2019年03月06日

ふざけたものほど大真面目にやらなきゃ!『翔んで埼玉』

ふざけたものほど大真面目にやらなきゃ!『翔んで埼玉』

 伝説の漫画の実写化――とはよく言われるが、『翔んで埼玉』は本当の伝説だろう。100巻越えを達成した『パタリロ!』の魔夜峰央が1982~83年に発表、86年の短編集で発売されたっきり、よっぽどのファンでもなけりゃ覚えてないようなタイトルだったが、2015年に突然、単独の単行本として発売され、テレビの深夜番組などで取り上げられた結果、今回の実写映画化に!


 架空の日本、東京では出身地によって激しい差別が行われ、特に埼玉県民は通行手形がなければ外出することすら許されない!通行手形なき者は強制送還。そんな東京のエリート校にやってきたアメリカ帰りの転入生、麻実麗は実は埼玉県出身で都知事となって通行手形の撤廃を目論む。都知事の息子、壇ノ浦百美はそんな麗に恋心を抱き、エリート都民のステータスを捨てて麗とともに埼玉解放戦線に加わる。都知事の執事、阿久津翔は千葉解放戦線のリーダーで、麗とは違い、都知事に媚びることで千葉出身者の通行手形を撤廃してもらおうとしていた。翔が率いる千葉解放戦線と埼玉解放戦線は決戦の時を迎える。


…というあまりにバカバカしい話なので、どう実写化しても浮いてしまうような気がするのだが、実写版では原作漫画の部分を過去の都市伝説として、それを現代の埼玉人が「昔はこんなひどい差別があったんだ」と振り返るという構成にした。これは上手い。どんなに漫画チックな描写であっても現代人が「そんなバカな!」と突っ込みを入れれることで漫画チックな話が無理なく成立するわけだ。


 現代の埼玉。熊谷に住む菅原愛美(島崎遥香)は結納のため両親(ブラザートム、麻生久美子)とともに東京へ向かっていた。カーラジオからはさいたまんぞうの『なぜか埼玉』が流れていた。延々と続くあぜ道の中でようやく田舎を脱出して東京に住める、という愛美に父の好海は「埼玉だっていいとこだぞ」というが聞く耳もたない。地元ラジオ局のNACK5からはかつてひどい差別を受けていた埼玉を開放した伝説の人物、麻実麗の物語が紹介されていた。

 東京では出身地によってひどい差別が行われ、埼玉県人は通行手形がなければ通ることも許されなかった。通行手形無き者は強制送還。差別に耐える埼玉人たちは救世主の出現を待ち望んでいた。
 上流階級の生徒が通うエリート養成校の白鵬堂学院では都知事の息子にして生徒会長の壇ノ浦百美(二階堂ふみ)によるヒエラルキーが築かれていた。東京都出身の生徒たちは宝塚のような生活を送っていたが、ピラミッドの最下層に存在する埼玉出身の者たちは木と泥でできた小屋で勉強させられていた。

「あいつらはいまでも通行手形がなければ外を歩けないのよ。生まれも育ちも埼玉なんて。おぞましい。ああいやだ!埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」

 ひどい言われようだな!体調が悪くなっても埼玉県人は医務室すら使えない。
「医務室は都民専用だ!埼玉県人はそこらへんの草でも食わせておけ!そうすれば治る!」

 そんな学院に港区出身でアメリカ帰りの転入生、麻実麗(Gackt)がやってくる。アメリカ流の洗練された物腰の美青年で、8か国語に精通する麗に学院の生徒たちはうっとりするのだった。

 高校生の役を二階堂ふみにGacktが演じるのがすさまじいギャグなんだが、二人とも現実感のない異次元のような役者なので過剰にデフォルメされた役がハマっている。ただのコスプレを超えた存在感で漫画の実写化を演じる役者として適任だ。

 なぜか麗は差別されている埼玉県人の生徒に優しく手を差し伸べるのであった。そんな麗を嫌う百美は東京23区の空気をつめたグラスで「東京のどの地区かを判別する東京テイスティングで麗に勝負を挑む。最短記録を持つ百美は自信満々であったが芸能人格付けチェックの王者、Gacktにそんな勝負を挑むとは命知らずだぞ!
「かすかに漂うインドカレーの香り…これは西葛西だっ!」
 と全問的中で最速記録を達成するのであった。くやしさのあまり気を失う百美をお嬢様抱っこで連れ去る麗。麗に仄かな恋心を抱いた百美は生まれてはじめてのデートに麗を誘う。遊園地で二人は隠れ埼玉人を逮捕するSAT(埼玉アタックチーム)による埼玉県人狩りを目撃する。麗の屋敷の家政婦・おかよ(益若つばさ)と子供が捕まりそうになっているのを見て助けに入ったことで出身地を疑われた麗はSATによる踏み絵を強制される。それは埼玉県の県鳥、シラコバトが描かれた埼玉県草加市の名産品、草加せんべいであった。

「貴様が都民ならばこれが踏めるはずだ!」

 ちなみに原作では都知事の踏み絵だったが、実写化ではよりデフォルメされた!麗はそれを拒否してSATの手からおかよたちを救う。実は麗は埼玉の大地主、西園寺家の子息で通行手形の撤廃を目論む埼玉解放戦線のリーダーだった。
 正体がバレた以上、ここにはいられないと逃亡する麗に百美はついていこうとするが、所沢へ行こうといわれると「あの所沢!?」と恐れおののくのだった。所沢はメットライフドームもあるのに、ひどい扱われ方w

 そんな話がNACK5で流れている現代パートでは事件が起きる。運転マナーの悪い車のナンバーが千葉ナンバーだったことにブラザートム(マウイ島出身、埼玉熊谷育ち)が「このチバラギがぁ!」とキレたことで助手席の奥さん役、麻生久美子(千葉県出身)が「ハァ?今なんつった?チバラギって、千葉バカにしてんのか?このダサイタマが!!」と突然のブチギレ。それまでは親子のもめ事をまあまあと諫めてたのに。

「海もねえ埼玉がいばってんじゃねえ!千葉にはディズニーランド、船橋ららぽーと、商業施設がいっぱいある!成田国際空港もあるんだよ!」

 という久美子の千葉自慢に対してブラザートムの

「埼玉にはなあ、東京航空交通管制部があるんだよ!飛行機が問題なく飛べてるのは全部埼玉県のおかげなんだよ!」

 といくらなんでも無理がある埼玉自慢。「どうでもいいから早く東京へいってよ!」と島崎遥香の一言に心の底から同意する。本当に、どうでもいい千葉と埼玉の維持の張り合い。

 そのころ都知事(中尾彬)の元では壇ノ浦家の執事、阿久津翔(伊勢谷友介)が百美の連れ戻しを画策する。翔は千葉解放戦線のリーダーで、埼玉県人の誇りを取り戻すべく戦おうとする麗とは違い、都知事にすり寄ることで通行手形の撤廃を企んでいた。翔によって麗と百美は捉えられ、麗は体中の穴という穴にピーナッツ(千葉名産)を入れられる拷問を受けそうになったところを、謎の一団に助けられる。それは埼玉県人でありながら上流階級の都会人のオーラを持った伝説の埼玉県人、埼玉デューク(京本政樹)であった。

 京本政樹もまたGacktに負けず劣らずの異次元オーラを漂わせる役者なので、伝説の人間にピッタリ。この映画、あと及川光博さえ出ていれば完璧だった。

 麗の本当の父親は埼玉デュークであることが判明する。長年の負け犬根性が染みついた埼玉県人たちは「所詮俺たちは田舎者だから」と卑下する彼らにかつての埼玉人は海がないことを羨んで、穴を掘って水を引こうとしたこともある気概があった。埼玉県人の誇りを取り戻そうと彼らを鼓舞し、千葉解放戦線との決戦に挑む。
 人数では劣る千葉側は大漁旗に千葉県出身のミュージシャン、YOSHIKIの肖像が掲げて有名人対決を挑む。

「あ、あれは世界的ロックミュージシャン、XJAPANのYOSHIKI!」
「うろたえるな、埼玉にだってロックミュージシャンはいる!」

 とアルフィー高見沢俊彦の大漁旗を掲げる。

「あれは日本のライブ回数No.1を誇るアルフィー高見沢!」

 このギャグのポイントはアルフィーには秩父市出身の桜井賢もいるのにスルーしてるところだね!無視すんなよ!

 この後、桐谷美玲・真木よう子VS反町隆史・竹野内豊の俳優対決を経て追い詰められた千葉側は「小島よしお・小倉優子」を送り出してくるんだけど、「小物過ぎる!」と一喝されちゃうの、小島と小倉に失礼だろ!


 …とバカげた対決をしている頃、百美は都知事が不正で蓄えた金塊の隠し場所が群馬にあると知り、未開の土地と呼ばれている群馬に足を踏み入れていた。埼玉、千葉、茨城のディスりが激しい本作だが、もっともボロクソに扱われているのが群馬で、プテラノドンが飛び、ビッグフットの足跡がある人外秘境。群馬県をなんだと思ってるんだ!


 本当にバカバカしい物語は想像を絶するクライマックスに突入していくのだが、もう、どうしようもなくバカバカしいというしかない。こんなバカバカしい話を大真面目にやったスタッフ、役者陣は最高の仕事をしましたね。ふざけたことは真面目にやらなきゃ面白くないのだから。真面目でなけりゃGacktと伊勢谷友介の濃厚なキスシーンなんかできるわけないわな。多くの漫画実写映画が漫画ならではのふざけた部分を真面目に再現しようとせずに「漫画だから」と鼻で笑いながらやったがために大失敗していますが、今後すべての漫画実写映画は『翔んで埼玉』を基準に制作すべき。

 埼玉という絶妙な「弄っても笑いになる」立ち位置なのが『翔んで埼玉』の笑いのツボですね。これ、他の地方では絶対にない、埼玉でしか成立しない笑いで、他じゃあ本気の争いになってしまう。それを象徴するように埼玉では異例の大ヒットで、普通映画の興行収入で地方ごとのトップは大体東京都の映画館なのに、『翔んで埼玉』だけは地元MOVIXさいたまがトップを記録してるぐらいだから。さいたまは懐が深い。






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Posted by 縛りやトーマス at 01:32│Comments(2)映画漫画
この記事へのコメント
> かすかに漂うインドカレーの香り…これは田無だっ!

田無ではなく西葛西でした。
Posted by 神奈川県民 at 2019年03月07日 01:22
間違えてました。訂正します。
Posted by 縛りやトーマス縛りやトーマス at 2019年03月07日 19:49
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