2019年05月26日

演技派ジャッキーが開眼する『ザ・フォーリナー/復讐者』

演技派ジャッキーが開眼する『ザ・フォーリナー/復讐者』

 ロンドンでレストランを経営している中国系移民のクワン(ジャッキー・チェン)は男手ひとつで育てた大学生の一人娘を爆破テロで失ってしまう。ロンドン警視庁にアイルランド独立を求める武装組織UDIから犯行声明が届く。北アイルランドの副首相ヘネシー(ピアース・ブロスナン)はテロのことを妻からの電話で聞く。その時彼は愛人のマギー(チャーリー・マーフィー)の元にいた・・・

 中国・イギリス・アメリカの合作映画『ザ・フォーリナー/復讐者』は撮影当時63歳のジャッキーがコミカル路線から演技派路線への脱皮を目指して試行錯誤していた、意欲的な一本だ。
 ジャッキーはいつものニコニコ笑顔を封印して、一人娘を失ったショックに沈み、疲れ切った60代男の顔の皺に刻んでいる(わざわ特殊メイクで皺を入れている)。警視庁のテロ対策部に「犯人は捕まったのか」と日参し、ヘネシーの存在を知るとオフィスまで押しかけ「犯人の名前を教えてくれ」と頼み込む。ヘネシーは元UDIで昔は過激派のひとりとぢて爆破テロも辞さない活動で名を挙げたが、逮捕、投獄の後、イギリスとアイルランドが対話、平和への道を探りだすと穏健派となった。「昔はひどいこともしたが、刑務所で反省した。今はテロをするような人間と関係を断っている」とクワンには協力できない、と告げるがクワンは納得できない。

「テロと政治は蛇だ」
「どういうことです?」
「頭と尻尾がことなるだけで、同じ一匹の蛇だ」

 協力できないというヘネシーとの会話のあと、クワンは手製の時限爆弾でオフィスのトイレを吹き飛ばす。どこからか知ったヘネシーの携帯電話に「考えは変わったか?早く娘を殺した犯人の名前を教えるんだ」と脅しの連絡をするクワン。クワンはヘネシーの自宅の庭や自動車を次々吹き飛ばし、追手たちを叩きのめす。

「ただの中国人じゃない・・・何者なんだ!」

 クワンの正体は中国の少数民族で、迫害から逃れるため亡命しイギリスにやってきた元ベトナム戦争を戦った特殊部隊員だった。ゲリラ戦法で追い詰められていくヘネシー。彼を追い詰めるのはクワンだけではない。爆破テロの犯人はUDIのメンバーで、ヘネシーの穏健路線に反旗を翻す過激派たちだった。テロに使われた爆弾はUDIが使っていたもので、ここから犯人を割り出そうとかつての仲間たちを招集する。しかし裏切り者はその仲間たちの中にいた・・・

 日本語字幕ではUDIとされているがこれはIRA(アイルランド共和軍暫定派)のことで、本作の物語の根底にはアイルランド独立運動があり、かつては独立戦争を戦い、爆弾テロで無関係の民衆を巻き込むことも辞さない過激活動をしていた、とヘネシーが語る場面があるが、そういった事件が本当にあったのだ。中盤から後半はヘネシーと仲間たち、UDI内部の内輪もめが描かれ、和平合意が成立した今も武装テロを行う勢力が存在しているアイルランド情勢の問題の根深さが伺える。そのためアイルランド情勢に関する最低限の知識がないと話がわかりにくくなるのでご用心。アイルランド出身のピアース・ブロスナンがIRAの闘士を演じるというのもヒリヒリするリアリティを感じた。
 そしてこの問題にまったく関係ないはずのクワンが乗り込んでくる、という話で実はジャッキーは主演だけど映画の主題ではない、という不思議な映画。タイトルの「フォーリナー」は外国人、余所者の意。

 死んだような目で淡々とヘネシーの追手をやっつけ、復讐の鬼と化すジャッキー。最近は演技派を目指して似たようなテーマの作品に出続けながら、その役をモノにできなかったジャッキー。やはりまだまだコミカルなジャッキーのイメージを払拭できないのか、「そんな重い役より軽~いノリのジャッキーが見たいんだ!」と言われたのかどうか、この路線で当てた作品がない中、『007ゴールデンアイ』のマーティン・キャンベルの元でついに演技派へと開眼。なにしろこの映画でジャッキーの役は「中国の少数民族で迫害から逃れて亡命してきた」役で、それってチベットとかウイグル・・・
 中国の少数民族迫害に関しては微妙なスタンスの発言をしてきたジャッキーが「あえて」この役を選び、63という結構な高齢にして尚皺まで増やす老けメイクまでしないと演技派にはなれない!と悟った結果が劇的にハマった。今までは必要以上に若さを売りにしてきたジャッキーが老けることを恐れなくなったのだから、向かうところ敵なし。今後のジャッキーにますます期待が膨らむ。





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Posted by 縛りやトーマス at 16:59│Comments(0)映画
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