2019年10月25日

ロケットやスペースシャトルが出る邦画にロクなものはない『最高の人生の見つけ方』

ロケットやスペースシャトルが出る邦画にロクなものはない『最高の人生の見つけ方』

『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』などで知られるロブ・ライナー監督の2007年作品『最高の人生の見つけ方』は傲慢な生き方ゆえに娘から縁を切られている富豪のジャック・ニコルソン、自動修理工で自分のやりたいことを犠牲にしてまで妻と家族のために尽くしてきたモーガン・フリーマン、正反対の生き方をしてきた男二人が余命半年の癌と宣告され同じ病室になったことから知り合い、「死ぬまでにやりたいこと」リストをつくりそれを実践していく・・・というヒューマニズムあふれる感動のドラマだ。「終活」なんてものが流行っている日本でも通用しそうなテーマなのでワーナー・ブラザーズが日本でもリメイクしようというのはわかる。しかし、ニコルソンとフリーマンが日本になるとなぜ吉永小百合と天海祐希になるんだ??
 もちろん、傲慢な金持ちは天海祐希で、家族のために自分のやりたいことを犠牲にしてきた主婦役は吉永小百合である。これが逆だったら面白いんだけど、傲慢な金持ちの小百合さまはありえないし、家族のために何もかも犠牲にする天海祐希もありえない。


 高級ホテルチェーンを経営する実業家、剛田マ子(天海祐希)はやり手の女社長として新たに建設したリゾートホテルのオープンイベントに立ち会い、「私が成功しているのは、この場にいる欲深いお客様のおかげです!」とかいっちゃう正直な人間である。金、成功だけが彼女の人生哲学だ。無事イベントをこなしたマ子は宿泊先のホテルで嘔吐する。検査入院で受けた診断結果は余命半年の癌。なのにタバコを止められず病室でスパスパしたために放火センサーに検知され、病院内は水浸し。
 豪華な個室を二人部屋に変えられてしまい不満タラタラのマ子。同じ部屋になったのは平凡な主婦の北原幸枝(吉永小百合)だ。
 病室にやってきたマ子の夫、三木輝男が若いので驚く幸恵(なにしろ賀来賢人だから)。輝夫が外でさらに若い女と待ち合わせていちゃついてるのをうっかり見てしまって二度驚く。『家政婦は見た』じゃないんだから。マ子は輝夫の裏切りを知っていても愛していて、別れることができない。副社長の彼がマ子の会社を乗っ取ろうとしていることも知っているので、癌ごときでくたばることもできない。
 幸恵は平凡な主婦として二人の子供を産んだが次男の一慶(駒木根隆介)は引きこもり。彼は薄暗い部屋でずっとネトゲをやっているという、10年ぐらい前のひきこもり描写から一歩も抜け出ていない。夫は家庭のことをすべて妻に押し付けて寝転がっているだけ。夫を演じている前川清のやさぐれっぷりがなんともいえない・・・
 唯一まともに育って出版社の有能編集長として頑張っている(なぜかここだけ韓国映画の『あやしい彼女』みたいなの)長女の美春(満島ひかり)に「もし自分に何かあったらあとのことはよろしくね」と頼むがグータラな父親と引きこもりの弟の世話を押し付けられそうになった美春は「女だからって、なんでも私がやらなきゃいけないの?」と猛反発。幸恵もまた余命半年を宣告されていたのだ。家族に問題があり、同じく余命はわずかという幸恵にマ子は「私たち、似た者同士ね」と立場を越えて心を通じ合わせる。

 病院の長期中院患者で糖尿病のため食事制限をされている12歳の少女・神崎真梨恵(鈴木梨央)が「甘いものも食べられない、やりたいこと何もできない」と自暴自棄になってタバコを吸おうとしているのを咎める幸恵。自分も愛煙家でタバコのせいで病院を水浸しにしたマ子はタバコぐらいいーじゃん的な態度を見せるのだけど、真梨恵は突然(いかにも「突然」な描写で笑っちゃう)ぶっ倒れてICUに運び込まれる。真梨恵が持っていた巾着袋を預かったままにしていた幸恵は翌日、真梨恵の弟に会ったのでこれをお姉ちゃんに返してほしいと渡すが、弟は「返せないよ。お姉ちゃん、死んじゃった」と!なんだこの『今夜、すべてのバーで』みたいな展開は!
 真梨恵は「死ぬまでにやりたいことリスト」をつくっており、それを遺言のように預かった幸恵とマ子は少女の代わりにそのリストを実行する旅に出る。

 オリジナルとの変更点がいくつかある本作で、大きな変更点なこの「他人のリストを代わりに実行する」という部分だ。日本版のスタッフは50~70代ぐらいのシニア層男女に「死ぬまでにやりたいこと」をリサーチしたが、映画的なエピソードを作れそうなものが出てこず、「12歳の女の子がやりたいことを代わりにする」という話になったそうだ。このあたりがいかにも日本人的だねえ。あれをやれこれをやれと全部指示されてやるのは得意だけど、なんでもいいからやりたいことをやれ、と言われると途端に何もできなくなるのが日本人。日本人は自由に向いてないのだ・・・

 二人は真梨恵のリストにあった「スカイダイビングをする」「ピラミッドを見る」「甘いものを食べる」といったリストを次々こなしていく。圧巻は「ももいろクローバーのライブに行く」だ。二人はマ子の秘書、高田(ムロツヨシ)に用意された法被やTシャツ、缶バッヂにサイリウムでばっちり武装し、横浜アリーナのモノノフの中に紛れ込む。この時二人が着ている担当カラーは天海祐希がイエロー(しおりん)で、小百合さまがピンク(あーりん)だ。戦後のアイドル、小百合さまがあーりんピンクとは、グッドチョイスだ。
 ライブ中のトークコーナーでももクロは定番の会場に来ているモノノフの年齢調査を始める。20代の人、30代、40代・・・「じゃあ70代の人はいるかなー?」シーン。「さすがにいないか・・・」幸恵は70代なのだが、手を上げられない。そこで代わりにマ子が手を上げるのだ。ももクロは70代のモノノフ、幸恵に話しかける。その年で見に来たのはなぜ?と。幸恵は若いファンの子がいて、代わりに見に来ました・・・「その子は今日はいないんですか?」と聞かれて答えられない幸恵は話を濁す。そりゃ、突然そんな重い話されても、ももクロちゃん困っちゃうよ!!
 高田を含めた3人はステージ挙げられて一緒に『走れ!』を熱唱。この撮影は今年2月に行われたバレンタインイベントの様子で、イベント前には公式サイトで「この日は特別な撮影がありますので、その撮影の内容は公式で発表するまで秘密にしておいてください」とネタバレをしないよう、お願いがあった。公式が発表するまで当日ライブに参加したモノノフは誰一人漏らさなかったのだから、さすが。そりゃあ少女が「死ぬまでにライブに行きたい」現場に選ぶのもわかる。AKBなどではなく、ももクロの現場。僕も死ぬ前に見るライブならももクロにする。絶対する。


 さて、そうやってリストをこなしていく二人だが、どうしてもできない項目があった。それが「逆上がりができるようになる」「ウェディングドレスを着る」だ。マ子は子供のころ、逆上がりができずに同級生にバカにされた過去があり、しかも母親と死別したり、父親が借金をつくって逃げたりして子供のころは大変貧乏でつらい生活をしており、そのせいで「大金持ちになって見返してやる」と思うようになり、それが彼女の強欲っぷりの原点になっている。マ子はついに逆上がりができるようになる。僕も小学生のころ逆上がりがまったくできなくてバカにされた悔しい思い出がある(今はできる)ので、個人的に泣けたなあ。
 幸恵は逃げたマ子の父親を高田に頼んで見つけ出してもらい、強引に再会させようとする。拒否するマ子だが逆上がりが出来たマ子を見て、すでに痴ほう症になっている父親は「ようやった。よう頑張ったねえ」とマ子の頭を撫でてやる。一方幸恵は本当はウェディングドレスを着たかったけど、母親に言われて和服の式をした。それが心残りだという幸恵のためにマ子はエキストラを雇って結婚式をしてやる。そこには夫と娘も呼んでいるのだ。しかし何の関係もない人々を結婚式に巻き込んで70代の吉永小百合さんがウェディングドレス姿でほほえむ様は、無理がありすぎる。

 それまでも結構無理があるのだけど、ここから映画は完全におかしくなっていく。オリジナルの良さがニコルソンにフリーマンというベテランで老境に入った二人の会話やシチュエーションがおしゃれで、高級なコーヒー、コピ・ルアクに関する話や、フリーマンがホテルのバーで女性と交わすエベレストの話なんかはとにかく洒落ていて、さすがロブ・ライナーといったところ。しかし日本版はしみったれていて貧乏くささが目立つ。天海祐希の幼少のころのエピソードなんていかにも日本人が考えそうな成り上がり金持ち像で、おしゃれさの欠片もない。日本では同じようなシチュエーションがやりにくい、ってのもわかるんだけどねえ。

 父娘と和解した幸恵には最後にやるべきことが残っていた。引きこもりの息子のことだ。大みそかの夜に美春の妊娠が発覚すると幸恵は今も引きこもっている一慶の部屋の前に行き、自分は癌で余命いくばくもない。美春には赤ちゃんが生まれる。あんたが私の代わりに面倒見なきゃいけないのよ?と声をかけると引きこもりの息子はぬっと部屋から出てきて「面倒を見る」と頷く。
 って、無理でしょ!昨日まで引きこもってた息子が家族の面倒どうやって見るんだよ!自分の面倒も見られないから引きこもってるのに・・・


 そして驚くべきことがもう一つある。旅を終えて帰ってきた幸恵の前に真梨恵が現れるのだ!えっ確か死んだんだよね?
 真梨恵はずっとICUに居ただけだった。弟は母親がずっと姉の真梨恵にかかりっきりなのが気に入らなくて、咄嗟に「お姉ちゃんは死んだ」と嘘ついてただけだった!おい、これ反則やろ!定番のネタとはいえ、完全にやられた。というか腹が立つ。昔『同級生2』でも同じネタがあったんだよ。病室のベッドが片付けられて看護師が「死んだ」っていうからひっくり返ったらそれは患者の子が飼ってた鳥だって。
 20年越しに同じネタに引っかかって悔しいのなんの。脚本の浅野妙子は『同級生2』なんてやってないと思うけど、すげー腹が立つんだよな!
 死んでしまった子の代わりに願いをかなえる、というネタを反則技で潰しにきて、この映画ふざけるんじゃねえ。


 ラストは最後の願い「宇宙にいく」をマ子の遺産によってロケットを飛ばして無事リスト完走(その頃にはすでに真梨恵が生きてることがわかってるので、リストを完走させる意味はなくなっているのだが)。ロケットだのスペースシャトルだのが出てくる邦画にロクなものはない(『幻の湖』『北京原人Who Are You?』『明日があるさ THE MOVIE』・・・)ことをまたも証明してくれたのであった・・・




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