2019年11月04日

伝説の戦車映画再び『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』

伝説の戦車映画再び『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』

 ロシアの伝説的戦車映画、『鬼戦車T-34』(1965)のリメイク作品。『鬼戦車T-34』は第二次世界大戦中にナチス・ドイツが戦車隊の練度を高めるために連合軍の捕虜を弾の入っていない戦車に乗せ砲撃の的にしていた、という設定の物語でソ連の捕虜3名+フランス兵を乗せたソ連戦車T-34が射撃訓練に駆り出される。だが車長のイワンは一瞬の隙を突いて包囲網を切り抜け、東へと逃亡する。4名の逃亡兵は途中で戦車を乗り捨て逃げ出すが、忘れがたい縁のようなものを感じて戦車に戻り、ドイツの町を進撃する。戦時中だけど平和な街中に突然戦車が現れるシーンが面白く、途中で呆気にとられた市民からビールをいただいてしまう、つかの間の自由を謳歌する場面が切ない。名画座なんかの「ソ連映画特集」などでいつもラインナップに入っていたので、シネフィルの人たちはよく見ていたかも。現在はDVDで安価に手に入れられるが、カルト映画として語られているその映画を最新のVFX技術にてアップデートしたのが『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』だ。


 舞台は同じく第二次大戦中の独ソ戦場。ネフェドヴォの雪原でナチス・ドイツの戦車隊に襲われる一両のフィールドキッチン(炊事自動車)。風前の灯となる車両だが、ドイツ戦車の砲撃の瞬間を突いて見事脱出に成功する。運転していたニコライ・イヴシュキン少尉(アレクサンドル・ペトロフ)は腕を買われて一両しかない戦車の指揮を任される。撤退する部隊を掩護しドイツ戦車中隊と戦う任務のためにだ。
「たった一両で?無茶だ」「銃をくれ。自殺する」
 という操縦手ヴァシリョノク(ヴィクトル・ドブロヌラボフ)ら兵士たちを一喝し、整備を整え戦場に立ったイヴシュキンは待ち伏せ、奇襲でドイツ戦車中隊を翻弄する。しかし中隊を指揮するイェーガー大佐(ヴィンツェンツ・キーファー)のⅢ号戦車の反撃を受け、乗員のコブザレンコ(アルトゥール・ソペルニク)らは死んでしまう。砲弾が直撃したわけではない。かすった際の衝撃とわずかな破片を食らってしまったのだ。衝撃の反響音だけで乗員が気絶する。恐るべきⅢ号戦車の砲弾!

 数年後、イェーガーはヒムラー長官からSS装甲師団ヒトラーユーゲントを任されるほど出世していた。最初の任務は師団の戦車隊育成。ソ連兵捕虜の中に傷を負いながらも生き延びたイヴシュキンの名を見つけたイェーガーは師団戦車隊の演習の的になるため戦車に乗れと命令する。砲弾を積むことすら許されず、ただ逃げることしかできない的だ。命令を拒もうとするイヴシュキンだが、従わないのなら通訳につけられた民間人の捕虜、アーニャ(イリーナ・ストラシェンバウム)を殺すと脅され命令を受け入れる。捕虜の中から使えそうなものを3人選ぶイヴシュキン。うち一人はかつてネフェドヴォの雪原で共に戦ったヴァシリョノクだ。
 ドイツ軍が鹵獲したソ連戦車T-34を渡されたイヴシュキンらは車内から同志の死体の下に隠された6発の砲弾をこっそりと回収する。反撃の手段を手に入れたイヴシュキンはただの的になるつもりはなかった。同志の死体を埋葬する際に演習場の光景を記憶し整備場にジオラマをつくると脱出の計画を練り上げる。

「無理だ。成功するわけない。俺たちはウサギ、やつらはオオカミだ」

 と弱気になるヴァシリョノクに

「外には自由がある。勝利がある。共に行こう」

 と男泣きの決め言葉で口説き落とすイヴシュキン。
 

 すっかりやる気になったヴァシリョノクはT-34の整備状態を見に来たイェーガーらの前で「華麗なダンスを見せてやるぜ!“白鳥の湖”だ!」と踊るように舞うように戦車を操って見せる。BGMは白鳥の湖だ(当然)!片輪走行、360℃ドリフト旋回という軽やかなライディングを見せつけられたイェーガーは警戒し、演習場の外に地雷を置くよう部下に命じる。それを小耳に挟んだアーニャはイヴシュキンに伝え、外の地図を手に入れるから自分も逃げるときに連れて行ってくれと頼む。

「それはできない」
「囚われの身はもうウンザリ。死んだ方がマシよ」

 アーニャとイヴシュキンの淡いラブロマンスがあるのが、リメイク版の特徴でもある。演習場を脱出後、バス停(!)で待つアーニャの元にT-34で駆けつけるイヴシュキン!このダイナミックな再会の場面、最高です。
 あっさり逃亡を許すわけないイェーガーはT-34の逃亡ルートを想定し、先回りで罠を張り待ち受ける。それを一手早く見抜いたイヴシュキンは市街戦でネフェドヴォの再戦を挑む。今度は我々が勝利するのだ。

 オリジナル版はサイレント映画化と思うぐらいセリフも少ない。その上ドイツ人のセリフには字幕ではなく、ドイツ語をしゃべった後にロシア語の「通訳」が入るのだ。逃亡するソ連兵らの物悲しい友情が情感をもって描かれたオリジナルとリメイク版が大きく違うところは最新のVFXによるド派手な戦車バトルだ。砲弾はスローモーションで交錯し、T-34がすんでのところでⅢ号戦車の砲撃を交わす!砲弾が命中した戦車が爆炎を上げて吹っ飛ぶ!クライマックスはイェーガーのⅢ号とイヴシュキンのT-34の一対一の勝負。戦車同士の一騎打ち!中々見られない光景だ。

 イヴシュキンとイェーガーは単なる敵ではない。二度の対決を超えたことで互いに認め合うライバルになったのだという激熱の解釈がリメイク版最大の魅力である。その魅力は瞬く間にロシア全土に広まり、興行収入40億円を超え、観客動員800万人を達成。ミュンヘンオリンピック男子バスケでアメリカの8連覇を阻んで優勝したソ連代表の活躍を映画化した作品が持っていた記録を抜き去ったという。
 これだけの記録となったのは、リメイク元の『鬼戦車T-34』自体が懐かし映画としてシニア世代がなじんでおり、懐かしさに惹かれて劇場に足を運び、最新VFXによるド迫力戦車バトル映画を若い世代が楽しみに行ったことによる相乗効果ではないだろうか。日本でいうところの『君の名は。』現象が起きたのだと。これは日本の『君の名は。』だ!




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Posted by 縛りやトーマス at 22:06│Comments(0)映画
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