2019年05月06日

同性愛者であることを「消された」少年の実話『ある少年の告白』

同性愛者であることを「消された」少年の実話『ある少年の告白』

 ガラルド・コンリーの自伝本『Boy Erased: A Memoir』を元にした映画『ある少年の告白』は福音派教会による同性愛を「治療」する矯正セラピー、コンバージョン・セラピーの実態を描いた作品で日本ではピンとこないかも知れないけど、アメリカではコンリーの告白本は大変な衝撃だったという。

 両親が教会の牧師という環境で育った19歳の青年、ジャレッド・エモンズ(演じるは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でアカデミー助演男優賞ノミネートし、『レディ・バード』『スリー・ビルボード』とアカデミー賞候補作に出演し、若手の注目株、ルーカス・ヘッジス)は大学でのある出来事をきっかけに自分がゲイではないかと思い始める。厳格な両親に育てられた故か、ジャレッドは両親に自分がゲイだと打ち明ける。両親(父親がラッセル・クロウ、母親がニコール・キッドマンというアカデミー主演賞の二人)は大変なショックを受け、父のマーシャルは教会の知り合いを通じてジャレッドに矯正セラピーを受けることを勧める。

「お前は治りたいんだろう?」

 治る?治るってどういうことだ?同性愛者というのは病気なのか?治療で治るものなのか?疑いながらもジャレッドは困惑し暗く沈む母親の表情を見て頷いてしまう。こうして施設で12日間の矯正プログラムが始まるが、それは矯正という言葉すら可愛く思えるほどの洗脳だった。

 施設にやってくる10~20代の同性愛者を「矯正」する責任者である牧師サイクス(この映画の監督であるジョエル・エドガートン)は「自分の罪を告白しろ!」と迫り、セラピー参加者の前で「心の清算」なる告白を書かせ発表させる。内容に満足すれば「ここにいるみんなは友達だ。みんなが君を許してくれる。神も受け入れてくれるよ!」というが、内容が不満(あくまでサイクスの基準である)ならば「自分の罪と向き合っていない!神はすべてをお見通しだ!」と声を荒げる。
 セラピーを受ける人間をまず否定し、頭が真っ白になったところに神の教えを叩き込むという人格啓発セミナー風の指導をする、これはほとんど洗脳である。なにより神の名前を使って同性愛は悪いことであり、罪だ、と教え込むのは危険すぎる。第一同性愛は治療で治るようなものなのだろうか?

 施設入所の初日に出会ったジョン(グサヴィエ・ドラン)は「終わるかどうかはサイクス次第だ」と教えてくれる。すべては責任者であるサイクスが好む態度を取れるかどうかなのだ。
 巨漢の青年キャメロン(ブリットン・セアー)の「心の清算」をサイクスは気に入らず、参加者の前でさんざんなじる。きちんと清算できるまでここで座っていろと命じられる。ジャレッドはキャメロンを気遣ってそっと肩に手を置くが「誰が見ているかわからないんだぞ」とジョンにたしなめられる。施設では教官たちが参加者を監視するような目で見ているのだ。教官の一人ブランドンは元犯罪者だがセラピーのおかげで立ち直った!今はマッチョで男らしくなった!と威張り散らすクソ野郎だが、彼はジャレッドがひとりでトイレに入っただけで「マスかいてんのか?ホモ野郎!」とののしってくる。ブランドンを演じているのが元レッチリのフリーで、もともといじめられっ子だったのをレッチリ加入で生まれ変わったというフリーだけに説得力あるなあ。

 参加者のゲイリー(トロン・シヴァン)が「ここを早く出るコツは”治ってるフリ”をすることだ」とささやく。一方、「心の清算」ができないキャメロンはサイクスが扇動する中、セラピー参加者たちによって聖書でぶたれる。さらに水の張ったバスタブに沈められてしまう。翌日、サイクスは「キャメロンは生まれ変わった」と声高に宣言。『フルメタル・ジャケット』のほほえみデブを見ているようで苦しくなる。

 ついにジャレッドにも「心の清算」の番が回ってくる。大学時代にあくまでプラトニックな関係に過ぎなかった相手のことを告白し、「生まれ変わりたい」と“治ってるフリ”をするが、彼にとって深い傷を負った、ヘンリーとの行為に関することをサイクスから「お父さんから聞いている」と告げられたジャレッドは激昂し、こんなところにはもう居られないと部屋を飛び出す。この施設から出さないぞ、とジャレッドを閉じ込めようとするサイクスに反抗したのはキャメロンだった・・・


 コンバージョン・セラピーでは追い詰められ、自ら命を絶った参加者も多く、コンリーの告白本により調査が進み、セラピー自体を禁止する州も出てきたが、いまだ多くの州で「同性愛は悪である」とする人々によってセラピーは続けられている。このような聖書の教えを盲目的に信じる福音派が政権を支持しているので、福音派が支持する地域ではセラピーをやめさせられない。彼らは「LGBTは地獄に落ちる」「神は同性愛を禁じていると聖書にも書かれている」と叫び続けている。だが、聖書には「女性と寝るように男性と寝てはいけない」と書かれているだけだ。

 福音派の話だから、日本には関係ないテーマだと思われるかもしれないが、日本では国会議員が「LGBTには生産性がない」と堂々主張しても処罰すらされず、映画批評家の前田有一が同性愛をカミングアウトしている人にも子供がいて、生産性はある!とまったくバカな反論をしてLGBTに関する無知をさらけ出している。日本に無関係な話ではないのだ。
 映画の原題は「Boy Erased」、「消された少年」、同性愛者であること、存在を消されてしまうという意味だろうか。『ある少年の告白』ではタイトルとしては弱いな。『消された少年』では意味が通じにくい、と判断されたのかもしれないが。この辺りも日本でLGBTがテーマの作品の伝えにくさを表している気がする。

 セラピーを受けたコンリーは同性のパートナーと暮らし、セラピーは有効ではなく、同性愛は治療で治るものではないと訴え続けている。




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Posted by 縛りやトーマス at 00:06│Comments(0)映画
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