2019年04月16日

本物の勝負、本物の博打、本物の映画『麻雀放浪記2020』

本物の勝負、本物の博打、本物の映画『麻雀放浪記2020』

 焼け跡が燻ぶる戦後の日本を舞台に“バイニン”と呼ばれたばくち打ちの無頼な生きざまを描いた阿佐田哲也の小説『麻雀放浪記』は84年に角川映画によって映画化された。ばくち打ちのどうしようもない人間のクズっぷりが濃く描かれた傑作である。
 鹿賀丈史演じるバイニン、ノガミ(上野)のドサ健は戦前からのバイニン出目徳(高品格)が坊や哲(真田広之)と組んだ青天井麻雀で、愛人まゆみ(大竹しのぶ)の父親の雀荘の権利書まで奪われるほど毟られる。根城を失って放浪するドサ健にまゆみはついていく。博打の腕以外は人間のクズでしかないドサ健は出目徳との再戦のためまゆみを女郎部屋に叩き売る。悲惨な目に遭いながらもまゆみは健の元を離れようとしない(当時27歳の大竹しのぶの、この可愛らしさときたら!)。再戦はヒロポン中毒の出目徳が九蓮宝燈を上がった時にくたばったために終了、身ぐるみ剥がされた遺体はドブに叩き込まれるという壮絶なラストシーン!死んじまったらおしめえよ!

 昨今の日本映画ではありえない、ワルで落ちぶれてダーティーな匂いの漂う作品が現代によみがえった!『日本で一番悪い奴ら』『彼女がその名を知らない鳥たち』『孤狼の血』で、ワルで、ドブにハマって落ちぶれた、ダーティーなやつらの映画を撮り続けている白石和彌監督によって!坊や哲は斎藤工!

 オックスクラブの青天井麻雀でドサ健(的場浩司)、クラブのママ、ゆき(ベッキー)、出目徳(小松政夫)と対局した哲は九蓮宝燈を上がった瞬間、雷に打たれる。そのショックで2020年の日本にタイムスリップしてしまう。なんちゅうオープニング!コスプレ麻雀のチラシ配りをしているアイドルにあこがれる女、ドテ子(チャランポランタン・もも)に出会った哲は誘われるようにコスプレ麻雀の店に。ところが宅を囲んだ相手はクソ安い手ばかり上がる。

「それのどこが麻雀だ!もっとデカい手狙えよ!」

 ブチ切れた哲は金を叩きつけて店を飛び出すが、昭和40年代のお金しか持ってないので警察に突き出される。

「あんた、なんでマイナンバーが出ないんだよ!」
「マイナンバー?なんだそりゃ?」
「てめえ、マイナンバーもない非国民か!」

 2020年は最先端技術によって街にドローン、AI、VRが溢れかえっており、麻雀は健全化していた。賭博の雀荘なんてどこにもない。
 自称芸能事務所の社長、クソ丸(竹中直人)とドテ子のヤサに転がり込んだ哲。クソ丸のアイデアで「昭和からやってきたふんどしの男、昭和の哲」として健全な麻雀番組(AbemaTV)のタレントよして売り出された哲は麻雀の強さとそこそこイケてるルックスでスターになるが、哲が求めているのはヒリヒリとした、本物の勝負だった。2020年の世界にはAIやVRで「本物っぽい」ものはいくらでもある。でも…本物の勝負はどこにもない!俺がやりたいのは本物の勝負だ!哲は本物の賭博を求めて違法のチンチロに手を出してお縄に。
 その陰では中止になった東京オリンピックの代わりに麻雀五輪を開催しようとする元五輪組織委員長の杜大臣(ピエール瀧!)と大手広告代理店・電堂の高村(村杉蝉之介)が暗躍していた。きっちり東京オリンピックを茶化すお話になっているのが最高です
 彼らは林田教授(矢島健一)の開発したAIと哲らをぶつける。そのAIの姿はオックスクラブのママ、八代ゆきにそっくりだった…哲は昭和に戻るべく、九蓮宝燈を狙いにいく。

 奇想天外な設定にのけぞるが、各所に角川版麻雀放浪記のオマージュがバッチリ散りばめられてるじゃないですか!あの作り物丸出しの蛾が飛んでくるところとか、元禄積みの解説や、出目徳の「明日は…雨かな?」ってセリフも小松政夫が高品格ばりの渋い口調で泣かせてくれる。

 角川版はロクでもない、どうしようもない人間のクズでしかないばくち打ちが、「人間、まともに生きたってたかが知れてるぜ!俺たちゃ普通じゃ得られない快楽に痺れてぇんだ!」と、賭博にのめり込む人間の凄まじさがカッコよく描かれ、今回の『2020』では本物っぽいモノが技術によって溢れかえる時代に「VRなんかやったって本物にはなれねえぜ!本物は賭博の世界にしかねえんだ!」と本物のカッコよさをさんざんに見せつけてくれる。映画だって同じだぜ!壁ドンだの難病だの、本物っぽい(わけでもないか!)何かがスクリーンで起きているけれども、あんなの本物じゃねえ!いつだって本物は『麻雀放浪記』にしかねえんだ!




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Posted by 縛りやトーマス at 22:53│Comments(0)映画
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