2020年01月06日

話盛りすぎですよ!『コンフェッション・キラー 疑惑の自供』

話盛りすぎですよ!『コンフェッション・キラー 疑惑の自供』

 米国史上最多の360人以上を殺しテキサス州で死刑判決を受けた連続殺人鬼、ヘンリー・リー・ルーカス。彼の犯した殺人はあまりに膨大で本人も思い出せないぐらいなので、犯行時の状況を思い出せた時には「ルーカス特別捜査班」のメンバーを呼び出して自供をはじめる。ヘンリーの自供によって未解決だった事件のいくつかが解決し、誤認逮捕されていた容疑者は釈放されていった。獄中の死刑囚に警察が捜査のために話を聞きに行くという、あの『羊たちの沈黙』に登場するドクターレクターのモデルになった人物だ。

 そのヘンリー・ルーカスのドキュメンタリー、『コンフェッション・キラー 疑惑の自供』がネットフリックスで配信されているので観た。
 僕がヘンリーを知ったのは『羊たちの沈黙』を観た時と、世界中の連続殺人鬼を取り扱った平山夢明の『異常快楽殺人』を読んだ時だ。この本では『厳戒棟の特別捜査官』という中でヘンリーが取り扱われている。



 幼いころから淫売の母親に虐待されて育ったヘンリーは精神と身体の両方に傷を負い、23歳のころに結婚を誓った女性と母親が口論の末に家を出て行ってしまい、さらに母親から罵られたことをきっかけにその場で母親を殺害、40年の刑を食らうが、ベトナム戦争の影響による国家の財政圧迫を理由に10年で仮釈放となる。釈放直後にバス停で女性を殺害、金品を奪って逃亡。その後はあちこちを転々とし、フロリダでオーティス・ツールという「同性愛者の美青年」と仲良くなり、週末は二人で出かけていった先々で暴行、強盗、殺人を繰り返す。オーティスから「死の腕」という組織を紹介してもらったヘンリーは入会テストに合格し、組織からの依頼で誘拐、殺人を引き受けるようになる。組織から証拠を残さない技術を叩き込まれ、全米中を遠征して殺人行脚をオーティスとともに続けたがまったく捕まらなかったという。彼を疑った保安官に嘘発見器にかけられたが、「死の腕」の教育によってそれもパスしてしまう。ただ一度ドジを踏んだことで逮捕されてしまったヘンリーは獄中で「神の声」を聞いたことでクリスチャンに目覚め、連続殺人の告白をはじめた・・・

 という風に紹介されていた。ネット上の記事なんかでもヘンリー・ルーカスが紹介されるときはこんな感じだった。ところがネットフリックスのドキュメンタリーを見てみると、まったく違う。なんとこのヘンリーの自供はすべて誘導尋問によるもので、彼は連続殺人鬼ではないというのだ。


 テキサスでオーティスのいとこの少女、ベッキーとヘンリーは恋仲になる。だがつまらない諍いからベッキーを殺害、証拠隠滅のためにベッキーの祖母も殺害し遺体を捨てる。この一件を保安官にかぎつけられついにヘンリーはお縄になる。最初はしらを切っていたヘンリーだが、やがて保安官にベッキーと祖母の殺害を告白する。
 裁判所で事件の判決が下されようとした時、ヘンリーは突然

「残り100人の女性の殺人は?」

 と言い出し法廷は騒然となる。

 100人以上の連続殺人事件の容疑者となったヘンリーを捜査するため、全米の警察に犯人が捕まっていない女性の殺人事件について調査するよう通達が飛び、膨大な件数を処理するための「特別捜査班」が設けられ、テキサスのバウトウェル保安官がリーダーとなってヘンリーを尋問することに。バウトウェルはテキサス警備隊の伝説的な英雄で、あのテキサスタワー銃乱射事件の時に飛行機で現場上空を飛んで、機体に銃撃を受けながら犯人の位置を無線で知らせた男だ。バウトウェルは公安局長ジム・アダムスと交渉して専属の捜査班を組むよう、交渉しそれが認められる。アダムスは捜査班の窓口にテキサス警備隊のボブ・プリンスを指名した。

 特別捜査班の尽力によって全米中の未解決事件をヘンリーは自供していった。そんな中、ジャーナリストのエインズワースがヘンリーを取材をしたいと申し出る。エインズワースは殺人事件の容疑者を取材するジャーナリストで、30人以上の女性を殺したテッド・バンディとも直接面談したことがある。バンディを超える100人以上を殺した希代の殺人鬼!興味を惹かれないわけがない。

 バウトウェルはエインズワースの取材を歓迎した。ヘンリーに会いたいという人間はたくさんいたが、バウトウェルは「俺が会わせてやるよ」とまるでマネージメントしているタレントを会わせるような感覚でヘンリーを紹介する。なんと日本からもクルーがやってきているのだ。クルーは日本からおみやげを持ってきて渡すとヘンリーは大喜び。日本のクルーはさんづけでヘンリーを呼んで話を聞く。海外のスターに会っているみたいに。随分のんきだなあ。目の前の男は連続殺人鬼だぞ!
 と思うのだが、残されている記録映像では会談の様子はゆるゆる。なにしろヘンリーは手錠も腰縄もかけられていない。タバコだって吸い放題。

 日本のクルーを交えた会話の中で、ヘンリーは「日本にも行ったことがあるんだ」という。どうやって?と聞くと「車を運転してね」と笑う。え?車で?アメリカから日本へ車で行けるわけがない。この男、なんか変だぞ。
 その後部屋でエインズワースと二人きりになったヘンリーは「ここだけの話だけど、殺しは、全部作り話なんだ」と言い出す。


 ヘンリーの自供はバウトウェルらの誘導尋問によって行われたものだった。バウトウェルは全米の未解決事件の中から都合のいいものを選んで「〇月〇日、ここにいたよな?ここで女性が殺されているんだ」とヘンリーに告げて遺体のあった場所を地図や写真でそれとなく指し示して「ヘンリーが自白した」「犯人しか知らない情報を知っていた」といい、未解決事件の犯人をヘンリーにしていたのだった。

 これがなんで発覚したのかというと、バウトウェルの特別捜査班は未解決事件の犯行日をリストアップし、何月何日に犯行、そのあと移動して何日には犯行・・・という風にパズルを埋めるみたいにヘンリーの殺人行脚をつけていったのだが、それが明らかに不可能な日程なのだ。例えば10月2日にワシントンで犯行、そこから3200キロ移動して10月4日ヒューストンで誘拐未遂事件を起こす。960キロ先のアーカンソーで殺人、1530キロ移動して10月16日ニューメキシコでまた殺人、10月27日1600キロ先のネバダで殺人、2600キロ移動して10月29日ルイジアナで殺人、3400キロ移動したケベックで殺人、これが10月31日。11月2日に3200キロ移動した先のミズーリでまたまたまた殺人・・・
 一か月の間に1万7700キロを移動しての殺人行脚。時速80キロで車を飛ばして休息もなし、という条件でなければ達成できない。「巡航ミサイルでもなけりゃできない」と言われる。こんなことはありえない。するとバウトウェルは「彼は運転や車上生活が好きだったのです」・・・って何の説明にもなっていない!

 エインズワースらこの一件に疑問を持つ人はヘンリーを「話を盛るタイプ」として、自暴自棄になっていたヘンリーはバウトウェルら保安官たちを喜ばせたかったのだろうという。一件解決するごとにシェークをもらえるという条件でヘンリーは犯行を認める書類にサインし続ける。

「これは冤罪だ。とんでもないことになっている」

 特別捜査班の悪行を暴こうとする人が現れるのだが、公安局長のアダムスはそういった「余計な事をするやつら」を元FBI副長官だった権力を利用して陥れていく。盗聴、尾行、不法侵入、懇意にしているマスメディアを使って批判させる。それでも黙らなきゃ犯罪をでっちあげろ!ヘンリーを救おうとしたある検事は詐欺、賄賂の罪で手錠をかけられ人生を台無しにされてしまう。

 バウトウェルらは未解決事件を処理した英雄として扱われたかったのとテキサスでは保安官は偉大なヒーローでなくてはならない、という周囲からのプレッシャーがそうさせたのだろうとエインズワースらは分析する。
 しかしやってもいない犯罪をやったことにされたヘンリー、そして事件の犠牲者遺族はたまったものじゃない。ヘンリーの誘導された自供のせいで真犯人の多くは逃げおおせており、遺族らは「バウトウェルに騙された」と肩を落とす。

 とまあ、平山先生の『異常快楽殺人』と全然違うことになっていたのだった。当時、平山先生が入手できた資料にはここまで書かれてなかったんだろうなあ。彼もまたバウトウェルの被害者なのかもしれない。
 嘘つきとまではいわないけど、しかしいくらなんでもこりゃひどすぎでしょ!と思うのがヘンリーの相棒オーティスを『異常快楽殺人』の中では「同性愛者の美青年」としているところ。番組ではオーティスの映像もあるんだけど

話盛りすぎですよ!『コンフェッション・キラー 疑惑の自供』
右がヘンリー。左がオーティス。

 ・・・美青年て、どこがや、ど・こ・が!(いくらだいぶ年を経た後とはいえ!)

 平山先生、ヘンリーばりに話盛りすぎですよ!話盛りすぎて観てもいないビデオのレビューをでっちあげてた平山先生らしいけど!




同じカテゴリー(ネットフリックス)の記事画像
第92回アカデミー賞ノミネート作品(決戦は2月9日)
20年封印されたメイキング ジム・キャリー大暴れ『ジム&アンディ』
前作制作者の意に沿わない続編。『けものフレンズ2』は『ブレアウィッチ2』だった!
ヒロポンで空高く吹き飛んだ『麻薬王』
ウドーフェスを超えた『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』
年金はちゃんと払え『ポーラー 狙われた暗殺者』
同じカテゴリー(ネットフリックス)の記事
 第92回アカデミー賞ノミネート作品(決戦は2月9日) (2020-01-14 00:11)
 20年封印されたメイキング ジム・キャリー大暴れ『ジム&アンディ』 (2019-10-02 23:41)
 前作制作者の意に沿わない続編。『けものフレンズ2』は『ブレアウィッチ2』だった! (2019-04-03 01:21)
 ヒロポンで空高く吹き飛んだ『麻薬王』 (2019-03-03 01:09)
 ウドーフェスを超えた『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』 (2019-02-15 05:24)
 年金はちゃんと払え『ポーラー 狙われた暗殺者』 (2019-02-06 23:10)

※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。