2017年05月17日

鷲は舞い降りた『イーグル・ジャンプ』



 イギリス史上初のスキージャンプオリンピック代表選手となったエディ・エドワーズの「実話に基づく物語」、『イーグル・ジャンプ』を観た。

 エディは幼少の頃から足を悪くしてギブスで固定しなければ歩くこともできない。外に気軽に出ていくことができない息子のために両親は本を買い与えた。そのうちの一冊、五輪大会での選手の活躍を記録した写真集『栄光の瞬間』を観たエディは五輪選手に憧れるようになる。
 大人になったエディ(タロン・エガートン)はノルディックスキーの選手として代表候補になるが、「素人並み」の成績でギリギリの位置にいる上に近眼というハンデを背負っているエディを嫌ってBOA(イギリスオリンピック委員会)の委員長ターゲット(ティム・マッキナリー)は彼を代表候補から外してしまう。
 「とっとと諦めて俺の仕事を手伝え」という左官工の父親にどやされるも五輪への夢を諦めきれないエディはテレビでたまたま観たスキージャンプ競技に目を奪われる。BOAに問い合わせると「イギリスにスキージャンプの選手はいない」と。なら競技を始めた瞬間に代表になれるぞ!エディは父親の車を拝借して強化合宿の行われるドイツへ旅立つ。

 この時点でエディはジャンプ台から飛んだこともないという、まさにド素人。「俺たちは6歳の頃から飛んでいるんだ」という優勝候補のノルウェーチームからはバカにされてしまう。エディは周囲の冷たい視線にもめげず練習を始める。一番小さい15メートルのジャンプ台を一発クリアしたエディは40メートルに挑むが着地すらできない。そこに現れたのはスキー場の整備係の男、ブロンソン・ピアリーだった。元アメリカの代表選手だったピアリーの指導のもと、エディは五輪出場を目指す。

 『X-MEN』シリーズのウルヴァリン役でお馴染みのヒュー・ジャックマンが演じるピアリーは実際にエディを指導したチャック・ベルホーンを元にしたキャラクターだ。ベルホーンはレイクプラシッドのスキーコーチだが、この映画では「元五輪代表選手」という設定。実力はありながら酒と女にだらしなく、コーチのシャープ(クリストファー・ウォーケン)によって代表資格を剥奪され、スキージャンプ界を追われたピアリーはエディのコーチとして再起を図ろうとする。話の筋立ては日本でもヒットしたジャマイカのボブスレーチームが五輪出場を目指す『クール・ランニング』とほぼ同じ。しかも『イーグル・ジャンプ』で描かれるのは『クール・ランニング』と同じ88年カルガリー冬季五輪なのだ。
 ピアリーが素人のエディに「スキージャンプってのは男女のベッドのように人生最高の瞬間を思い浮かべろ!」と指導するのがおかしい。また女たらしのイメージが似合う(褒め言葉)ヒュー・ジャックマンがやっているのがより似合うではないか。エディが「好きな女優はボー・デレクだ」というと「ボー・デレクとの最高の瞬間を思い浮かべろ!」ボー・デレクはモデル出身の女優で『類人猿ターザン』でゴールデンラズベリー賞を受賞した後は同賞をトータル三度も獲得した「80年代を代表する最低女優」なんだけど、モデルだけあってルックスは最高だから「最高の瞬間」を思い浮かべるにはピッタリ!

「ボー・デレク!」と叫びながらジャンプするエディはBOAの執拗な横槍をはねのけてカルガリー五輪への出場資格を得る。しかし出場選手中最低の61メートルをやっとの思いで飛んでいるのを見てピアリーは「あと4年じっくりと鍛えれば次の五輪で優勝候補になれる。今出ても笑いものになるだけだ」と出場を止めさせようとする。「優勝するために出るんじゃない。“栄光の瞬間”は今なんだ!」エディは彼と訣別する。

 70メートル級ジャンプに出場したエディは見事着地に成功し、両手を伸ばして翼のようにひらひらさせるポーズを見たマスコミは「イーグル・ジ・エディ」と呼んで持て囃す。最低の記録だというのに浮かれているエディに「お前は笑われているだけなんだぞ」と電話するピアリー。エディは笑われているだけではないことを証明するために飛んだこともない90メートル級への出場を宣言するのだった。

 エディの活躍は「勝つことではなく、参加することに意義がある」とする近代五輪の思想を象徴するもので勝利至上主義と金儲けに陥っているBOAの方針と真っ向から対立するため(「君は素人なみの記録しかない。それじゃスポンサーは納得しない」という委員長に「五輪はアマチュアの大会じゃないのか?」とエディがやり込めるシーンが象徴的)、エディは様々な嫌がらせを受け続ける。何しろエディが帰国し、国民が熱狂的に出迎えてもBOAの委員長は苦虫を噛み潰しているのだから…
 観客や世間の人々から愛されたエディは五輪を勝利至上主義と金儲けの場と捉えているような種類の人々から徹底的に嫌われ、出場資格のハードルを上げて彼を徹底的に五輪から締め出した。カルガリー冬季五輪はエディにとって最初で最後の五輪になった。

 90メートルジャンプに挑む際、エディはエレベーター内でフィンランド代表の金メダル候補“鳥人”ニッカネンから「勝ち負けなんかどうでもいい。俺たちは魂を解き放つために飛ぶ。世界中の前でベストを出せなきゃ俺たちの魂が死ぬ」カルガリーで金メダルを2つ取った男は最低の記録を出したエディとまったく同じ類の人間だったというクライマックスも感動的だ。日本ではヒットが望めないと思われたのかDVDスルーにされてしまった。『X-MEN』のヒュー・ジャックマン出演に、『キック・アス』『キングスマン』のマシュー・ヴォーン製作、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』の四人組のひとりを演じたデクスター・フレッチャー監督だぞ!?ヒットするかどうかわからないとかどうとか、参加することに意義があるんじゃないんですか!?


  


Posted by 縛りやトーマス at 13:23Comments(0)映画レンタル映画館

2017年05月15日

96年のミニシアター

 20年ぶりに続編が公開されて話題の『トレインスポッティング』。20年前の96年という年はいわゆる単館系、ミニシアターブームの始まりだった。ミニシアターのムーブメント自体は88年の『ニュー・シネマ・パラダイス』に始まり、93年公開の『レザボア・ドッグス』、95年公開の『恋する惑星』というヒット作を経て「次のミニシアター系ブームは何か?」という状態であったことを考慮しても96年のミニシアター系映画のラインナップは凄まじかった

 若きレオナルド・ディカプリオが主演した『バスケットボール・ダイアリーズ』はドラッグにハマり、立ち直ろうとしてコーチにケツ犯されるディカプリオの姿に腐女子(当時はそんな言葉なかったから、ホモ好き女子とでもいうべきか)がワーキャー言ってましたな。『タイタニック』以前に目端の利く女子たちはミニシアターでレオ様に夢中になっていたのです。
 ラリー・クラーク、ハーモニー・コリンのコンビ作『KIDS/キッズ』ではニューヨークのストリートキッズたちの乱れた性の様子が(あえて)カッコよく描かれた。処女狩りが趣味のヤリチンに処女を奪われた上にエイズに感染させられた少女ジェニー(演じるは20代前半のクロエ・セヴィニー!)はヤリチンに事情を説明しようとするが、一箇所にとどまらないヤリチンはどこにいるのかわからない。映画のラストでようやく居場所を見つけるもヤッてる最中なので終わるまで待とうとしている間に寝てしまい、寝ている間にヤリチンの相棒君にパンツ下ろされてしまう。目が覚めた後で相棒君がビックリするというオチはまるで笑えなかった!その内容は当時アメリカ中で大騒動を巻き起こしたという。
 『恋する惑星』で一躍その名を知られたウォン・カーウァイの『天使の涙』『楽園の瑕』は日本で同じ96年に封切られたが『楽園の瑕』の理解不能な内容に『天使の涙』のちっとも可憐じゃなかったカレン・モクといい、作品としてはイマイチなものの、カーウァイブームの中、女性客が劇場に溢れかえっていた。

 ミニシアターには若い観客もいるが、年配の固定客も必ず居るもの。『午後の遺言状』(95)上映時にはそのような年配のお客さんが多く駆けつけたという。96年にもそういう人たちに支えられた『イル・ポスティーノ』という作品があり、長らくイタリア映画といえば『ニュー・シネマ・パラダイス』と『イル・ポスティーノ』と言われていたもの(その後『ライフ・イズ・ビューティフル』(97)にとって変わられるけれど)。もう一度見直そうと思って近所のレンタル屋にいったらどこにも『イル・ポスティーノ』が置いてなくて以前はどのレンタル屋にも置いてあったのに、あのブームは遠い昔のことになってしまった。



 一方日本でも北野武の『キッズ・リターン』や岩井俊二の『スワロウテイル』といったその後の日本映画を代表する監督の代表作が生み出されていた。そして『ロスト・チルドレン』『ケロッグ博士』(当時のキネ旬ベスト10で淀川長治先生がベスト1にただひとり選んでいた)といった珍作も。『ケロッグ博士』はコーンフレークのケロッグ社の創始者のひとりであった博士が提唱した独自の健康法を『ミッドナイト・エクスプレス』のアラン・パーカーがブラックに描いたコメディで、当時のみうらじゅんさんがシスコーンからケロッグ派に鞍替えをしたことでもお馴染みの映画。ケロッグ博士役は狂気の博士役を演じさせたら世界一のアンソニー・ホプキンス!DVDがとっくに廃盤なのが惜しまれる。


 みうらじゅんで思い出したけど、この年には水野晴郎先生の『シベリア超特急』も公開されており、同じくミステリー映画としてこの年の話題をさらった『ユージュアル・サスペクツ』に負けず劣らずのふたつのどんでん返しは目端の利く映画ファンの話題を今に至るまでさらいつづけているのだった!
 トレスポとシベ超が同じ年に公開されているってのは奇妙なリンクを感じさせる。日英で同じ鉄道映画(?)が話題になっていたのだから。どちらにも本当の鉄道は出てきませんが…



 こう考えると1996年というのはミニシアター系どころか映画ファンにとっても有意義な時代だった気がします。20年前にレントンのようなボンクラ野郎だった僕はこれらの映画をミニシアターで見ていて、20年経った今でも同じようなボンクラのための映画を追い続けているのです。

  


Posted by 縛りやトーマス at 23:10Comments(0)映画トンデモ映画

2017年05月15日

主任に口なし

 今や高ストレス社会。高校生がストレス解消に、なんて言ってマリファナ吸ってる時代ですから、社会人のストレスなどそれ以上のものであって…


「ストレスを解消したかった」アダルトサイト、1年で150時間閲覧で停職 神戸大
http://www.sankei.com/west/news/170509/wst1705090064-n1.html

>神戸大によると、男性は平成27年11月から昨年12月までの間、約150時間、貸与された業務用パソコンでアダルトサイトを閲覧した。うち約120時間は勤務時間だった。

>同じ勤務場所のほかの職員が外出した際や、自分の昼休み中に閲覧していた。大学の調査に男性は「ストレスを解消したかった」と話している。


 記事によると「50代の男性主任」という、「主任に口なし」と言われがちな立場に50代にしてとどまってるという時点で色々想像できてしまうな。トータル150時間と言われると頭の中、エロしかないんかい、仕事しろ仕事とバッシングされそうだが、1年間のトータルだから一日十数分程度では?50代の主任という立場の仕事は相当ストレスがたまりそうな気がするから息抜きにエロサイト見たくなる気持ちもわからなくはないが仕事中だぞ。

 大学に通報があり発覚したとあるが、誰が通報したの?同僚以外にないと思うけど、職場でもいつもエロサイトを見ているエロ主任として知られていたのであろう。定職二ヶ月ということで自宅で心置きなくエロサイトが見られますね。これでストレス解消だ!家族のストレスは相当なものだと思うけど。

  


Posted by 縛りやトーマス at 13:46Comments(0)日記日本のとんでも事件ネット

2017年05月12日

効率の悪い戦い『グレートウォール』



 黒色火薬を求めてシルクロードを越えてきた英国人の傭兵、ウィリアム(マット・デイモン)とトバール(ペドロ・パスカル)たちは旅の途中、夜営地で謎の怪物に襲われ、その腕を切り落とす。馬賊の追撃を振り切り目的地の万里の長城までたどり着くが長城を警護する禁軍に捕まってしまう。折しも禁軍は60年に一度人間を襲う怪物、饕餮と戦っている最中であった。


 北方部族の襲撃に備えるために作られたとされる万里の長城が実は怪物の襲撃から国を守るためだった!というアホらしい設定の映画なんですが、長城を守る禁軍の戦いはさらにアレな具合。鶴軍という美女だけの部隊がいて、彼女たちが体につないだロープで城壁の上から真っ逆さまに落下、その勢いで怪物の両肩についている目を突いてやっつけ、下までいったところでロープを引っ張ってまた上に戻って新しい武器を手にして落下…というバンジージャンプ部隊。しかし落下の最中は無防備なんであっさり怪物にくわれてしまう。ほとんど死んでしまうので効率悪すぎでしょ!さらに後半では長城が破られて怪物が首都に向かっている、ということになって地面を歩いていっても間に合わないから空を飛んでいこう、と天灯という熱気球を使うが未完成品だったので半数以上が燃えて墜落する(笑)。こんな効率の悪い戦いを繰り広げていて、よく60年前に滅びなかったもんだ。饕餮という怪物は親玉の女王饕餮がいて、こいつを火薬でふっとばすと全滅するという決着で、適当すぎるだろ。なぜか外国人のマット・デイモンが中国を救うというデタラメにも程がある展開には苦笑するしかない。『紅夢』の頃は巨匠扱いだったチャン・イーモウもこの体たらく。
 それでも鶴軍のリン隊長を演じたジン・ティエンの美しさには惚れ惚れする。彼女は同じレジェンダリー・ピクチャーズの『キングコング:髑髏島の巨神』にも出ていたのでひょっとしたらこの作品もモンスター・バースのシリーズに含まれているのかも知れない。いっそ「モンスターバースの一環です」とでも宣伝しておけばもっとヒットしたはずなのに。鶴軍だけのスピンオフをつくるとかアイデアはあっただろうに。効率の悪さは映画の中だけにしときなさい。


  


Posted by 縛りやトーマス at 23:30Comments(0)映画

2017年05月11日

みんなねこだいすき『キアヌ』



 全米で大人気のスタンダップコメディアンのキーガン=マイケル・キーとジョーダン・ピールのコンビ(スタンダップコメディアンのコンビって珍しいな)による抱腹絶倒の猫コメディ映画。二人は日本じゃまったく知られていないので未公開のDVDスルーにされてしまったが腹抱えて笑える一本です。

 レル(ジョーダン・ピール)は彼女にフラレて以降、生きる気力を失ってる。従兄弟で妻帯者のクラレンス(キーガン=マイケル・キー)はそんなレルを励まそうと彼の家に向かうが、レルは家に迷い込んだ野良猫をかわいがってキアヌと名付け、映画のパロディカレンダーを作ったりするようになるまで回復していた。


何つくってんだw

 ところが、二人で映画を観に行った帰りにキアヌはこつ然と姿を消していた!半狂乱になるレルはとそれをなだめるクラレンス。二人は隣に住むマリファナの売人からキアヌは誘拐されたことを突き止め、街を仕切ってるギャングのアジトであるストリップバーに乗り込むことに。悪の世界とはまったく無縁な映画オタクのレルとクラレンスは黒人なのに「ファック」も口に出来ないような家庭人。そんな二人はなぜか裏の世界で恐れられている殺し屋コンビ、アレンタウン兄弟と間違われてしまうのだった。
 どこをどう見てもとっぽい二人は極悪な殺し屋にはどうしても見えないのだが、「殺し屋の証明」として壁を蹴って一回転するテクニックを見せたり(それができたからって殺し屋ってことにならないだろうに)、クラレンスがカーステレオでジョージ・マイケルの曲を聴いているとチンピラたちから「ナニコレ?」と言われたため、クラレンスはジョージ・マイケルの素晴らしさを熱心に説くことに。

クラレンス「ジョージはワム!ってコンビを組んでたんだが、ダチのアンドリュー・リッジリーと不仲になって彼と分かれた。以降はリッジリーの存在は消えちまったんだ」
チンピラA「消えた…殺っちまったってことか!」
クラレンス「そ、そう…なるかな…」
チンピラB「すげー!」

とバカ会話が繰り広げられる間にコメディ映画にしてはエグすぎるバイオレンスシーンが挿入されるので気が抜けない。
 この映画、いろんな悪が登場するんだけど、なぜか全員猫好き。特に理由もなく!「猫ちゃんかわいいね~おいでおいで~」とか強面の連中が猫なで声出してるの。人は猫を前にするとなぜ幼児化してしまうのか。かわいいんだからしょうがないじゃない!
 タイトルの『キアヌ』ってのはもちろんキアヌ・リーブスのことで制作サイドが一度オファーをしたがエージェントから断られるも予告編を見たキアヌが電話をかけてきて、クラレンスがマリファナでトリップしてる時に聞く猫の声として出演(笑)
 可愛い猫とバイオレンスがサンドイッチされた前代未聞(?)のコメディ、みんなねこだいすき。

  


Posted by 縛りやトーマス at 00:03Comments(0)映画