2020年07月10日

失われても、再び高く飛ぶ『日本沈没2020』

 ネットフリックスで7/9からアニメ『日本沈没2020』が全世界配信された。


失われても、再び高く飛ぶ『日本沈没2020』

 1973年に発表された小松左京のベストセラー『日本沈没』を原作にした湯浅政明監督による全10話のシリーズで全話を一挙配信。原作は73年と2006年に映画化、74年にはテレビドラマ化しているが、アニメーションという形でつくられるのは初の試み。「地殻変動により日本列島の大部分が海に沈む」という描写をアニメでどう描くのか?

 第一話では突然の大地震により日本が未曽有の大災害に襲われる描写がえげつなく描かれる。そんな中、本作の主人公となる武藤家の人々は友人、同僚らを失いながらも家族との再会を信じ帰宅。ライトアップされた(!)神社に集い無事再会を果たすが、避難所にも水が迫り生き残った人々は安全な場所を求めてさらなる移動を選択する。ここまでが1~2話の話だ。
 建物が崩壊したりするようなスペクタクル描写はあまりないのが意外。代わりにあるのは何の前触れもなく突然訪れる死だ。劇中の登場人物たちは突然、あっさりと死んでいく。物語の前半はあまりにも突然やってくる人の死に武藤家の人々は悲しむ暇も与えられず前へ進むことを余儀なくされる。1973年の映画版でも地震で発生した火事を見て、「関東大震災では火でやられたんだ」と火元の確認をするようにいう老人が出てくるが、そこに津波で起きた洪水がやってきて流されてしまうのだ・・・死は突然にやってくるというオリジナルの要素を受け継ぎつつ、物語は進む。

 主人公たちは連れを失いつつ、道中で有名ユーチューバーのKITE(CV:小野賢章!)や山中のスーパー経営者であるモルヒネ中毒の老人、陽気な外国人のダニエルといった人たちと出会い、死人と会話できる子供と教祖様のいるコミュニティ、サンシティで一時の休息を得るも、そこも地震で崩壊。サンシティで出会った寝たきりの病人、日本沈没を主張した深海潜水艇の操縦者、小野寺(73年の映画では藤岡弘が演じた同名の人物をモチーフにしたと思われる)を連れ旅は続く。

 政府の進める日本脱出計画「D計画」により国民は国外へ脱出できることに。オリンピックの強化選手にも選ばれている武藤歩(CV:上田麗奈)は優先的に船に乗ることができたが、家族のある異変に気付き船を降りる。国の船以外にも「海上を移動する国家」を宣言する国粋主義者らの「国」に乗ることもできたが、母親がフィリピン人で子供たちはハーフという武藤家の人々は入国を拒否され、サンシティの崩壊を予言した小野寺は謎の数字を示し「行かない」といい、一行は富士山の噴火で崩壊する港から脱出。国粋主義者らの国は火山弾が直撃して沈没(やっぱり)。

 地元の漁師の船に乗せてもらった一行だが、津波に襲われテント型の救命ボートに乗るも、歩、弟の剛(村中知)は他のみんなとはぐれてしまい同乗していた漁師は鮫に食われて海中に没す。何日もの漂流の果て、手漕ぎボートに乗った母親のマリ(CV:佐々木優子)、歩の陸上部の先輩・古賀(吉野裕行)と無事再会。その後KITE、小野寺とも合流し、小野寺が残した謎の数字の場所、日本列島を隆起させるデータが残された希望の地へ向かう。


 この『日本沈没2020』で主に描かれるのは前述したようにスペクタクルな震災の描写ではなく、極限の状況で手を取り合い生きる人々の日常と不意に訪れる人間の死だ。避難所では小競り合いもあるが、多くの人々は助け合い、手を差し伸べてくれた他人に感謝する。怪しげなコミュニティのサンシティも「他に行き場のない人々に手を差し伸べていた」ことがわかったり。国が沈むという絶望的な状況でも人々が手を差し伸べ助け合うことで新たな希望が生まれる。


 日本が沈んでしまったら日本人という国家のアイデンティティは喪われるのか?という1973年の映画版でも触れられたポイントについても新たな答えを出している。映画版に特技監督としてかかわった中野昭慶は満州生まれで敗戦のため引き上げてきた人物で日本そのものに思い入れもないため、原作のアイデンティティにこだわる描写には「そんなもんかね?」と興味を示さなかったという(だから映画版では極めてドライに描かれた)。
 湯浅監督は武藤家を日本人の父とフィリピン人の母親の家族に設定し、ナショナリズムの観点から解き放とうとした。KITEも英語を話して海外でも活躍する男だし、モルヒネ中毒の老人も外国嫌いを口にしながら排斥はしない。国籍は関係なく人々が災害を通じてどう結びつき、繋がっていくのかという物語だ。

 後半は前半とうって変わってエモーショナルな死がやってくる。急に「昔水泳選手だった」なんて『ポセイドン・アドベンチャー』なのはご愛敬か。歩の陸上部の先輩でなぜか引きこもりになった古賀は水面に漂うメモリを拾うために100mの距離を5秒で拾って5秒で戻ってくる、10秒が生命線の賭けに挑む。だが数話前の場面では古賀が自身の100mのタイムを計測し、12秒かかっていたことがわかる。古賀は10秒で帰ってこられないことがわかっていて飛び出した。そしてメモリを歩に投げてバトンを渡した・・・

失われても、再び高く飛ぶ『日本沈没2020』
12秒じゃ間に合わないよ!


 マリは道中で何度もポラロイド写真を撮る。「せっかくだから」といって。物語のエピローグではありとあらゆる場面で記録を残していたことがわかる。在りし日の日本の映像もアーカイヴとして残されることがわかるのだが、その一枚が大阪・新世界にある映画館、新世界国際劇場のものとしか思えないカットもあって、これが後世に残された日本の記録になるのか・・・としみじみした。

失われても、再び高く飛ぶ『日本沈没2020』


 小野寺のデータからは沈んだ日本の一部が再び隆起することが示される。何年、何十年、何百年先かわからないが。震災時のケガで片足を切断することになった歩は義足の幅跳び選手としてオリンピックの舞台に立つ。新しい脚で彼女は遠く高く飛ぶ。日本列島もいつか必ず復興するだろう。一度失われても再び、飛ぶことができるのだ。




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