2019年10月29日

土壇場からの大逆転、これが上田慎一郎監督の作家性だ!『スペシャルアクターズ』

土壇場からの大逆転、これが上田慎一郎監督の作家性だ!『スペシャルアクターズ』

『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督による長編第二弾。『カメラを止めるな!』はたった2館で劇場公開がはじまったが、話題が話題を呼び、公開劇場数が増え続け最終的には300館越えを達成するロングラン・ヒットとなった。
 未曽有のヒットを生み出したあとの第二弾には当然のごとく期待がかかるわけだ。上田監督はワークショップを開催して出演者を公募し、18人に絞ったメインキャストにアテ書きする形で脚本を書こうとしたがプレッシャーに苛まれてまったく書けなかったのだという。
 キャストらが意見を出し合う形でようやく完成した脚本は「プレッシャーに異常なほど弱い男」が主人公の物語という、自分自身の置かれた状況をそのまま形にしたものだった。


 大野和人(大澤数人)は子供のころに見たテレビの特撮ヒーロー番組『レスキューマン』に憧れ、役者を目指すものの、オーディション現場で監督から「それのどこが演技だ!もっとお前の持ってるもんをみせてみろよぉ!」と『カメ止め』風に詰め寄られ、気絶してしまう。気弱な上に緊張状態が限界になると気絶してしまうという、致命的な欠点を抱えている和人はオーディションに落ち続け、警備員のバイトもまともにこなせず、家賃も払えずどん底人生。
 ある日、数年間会っていなかった弟の宏樹(河野宏紀)と偶然再会。宏樹は「スペシャルアクターズ」という俳優事務所に所属しているという。その事務所はドラマの端役などを提供する他に、依頼者の相談を演じることで解決するなんでも屋のようなことをやっていた。例えば恋人の前でええかっこをしたい、という依頼には酔っ払いを演じて依頼者に街中で絡んでわざと負ける、といった役を演じるのだ。

 金も仕事もない和人は演じることができる、ということでスペシャルアクターズに入所する。最初は映画館の笑い屋、行列の代行などをしていくが、思わぬ大仕事が回ってくる。実家の旅館がカルト宗教団体に乗っ取られようとしており、洗脳状態に置かれている姉の女将・津川里奈(津上理奈)を助けてほしいという妹・祐未(小川未祐)からの依頼を受けたスペシャルアクターズは事務所の全メンバーを総動員した大作戦を計画。その主要メンバーに和人が選ばれたのだ。
 大役を任され、まさに気絶しそうなほど緊張する和人だが、カルト教団の信者を装って潜入した旅館で女将の里奈と『レスキューマン』のヒロインを重ね合わせた和人は勇気を振り絞ってミッションに挑む。努力の結果、カルト教団がインチキだという証拠を手に入れるのだが、予想外のトラブルが続出、緊張状態はMAXに。気絶してしまえばすべては台無しになってしまう。和人は人生最大の危機を乗り越えられるのか。



 役者生活10年間で役者の仕事が3回、自分が役者をしていることは母親と知人の二人しか知らないという、異色にもほどがある経歴の大澤数人の存在感よ!そんな彼はワークショップで上田監督に「緊張を解くためにやわらかいゴムボールをずっと揉み揉みしている」というインパクトあるアイデアを出したりしていて、彼のなんともいえない素人感、よくぞこの人を見つけてきたなと。

 長編一作目の『カメラを止めるな!』はすでにある舞台演劇にヒントを得た作品であり、純粋なオリジナルとは言い難いかもしれないが、その根底には上田監督がプロの映画監督を目指そうとしながら、専門学校を中退、詐欺にあったり、ホームレスにまでなったりした苦悩と失敗の人生があり、追いつめられた人間が思いもよらない実力を発揮する土壇場からの大逆転があった。『スペシャルアクターズ』も主人公の和人が気絶しそうなほど追いつめられながら、ずっと好きだった『レスキューマン』への思い入れが超能力という奇跡の大逆転を呼び込む。失敗の人生を経験しながらも映画への熱い思い入れが失われなかったことが『カメラを止めるな!』という奇跡を呼び込んだように「ダメ人間の土壇場からの大逆転」というテーマこそが上田監督のオリジナリティであり、作家性なのだろう。

 そんな作家性が炸裂した『スペシャルアクターズ』は148館という規模で公開されたものの、興行ランキング圏外スタートとなり、興行的には大苦戦となっている。『カメ止め』でまさかの大ヒットとなり、今度はまさかの大苦戦。
 だが2館ではじまった映画がファンの支持に支えられてロングランとなったのだから、まだまだわからない。なにしろ、上田監督は「土壇場からの大逆転」の男なのだから。




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Posted by 縛りやトーマス at 00:28│Comments(0)映画
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