。
 エンドロールでThe end?とか出てくるのもこざかしい。どうせ続編なんてないんでしょ!




 …と思ってたらなんと、2018年になって続編の『Manos Returns』が公開されていた!しかもオリジナルキャストのご主人様役、トム・ネイマンにデビー役のジャッキー・ネイマン・ジョーンズも出演してる!(デビー役の人がご主人様役の娘というのも、はじめて知った)残念ながらハロルド・P・ウォーレンはすでに亡くなっているので監督は別の人なんですが、なぜやろうと思った?ファンなの?
 謎が謎を呼ぶ『魔の巣』、続編ぜひ日本で公開してくれないかなあ。




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